※本記事は、アジアパイルホールディングス株式会社の有価証券報告書(第21期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アジアパイルホールディングスってどんな会社?
同社は、国内外で基礎工事の設計から施工までを一貫して手がける総合基礎建設グループです。
■(1) 会社概要
2005年にジオトップと大同コンクリート工業が共同で設立し上場しました。2006年にヨーコンなどを完全子会社化し、ジャパンパイル製造を設立しました。2013年にベトナムのPhan Vu Investment Corporationを子会社化し、2015年に持株会社体制へ移行しています。
現在の従業員数は連結で2,681名、単体で11名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は事業会社である太平洋セメント、第3位も信託銀行となっています。太平洋セメントとはコンクリートパイル製造に係る原材料仕入等において事業上の協業関係にあります。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.53% |
| 太平洋セメント | 6.58% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.79% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性2名の計14名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長最高執行役員管理担当兼内部統制担当は黒瀬修介氏が務めており、社外取締役の比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 黒瀬 晃 | 代表取締役会長 | 1971年住友銀行入行。ジオトップ代表取締役専務等を経て、2007年同社代表取締役社長に就任。2019年より同社代表取締役会長兼社長を務め、2022年より現職。 |
| 黒瀬 修介 | 代表取締役社長最高執行役員管理担当兼内部統制担当 | 1979年住友銀行入行。日本総合研究所代表取締役等を経て、2020年同社取締役副社長に就任。2022年より現職。 |
| 大越 正彦 | 取締役執行役員国内事業推進副担当 | 1978年ヨーコン入社。同社常務取締役等を経て、2007年同社執行役員場所打営業本部長に就任。2018年より同社取締役事業副担当兼国際担当を務め、2021年より現職。 |
| 奥山 和則 | 取締役執行役員国際事業推進担当 | 1980年住友銀行入行。三井住友カード代表取締役専務執行役員等を経て、2019年同社顧問に就任。2021年に同社取締役執行役員に就任し、2025年より現職。 |
| 武藤 博之 | 取締役執行役員国内事業推進担当 | 1987年渡辺組入社。大同コンクリート工業等を経て、ジャパンパイル常務取締役を務める。2022年同社専務取締役営業副担当兼設計品質担当に就任し、2024年より現職。 |
| Phan Khac Long | 取締役 | 1983年622 Mechanical transport company入社。1996年よりPhan Vu Investment Corporationで役員を歴任し、2014年より同社取締役に就任し現職。 |
| 渡邊 顯 | 取締役 | 1973年弁護士登録。ジオトップ監査役等を経て、2006年より同社取締役に就任。前田道路やレオパレス21等の社外取締役も務め、現在に至る。 |
社外取締役は、樺澤敏弘(元JFE商事代表取締役副社長執行役員)、上田耕平(元ジャパンエレベーターサービスホールディングス取締役社長COO)、大谷和子(現日本総合研究所執行役員法務部長)、五十嵐久枝(現武蔵野美術大学教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「国内事業」および「海外事業」を展開しています。
■国内事業
コンクリート杭、鋼管杭、場所打ち杭などの各種基礎杭を用いた基礎工事の設計および施工を提供しています。ゼネコンや商社、代理店などを主要な顧客とし、多様なニーズに応じた最適な杭基礎工事の提案と、独自の施工マニュアルに基づく高品質な施工を実施しています。
顧客からの基礎工事請負や製品販売を通じて収益を得るモデルです。運営は主にジャパンパイルが担っており、同社が製造から施工までを一貫して行うほか、ジャパンパイル基礎工業やジャパンパイル富士コンなどが施工や販売を補完し、グループ体制で事業を展開しています。
■海外事業
主にベトナム市場において、コンクリート杭の製造、施工、販売を提供しています。現地の施主や建設会社を主要顧客とし、現地パートナー企業の営業力や生産能力に日本の高度な基礎建設技術を融合させることで、現地の旺盛なインフラ整備需要に対応しています。
コンクリート杭の販売や基礎工事の請負代金が主な収益源となります。ベトナムでの事業運営は主にPhan Vu Investment Corporationが担い、同社が工事を請け負うとともに、複数の製造子会社を通じてコンクリート杭の直接販売等を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、売上高が900億円台から1,100億円台へと拡大基調にあります。利益面では一時的な落ち込みが見られたものの、直近では大径・大規模案件の増加や海外事業の好転により、経常利益が108億円を突破して大幅な増益を達成し、収益性が大きく改善しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 932億円 | 1102億円 | 1032億円 | 1008億円 | 1160億円 |
| 経常利益 | 22億円 | 58億円 | 62億円 | 39億円 | 109億円 |
| 利益率(%) | 2.3% | 5.3% | 6.1% | 3.8% | 9.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 15億円 | 41億円 | 38億円 | 23億円 | 76億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で約15%増加し、売上総利益は大幅に伸びて利益率も改善しました。営業利益は前期の約2.5倍に拡大し、利益水準が飛躍的に高まっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1008億円 | 1160億円 |
