扶桑薬品工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

扶桑薬品工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

扶桑薬品工業は東証プライムに上場し、人工腎臓用透析剤や輸液を中心とした医療用医薬品の製造販売を行う企業です。当期は主力製品や後発医薬品の販売が好調で増収となりましたが、特許権侵害訴訟の判決に伴う巨額の引当金計上により、最終損益は減益となり赤字に転落しました。


※本記事は、株式会社扶桑薬品工業 の有価証券報告書(第102期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 扶桑薬品工業ってどんな会社?


人工腎臓用透析剤「キンダリー」や輸液製剤など、生命維持に不可欠な基礎的医薬品を主力とする製薬メーカーです。

(1) 会社概要


1937年にブドウ糖販売の大和商会として設立され、1964年に日本初の人工腎臓灌流原液を開発しました。1970年に大阪証券取引所市場第二部へ上場し、1989年には東京証券取引所市場第一部へ上場を果たしました。その後、茨城工場の設置や研究開発センターの竣工などを経て生産体制を強化し、現在に至ります。

同社(単体)の従業員数は1,340人です。筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位はぶどう協和会、第3位は敷島振興です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 7.70%
ぶどう協和会 6.85%
敷島振興株式会社 5.30%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性0名の計11名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は戸田幹雄氏です。社外取締役比率は37.5%です。

氏名 役職 主な経歴
戸 田 幹 雄 代表取締役社長 1966年同社入社。管理室長、専務取締役などを経て1979年2月より現職。
岡   純 一 取締役生産本部長 1971年同社入社。生産本部茨城工場長、生産管理室長などを経て2022年4月より現職。
伊 藤 雅 教 取締役研究開発センター担当 1974年同社入社。研究開発センター部長を経て2021年6月より現職。
大 谷 英 樹 取締役営業本部長 1987年同社入社。営業本部営業部長、営業統括部長を経て2021年6月より現職。
戸 田 幹 洋 取締役経営企画部長 2016年同社入社。事業開発・国際事業推進室長、経営企画室長を経て2023年4月より現職。


社外取締役は、須藤実(須藤公認会計士事務所長)、柏木孝(元大阪市副市長)、渡部靖彦(渡部靖彦公認会計士事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「医薬品事業」および「不動産事業」を展開しています。

(1) 医薬品事業


主に医療機関向けに、人工腎臓用透析剤や輸液を中心とした医療用医薬品、および医療用機械器具の製造・販売を行っています。また、他社からの医療用医薬品の製造受託も手がけています。

収益は、医療機関や医薬品卸売業者等への製品販売および製造受託による対価から得ています。運営は主に扶桑薬品工業が行っています。

(2) 不動産事業


同社が保有する不動産の有効活用を目的として、賃貸事業を行っています。

収益は、テナント等からの賃貸料収入です。運営は扶桑薬品工業が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は緩やかな増加傾向にあり、特に直近の決算では600億円台に乗せました。利益面では、経常利益は安定的に推移していましたが、当期は特許権侵害訴訟に関連する引当金を特別損失として計上したため、当期純利益は大幅な赤字となりました。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 493億円 496億円 510億円 554億円 606億円
経常利益 22億円 20億円 22億円 19億円 38億円
利益率(%) 4.5% 4.0% 4.3% 3.4% 6.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 16億円 15億円 16億円 14億円 -33億円

(2) 損益計算書


売上高は増加し、売上原価率の改善や増収効果により売上総利益、営業利益ともに大きく伸長しました。営業利益率は前期間の約2倍に達しています。しかし、特別損失の計上により最終的な損益構造は大きく変化しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 554億円 606億円
売上総利益 138億円 165億円
売上総利益率(%) 25.0% 27.3%
営業利益 20億円 41億円
営業利益率(%) 3.5% 6.8%


販売費及び一般管理費のうち、荷造運搬費が23億円(構成比19%)、給料が24億円(同19%)を占めています。売上原価においては、材料費が108億円(製造費用合計比53%)を占めています。

(3) セグメント収益


医薬品事業は、後発医薬品の販売促進や他社品代替供給による製造販売の増加により増収となりました。不動産事業は減収となっています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
医薬品事業 552億円 604億円
不動産事業 2億円 1億円
連結(合計) 554億円 606億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業は赤字ですが、将来成長のため借入で投資を継続している「勝負型」です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 6億円 -33億円
投資CF -35億円 -32億円
財務CF 0.1億円 76億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-9.4%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は40.4%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、社会の高齢化が進む中、医療ニーズの増大と多様化に対応する医薬品の開発と安定供給に努めることを経営の基本方針としています。生命関連産業の一員としての本分を尽くし、株主をはじめとした関係者の期待に応えていくことを使命としています。

(2) 企業文化


同社は、「社会寄与につながる経営方針」を社是とし、人の健康と生命に密接に関与する医薬をつくる企業として、ふさわしい倫理観を重視しています。また、健全性、収益性、効率性、成長性などを総合的に勘案し、持続的かつ安定的な企業価値の向上を目指す文化があります。

(3) 経営計画・目標


特定の経営指標は定めていませんが、健全性、収益性、効率性、成長性などを総合的に勘案し、持続的かつ安定的な企業価値の向上を重視しています。人工腎臓用透析剤の需要見通しを中期戦略のポイントとし、安定成長を目指しています。

(4) 成長戦略と重点施策


人工透析関連製品の迅速かつ安定的な供給のため、岡山・茨城両工場の生産性向上を図ります。また、既存主力製品の販売強化に加え、新規透析剤の開発や後発医薬品のラインアップ拡充により事業基盤を強化します。さらに、他社製品の受託製造による収益拡大や、新規事業・領域への進出も推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


製薬業界の技術革新に対応するため、各部門・年次・職位で求められる能力習得の研修や、医学専門家による技術指導など、専門知識の習得に力を入れています。また、新人事制度の導入やキャリア採用の強化、不妊治療休暇制度の拡充など、多様な人材が活躍できる環境整備を進め、従業員のエンゲージメント向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 41.9歳 19.4年 5,850,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.4%
男性育児休業取得率 31.8%
男女賃金差異(全労働者) 70.1%
男女賃金差異(正規) 69.9%
男女賃金差異(非正規) 60.6%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 医療費抑制策・法的規制等に関するリスク


医薬品事業は薬事行政による様々な規制を受けており、薬価引き下げや後発医薬品の使用促進等の医療費抑制策が経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、法令違反等により許認可等が取り消された場合、製品回収や販売中止により業績に影響が出る可能性があります。

(2) 医薬品の開発及び発売に係るリスク


新薬開発には多大な資源と時間を要しますが、有効性や安全性が承認基準に達しない場合、開発中止や追加試験が必要となることがあります。これにより投下資本の回収困難や上市遅延が発生する可能性があります。

(3) 特定の製品への依存に関わるリスク


主力製品である人工腎臓用透析剤は厳しい競争環境にあります。革新的な製品や治療技術の登場により市場環境が想定以上に変化した場合、業績に重大な影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。