第一工業製薬 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

第一工業製薬 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

第一工業製薬は東京証券取引所プライム市場に上場する化学メーカーです。電子・情報、環境・エネルギー、ライフ・ウェルネスなどの各分野で製品を製造販売しています。直近の業績はハイエンドサーバー向け低誘電樹脂材料や電池用材料の需要拡大が全体を牽引し、売上高や純利益が過去最高を更新する増収増益を達成しました。


※本記事は、第一工業製薬の有価証券報告書(第162期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 第一工業製薬ってどんな会社?


第一工業製薬は、多様な産業を支える各種化学製品の製造および販売をグローバルに展開する企業です。

(1) 会社概要


1918年に第一工業製薬として設立され、1949年に東京証券取引所へ上場しました。1992年のオランダ子会社設立以降、インドネシアや中国などグローバルに拠点を拡大しています。近年は2018年にバイオコクーン研究所を子会社化してライフサイエンス分野を強化し、2024年には本社を京都市南区に移転しました。

現在の従業員数は連結で1,155名、単体で611名です。主要な大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同じく資産管理業務を行う日本カストディ銀行となっています。第3位には外資系金融機関が名を連ねており、信託銀行などの金融機関が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 10.66%
日本カストディ銀行(信託口) 8.51%
BNY GCM CLIENT ACCOUNT JPRD AC ISG (FE-AC) 4.25%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長は山路直貴氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。

氏名 役職 主な経歴
山路直貴 代表取締役社長 1991年第一工業製薬入社。社長特命室長、事業本部樹脂材料事業部長、総合企画本部長などを歴任。2017年取締役に就任し、常務取締役管理統括、研究統括を経て、2022年4月より現職。
清水伸二 代表取締役専務取締役 1992年第一工業製薬入社。人事総務部長、双一力(天津)新能源有限公司総経理、財務部長、執行役員生産本部長などを経て、2022年取締役に就任。2025年代表取締役となり、2026年4月より現職。
坂本真美 取締役 1988年第一工業製薬入社。広報IR室長、執行役員管理本部長、戦略統括部長兼ライフサイエンス本部長などを歴任。2025年4月に管理本部長となり、同年6月より現職。
北尾真大 取締役 2005年第一工業製薬入社。営業本部車輛電子情報営業部長兼名古屋支店長、執行役員営業本部長などを経て、2025年4月に事業本部長となり、同年6月より現職。


社外取締役は、奥山喜久夫(元広島大学大学院教授)、橋本克己(元有限責任あずさ監査法人京都事務所長)、中野秀代(元シティトラスト信託銀行シニアポートフォリオマネージャー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「電子・情報」「環境・エネルギー」「ライフ・ウェルネス」「コア・マテリアル」の4つの報告セグメントで事業を展開しています。

(1) 電子・情報


次世代高速通信に対応した低誘電樹脂材料や水系ウレタン樹脂、イオン液体などの製造販売を行っています。ディスプレイ向け先端材料や電子デバイス向け部材など、IT・電子分野の技術トレンドに沿った高付加価値な化学材料を開発し、電子機器メーカーなどの顧客に提供しています。

顧客に対する製品の販売を主な収益源としています。事業の運営は主に第一工業製薬が担うほか、四日市合成、第一セラモ、台湾の晋一化工股份有限公司などのグループ各社が製造や販売を担当し、国内外で事業を展開しています。

(2) 環境・エネルギー


電池材料やセルロース系高分子材料、合成潤滑油、電子部品用導電性ペーストなどの製造販売を行っています。リチウムイオンバッテリー関連材料や再生可能エネルギーに貢献する太陽電池用材料など、電動化やサステナブル社会の実現に向けた製品を環境・エネルギー関連のメーカーへ提供しています。

国内外の顧客に対する化学材料の販売を主な収益源としています。事業の運営は主に第一工業製薬が担っており、グループ会社の四日市合成や京都エレックスが製造を支援するほか、中国の帝開思(上海)国際貿易有限公司などが輸出入業務を担当しています。

(3) ライフ・ウェルネス


食品添加物であるショ糖脂肪酸エステルをはじめ、ビニル系・アクリル系高分子材料、健康食品、消臭・除菌剤などの製造販売を行っています。界面活性剤の技術を基盤とし、食品、香粧品、クリーニング薬剤など、人々の生活に密着した幅広い分野へ素材や製品を提供しています。

顧客企業や一般消費者に対する製品販売を主な収益源としています。事業の運営は第一工業製薬のほか、ゲンブが製品販売を、バイオコクーン研究所が研究委託を担い、オランダのSisterna B.V.やインドネシアのPT DAI-ICHI KIMIA RAYAなどが海外での販売網を展開しています。

(4) コア・マテリアル


各種界面活性剤や難燃剤、アミド系滑剤、ポリエーテルポリオール、ウレタンプレポリマーなどの製造販売を行っています。長年培ってきたコア技術である界面技術を活かし、天然由来原料の活用などを通じて、ゴム・プラスチック加工や土木・建築分野など幅広い産業界の基盤強化に寄与する素材を提供しています。