| 売上総利益 | 154億円 | 226億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.3% | 19.5% |
| 営業利益 | 43億円 | 109億円 |
| 営業利益率(%) | 4.3% | 9.4% |
販売費及び一般管理費のうち、役員従業員給与が54億円(構成比46%)、賃借料が7.4億円(同6%)を占めています。
■(3) セグメント収益
国内事業は、大型案件の着工遅延等の影響があったものの、全杭種でのワンストップ営業の推進と効率化が寄与し増収増益となりました。海外事業は、ベトナムでの旺盛なインフラ需要を取り込んで稼働率が大幅に向上し、黒字転換と増収を達成しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 国内事業 | 829億円 | 949億円 | 48億円 | 95億円 | 10.0% |
| 海外事業 | 179億円 | 211億円 | -5億円 | 14億円 | 6.7% |
| 調整額 | - | - | 0.3億円 | 0.1億円 | - |
| 連結(合計) | 1008億円 | 1160億円 | 43億円 | 109億円 | 9.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、本業で稼いだ資金を設備投資に充てつつ借入金の返済も進める健全な状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 47億円 | 157億円 |
| 投資CF | -24億円 | -110億円 |
| 財務CF | 11億円 | -32億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は15.5%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も49.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「1.世界に通じる基礎を造る 2.進歩の原点は現場にあり 3.仕事を天職として社会に尽くす」を企業理念として掲げています。総合基礎建設業として、大規模地震等の自然災害に対する安全性や信頼性の確保という社会的課題の解決に事業を通じて貢献し、持続的な成長を目指しています。
■(2) 企業文化
同社グループは、他社との差別化を図り付加価値を高めるため、永年にわたり技術やノウハウを蓄積する文化を有しています。また、地域や環境への社会貢献という企業行動基準に基づき、優秀な技術者の育成や環境に配慮した独自の杭材および施工法の継続的な研究開発にグループ全体で力を注いでいます。
■(3) 経営計画・目標
「基礎建設業界を代表し、高い専門性を有するリーディングカンパニー」となることを目指す姿として設定しています。品質向上と効率化により安定した経営基盤の確立を図るため、営業利益やROE(自己資本利益率)を重要な経営指標として重視しています。
* 最終年度(2028年度)のROE目標:11.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
事業戦略として、大径・大規模工事へのシフトなどビジネス変革のための効率化を進め、既存事業の競争力強化と新分野マーケットの開拓に向けた体制整備を図ります。また、サステナビリティ戦略として、「気候変動への取組」「働きやすい職場の実現」「ガバナンス体制の一層の充実」を推進し、経営基盤の構築に取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社グループは「働きやすい職場の実現」を重要施策とし、長期的視野に立った人材育成と増強、多様性の確保に努めています。建築基礎設計士や基礎施工士などの公的・社内資格の取得を支援し、高度な専門性を有するプロフェッショナル人材の育成に注力するとともに、海外からの人材受け入れも積極的に推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 50.9歳 | 18.0年 | 10,265,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.9% |
| 男性育児休業取得率 | 64.7% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 74.2% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 74.6% |
| 労働者の男女の賃金の差異(非正規雇用労働者) | 51.6% |
また、同社は「人的資本」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、基礎施工士の累計育成数(291名)、基礎設計部門の総人員(60名)、同部門の女性部員数(34名)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料等の市況変動の影響
主力とするプレストレスト高強度コンクリートパイルの製造・施工において、セメントやPC鋼棒等の原材料を使用しています。これら仕入先からの価格引き上げ要請によりコストが上昇するリスクがあります。市況価格を注視した交渉や販売先への価格転嫁に努めていますが、価格動向によっては業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 業界再編と価格競争の激化
コンクリートパイル業界では、製品や施工法の開発、認定工法の取得に多額の費用がかかるため、大手企業による再編と寡占化が進みつつあります。同社グループは主導的な役割を果たしていく方針ですが、寡占化の進展に伴って想定以上の価格競争が激化した場合には、収益が圧迫され業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 施工現場における瑕疵や労災の発生
基礎工事の施工にあたり十分な事前検討を行っていますが、予見できない地盤の状況や障害物によって瑕疵が生じ、施工品質の悪化や工期の延長、損害賠償請求等が発生するリスクがあります。また、重機を使用する屋外作業が中心のため重大な労災事故が起きる危険性もあり、発生時には社会的信用の低下や補償費用の負担が生じます。



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