扶桑化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

扶桑化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

扶桑化学工業は東京証券取引所プライム市場に上場する化学メーカーです。果実酸等を扱うライフサイエンス事業と、半導体向け超高純度コロイダルシリカ等の電子材料事業を展開しています。直近の業績は、AI用途など半導体市場の成長に伴う需要増加を背景に、売上と利益がともに前年を上回り、増収増益のトレンドにあります。


※本記事は、扶桑化学工業株式会社の有価証券報告書(第69期、自2025年4月1日 至2026年3月31日、2026年6月19日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。

1. 扶桑化学工業ってどんな会社?


果実酸を中心としたライフサイエンス事業と、半導体向け研磨剤原料である電子材料事業を展開する化学メーカーです。

(1) 会社概要


1957年に設立され、1962年に食品添加物リンゴ酸の製造を開始しました。1987年には電子材料コロイダルシリカの試験生産に着手し、現在の事業基盤を築いています。2003年に藤沢薬品工業から国内化成品事業等を買収し事業を拡大、2004年にジャスダック上場を果たし、2015年には東証第一部へ市場変更しました。

現在、同社グループの従業員数は連結で956名、単体で623名体制です。筆頭株主は法人の壽世堂で、第2位は代表取締役会長が代表を兼務する事業会社の帝國製薬、第3位は資産管理業務を行う信託銀行となっています。

氏名 持株比率
壽世堂 15.87%
帝國製薬 9.44%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9.19%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長は杉田真一氏が務めています。社外取締役比率は36.4%です。

氏名 役職 主な経歴
藤岡実佐子 代表取締役会長 帝國製薬代表取締役を経て、2011年より同社代表取締役社長。2017年より同社会長。朝日放送グループホールディングス社外取締役も兼務。
杉田真一 代表取締役社長 藤沢薬品工業を経て2005年に同社入社。ライフサイエンス事業部営業開発本部企画開発部長、管理本部長などを歴任し、2020年より現職。
政氏晴生 専務取締役ライフサイエンス事業部長 1990年に同社入社。電子材料事業部門電子材料本部長、電子材料事業部長等を経て、2020年に専務取締役。2024年より現職。
藤岡篤 常務取締役経営企画部長 2019年に同社入社。企画開発室長を経て2021年取締役。2024年常務取締役、2025年経営企画部長兼事業開発部長。帝國製薬取締役を兼務。
椙本源樹 取締役電子材料事業部長 1992年に同社入社。電子材料事業部営業開発部長、ライフサイエンス事業部長を経て、2024年電子材料事業部長。2026年より現職。
伊藤裕之 取締役管理本部長 大和銀行(現りそな銀行)を経て2017年に同社入社。管理本部総務部長を務め、2020年に管理本部長。2025年より現職。
宮本典和 取締役生産本部長 1994年に同社入社。青島扶桑精製加工総経理、鹿島事業所長などを経て、2024年に生産本部長兼京都事業所長。2025年より現職。


社外取締役は、百嶋計(元国税庁長官官房審議官)、平田文明(元三井化学理事)、江黒早耶香(シティユーワ法律事務所弁護士)、武内敬(元大阪ガス常務執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ライフサイエンス事業」および「電子材料事業」を展開しています。

ライフサイエンス事業


リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸等の果実酸類や無水マレイン酸等の有機酸類、およびそれらを原料とする応用開発商品の製造・販売を行っています。顧客は、食品・飲料分野(酸味料、pH調整剤等)から、洗剤、化粧品、コンクリート用混和剤、電子機器等の工業分野まで多岐にわたります。

収益源は、食品メーカーや工業系メーカーに対する果実酸類および応用開発商品の販売代金です。事業の運営は同社を中心に、中国の青島扶桑精製加工や扶桑化学(青島)、タイのFUSO(THAILAND)、米国のPMP Fermentation Productsなどの子会社が担い、グローバルに事業を展開しています。

電子材料事業


半導体業界向けに研磨剤原料として利用される超高純度コロイダルシリカを中心に、電子材料および機能性化学品の製造・販売を行っています。微細化・高集積化が進む次世代半導体の製造に必要なCMP(化学的機械的平坦化)スラリーなど、最先端のニーズに対応した製品を提供しています。

収益源は、半導体メーカー等への超高純度コロイダルシリカや、プラスチック・塗料向け樹脂添加剤、ファインケミカルなどの販売代金です。事業の運営は同社が主体となり、中国子会社の青島扶桑精製加工や扶桑化学(青島)などとともに、旺盛な需要に応える供給体制を構築しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績は、市場環境の変動を受け増減を繰り返しながらも、長期的には拡大傾向にあります。特に2024年3月期は半導体市況の低迷等により減収減益となりましたが、翌期以降は需要回復に伴い売上・利益ともに反転し、2026年3月期には売上高769億円と過去最高水準を達成、高い利益率を維持しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 558億円 685億円 590億円 695億円 769億円
経常利益 155億円 197億円 119億円 166億円 196億円
利益率(%) 27.8% 28.8% 20.2% 23.8% 25.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 102億円 130億円 77億円 109億円 146億円

