HOYA 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

HOYA 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の光学ガラス大手。ライフケア(メガネレンズ、コンタクト、医療用内視鏡等)と情報・通信(半導体用マスクブランクス、HDD用ガラス基板等)の2大事業を展開します。当連結会計年度は、情報・通信事業の好調や円安効果等により、売上収益・各利益ともに前期を上回り、増収増益となりました。


※本記事は、HOYA株式会社の有価証券報告書(第87期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月5日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。

1. HOYAってどんな会社?


光学技術を核に、ライフケアと情報・通信の先端分野で高収益事業を展開するグローバル・ニッチトップ企業です。

(1) 会社概要


1941年に東洋光学硝子製造所として創業し、1961年に東証二部へ上場しました。1962年にメガネレンズ製造を開始し、1973年に東証一部へ指定替えとなりました。2007年にはペンタックスを子会社化して医療分野を強化し、2008年に吸収合併しました。2013年にはセイコーエプソンのメガネレンズ事業を譲り受けています。

同社グループは連結従業員数37,909名、単体従業員数3,149名の体制で運営されています。筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)で、第2位は株式会社日本カストディ銀行(信託口)といずれも信託銀行が名を連ねており、機関投資家による保有比率が高い株主構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 19.46%
日本カストディ銀行(信託口) 7.39%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 3.58%

(2) 経営陣


同社の役員は男性5名、女性3名の計8名で構成され、女性役員比率は37.5%です。代表執行役最高経営責任者(CEO)は池田英一郎氏です。社外取締役比率は71.4%です。

氏名 役職 主な経歴
池田 英一郎 取締役 代表執行役最高経営責任者(CEO) 1992年同社入社。メモリーディスク事業部共同事業部長、オプティクス事業部光学レンズSBU長、執行役情報・通信担当COO兼CTOなどを歴任。2022年6月より現職。
廣岡 亮 取締役 代表執行役最高財務責任者(CFO) 1996年住友信託銀行入社。2002年同社入社。HOYA Holdings N.V. Director、同社執行役最高財務責任者などを経て、2022年6月より現職。


社外取締役は、吉原寛章(元KPMGインターナショナル副会長)、阿部康行(元住友商事代表取締役専務執行役員)、長谷川隆代(SWCC代表取締役会長)、西村美香(GILDE HEALTHCARE PARTNERS Operational Partner)、佐藤基嗣(パナソニックホールディングス代表取締役副社長執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ライフケア」「情報・通信」および「その他」事業を展開しています。

(1) ライフケア事業


健康や医療分野において日常生活で使用されるヘルスケア関連製品(メガネレンズ、コンタクトレンズ)と、医療行為などに使用されるメディカル関連製品(医療用内視鏡、眼内レンズ、人工骨、金属製整形インプラント等)を提供しています。主な顧客は、メガネ専門店、医療機関、一般消費者などです。

製品の販売や保守サービス等を通じて対価を得ています。運営は、同社のビジョンケアカンパニー部門、アイケア事業部門、メディカル事業部門のほか、HOYA HOLDINGS N.V.(欧州地域本社)やHOYA LENS THAILAND LTD.などの国内外の関係会社が行っています。

(2) 情報・通信事業


デジタル機器に不可欠なエレクトロニクス関連製品(半導体用マスクブランクス・フォトマスク、FPD用フォトマスク、HDD用ガラスサブストレート)と、映像関連製品(光学レンズ、ガラス材料、レーザー機器等)を提供しています。主な顧客は、半導体メーカー、HDDメーカー、カメラメーカー等です。

製品の製造・販売を通じて対価を得ています。運営は、同社のLSI事業部門、FPD事業部門、MD事業部門、オプティクス事業部門のほか、HOYA CORPORATION USAやHOYA ELECTRONICS SINGAPORE PTE. LTD.などの関係会社が行っています。

(3) その他


主に音声合成ソフトウェアの開発・販売を行っています。顧客は、IT企業やサービスプロバイダーなど多岐にわたります。

ソフトウェアのライセンス供与やサービス提供を通じて対価を得ています。運営は、ReadSpeaker Holding BVなどの関係会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上収益は直近5期間で一貫して増加傾向にあり、第87期には過去最高を更新しています。利益面でも、税引前利益率は常に29%以上の高水準を維持しており、収益性の高さが際立っています。当期利益も順調に拡大しており、成長性と収益性を兼ね備えた堅調な業績推移を示しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 5,479億円 6,615億円 7,236億円 7,626億円 8,660億円
税引前利益 1,592億円 2,107億円 2,158億円 2,366億円 2,600億円
利益率(%) 29.1% 31.9% 29.8% 31.0% 30.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 1,252億円 1,653億円 1,688億円 1,826億円 2,018億円

