高砂香料工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

高砂香料工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

高砂香料工業は、東京証券取引所プライム市場に上場し、フレーバーやフレグランスなどの香料事業をグローバルに展開する企業です。直近の業績では、海外市場の需要変動や品質管理体制の高度化対応等の影響により減収減益となりました。持続可能な成長に向け、製品の適正化や事業軸での成長戦略を推進しています。


※本記事は、高砂香料工業株式会社の有価証券報告書(第100期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 高砂香料工業ってどんな会社?


高砂香料工業は、国内外で食品や日用品向け香料の開発・製造・販売をグローバルに手掛ける企業です。

(1) 会社概要


1920年に高砂香料として設立され、1951年に合併を経て現在の高砂香料工業となりました。1963年に東京証券取引所市場第二部に上場し、1969年には同市場第一部に昇格しました。海外展開にも積極的で、米国や欧州、アジア各地に現地法人や生産拠点を設立し、グローバルな事業基盤を構築してきました。

現在、従業員数は連結で4,443名、単体で1,087名となっています。大株主の状況としては、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は保険事業を展開する事業会社、第3位も同様に資産管理業務を行う信託銀行となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9.80%
日本生命保険相互会社 7.50%
日本カストディ銀行(信託口) 5.10%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長執行役員は桝村聡氏です。社外取締役比率は約30.8%です。

氏名 役職 主な経歴
桝村 聡 代表取締役社長執行役員安全統括本部長、人事・総務本部、管理本部担当 1983年入社。フレーバー研究所長や研究開発本部長などを経て、2014年より代表取締役社長執行役員に就任。
山形 達哉 取締役常務執行役員コーポレート本部長兼安全統括副本部長兼グローバルSAPマネジメント部長等担当 1986年入社。欧州や上海の現地法人代表を務め、2018年より取締役常務執行役員に就任。
染川 健一 取締役常務執行役員フレーバー事業本部長、支店担当 1987年入社。欧州の現地法人代表やフレーバー事業本部長などを経て、2015年より取締役常務執行役員に就任。
谷中 史弘 取締役常務執行役員研究開発本部長兼ファインケミカル事業本部長 1984年入社。フレーバー研究所長や執行役員などを経て、2016年より取締役常務執行役員に就任。
水野 直樹 取締役常務執行役員サプライチェーンマネジメント本部長、調達本部担当 1985年入社。フレグランス・アロマイングリディエンツ事業本部長などを経て、2018年より取締役常務執行役員に就任。
川端 茂樹 取締役常務執行役員経営戦略本部長兼経営企画部長、法務部、監査部担当 1985年三菱銀行入行。同行でトランザクションバンキング部長等を歴任後、2014年当社常勤監査役。2018年より現職。


社外取締役は、野依良治(理化学研究所理事長)、松田浩明(虎ノ門第一法律事務所パートナー弁護士)、塚本恵(キャタピラージャパン合同会社代表執行役員)、辻篤子(大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構監事)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」「米州」「欧州」「アジア」の報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。

日本


日本セグメントでは、飲料や菓子向けのフレーバー、衣料用洗剤や香粧品向けのフレグランス、ムスクなどのアロマイングリディエンツ、医薬品中間体等のファインケミカルの製造と販売を行っています。

収益は、主に食品メーカーや日用品メーカー等への香料及び化学品の販売代金から得ています。事業の運営は、高砂香料工業を中心として、高砂ケミカルや高砂フードプロダクツ等の子会社が製造受託や販売を担っています。

米州


米州セグメントでは、北米および中南米地域において、日本と同様にフレーバー、フレグランス、アロマイングリディエンツ、ファインケミカル製品の製造と販売を展開し、現地の市場ニーズに合わせた製品開発を行っています。

収益は、米州地域の顧客企業に対する香料や関連製品の販売代金から得ています。運営は主に、米国のTakasago International Corporation (U.S.A.)やメキシコ、ブラジルの各現地法人が主体となって行っています。

欧州


欧州セグメントでは、ヨーロッパ地域を対象に、地域の嗜好性に適したフレーバーやフレグランスなどの香料関連製品を開発・製造・販売しています。特にバニラ香料の開発や天然香料素材の研究等にも強みを持っています。

収益は、欧州地域の顧客企業への製品販売代金から得ています。事業運営は、フランスのTakasago Europe Perfumery LaboratoryやドイツのTakasago Europeなどの現地法人が担っています。

アジア


アジアセグメントでは、成長著しいアジア市場に向けて、飲料関連やファブリックケアを中心としたフレーバー及びフレグランス等の製造と販売を行っています。各国の市場特性に合致したビジネス展開を推進しています。

収益は、アジア圏のメーカーへの香料及び関連製品の販売代金から得ています。運営は、シンガポールのTakasago International (Singapore)や、中国、インドネシア、インドの現地法人が中心となって行っています。

