※本記事は、フマキラー株式会社の有価証券報告書(第77期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. フマキラーってどんな会社?
殺虫剤や家庭用品、園芸用品を展開し、国内外で人々の健康と快適な生活環境を守る製品を提供する企業です。
■(1) 会社概要
1874年の創業、1924年の大下回春堂創立を経て、世界に先駆けて除虫菊を用いた殺虫液の製造販売を開始しました。1962年に社名をフマキラーへ改称し、1964年に上場しました。アジアへの展開に加え、2022年にはイタリア企業の買収により欧州事業を強化するなど、グローバルな事業拡大を推進しています。
従業員数は連結で2,529名、単体で241名です。筆頭株主は事業提携先であるエステーで、第2位は創業家に関連する大下財団です。第3位は財務面での取引関係があるみずほ銀行となっており、業務提携先や関連財団、金融機関が主要株主に名を連ねる安定した資本構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| エステー | 10.48% |
| 公益財団法人 大下財団 | 8.05% |
| みずほ銀行 | 3.52% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性20名、女性1名の計21名で構成され、女性役員比率は4.8%です。代表取締役社長は大下一明氏が務めています。社外取締役比率は38.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 大下 一明 | 取締役社長(代表取締役) | 1984年同社入社。1998年営業本部長、2001年代表取締役常務、2004年代表取締役副社長を経て、2005年に代表取締役社長に就任。2012年より現職。 |
| 加藤 孝彦 | 専務取締役(代表取締役)国内営業本部長 | 1985年エステー化学(現エステー)入社。同社常務執行役等を経て2020年退職し、同年同社入社。2022年より代表取締役専務 国内営業本部長に就任。 |
| Dato’Brian Tan Guan Hooi | 常務取締役 | 2005年Fumakilla Malaysia Berhadプレジデント&CEO就任。Texchem Resources Bhd.のグループCEO等を経て、2022年より同社常務取締役に就任。 |
| 力石 敬三 | 常務取締役 | 1978年ユニ・チャーム入社。CFSコーポレーション、エステーを経て2013年同社入社。海外関連子会社社長等を歴任し、2022年より常務取締役に就任。 |
| 村元 俊亮 | 常務取締役国際本部長 | 1999年同社入社。インドやベトナムなどの海外子会社の要職を歴任し、2015年取締役就任。イタリア子会社代表等を経て2022年より常務取締役国際本部長に就任。 |
| 井上 裕章 | 取締役広島工場長生産本部長 | 1988年同社入社。開発研究部長や生産本部長などを経て、2013年に取締役広島工場長兼生産本部長に就任。関連会社の代表取締役等も務める。 |
| 郷原 和哉 | 取締役管理本部長 | 1979年エステー化学工業(現エステー)入社。同社人事・総務グループマネージャー等を経て2020年同社入社。同年より取締役管理本部長に就任。 |
| 土井 将和 | 取締役国内営業本部副本部長首都圏支店長 | フマキラー・トータルシステムを経て2016年に出向で同社入社。2018年執行役員国内営業副本部長などを経て、2022年より現職。 |
| 杉山 隆史 | 取締役 | 1992年同社入社。開発本部長やインドネシア子会社常務取締役、海外開発部長などを経て、2022年に取締役開発本部長となり、2023年より取締役に就任。 |
社外取締役は、中野佳信(元扶桑化学工業社長)、國富純(元ジェイ・エム・エス常務理事)、古屋雅弘(元日本土地建物販売社長)、安倍寛信(三菱商事パッケージング元社長)、的場稔(シンジェンタジャパン会長)、武井康年(弁護士)、三宅稔子(弁護士)、吉島亨(大下産業元常務)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」、「東南アジア」、「欧州」の3つの報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■(1) 日本
国内市場向けに、蚊やゴキブリ用などの殺虫剤をはじめ、除菌剤やアレルギー対策商品などの家庭用品、除草剤や肥料などの園芸用品、シロアリ防除剤などの防疫剤を一般消費者や事業者向けに提供しています。
収益源は、卸売業者や小売店等を通じた一般消費者からの製品販売代金や、施工主からのシロアリ駆除などの役務提供によるサービス対価です。運営は同社のほか、日広産業やFSブルームなどが担っています。
■(2) 東南アジア
蚊などの害虫が媒介する感染症リスクが高いインドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、ミャンマーを中心とした東南アジア市場向けに、各国の現地の環境や害虫の特性に合わせた殺虫剤や家庭用品を提供しています。
収益源は、海外の小売店や流通パートナー等を通じた現地消費者からの殺虫剤等の製品販売代金です。事業の運営は、PT. FUMAKILLA INDONESIAやFumakilla Malaysia Berhadなどの現地子会社が行っています。
■(3) 欧州
イタリアを中心とした欧州市場に向けて、現地の環境や安全基準に適合した高い効力を持つ殺虫剤や害虫駆除製品の開発・製造および販売を行っており、他地域への輸出も展開しています。
収益源は、欧州各国の流通網を通じた殺虫剤などの製品販売代金です。運営は、イタリアに拠点を置くZAPI INDUSTRIE CHIMICHE S.P.A.やFUMAKILLA EUROPE S.R.L.などの子会社が担っています。
■(4) その他
報告セグメントに含まれないその他の地域として、主にインドやメキシコの現地市場において、殺虫剤をはじめとする各種製品の販売事業などを展開しています。
収益源は、各国の現地流通網や小売店を通じた消費者からの製品販売代金です。事業の運営は、FUMAKILLA INDIA PRIVATE LIMITEDやFUMAKILLA AMERICA, S.A. DE C.V.などの各現地子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、海外展開の拡大や国内外での感染症対策需要を背景に、売上高が持続的な成長を遂げています。一方、経常利益は原材料価格の高騰やブランド力強化に向けた積極的なマーケティング投資の影響などにより、増収ながらも利益率は緩やかな低下傾向を示しており、利益水準は一定の範囲内で推移しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 527億円 | 617億円 | 677億円 | 739億円 | 774億円 |
| 経常利益 | 25億円 | 23億円 | 28億円 | 25億円 | 23億円 |