幅広い産業の法人顧客に対する化学素材の販売を主な収益源としています。事業の運営は主に第一工業製薬が担い、四日市合成や第一建工、台湾の晋一化工股份有限公司、インドネシアのPT DAI-ICHI KIMIA RAYAなどが製造・販売等の役割を分担してグローバルに展開しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、売上高は一時期の足踏みを経て直近2年間で力強い成長軌道に乗っており、2026年3月期には過去最高を更新しています。経常利益も売上の伸長に伴い大幅な改善を見せており、高付加価値製品の販売拡大による収益性の向上が全体の利益率を押し上げる結果となっています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 627億円 651億円 631億円 733億円 829億円
経常利益 42億円 12億円 21億円 57億円 104億円
利益率(%) 6.7% 1.8% 3.3% 7.8% 12.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 18億円 -12億円 11億円 18億円 63億円

(2) 損益計算書


売上高の大幅な増加に伴い、売上総利益および営業利益ともに前期から大きく伸長しています。とくに売上総利益率は約5ポイント、営業利益率も約5ポイント上昇しており、高付加価値製品の需要拡大による収益性の改善が如実に表れています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 733億円 829億円
売上総利益 182億円 248億円
売上総利益率(%) 24.9% 29.9%
営業利益 54億円 101億円
営業利益率(%) 7.3% 12.2%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が43億円(構成比29.5%)、給与手当が30億円(同20.3%)、運賃及び荷造費が15億円(同10.1%)を占めています。

(3) セグメント収益


電子・情報および環境・エネルギーセグメントが大きく売上を伸ばし、全社の成長を力強く牽引しています。特にハイエンドサーバー向け材料や電池用材料など成長領域での需要拡大が顕著に表れました。一方でコア・マテリアルセグメントはやや低調に推移しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
電子・情報 251億円 305億円
環境・エネルギー 187億円 233億円
ライフ・ウェルネス 137億円 139億円
コア・マテリアル 157億円 152億円
連結(合計) 733億円 829億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 75億円 100億円
投資CF -21億円 -35億円
財務CF -50億円 9億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は45.2%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「こたえる、化学。」をミッションに掲げ、「産業を通じて、国家・社会に貢献する」という社是の実現に努めています。また、創業以来の社訓である「品質第一、原価逓減、研究努力」を経営の規範とし、事業環境の急速な変化や市場の多様化に対応しながら、持続的な企業価値の向上を図ることを使命としています。

(2) 企業文化


「品質第一」と「原価逓減」により良い製品を安価に提供することを会社の基本とし、その原動力となる「不断の研究活動(研究努力)」を重視しています。また、中期経営計画における「ユニ・トップ」「サステナビリティ」「チャレンジ」の3つのキーワードに基づき、挑戦を評価して失敗から学び改善につなげる風土の醸成に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


2025年4月より5カ年中期経営計画「SMART 2030」を始動し、2030年度を最終年度とする明確な業績目標を設定して持続的な企業価値の向上を目指しています。また、資本コストや株価を意識し、WACC(加重平均資本コスト)を上回るROIC(投下資本利益率)の確保を重要指標に掲げています。

* 連結売上高 1,000億円
* 連結営業利益 100億円
* 連結営業利益率 10.0%
* ROE 10.0%
* ROIC 8.0%

(4) 成長戦略と重点施策


営業と研究を一体化した事業本部制のもと、顧客課題を起点とした迅速なテーマ創出と開発期間の短縮により、競争力のある製品やサービスの創出を推進しています。また、収益力強化と事業ポートフォリオの改善に向け、成長領域への資源集中や価格改定を進めるほか、人事制度改革を通じた労働生産性の向上やデジタル戦略の展開に注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「SMART 2030」に基づき、人的資本を事業成長の中核的資源と位置付け、中長期視点での人財ポートフォリオ最適化を進めています。キャリア採用の強化や教育投資の拡充により、専門性と挑戦意欲を備えた人材の確保・育成を図るほか、公正で透明性の高い評価制度の整備や健康経営の推進を通じて、多様な人材が長期的に活躍できる環境を整備しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.4歳 15.6年 8,054,710円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 9.7%
男性育児休業取得率 73.3%
男女賃金差異(全労働者) 72.7%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 74.1%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 53.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、DX人財育成プログラム受講者割合(63.0%)、新卒3年定着率(95.5%)、障がい者定着率(87.5%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 原材料価格の高騰リスク


主に石油化学系の原材料を使用しているため、原油やナフサ価格の高騰、中東情勢などの地政学的な要因による急激な価格変動が、製品の製造コスト上昇につながり業績に悪影響を与える可能性があります。

(2) 特定の大口顧客への取引集中リスク


同社グループの製品は一部の大口顧客に対する取引が存在しています。そのため、大口顧客との契約変更や需要の減退、顧客の経営状況の悪化が生じた場合、収益基盤に影響を及ぼすリスクがあります。

(3) 競合他社との競争激化リスク


ソリューション提案やカスタマイズによる差別化戦略を推進しているものの、競合他社の技術水準向上や低価格製品への置き換えが発生した場合、競争優位性が低下して業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(4) 情報セキュリティリスク


事業活動において多くの顧客情報や機密情報を電子的に保有しています。サイバー攻撃や不正アクセスなどにより情報の漏洩や改ざんが発生した場合、社会的信用の失墜や損害賠償を通じて業績に影響する可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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