※本記事は、荒川化学工業株式会社 の有価証券報告書(第95期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 荒川化学工業ってどんな会社?
松から得られるロジン(松脂)化学をコア技術とし、製紙用薬品や電子材料等を展開する中間素材メーカーです。
■(1) 会社概要
1876年に生薬商として創業し、1956年に株式会社へ改組しました。2003年に東証一部および大証一部へ上場し、2016年にはJSRより機能性コーティング材料事業を譲受しました。2022年の市場区分見直しに伴いプライム市場へ移行し、現在はグローバルに事業を展開しています。
連結従業員数は1,667名、単体では817名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は同社の従業員持株会、第3位は金融機関です。安定的な株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.34% |
| 荒川化学従業員持株会 | 7.47% |
| 三菱UFJ銀行 | 4.74% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名、計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長執行役員事業本部長は高木信之氏が務めています。社外取締役比率は40.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 高木 信 之 | 代表取締役社長執行役員事業本部長 | 1988年入社。経営企画室長、専務取締役経営企画本部長などを経て、2024年4月より現職。 |
| 延 廣 徹 | 常務取締役執行役員管理部門管掌兼KIZUNA推進担当 | 1984年入社。経営企画室長、管理本部長などを歴任し、2025年4月より現職。 |
| 宇 根 高 司 | 取締役相談役 | 1983年入社。ペルノックス社長、事業本部長を経て、2017年代表取締役社長に就任。2024年4月より現職。 |
| 岡 﨑 巧 | 取締役執行役員生産部門担当兼研究開発部門担当兼品質担当兼環境担当兼保安担当 | 1984年入社。高圧化学工業社長、研究所長、研究開発本部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 冨 宅 伸 幸 | 取締役執行役員経営企画本部長兼経営企画部長 | 1998年入社。管理本部副本部長兼人事部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 水 家 次 朗 | 取締役監査等委員(常勤) | 1984年入社。ペルノックス社長、事業本部ファイン・エレクトロニクス事業部長などを経て、2022年6月より現職。 |
社外取締役は、正宗エリザベス(アット・アジア・アソシエイツ・ジャパン代表取締役)、小山俊也(元帝人ミッション・エグゼクティブ)、巳波淳(元ユニリタ取締役)、中務正裕(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「機能性コーティング事業」「製紙・環境事業」「粘接着・バイオマス事業」「ファイン・エレクトロニクス事業」および「その他」事業を展開しています。
■機能性コーティング事業
光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、印刷インキ用樹脂、塗料用樹脂などを提供しています。主な顧客は印刷インキメーカーや塗料メーカー、電子部品メーカーなどです。
製品の販売により顧客から対価を得ています。運営は主に同社が行い、海外では南通荒川化学工業有限公司や荒川ケミカル(タイランド)社などが担当しています。
■製紙・環境事業
紙力増強剤、サイズ剤、新規水系ポリマーなどを提供しています。製紙会社などが主な顧客であり、紙の強度向上や耐水性付与などの機能を提供します。
製品の販売により顧客から対価を得ています。運営は主に同社が行い、海外では広西梧州荒川化学工業有限公司などが担当しています。
■粘接着・バイオマス事業
水素化石油樹脂、粘着・接着剤用樹脂、超淡色ロジン、合成ゴム重合用乳化剤などを提供しています。粘着・接着剤メーカーなどが主な顧客です。
製品の販売により顧客から対価を得ています。運営は同社に加え、高圧化学工業、千葉アルコン製造などが担当しています。
■ファイン・エレクトロニクス事業
精密部品洗浄剤および洗浄装置、低誘電ポリイミド樹脂、ファインケミカル製品、電子材料用配合製品、精密研磨剤などを提供しています。電子部品・半導体業界などが主な顧客です。
製品の販売により顧客から対価を得ています。運営は同社に加え、ペルノックス、高圧化学工業、山口精研工業などが担当しています。
■その他事業
損害保険代理業や不動産管理業務を行っています。
保険手数料や不動産管理料などを収益源としています。運営は連結子会社のカクタマサービスが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2023年3月期から2024年3月期にかけては原材料価格高騰や需要低迷の影響で赤字となりましたが、2025年3月期は増収となり、各利益段階で黒字転換を果たしました。特に投資有価証券売却益等の計上もあり、当期純利益は大幅に改善しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 706億円 | 805億円 | 794億円 | 722億円 | 802億円 |
| 経常利益 | 37億円 | 36億円 | -27億円 | -24億円 | 9億円 |
| 利益率(%) | 5.2% | 4.4% | -3.4% | -3.3% | 1.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 22億円 | 15億円 | -49億円 | -10億円 | 26億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加し、売上総利益率も改善しました。販売費及び一般管理費は増加しましたが、増収効果等により営業損益は黒字化しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 722億円 | 802億円 |
| 売上総利益 | 117億円 | 165億円 |
| 売上総利益率(%) | 16.2% | 20.6% |
| 営業利益 | -26億円 | 11億円 |