(2) 損益計算書

HOYAは国際財務報告基準(IFRS)を適用しているため、一般的な国内基準の企業で見られる「売上総利益(粗利)」や「営業利益」といった段階的な利益区分は記載されていません。代わりに、費用が「機能別(売上原価や販管費など)」ではなく「性質別(人件費や減価償却費など)」に開示されているのが特徴です。

当期(2025年3月期)の費用合計(6,259億円)の内訳を見ると、最大の支出は「人件費」で2,116億円(費用全体の約34%)を占めており、グローバルな人材基盤への投資の大きさがうかがえます。次いで「原材料及び消耗品消費高」が1,233億円(同20%)となっています。

また、次世代技術や新規事業に向けた「研究開発費」として353億円(費用全体の約6%相当)が計上されており、単なるコスト削減ではなく、高い収益性を将来にわたって維持・拡大するための先行投資を継続していることがわかります。

(3) セグメント収益


ライフケア事業はメガネレンズの販売促進等が奏功し増収となりましたが、利益面では減益となりました。一方、情報・通信事業は半導体用マスクブランクスやHDD用基板の需要急回復により大幅な増収増益を達成し、全社の業績拡大を牽引しました。その他事業は微減収減益となっています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
ライフケア 5,300億円 5,509億円 1,210億円 904億円 16.4%
情報・通信 2,283億円 3,111億円 1,079億円 1,704億円 54.8%
その他 43億円 40億円 39億円 6億円 15.2%
調整額 - - 38億円 -14億円 -
連結(合計) 7,626億円 8,660億円 2,366億円 2,600億円 30.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、本業で稼いだ資金(営業CFプラス)を使って借入金の返済や株主還元(財務CFマイナス)を行いつつ、投資活動も自己資金の範囲内でコントロール(投資CFマイナス)している「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 2,228億円 2,351億円
投資CF -358億円 -332億円
財務CF -1,109億円 -1,904億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は20.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も82.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、ビジネスモデルや景気感応度等が異なる複数の事業を展開することでリスクを分散し、グループ全体の収益性・安定性・成長性を確保する「事業ポートフォリオ経営」を行っています。「小さな池の大きな魚」の考え方に基づき、競争力の高い事業ポートフォリオの維持に努め、持続的成長と企業価値の最大化を目指しています。

(2) 企業文化


経営理念と経営基本原則に基づき、グループ従業員が業務遂行において遵守すべき指針として「HOYA行動基準」を定めています。事業部制を採用し、各事業部門に大幅に権限を委譲することで意思決定のスピードを早め、市場の変化に迅速に対応する文化があります。また、サステナビリティ/ESGへの対応を重要経営課題の一つとしています。

(3) 経営計画・目標


同社は、資本に対するコストを上回る利益を生むことで企業価値が増大すると考え、経営指標としてSVA(Shareholders Value Added)を導入しています。また、環境目標として、2040年までに事業活動で使用する電力の100%を再生可能エネルギー由来にし、2021年度比でCO2を100%削減することを掲げています。

(4) 成長戦略と重点施策


継続的な企業価値の増大に向け、成長性の高い領域への経営資源の配分と、衰退事業からの撤退を適時行います。具体的には、市場の変化への迅速な対応、M&Aや内部開発による新たな事業・技術の創出、および成長市場での事業拡大に注力します。

* ライフケア事業:高齢化や新興国の発展を背景に市場成長が見込まれる製品の拡大。
* 情報・通信事業:情報化社会の進展を支える半導体・HDD関連製品の成長。
* サイバーセキュリティ、地政学リスク、サステナビリティ(ESG)への対応強化。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


人材を最優先すべき資本の一つと位置づけ、多様性を尊重し、その違いを活かすことで企業価値の創造を目指しています。国籍・性別にとらわれない採用を行い、現地の優秀な人材を積極的に登用してグローバル化を推進しています。また、従業員の安全と健康に配慮し、差別やハラスメントのない職場環境の整備に努めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 47.8歳 19.3年 9,235,800円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 16.1%
男性育児休業取得率 41.5%
男女賃金差異(全労働者) 40.9%
男女賃金差異(正規雇用) 60.3%
男女賃金差異(非正規雇用) 86.9%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 執行役への依存


同社グループでは、経営の効率化と意思決定の迅速化のため、全執行役が経営戦略の策定から事業推進まで重要な役割を担っています。後継者計画を作成していますが、何らかの理由で執行役が業務を遂行できなくなった場合、経営成績や意思決定に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 国際情勢の影響


為替の大幅な変動や、事業展開国における政治・経済・法環境の変化、労働力不足、自然災害、感染症などの予期せぬ事象が発生した場合、事業遂行に問題が生じ、業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、USドルやユーロなどの主要通貨の変動は円ベースの業績に影響します。

(3) 小売の規模拡大による価格低下


ライフケア事業において、量販店の規模拡大やオンライン事業者の台頭により、製品に対する価格圧力が強まっています。コスト削減や高付加価値戦略で対応していますが、価格低下の進行速度によっては、業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。