(2) 損益計算書


直近2期の損益構成を見ると、AIやデータセンター向けの旺盛な需要を背景とした電子材料事業の好調により、売上高が堅調に推移しています。また、新規設備の稼働に伴う減価償却費の増加等はあったものの、増収による増産効果と生産効率化により売上総利益率と営業利益率はともに改善傾向にあります。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 695億円 769億円
売上総利益 260億円 293億円
売上総利益率(%) 37.4% 38.1%
営業利益 162億円 189億円
営業利益率(%) 23.4% 24.5%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が23億円(構成比22%)、運搬費が19億円(同18%)を占めています。

(3) セグメント収益


セグメント別の業績では、電子材料事業がAI需要の拡大と海外での販売増に牽引されて大幅な増収を達成しました。一方、ライフサイエンス事業は海外市場での販売が堅調であったものの、国内での日用品用途の需要軟化や競争激化による価格対応等の影響で微減収となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
ライフサイエンス事業 363億円 354億円
電子材料事業 332億円 415億円
連結(合計) 695億円 769億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業状態です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 227億円 248億円
投資CF -205億円 -111億円
財務CF -24億円 -59億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は77.0%で、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


社是に「限りなき進歩と創造」を掲げ、収益力・人材力・技術力のレベルを高めて継続的発展を遂げる企業を目指しています。ニッチな市場のニーズをとらえ、スピード・コスト・クオリティのバランスが高度に調和した「金メダル製品」の開発を通じ、顧客満足の最大化を追求しています。

(2) 企業文化


「信用を重んじ確実を旨とする」「技術を通じて国家社会に貢献し」「社業の繁栄によって従業員の豊かさを築く」という3つの経営信条を基盤としています。絶え間ない向上心をもって持続的社会に貢献し、独自の応用性と技術力によって未来に向けた発展的な基盤を築く価値観を重視しています。

(3) 経営計画・目標


2030年度を最終年度とする5カ年の新中期経営計画「飛躍2030」を策定し、持続的な成長に向けた設備投資等の採算性を考慮した指標として、営業利益と償却前営業利益を重要経営指標として設定しています。資本コストや株価を意識した経営のもと、以下の経営目標を掲げています。

* 売上高:1,200億円
* 営業利益:360億円
* 償却前営業利益:567億円

(4) 成長戦略と重点施策


ライフサイエンス事業では、フードテックを活用した食品ロス削減等の付加価値製品の拡販や、海外における新規取引先の開拓を進めます。電子材料事業では、AI等の先端半導体向けに粒度分布制御技術を用いた製品ラインナップの拡充を行うほか、需要増加に対応した積極的な設備投資で供給能力を強化します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


新中期経営計画を確実に実行するため、「供給力強化に向けた人材確保と育成」「研究開発人材の確保と育成」「従業員の総戦力化」を重点人事戦略と位置づけています。採用チャネルの多様化で技術の伝承と外部知見の取り込みを図りつつ、資格取得の奨励や選択型研修等の教育プログラムを通じて、中長期的な人材力の強化を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.6歳 12.0年 7,577,639円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.7%
男性育児休業取得率 71.4%
男女賃金差異(全労働者) 77.9%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 77.5%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 75.7%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、離職率(4.4%)、過去3年間の新卒採用者の定着率(93.3%)、平均年次有給休暇取得率(74.5%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 景気・市場動向による業績変動


ライフサイエンス事業の工業用途や、電子材料事業の主戦場である半導体業界は、景気変動の波が激しいという特徴があります。異常気象や自然災害による需要変動に加え、競合品との価格競争によって販売価格や原価が影響を受け、業績が変動する可能性があります。

(2) 技術革新に伴う市場の変化


電子材料事業の主要な納入先である半導体業界は技術革新が激しく、新規技術の開発・応用によって市場が大きく変化するリスクがあります。同社は最先端技術に対応した製品開発と供給体制の構築を進めつつ、半導体以外の新市場開拓により依存度の低減を図っています。

(3) 為替変動と海外事業リスク


同社は海外売上高比率が高く、原材料の多くを中国など海外から調達しています。そのため、為替相場の変動や中国の社会経済情勢の影響により調達難や価格上昇が起き、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、カントリーリスクや現地法規制等、海外展開特有の事業リスクに対しても情報収集による早期対応に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。