| 営業利益率(%) | -3.6% | 1.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が36億円(構成比23.2%)、運送費が33億円(同21.7%)を占めています。研究開発費は31億円(同19.8%)でした。
■(3) セグメント収益
機能性コーティング事業やファイン・エレクトロニクス事業が需要回復により増収増益となりました。粘接着・バイオマス事業は増収ながらも赤字が継続しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 機能性コーティング事業 | 149億円 | 168億円 | 5億円 | 12億円 | 7.2% |
| 製紙・環境事業 | 211億円 | 220億円 | 13億円 | 18億円 | 8.4% |
| 粘接着・バイオマス事業 | 251億円 | 278億円 | -40億円 | -22億円 | -8.1% |
| ファイン・エレクトロニクス事業 | 110億円 | 135億円 | -4億円 | 8億円 | 6.3% |
| その他事業 | 0.8億円 | 0.9億円 | 0.4億円 | 0.6億円 | 60.2% |
| 調整額 | -0.4億円 | -0.3億円 | -6億円 | -7億円 | - |
| 連結(合計) | 722億円 | 802億円 | -26億円 | 11億円 | 1.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動によるキャッシュ・フローがプラスで、投資活動および財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスであるため、本業で稼いだ資金で投資や借入返済を行っている「健全型」と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 12億円 | 51億円 |
| 投資CF | -71億円 | -32億円 |
| 財務CF | 55億円 | -47億円 |
財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は47.8%で市場平均を上回る一方、企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.6%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「個性を伸ばし 技術とサービスで みんなの夢を実現する」をグループ経営理念としています。また、「つなぐを化学する SPECIALITY CHEMICAL PARTNER」をビジョンに掲げ、材料の表面や隙間に機能を与える製品を通じて、社会とのつながりを大切にするパートナーを目指しています。
■(2) 企業文化
グループ経営理念とビジョンの実現に向け、大切にしている価値観・行動指針を明確化した「ARAKAWA WAY 5つのKIZUNA」を全社員で共有しています。これにより、根幹部分は変わらない経営を貫き、適切な判断と迅速な行動を積み重ねることを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
第5次中期5ヵ年経営実行計画「V-ACTION for sustainability」を推進しています。最終年度にあたる2026年3月期の業績予想として、以下の数値を掲げています。
* 売上高:850億円
* 営業利益:28億円
* 営業利益率:3.3%以上、EBITDA 83億円以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「KIZUNA経営」のもと、既存事業の収益力回復と事業ポートフォリオ改革の加速を進めています。具体的には、コア技術・素材の強化、ライフサイエンス関連など新規事業の創出に挑戦しています。また、安全文化の醸成や生産性の向上により成長を続け、2030年の「ありたい姿」の実現を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人財」を最も重要な経営資源と位置づけ、社員一人ひとりが個性を発揮し、自律しながら挑戦し続けることで新たな価値を生み出すことを目指しています。多様な経験・知識・技能を有する人財の確保を強化し、学びと実践の機会を提供することで、自律型人財へのキャリア形成を支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.0歳 | 18.7年 | 6,983,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.8% |
| 男性育児休業取得率 | 60.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 60.4% |
| 男女賃金差異(正規) | 71.9% |
| 男女賃金差異(非正規) | 46.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、重要ポジション後継者準備率(389%)、障がい者雇用率(2.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 政治・経済状況および需要の動向について
日本、アジア、米州、欧州等で事業を展開しており、各地域の政治・経済状況の影響を受けます。また、製紙、印刷インキ、塗料、電子工業等の顧客業界の景気後退による需要減少は、業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、特定の地域や業界への依存リスクを分散させています。
■(2) 法的規制について
国内外で各種法令の適用を受けており、炭素税導入などの規制強化や予期せぬ変更により事業活動が制限されたり、費用が増大する可能性があります。環境問題や製造物責任等による訴訟リスクもあります。リスク・コンプライアンス委員会を中心に、適切な対応を行う体制を整備しています。
■(3) 災害・事故・感染症について
国内外の生産拠点において、大規模な自然災害や火災事故、感染症の流行が発生した場合、生産停止等により業績に悪影響を与える可能性があります。設備の定期点検や従業員の教育、BCP(事業継続計画)の策定・訓練などを通じ、リスクの最小化を図っています。
■(4) 原材料について
主要原材料である石油化学製品やガムロジン(松脂)の調達リスクがあります。特にガムロジンは中国に依存しており、需給バランス変動による価格高騰が業績に影響する可能性があります。販売価格の見直しや調達地域の多様化を進めることで対応しています。



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