※本記事は、第一工業製薬株式会社 の有価証券報告書(第161期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 第一工業製薬ってどんな会社?
創業100年を超える京都発の化学メーカーです。界面活性剤のパイオニアとして知られ、現在は電子材料等の高付加価値分野へ展開しています。
■(1) 会社概要
1909年に匿名組合負野薫玉堂解舒液部として創業し、1918年に第一工業製薬を設立しました。1949年に東京証券取引所市場第一部に上場を果たしています。2011年には東京支社(現東京本社)を移転し、2018年にはバイオコクーン研究所や池田薬草を子会社化するなどライフサイエンス分野を強化しました。2022年の市場区分見直しに伴い、東証プライム市場へ移行しています。
同社グループの従業員数は連結1,138名、単体594名です。大株主には、資産管理業務を行う信託銀行や、生命保険会社、銀行などの金融機関が名を連ねています。筆頭株主は信託銀行であり、安定した株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.52% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.60% |
| 第一生命保険 | 5.77% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表者は代表取締役社長の山路 直貴氏が務めています。社外取締役比率は30.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山路 直貴 | 代表取締役社長 | 1991年第一工業製薬入社。事業本部樹脂材料事業部長、総合企画本部長などを経て、2020年常務取締役、2022年4月より現職。 |
| 清水 伸二 | 代表取締役常務取締役 | 1992年第一工業製薬入社。双一力(天津)新能源有限公司総経理、財務部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 坂本 隆司 | 取締役会長 | 1970年富士銀行(現みずほ銀行)入行。2001年第一工業製薬入社。取締役、代表取締役社長などを経て、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、奥山 喜久夫(広島大学名誉教授)、橋本 克己(橋本公認会計士事務所代表)、中野 秀代(トリアス代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「界面活性剤」「アメニティ材料」「ウレタン材料」「機能材料」「電子デバイス材料」「ライフサイエンス」の6セグメントを展開しています。
■(1) 界面活性剤
洗剤やシャンプーの原料となるアニオン界面活性剤や、産業用の非イオン界面活性剤などを製造販売しています。顧客は日用品メーカーや工業製品メーカーなど多岐にわたります。
収益は、これらの化学製品の販売対価として顧客から得ています。運営は主に第一工業製薬、四日市合成、ゲンブ、海外子会社のPT DAI-ICHI KIMIA RAYAなどが行っています。
■(2) アメニティ材料
食品添加物であるショ糖脂肪酸エステルや、医薬品・化粧品向けの高分子材料などを提供しています。食品メーカーや製薬会社などが主な顧客です。
収益は、製品の販売により得ています。運営は第一工業製薬、ゲンブ、オランダのSisterna B.V.などが行っています。
■(3) ウレタン材料
断熱材や合成皮革の原料となるポリオールや、土木建築用のウレタンシステムなどを扱っています。建材メーカーや自動車関連企業等へ製品を供給しています。
収益は、製品販売による対価です。運営は第一工業製薬、四日市合成、第一建工などが行っています。
■(4) 機能材料
光硬化樹脂材料や難燃剤、水系ウレタン樹脂などを提供しており、電子機器や自動車、塗料などの分野で使用されています。特にハイエンドサーバ向けの需要が拡大しています。
収益は、製品の販売代金です。運営は第一工業製薬、四日市合成、台湾の晋一化工股份有限公司などが行っています。
■(5) 電子デバイス材料
リチウムイオン電池用材料や電子部品用導電性ペースト、イオン液体などを開発・製造しています。エレクトロニクス業界やエネルギー関連企業が主要顧客です。
収益は、製品の販売によって得ています。運営は第一工業製薬、京都エレックス、第一セラモなどが行っています。
■(6) ライフサイエンス
冬虫夏草をはじめとする健康食品や、消臭・除菌剤などを扱っています。一般消費者や健康食品メーカー等へ製品を提供しています。
収益は、製品の販売対価です。運営は第一工業製薬、バイオコクーン研究所、池田薬草などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期間の業績を見ると、売上高は増加傾向にあります。2023年3月期には原材料価格高騰等の影響で一時的に赤字となりましたが、その後回復し、直近の2025年3月期には売上高733億円、経常利益57億円と過去最高益を達成しました。利益率も大幅に改善しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 591億円 | 627億円 | 651億円 | 631億円 | 733億円 |
| 経常利益 | 43億円 | 42億円 | 12億円 | 21億円 | 57億円 |
| 利益率(%) | 7.3% | 6.7% | 1.8% | 3.3% | 7.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 22億円 | 18億円 | -12億円 | 11億円 | 26億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高が約16%増加したことに伴い、売上総利益が大きく伸長しています。これに伴い営業利益率は3.3%から7.3%へと大幅に改善しており、収益性が高まっていることがわかります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 631億円 | 733億円 |
| 売上総利益 | 134億円 | 182億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.2% | 24.9% |
| 営業利益 | 21億円 | 54億円 |
