※本記事は、東京製鐵株式会社の有価証券報告書(第112期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東京製鐵ってどんな会社?
鉄鋼資源のリサイクルを通じ、電炉による鉄鋼製品の製造および販売を展開する国内最大手の電炉メーカーです。
■(1) 会社概要
1934年11月に設立され、各種特殊鋼の生産を開始しました。1976年9月に東証・大証一部へ上場しています。2007年1月に九州工場で厚板の生産を開始し、2009年には田原工場でホットコイルの生産を開始しました。2024年7月には低CO2鋼材ブランド「ほぼゼロ」を発表するなど、環境配慮型の新製品展開にも注力しています。
同社は単体で事業を運営しており、従業員数は1,161名です。筆頭株主は合同会社TOSで、第2位は公益財団法人池谷科学技術振興財団です。第3位には信託業務等を行う信託銀行が入っています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 合同会社TOS | 24.41% |
| 公益財団法人池谷科学技術振興財団 | 12.68% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.52% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性4名、女性1名の計5名で構成され、女性役員比率は20.0%です。取締役社長社長執行役員(代表取締役)は奈良暢明氏が務めています。社外取締役比率は40.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 奈良暢明 | 取締役社長社長執行役員(代表取締役) | 1993年同社入社。総務部長、取締役総務部長、執行役員等を経て、2023年6月より現職。 |
| 小松﨑裕司 | 取締役常務執行役員(営業本部長) | 1985年同社入社。販売部長、大阪支店長、取締役大阪支店長、執行役員営業副本部長等を経て、2022年6月より現職。 |
| 浅井孝文 | 取締役監査等委員(常勤) | 1987年同社入社。本社販売部長、取締役営業副本部長、執行役員大阪支店長等を経て、2023年6月より現職。 |
社外取締役は、星宏明(弁護士)、美和薫(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「鉄鋼事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■鉄鋼事業
鉄スクラップを主原料とし、H形鋼やホットコイル、鋼板、異形棒鋼などの電炉鋼材の製造および販売を行っています。生産時のCO2排出量が少ない環境配慮型の製品を中心に、建設や自動車など幅広い産業の企業を顧客としています。
収益源は、国内外の顧客に鉄鋼製品を販売して得る製品代金です。当事業は東京製鐵単体で運営されており、機動的な販売・物流体制で需要家の多様なニーズに応えるとともに、資源リサイクルによる脱炭素社会の実現に貢献しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、売上高は2024年3月期をピークに減少傾向にあり、経常利益も当期において大きく落ち込んでいます。製品出荷価格の下落や生産量の減少による固定費上昇などが要因となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,709億円 | 3,612億円 | 3,672億円 | 3,268億円 | 2,681億円 |
| 経常利益 | 334億円 | 393億円 | 397億円 | 316億円 | 86億円 |
| 利益率(%) | 12.3% | 10.9% | 10.8% | 9.7% | 3.2% |
| 当期純利益 | 319億円 | 308億円 | 280億円 | 212億円 | 116億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を比較すると、当期は売上高の減少に伴い、売上総利益率および営業利益率がいずれも低下しています。厳しい市況の中でコスト削減に努めているものの、減益基調となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,268億円 | 2,681億円 |
| 売上総利益 | 580億円 | 321億円 |
| 売上総利益率(%) | 17.8% | 12.0% |
| 営業利益 | 301億円 | 72億円 |
| 営業利益率(%) | 9.2% | 2.7% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃諸掛が198億円(構成比79.7%)、給料諸手当が10億円(同4.0%)を占めています。
■(3) セグメント収益
当期は中国からの高水準の鋼材輸出や国内の建築案件における工期遅れなどの影響を受け、主力である鉄鋼事業の売上高は減少しました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 鉄鋼事業 | 3,268億円 | 2,681億円 |
当期のキャッシュ・フローは、営業CFがマイナス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスの「末期型」となっています。本業・投資・財務いずれもマイナスで資金繰りが危機的であることを意味します。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 196億円 | -33億円 |
| 投資CF | -219億円 | -108億円 |
| 財務CF | -138億円 | -82億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は75.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「鉄鋼資源のリサイクルを通じ、省エネルギーと省資源に努め、環境の保全に貢献していく」ことを経営の基本方針として掲げています。社会からの要請が高い脱炭素社会の実現と循環型社会の構築に向け、電炉メーカーとしての社会的使命を果たしています。
■(2) 企業文化
同社は求める人物像を「3つのC」として定義し、企業文化の醸成に努めています。社会に貢献する使命感を持ち果敢に挑戦する「Challenge」、誠実な姿勢で信頼関係を築く「Communication」、変化を恐れず自らの成長を望む「Change」を重んじています。
■(3) 経営計画・目標
同社は長期環境ビジョンにおいて、日本のCO2排出量削減と鉄スクラップの有効利用を推進するための生産量目標を設定しています。具体的には、2030年に粗鋼生産量600万トン、2050年に粗鋼生産量1,000万トンを目標としています。また、将来の利益配分については総還元性向を25%~30%とすることを目指しています。
・2030年粗鋼生産量:600万トン
・2050年粗鋼生産量:1,000万トン
■(4) 成長戦略と重点施策
鉄スクラップの高度利用を推進し、電炉鋼材の高付加価値化と適用領域の拡大(アップサイクル)を図っています。製品ラインナップの拡充と取引先の多様化を進めるとともに、使用原単位の低減など徹底したコストダウンに取り組み、競争力の一層の強化を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は長期環境ビジョン実現のため、人的資本の強化を重要課題と位置づけています。求める人物像「3つのC」を基軸に採用・人材育成を進め、女性管理職の登用や中途採用の積極化、フレックスタイム制度や在宅勤務の活用など、個人の能力を最大限に生かせる職場づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.8歳 | 16.9年 | 8,224,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.5% |
| 男性育児休業取得率 | 95.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 81.1% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 72.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性従業員に占める女性管理職比率(2.6%)、男性従業員に占める男性管理職比率(6.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 製品市況と原料価格の変動
同社が属する普通鋼電炉業界は市況産業であり、製品の販売価格や主原料である鉄スクラップの価格は、国内外の経済情勢や市場動向に大きく影響を受けます。また、製造工程における電力・燃料価格の急騰は、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) アジア市場などにおける競争激化
当社の輸出は主としてアジア向けであり、同地域の経済情勢や保護主義的な政策等により受注環境が変化するリスクがあります。また、アジア地域の鉄鋼需要拡大による鉄スクラップ価格への影響や、域内の供給余力増加による国内市場での競争激化が懸念されます。
■(3) 気候変動による操業への影響
気候変動に起因する自然災害が深刻化した場合、洪水や高潮などによる生産設備の故障、サプライチェーンの寸断による操業停止等の損失が発生する可能性があります。また、炭素税などの温室効果ガス排出規制が導入された場合、操業コストが高騰するリスクがあります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。