日本坩堝 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本坩堝 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

スタンダード市場に上場し、耐火物や各種工業炉の製造・エンジニアリングを手掛ける企業です。直近の業績は、売上高が前期比で増収となった一方、経常利益は横ばいで推移しています。純利益については、中橋保温工業所の子会社化に伴う負ののれん発生益などの特別利益計上により、増益となっています。


※本記事は、日本坩堝の有価証券報告書(第186期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本坩堝ってどんな会社?


耐火物や工業炉等の設計・製造を通じ、鋳造・鉄鋼市場を支える歴史ある企業です。

(1) 会社概要


同社は1885年に大日本坩堝会社として開業し、1906年に帝国坩堝として設立された老舗企業です。1950年に東京証券取引所へ上場を果たしました。近年は事業体制の強化を進めており、2024年に眞保炉材工業を存続会社として関連会社を吸収合併したほか、2025年には中橋保温工業所を子会社化しています。

同社グループの従業員数は連結で259名、単体で183名です。筆頭株主は個人の岡田民雄氏で、第2位は事業会社の主要取引先であるみずほ銀行(常任代理人 日本カストディ銀行)、第3位は柏屋商事となっています。

氏名 持株比率
岡田民雄 4.87%
みずほ銀行(常任代理人 日本カストディ銀行) 4.83%
柏屋商事 4.08%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性1名の計8名で構成され、女性役員比率は13.0%です。代表取締役社長は西村有司氏が務めています。

氏名 役職 主な経歴
西村有司 代表取締役社長 1997年同社入社。東京支店長、営業部長等を経て、2023年より現職。
広野玲緒奈 専務取締役営業部門・工業炉事業管掌 1984年富士銀行入行。みずほ銀行支店長等を経て2015年同社入社。2025年より現職。
岡本聡 取締役企画・管理部門管掌総務部長 1988年富士銀行入行。2019年同社入社。執行役員等を経て、2025年より現職。


社外取締役は、岩谷誠治(岩谷誠治公認会計士事務所代表)、岡松暁子(法政大学人間環境学部教授)です。

2. 事業内容


同社グループは、「耐火物事業」「エンジニアリング事業」「不動産事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 耐火物事業


黒鉛坩堝や定形耐火物、不定形耐火物の製造販売、鋳物材料の仕入販売を行っており、主に自動車業界などを中心とした鋳造市場や鉄鋼市場の顧客へ製品を提供しています。
顧客への製品の引渡等に伴って収益を獲得するモデルです。事業の運営は主に日本坩堝のほか、子会社のアジア耐火が行っています。

(2) エンジニアリング事業


各種工業炉の設計施工および付帯する機器類の販売、焼却設備等の築炉工事請負などを手がけています。
請負工事契約に基づく役務の提供や、工事が完了して顧客へ引き渡された時点で収益を得ています。運営は日本坩堝に加え、子会社の眞保炉材工業、三友築炉、中橋保温工業所などが担っています。

(3) 不動産事業


本社ビルの賃貸や大阪倉庫の賃貸、豊田工場での太陽光発電事業を展開しています。
建物や駐車場の賃貸料および売電による安定的な収益確保を目的としています。本事業の運営は日本坩堝が単独で行っています。

(4) その他事業


自動車関連の塗装工程などに使用される塗料循環装置の設計および製造販売を手がけています。
顧客へ製品を引き渡すことで販売収益を得ています。本事業の運営は、子会社である日本ピーシーエスが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績を見ると、売上高は着実な増加傾向にあり、事業の堅調な拡大がうかがえます。経常利益についても原材料費等の高騰による影響を受けつつも一定の水準を維持しており、利益率も概ね安定して推移しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 87億円 88億円 96億円 98億円 102億円
経常利益 3億円 1億円 3億円 5億円 5億円
利益率(%) 3.6% 1.7% 3.4% 5.0% 4.8%
当期純利益 2億円 -0.1億円 3億円 4億円 4億円