| 営業利益率(%) | 3.3% | 7.3% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が38億円(構成比29%)、給料手当が27億円(同21%)を占めています。売上原価は550億円で、売上高に対する構成比は約75%です。
■(3) セグメント収益
各セグメントとも増収となりましたが、特に機能材料セグメントがハイエンドサーバ向け樹脂材料の好調により大幅な増収増益となり、全社の利益を牽引しました。電子デバイス材料も大幅増収でしたが、研究開発費の増加により若干の赤字となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 界面活性剤 | 185億円 | 193億円 | 18億円 | 15億円 | 8.0% |
| アメニティ材料 | 84億円 | 91億円 | 5億円 | 8億円 | 8.5% |
| ウレタン材料 | 89億円 | 92億円 | -2億円 | -2億円 | -2.4% |
| 機能材料 | 214億円 | 272億円 | 10億円 | 40億円 | 14.9% |
| 電子デバイス材料 | 55億円 | 80億円 | -0.4億円 | -0.5億円 | -0.7% |
| ライフサイエンス | 4億円 | 4億円 | -9億円 | -7億円 | -168.8% |
| 調整額 | - | - | - | - | - |
| 連結(合計) | 631億円 | 733億円 | 21億円 | 54億円 | 7.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
第一工業製薬は、営業活動により大幅な資金増加を達成し、事業活動の活発化を示しています。一方で、設備投資への積極的な支出により、投資活動では資金が使用されました。財務活動においては、借入金の返済や配当金の支払いなどにより、資金が減少しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 71億円 | 75億円 |
| 投資CF | -20億円 | -21億円 |
| 財務CF | 16億円 | -50億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は創業以来、『品質第一、原価逓減、研究努力』の3つの社訓を経営の規範としています。これらは「より良い製品を、より安価に、お客様に提供することが会社隆昌の基本」であり、その原動力は不断の研究活動であるという考えに基づいています。また、「産業を通じて、国家・社会に貢献する」を社是として掲げています。
■(2) 企業文化
同社は、創業精神である「研究努力」を重視し、事業環境の変化に対応して持続的な企業価値向上を図る文化を持っています。また、従業員を会社の財産と捉え、「健康経営」を推進しており、経済産業省などが選定する「健康経営銘柄」にも選定されています。挑戦する社員を称賛する風土の醸成にも取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は2025年4月より中期経営計画「SMART 2030」を始動し、2030年度の業績目標を設定しています。本計画を通じて社会課題を解決する「スマート・ケミカルパートナー」を目指しています。
* 連結売上高:1,000億円
* 連結営業利益:100億円
* ROE(自己資本利益率):10.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
「電子・情報」「環境・エネルギー」「ライフ・ウェルネス」「コア・マテリアル」の4分野に注力します。営業と研究を一体化した事業本部制の導入や、生産技術研究所・京都中央研究所の新設により、研究開発のスピードアップと競争力強化を図ります。また、ライフサイエンス事業の早期黒字化も目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「チャレンジ」をキーワードに掲げ、教育投資を増加させることで労働生産性の向上を目指しています。具体的には、自律的キャリア形成を促す教育制度の刷新や、成果を正当に評価する新人事制度の導入を進めています。また、従業員の健康維持・向上を図る健康経営を重要な経営課題と位置づけ、生産性と企業価値の向上につなげる方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.5歳 | 15.9年 | 7,337,468円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.6% |
| 男性育児休業取得率 | 73.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.8% |
| 男女賃金差異(正規) | 76.2% |
| 男女賃金差異(非正規) | 67.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、DX人財育成プログラム受講者割合(62%)、新卒3年定着率(70.0%)、女性産休復職率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料の市況変動
同社グループは主に石油化学製品系の原材料を使用しています。原油・ナフサ価格の高騰により主要原材料の価格が上昇した場合、生産コスト削減や販売価格の是正に努めているものの、経営成績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。
■(2) 為替の変動
アジアを中心に海外生産・販売拠点を展開しています。在外連結子会社の財務諸表換算や外貨建取引において、為替予約等のヘッジを行っていますが、為替相場の大幅な変動があった場合、経営成績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。
■(3) 競争の激化
ソリューション提案や製品カスタマイズによる差別化を推進していますが、競合他社の技術力向上や生産力強化により、同社製品が他社の安価品へ置き換えられる等の事態が発生した場合、経営成績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。



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