荒川化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

荒川化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場する荒川化学工業は、機能性コーティングや製紙・環境、粘接着・バイオマス関連の化学製品を展開する素材メーカーです。直近の連結業績は、AIサーバーなどデジタル関連の需要拡大により売上高が増加し、経常利益および営業利益で大幅な増益を達成しましたが、最終利益は減益となっています。


※本記事は、荒川化学工業株式会社の有価証券報告書(第96期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 荒川化学工業ってどんな会社?

松脂などの天然素材と独自の化学技術を融合し、幅広い産業向けに機能性化学製品を提供する素材メーカーです。

(1) 会社概要

1876年に個人経営の生薬商として創業した老舗企業で、1914年に工業用薬品製造へ進出しました。1956年に株式会社へ改組し、1977年に現在の荒川化学工業に社名を変更しています。海外進出にも積極的で、アジアや欧米などに多数の拠点を設立し、2003年に東証一部(現在はプライム市場)へ上場しました。

同社グループは連結で1,684名、単体で806名の従業員を抱えています。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は従業員持株会、第3位は三菱UFJ銀行となっており、金融機関や持ち株会などが安定した資本基盤を構成しています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 10.08%
荒川化学従業員持株会 7.06%
三菱UFJ銀行 4.74%

(2) 経営陣

同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長執行役員事業本部長を高木信之氏が務めており、社外取締役の比率は44.4%となっています。

氏名 役職 主な経歴
高木信之 代表取締役社長執行役員事業本部長 1988年荒川化学工業入社。コーティング事業部長、経営企画室長などを経て、2024年4月より代表取締役社長兼事業本部長。2025年4月より現職。
延廣徹 常務取締役執行役員管理部門管掌兼KIZUNA推進担当 1984年荒川化学工業入社。業務統轄部長、経営企画室長、管理本部長などを歴任。2025年4月より現職。
岡﨑巧 取締役執行役員生産部門担当兼研究開発部門担当兼品質担当兼環境担当兼保安担当 1984年荒川化学工業入社。高圧化学工業代表取締役社長、コーティング事業部長、研究所長などを経て、2025年4月より現職。
冨宅伸幸 取締役執行役員ライフサイエンス事業担当兼経営企画本部長兼経営企画部長 1998年荒川化学工業入社。人事部長などを経て、2024年6月より取締役。2026年4月より現職。
水家次朗 取締役監査等委員(常勤) 1984年荒川化学工業入社。ペルノックス代表取締役社長、ファイン・エレクトロニクス事業部長などを歴任し、2022年6月より現職。


社外取締役は、正宗エリザベス氏(アット・アジア・アソシエイツ・ジャパン代表取締役)、小山俊也氏(帝人元取締役常務執行役員)、巳波淳氏(大同工業元企画本部副本部長)、中務正裕氏(中央総合法律事務所弁護士)です。

2. 事業内容

同社グループは、「機能性コーティング事業」「製紙・環境事業」「粘接着・バイオマス事業」「ファイン・エレクトロニクス事業」および「その他」事業を展開しています。

機能性コーティング事業

印刷インキや塗料、ディスプレイ関連に使用される光硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などを製造・販売しています。電子部品などの高性能化に不可欠なコーティング材料を国内外の顧客へ提供しています。

主に製品の販売代金を収益源としています。荒川化学工業を中心に、国内子会社のペルノックスのほか、中国、タイ、台湾の海外子会社などを通じてグローバルに事業を運営しています。

製紙・環境事業

紙の強度を向上させる紙力増強剤や、にじみを防ぐサイズ剤、環境に配慮した水系ポリマーなどの製紙用薬品を提供しています。顧客は主に国内外の製紙メーカーです。

製品の販売代金から収益を得ています。運営は荒川化学工業が主体となり、中国の広西梧州荒川化学工業やベトナムの荒川ケミカルベトナムなど、複数のアジア子会社とともに事業を展開しています。

粘接着・バイオマス事業

粘着テープや接着剤の性能を向上させる粘着付与樹脂や水素化石油樹脂、超淡色ロジンなどを提供しています。天然素材のロジン(松脂)を活かしたバイオマス素材の開発にも注力しています。

主に製品の販売代金を収益源としています。荒川化学工業や国内子会社の高圧化学工業、千葉アルコン製造のほか、欧州や米国の現地法人を含む多数のグループ会社が事業を手掛けています。

ファイン・エレクトロニクス事業

半導体や電子部品向けの精密部品洗浄剤、低誘電ポリイミド樹脂、ハードディスク用の精密研磨剤などを提供しています。生成AIやデータセンター関連の最先端分野に向けて高機能材料を展開しています。

製品の販売から収益を得ています。荒川化学工業や国内子会社のペルノックス、山口精研工業に加え、中国や台湾の海外子会社などが連携してグローバルな供給体制を構築しています。

