※本記事は、栄研化学の有価証券報告書(第88期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 栄研化学ってどんな会社?
同社は便潜血検査用試薬をはじめとする臨床検査薬の製造販売を主力事業とし、グローバルに展開する企業です。
■(1) 会社概要
1939年に興亜化学工業として創立し、1950年の寒天培地製品化を経て、1961年に臨床検査薬部門を開設しました。1969年に現在の栄研化学へ社名を変更し、1990年に東京証券取引所市場第二部へ上場、2002年には同市場第一部銘柄に指定されました。近年は欧州や中国などへの海外展開も推進しています。
同社グループは、連結従業員数696名、単体従業員数696名の体制で事業を運営しています。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位および第3位には海外ファンドが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.70% |
| NIPPON ACTIVE VALUE FUND PLC | 9.92% |
| AVI JAPAN OPPORTUNITY TRUST PLC | 6.83% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性16名、女性2名の計18名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表執行役社長兼CEO兼COOは瀨川雄司氏が務めています。取締役10名のうち7名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 瀨川 雄司 | 取締役 代表執行役社長兼CEO兼COO | 1990年ソニー入社。2013年同社入社。応用技術研究所長や執行役などを経て、2025年取締役に就任し、代表執行役社長。2026年より現職。 |
| 納富 継宣 | 取締役 代表執行役会長 | 1981年同社入社。生物化学研究所長、執行役などを経て、2018年取締役に就任。2021年代表執行役社長を経て、2025年より現職。 |
| 森 安義 | 取締役 専務執行役研究開発本部長兼CTO | 1995年同社入社。生物化学第二研究所長、海外企画営業室長などを歴任。栄研生物科技(中国)董事長などを経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、石井潔(元IHIエアロスペース代表取締役社長)、中村規代実(弁護士)、藤吉彰(元エーザイ執行役)、松竹直喜(公認会計士)、植木理恵(順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター副院長)、木野瀨祐太(コンチネンタル・インベストメント・グループ代表取締役社長)、戸田達喜(平川商事財務執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、臨床検査薬や医療機器の製造販売事業を展開しています。
■(1) 免疫血清・便潜血検査用試薬
大腸がん検診などで使用される便潜血検査用試薬を中核とし、免疫血清検査用の試薬を国内外の医療機関や検査センターに提供しています。がんの予防や早期発見に直結するスクリーニングプログラムを支える重要な製品群となっています。
卸売業者等を通じて医療機関や検査センターへ製品を販売し、試薬の販売代金を主な収益源としています。同社が主体となって研究開発・製造・販売を一貫して担い、海外においては現地の販売代理店を通じたグローバル展開を推進しています。
■(2) 尿・微生物・遺伝子検査用試薬および医療機器
感染症の診断に用いられる微生物検査用試薬や、結核・マラリアなどの遺伝子検査システム、尿試験紙および全自動尿分析装置などの医療機器を提供しています。開発途上国を含むグローバルな感染症撲滅・制御への貢献を目指す製品群です。
製品の販売代金に加え、自社特許技術を活用した特許料やロイヤリティ収入、装置の販売等によって収益を獲得しています。これらの事業も同社が中心となって展開し、グローバルヘルス分野において国際機関とも連携して運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は400億円台で安定して推移しており、底堅い事業基盤を有していることが伺えます。一方、経常利益については、2022年3月期の85億円をピークに段階的に減少し、直近の2026年3月期は28億円、利益率も6.8%と低下傾向にあります。今後は海外事業の成長加速による利益水準の改善が課題となります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 430億円 | 433億円 | 401億円 | 405億円 | 419億円 |
| 経常利益 | 85億円 | 76億円 | 36億円 | 32億円 | 28億円 |
| 利益率(%) | 19.8% | 17.5% | 8.9% | 7.9% | 6.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 62億円 | 58億円 | 26億円 | 25億円 | 30億円 |
■(2) 損益計算書
2025年3月期と2026年3月期の損益構成を比較すると、売上高が増加した一方で、売上総利益率は低下し、営業利益も微減となっています。これは原材料価格や物流コストの上昇が利益を圧迫しているためと考えられます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 405億円 | 419億円 |
| 売上総利益 | 165億円 | 162億円 |
| 売上総利益率(%) | 40.7% | 38.6% |
| 営業利益 | 30億円 | 29億円 |
| 営業利益率(%) | 7.4% | 6.9% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が37億円(構成比28%)、給料が25億円(同19%)を占めています。また、売上原価のうち、商品仕入高が164億円(構成比64%)、材料費が38億円(同15%)となっています。