その他


その他セグメントでは、同社グループの保有する不動産資産を活用し、オフィスビル等の不動産賃貸事業ならびにその他のサービス業務を展開しています。

収益は、テナント企業からの不動産賃貸収入や業務受託手数料などから得ています。運営は、高砂香料工業および高和産業等の関連会社が担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の業績推移を見ると、売上高は順調に拡大傾向にあり、2,000億円台に到達しています。経常利益は市場環境の変動により増減が見られますが、継続して黒字を確保しており、安定した収益基盤を維持しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 1,624億円 1,868億円 1,959億円 2,292億円 2,251億円
経常利益 102億円 80億円 47億円 153億円 95億円
利益率(%) 6.3% 4.3% 2.4% 6.7% 4.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 53億円 51億円 47億円 66億円 80億円

(2) 損益計算書


直近2期間の構成を見ると、売上高は微減となりましたが、原価率の上昇等により売上総利益が減少しています。これに伴い、営業利益及び営業利益率も低下しており、収益性の改善が課題となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 2,292億円 2,251億円
売上総利益 774億円 729億円
売上総利益率(%) 33.8% 32.4%
営業利益 153億円 81億円
営業利益率(%) 6.7% 3.6%


販売費及び一般管理費648億円のうち、給料及び手当が185億円(構成比29%)、研究開発費が175億円(同27%)を占めています。

(3) セグメント収益


日本とアジアセグメントは増収となりましたが、米州においてファインケミカルの出荷延期等が影響し減収となりました。利益面ではアジアが増益となった一方で、その他の地域は減益となり、全体として利益率が低下しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
日本 736億円 770億円 45億円 6億円 0.8%
米州 665億円 556億円 26億円 9億円 1.6%
欧州 393億円 424億円 25億円 8億円 1.9%
アジア 498億円 502億円 49億円 57億円 11.4%
連結(合計) 2,292億円 2,251億円 153億円 81億円 3.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業で得た資金で借入金の返済や設備投資などの支出を賄っており、財務的に安定した状態(健全型)です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 189億円 43億円
投資CF -91億円 -162億円
財務CF 69億円 -46億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は56.6%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「香りを原点とする革新的な技術を通して、新しい価値を創造し続ける」を企業理念に掲げています。独自の技術力と事業のシナジー効果を活かし、顧客の多様な嗜好性に応えるとともに、持続可能な社会への貢献を目指しています。

(2) 企業文化


2040年のありたい姿として「Vision 2040」を制定し、「人にやさしく、環境にやさしく」をスローガンとしています。多様な価値観を尊重し、自然と共生しながら、夢と誇りを持って未知の世界へ挑戦する企業文化を重視しています。

(3) 経営計画・目標


2024年度から始まる中期経営計画「New Global Plan-2(NGP-2)」において、資本コストを意識した経営と株主還元を重視しています。財務目標として、DOE(株主資本配当率)や配当性向の数値を設定し、安定的な配当を継続する方針を掲げています。

* DOE:3.0%以上
* 配当性向:30%以上

(4) 成長戦略と重点施策


海外事業の成長と国内の収益性改善、サステナブルな経営の3つを基本方針としています。事業軸の成長戦略による新規顧客開拓や、製品ポートフォリオの適正化による費用構造改革を推進します。さらに、バイオ技術やグリーンケミストリーを通じた環境対応型の製品開発にも注力し、中長期的な企業価値向上を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人的資本の価値最大化」を重要な経営テーマに位置づけ、従業員のスキルアップと多様な人材が活躍できる職場環境の整備に取り組んでいます。ダイバーシティ&インクルージョンの推進や健康経営の実践、柔軟な勤務体系の導入を通じて、個人の能力を最大限に引き出し企業と従業員が共に成長する好循環を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.1歳 18.1年 9,082,540円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 18.6%
男性育児休業取得率 92.0%
男女賃金差異(全労働者) 83.1%
男女賃金差異(正規雇用) 83.9%
男女賃金差異(非正規雇用) 67.8%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(1.96%)、中途採用者に占める管理職比率(28%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 気候変動に係るリスク


温室効果ガスによる異常気象や自然災害の増加により、天然原料の供給制約が生じた場合、原料価格が高騰し業績に悪影響を及ぼす可能性があります。同社は再生可能原料の活用など環境に適応した技術開発を進め、リスクの軽減を図っています。

(2) 原料調達に係るリスク


地政学的リスクや自然災害、為替変動等により、天然原料をはじめとする原料の価格高騰やサプライチェーンの分断が生じた場合、製品供給や収益に影響が及ぶ可能性があります。グローバル調達や複数社購買を推進し、調達手段の多様化を図っています。

(3) 新製品の研究開発に係るリスク


バイオ技術やグリーンケミストリー、AIなどの技術革新において、研究開発の遅延や市場ニーズとの乖離が生じた場合、競争優位性が低下し中長期的な成長に影響を及ぼす可能性があります。外部研究機関とのオープンイノベーション等により研究開発を推進しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。