その他

報告セグメントに含まれない事業として、国内子会社のカクタマサービスが損害保険の代理店業務や不動産管理事業などを行っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績を見ると、売上高は700億円から800億円台で推移しています。経常利益は一時赤字を計上したものの直近では回復傾向にあり、利益率も改善を見せています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 805億円 794億円 722億円 802億円 821億円
経常利益 36億円 -27億円 -24億円 9億円 24億円
利益率(%) 4.4% -3.4% -3.3% 1.1% 2.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 15億円 -49億円 -10億円 26億円 22億円

(2) 損益計算書

売上高の増加に伴い、売上総利益や営業利益も堅調に伸びています。利益率の改善が進んでおり、収益力の向上が確認できます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 802億円 821億円
売上総利益 165億円 179億円
売上総利益率(%) 20.6% 21.8%
営業利益 11億円 25億円
営業利益率(%) 1.3% 3.0%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が36億円(構成比23%)、運送費が33億円(同22%)、研究開発費が30億円(同20%)を占めています。

(3) セグメント収益

機能性コーティングとファイン・エレクトロニクスが好調に推移し、全体の利益を牽引しています。一方、製紙・環境事業は減益となり、粘接着・バイオマス事業は赤字が継続しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
機能性コーティング 168億円 182億円 12億円 22億円 12.1%
製紙・環境 220億円 207億円 18億円 14億円 6.7%
粘接着・バイオマス 278億円 284億円 -22億円 -14億円 -4.9%
ファイン・エレクトロニクス 135億円 147億円 8億円 9億円 6.1%
その他事業 0.9億円 0.8億円 0.6億円 0.4億円 50.6%
連結(合計) 802億円 821億円 11億円 25億円 3.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、本業で得た資金で積極的に投資を行いながら借入金の返済などを進めている健全な状態といえます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 51億円 42億円
投資CF -32億円 -21億円
財務CF -47億円 -3億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は49.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

経営理念として「個性を伸ばし 技術とサービスで みんなの夢を実現する」を掲げています。また、「つなぐを化学する SPECIALITY CHEMICAL PARTNER」をビジョンに据え、ロジンなどの環境に配慮した素材を活かして地球環境と社会の持続可能な未来に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化

経営理念とビジョンの具現化に向け、グループ共通の価値観・行動指針である「ARAKAWA WAY 5つのKIZUNA」を策定しています。これを全社員で実践する「KIZUNA経営」を通じて、組織の風土を醸成し、企業価値の持続的な向上に努める文化を根付かせています。

(3) 経営計画・目標

2030年に向けた第6次中期5ヵ年経営実行計画(2026〜2030年度)を策定し、中核方針に基づく事業成長を図っています。2030年度の最終年度においては以下の経営数値を目標として設定しています。

* 売上高1,030億円
* 営業利益70億円
* 経常利益67億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益44億円
* ROE7%以上

(4) 成長戦略と重点施策

「事業ポートフォリオ改革の加速」と「生産性および資本効率の向上」を中核方針に掲げています。電子材料やライフサイエンス領域への重点的な資源投入や、グローバル展開の再構築を進めています。また、炭素利益率(ROC)を新たな業績指標として導入し、収益性の向上と脱炭素の連動を図っています。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

「人財」を成長の源泉かつ最も重要な経営資源と位置づけています。多様な経験や知識を持つ人財の確保・定着を強化するとともに、自ら考えて行動する自律型人財へのキャリア形成を支援しています。また、すべての社員が個性を最大限に発揮できるような環境づくりや組織風土の醸成に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.4歳 18.9年 7,235,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 3.3%
男性育児休業取得率 122.2%
男女賃金差異(全労働者) 59.4%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 71.0%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 49.4%


また、同社は「人的資本」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、重要ポジション後継者準備率(317%)、安全操業に係る高度専門人財の育成(24名)、障がい者雇用率(2.3%)などです。

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 政治・経済状況および需要の動向

日本、アジア、欧米など多様な地域で事業を展開しているため、各国の政治・経済状況の変動が業績に影響する可能性があります。また、主力製品の供給先である製紙、印刷インキ、電子工業などの業界における需要減少もリスクと認識されています。

(2) 法規制の変更および強化

国内外で多様な許認可や規制の適用を受けて事業活動を行っています。炭素税の導入などの環境規制の強化や、海外の進出地域での予期せぬ法規制の変更により、遵守コストが増大し、経営成績に悪影響を及ぼすリスクがあります。

(3) 原材料価格の高騰と供給不安定化

主要原材料であるガムロジン(松脂)や石油化学製品を主に海外から調達しています。中国でのガムロジンの生産量減少や、地政学リスクの高まりによる石油化学製品の需給バランスの変動により、調達コストが高騰するリスクがあります。

(4) 海外での事業活動に伴う地政学リスク

グローバルな事業展開を行っているため、海外の進出地域における政治・経済情勢の悪化、治安問題、予期せぬ法規制の導入などの地政学リスクが潜在しています。これらが顕在化した場合、現地での生産・販売活動に支障をきたす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。