(2) 損益計算書


売上高が増加した一方で、売上総利益は微減となり、売上総利益率もやや低下しています。これにより営業利益も減少していますが、引き続き安定した黒字を計上しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 98億円 102億円
売上総利益 28億円 27億円
売上総利益率(%) 28.3% 26.5%
営業利益 5億円 4億円
営業利益率(%) 4.8% 4.0%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が4億円(構成比22%)、賞与引当金繰入額が2億円(構成比10%)、荷造運搬費が2億円(構成比9%)を占めています。

(3) セグメント収益


耐火物事業は売上・利益ともに減少しましたが、エンジニアリング事業が大きく伸長し、全体を牽引しています。不動産事業は高い利益率を維持し、安定した収益源となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
耐火物 54億円 52億円 5億円 3億円 4.9%
エンジニアリング 35億円 42億円 4億円 6億円 14.5%
不動産事業 4億円 4億円 2億円 2億円 55.1%
その他 5億円 5億円 -0億円 0.1億円 3.0%
連結(合計) 98億円 102億円 5億円 4億円 4.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、営業で利益を出しながらも借入等によって積極的な設備投資や事業展開を行っている「積極型」の状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 10億円 5億円
投資CF -8億円 -3億円
財務CF -1億円 2億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.2%で市場平均と同水準ですが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は51.3%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「創造性豊かな活力に満ちた役職員により、伝統を守りつつ、いかなる時代、いかなる環境にも適合する会社を目指す」を経営理念に掲げています。株主をはじめとするすべてのステークホルダーの期待に応え、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を経営の最重要課題として取り組んでいます。

(2) 企業文化


創業から141年という長い歴史を刻む中で培ってきた柔軟な対応力を強みとしています。常に顧客に寄り添い、ニーズに応え続けることを通じて、顧客から全幅の信頼を受け続ける「ファースト・コール・カンパニー」を目指す文化が定着しています。また、社員が働きがいを持てる環境整備も重視しています。

(3) 経営計画・目標


「中期経営計画2027」において、事業構造の再構築を加速させ、中長期の成長を目指す方針を掲げています。最終年度の目標として以下の数値を設定しています。

* 売上高 110億円
* 経常利益 8.3億円
* ROE 8.0%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「Rebirth(再生)」「Re-create(価値の再創造)」「Reconstruct(事業構造の再構築)」の3つのRをキーワードに設定しています。具体的には、カーボンニュートラルに貢献する先進的製品(酸化物抑制炉「フリーダム」等)の拡販や、アジアをはじめとする海外市場での生産・営業の積極展開に注力する戦略を描いています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「組織と人の活性化」を経営戦略の土台と位置づけています。エンゲージメントサーベイ等の導入による組織風土改革、ダイレクトリクルーティングや紹介制度による専門人材の確保を進めるとともに、階層別研修や若手層への教育プログラムを通じた人財育成、多様な働き方を促進するダイバーシティ推進に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.2歳 15.2年 6,811,155円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.0%
男性育児休業取得率 75.0%
男女賃金差異(全労働者) 76.8%
男女賃金差異(正規雇用) 76.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 87.7%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(70%)、ストレスチェック総合リスク値(92)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 自動車のEV化の進展


同社の鋳造事業の売上の大部分が自動車業界向けです。自動車のEV化の進行により、エンジンなどの鋳造部品の構造が中長期的に大きく変化する見通しであり、部品構成の変容等への的確な対応が遅れた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 鉄鋼業界における製鉄所再編


鉄鋼事業において、国内市場の需要減少などを背景とする製鉄所の再編や高炉から電炉へのシフトが進展しています。これによる設備の統廃合や縮減の動きが継続することで、同社グループの鉄鋼関連の受注や業績に影響を与える可能性があります。

(3) 原材料の調達・価格動向


耐火物の製造に必要な原材料の多くを海外から調達しています。地政学的な問題によるサプライチェーンの寸断や、原材料・燃料価格の高騰・高止まり、大幅な為替変動(円安)が発生し、価格改定が遅れた場合、利益を圧迫する可能性があります。

(4) 設備の老朽化と大規模自然災害


同社の主要な工場設備の一部は導入から長期間が経過しており、異常停止などが発生した場合に生産へ影響が出る可能性があります。また、生産拠点が大規模な自然災害の予想エリアに位置しており、被災時に事業継続に支障をきたす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。