| 利益率(%) | 4.8% | 3.8% | 4.1% | 3.4% | 2.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 14億円 | 0.1億円 | 6億円 | 10億円 | 9億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は国内外での事業拡大により増収となり、売上総利益率も安定して推移しています。一方で、東南アジア等でのシェア拡大を狙った広告宣伝費や販促費の積極投資を行ったため、販売費及び一般管理費が増加し、営業利益および営業利益率は前年度と比較して低下する結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 739億円 | 774億円 |
| 売上総利益 | 226億円 | 239億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.6% | 30.9% |
| 営業利益 | 26億円 | 22億円 |
| 営業利益率(%) | 3.5% | 2.8% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が43億円(構成比20%)、運送費が37億円(同17%)、広告宣伝費が28億円(同13%)を占めています。売上原価は534億円で、売上高に対する構成比は69%となっています。
■(3) セグメント収益
東南アジアや欧州、その他の海外市場では、現地通貨ベースでの販売増に加え円安の恩恵もあり売上が伸長しました。一方、日本市場は天候不順や価格改定による数量減で減収となりました。利益面では、日本は赤字幅が縮小したものの、東南アジアでブランド強化のための積極的な広告・販促投資を行ったことで減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 282億円 | 270億円 | -7億円 | -5億円 | -1.9% |
| 東南アジア | 318億円 | 337億円 | 24億円 | 15億円 | 4.5% |
| 欧州 | 116億円 | 137億円 | 5億円 | 5億円 | 3.6% |
| その他 | 22億円 | 31億円 | 0.6億円 | 1億円 | 3.2% |
| 連結(合計) | 739億円 | 774億円 | 26億円 | 22億円 | 2.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、積極型と言えます。営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 18億円 | 8億円 |
| 投資CF | -16億円 | -29億円 |
| 財務CF | 3億円 | 10億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.6%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は39.1%で、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「ひとの命を守る。ひとの暮らしを守る。ひとを育む環境を守る。わたしたちは、世界中の人々がいつまでも安心して快適に暮らすことのできる社会づくりに貢献していきます。」という経営理念を掲げています。蚊が媒介する感染症から世界中の人々の命を守るため、高効力・高品質な製品の提供を使命としています。
■(2) 企業文化
同社は、「誠魂長才(何事に対しても誠心誠意、真心をもって事に当り、常に努力して才能を伸ばし、知識を広め、社会・国家に貢献する)」を社是として掲げています。また、「従業員を大切に」という社訓のもと、年齢や性別を問わず多様な個性を活かし、自ら未来を切り開く人材を育む組織文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は事業の成長性と収益性を重視し、売上高、経常利益、および新製品寄与率を客観的な指標として設定しています。また、次期(2027年3月期)の具体的な業績目標として、以下の数値を掲げています。
* 売上高:848億円
* 経常利益:28億円
* 初年度新製品売上寄与率:15%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、経営基盤の強化と事業展開のスピードアップを成長戦略の柱としています。国内では研究開発拠点「ブレーンズ・パーク広島」を拡充し、見えないリスクへの対策製品や外来生物の防除技術の開発を推進します。海外では東南アジアや欧州での基盤強化とグループシナジーの創出により、グローバルな競争力を高めていきます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、従業員一人ひとりが能力を向上させることが新たな価値創出と持続的発展に繋がると考え、自己成長を促す研修体制づくりを推進しています。また、女性社員の継続就業や能力発揮を後支えするため、育児短時間勤務の対象を小学校4年生まで引き上げるなど、仕事と子育てを両立できる社内環境の整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.8歳 | 14.3年 | 6,461,298円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.0% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 61.0% |
| 男女賃金差異(正規労働者) | 75.3% |
| 男女賃金差異(非正規労働者) | 69.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率(全社)(77.2%)、CO2排出量削減率(-31.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 新製品や改良品の需要予測の不確実性
既存領域にとらわれない新製品や改良品を継続的に開発していますが、これらの市場ニーズを正確に予測できない場合、販売が低迷し、将来の成長性や収益性を低下させ、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 市場における競争環境の激化
主力製品である一般消費者向けの製品市場において、競合他社や新規参入企業との間で常に厳しい競争に晒されています。今後の競合環境の変化や価格競争の激化により、同社グループの事業展開や業績に悪影響を与えるリスクがあります。
■(3) 季節要因による収益の偏重
国内市場において殺虫剤や花粉対策商品など季節商品の売上構成比が高いため、気温の高低や季節の長短によって需要が大きく変動します。特に夏季の需要期を過ぎた後の返品発生など、季節的な要因が売上や損益に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 原材料価格の高騰や為替変動の影響
製品の製造に用いる溶剤や鋼材などの原材料価格が、国際情勢や為替変動の影響で高騰した場合、製造コストの上昇を招きます。また、海外売上比率が高いため、為替相場の変動による円換算額の増減が連結業績に直接的な影響を与えるリスクがあります。



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