■(3) セグメント収益
同社は検査薬事業の単一セグメントですが、地域別の売上を見ると、日本国内の売上が304億円と全体の約7割を占めて堅調に推移しています。また、海外市場においても便潜血検査用試薬などの売上が伸長し、前期比で増収を達成しており、グローバル展開が着実に進展していることがわかります。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 298億円 | 304億円 |
| 海外 | 107億円 | 115億円 |
| 連結(合計) | 405億円 | 419億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、本業で稼いだ資金で事業投資や財務活動を賄う「健全型」の傾向を示しています。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は70.1%で市場平均を大きく上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 60億円 | 40億円 |
| 投資CF | -45億円 | -34億円 |
| 財務CF | -49億円 | -0.3億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
経営理念は「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」です。さらに経営ビジョンとして「EIKENグループは、人々の健康を守るため、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品・サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。」を掲げ、社会課題の解決と持続的な企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、モットーとして「品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”」を掲げています。この「経営理念」「経営ビジョン」「モットー」の3つからなる“EIKEN WAY”をグループ全体で実践することを重視し、持続可能な社会の実現に向けたサステナビリティ経営を推進する文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
2030年の目指す姿「EIKEN Vision 2030」の実現に向けて、2027年3月期から2031年3月期までの中期経営計画を策定しています。中長期的な経営戦略の進捗を測る客観的な指標として、2031年3月期において以下の水準を目標として設定しています。
* 売上高:500億円以上(海外向け売上高比率35%以上)
* 営業利益:70億円以上(営業利益率14.0%以上)
* ROIC:10%以上
* ROE:10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の注力事業分野として「がんの予防・治療への貢献」「感染症撲滅・感染制御への貢献」「ヘルスケアに役立つ製品・サービスの提供」の3つを設定しています。国内事業の収益力強化を図ってROICを改善させるとともに、海外展開を連続成長の中核と位置づけ、さらにM&Aやアライアンスを通じた非連続成長により事業ポートフォリオを進化させる方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人を活かした活力ある企業」を目指し、多様性を尊重して受け入れ合える組織風土を育むことを方針としています。新卒・キャリアの計画的な採用を進めるとともに、従業員が付加価値の高い業務に集中できるよう、テレワークやフレックスタイムの推進などワークライフバランスの支援を行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.4歳 | 13.4年 | 7,856,285円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 18.7% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 68.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 87.5% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 53.3% |
また、同社は「人的資本経営の取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、採用に占める女性比率(30.4%)、離職率(2.3%)、従業員満足度スコア(80.6%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 海外市場における大腸がん検診の動向
グローバルに事業活動を展開する中で、主力製品である便潜血検査用試薬に関して、各国の国・地域における大腸がん検診のスクリーニングプログラムの遅延や中断、新製品の薬事承認の遅延等が発生した場合、同社の業績に影響を与える可能性があります。販売代理店等と連携し、迅速な情報収集に努めています。
■(2) 新製品・新技術の研究開発の不確実性
医療ニーズに基づき新製品・新技術の開発を進めていますが、研究開発の遅延や中止によって投資の回収が困難になったり、市場動向との不整合により十分な成果に結びつかなかった場合、中長期的な事業計画が影響を受けるリスクがあります。新市場の創出と進捗管理によりリスク低減を図っています。
■(3) 各国の医療制度改革や薬事規制等の動向
各国の医療制度改革によって医療費抑制や薬事規制が強化された場合や、大腸がん検診の運用に変化があった場合、さらには検査用試薬や医療機器への環境規制が強化された場合には、製品価格や入札条件が影響を受け、業績に波及する可能性があります。各国の規制動向の迅速な把握と適時適切な対応を進めています。



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