※本記事は、神鋼鋼線工業の有価証券報告書(第94期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 神鋼鋼線工業ってどんな会社?
特殊鋼線、鋼索、エンジニアリング関連製品の製造および販売を展開する鉄鋼・金属製品メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1917年に乾鉄線として設立され、1943年に神戸製鋼所に吸収合併されて尼崎工場となった後、1954年に分離して神鋼鋼線鋼索として発足しました。1962年に大阪証券取引所に上場し、1971年に朝日製綱所と合併して現在の神鋼鋼線工業に商号を変更しています。1993年に東京証券取引所に上場し、直近では2022年にテザック神鋼ワイヤロープを吸収合併しています。
現在の従業員数は連結で927名、単体で757名です。筆頭株主は同社の親会社であり、主要な原材料の調達先でもある神戸製鋼所で、第2位および第3位は持株会となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 神戸製鋼所 | 43.48% |
| 神鋼鋼線取引先持株会 | 4.64% |
| 神鋼鋼線従業員持株会 | 3.32% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.0%です。代表取締役社長は北山修二氏が務めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 北山 修二 | 代表取締役社長 | 1982年神戸製鋼所入社。鉄鋼事業部門神戸製鉄所副所長、同社理事等を経て、2023年当社専務執行役員。同年より現職。 |
| 森 啓之 | 代表取締役専務執行役員社長補佐、生産本部長ならびに技術総括・DX推進部ならびに新事業企画開発部の担当ならびにグループ品質管理の担当 | 1989年神戸製鋼所入社。同社常務執行役員等を経て、2021年当社常務執行役員。2024年より現職。 |
| 吉田 裕彦 | 取締役常務執行役員総務本部長ならびに関係会社の統括ならびにグループコンプライアンスの担当ならびに監査室の担当 | 1984年神戸製鋼所入社。同社監査部主任部員等を経て、2012年当社総務本部企画部長。2020年より現職。 |
| 渡部 英樹 | 取締役常務執行役員営業本部長兼同ばね特線事業部長ならびに神鋼鋼線(広州)販売有限公司董事長ならびに大阪支店長ならびに九州支店、営業所の担当 | 1989年神戸製鋼所入社。鉄鋼アルミ事業部門線材条鋼営業部長等を経て、2021年当社執行役員。2024年より現職。 |
| 山本 直樹 | 取締役常務執行役員営業本部副本部長兼同PC鋼線事業部長ならびに東京支店長ならびにケーブルテック代表取締役社長 | 1991年同社入社。PC鋼線事業部営業部長、執行役員等を経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、服部泰宏(神戸大学大学院経営学研究科教授)、平松亜矢子(立命館大学法科大学院客員教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「特殊鋼線関連事業」、「鋼索関連事業」、「エンジニアリング関連事業」および「その他」事業を展開しています。
■特殊鋼線関連事業
PC関連製品(PC鋼線、PC鋼より線など)や、ばね・特殊線関連製品(ばね用鋼線、めっき鋼線、ステンレス鋼線など)の製造および販売を行っています。主に土木・建築業界や自動車業界などを顧客として製品を提供しています。
製品の販売による収益を主な収益源としています。製品の製造および販売は主に同社が行い、一部の工程作業については神鋼鋼線ステンレス、コウセンサービス、尾上ロープ加工、ケーブルテックなどに委託して運営しています。
■鋼索関連事業
ワイヤロープ製品(一般ロープ、特殊ロープ、鋼より線、ステンレスロープなど)の製造および販売を行っています。主に建設関連分野や製造業全般の顧客に対して製品を提供しています。
製品の販売による収益を主な収益源としています。製造および販売は主に同社が行っており、一部の工程作業については尾上ロープ加工やテザックエンジニアリングに委託して運営しています。
■エンジニアリング関連事業
架設・緊張用部材や機器、線材三次加工製品などの製造および販売を行っています。橋梁分野やメンテナンス分野、耐震防災分野などで製品やサービスを提供しています。
製品の販売による収益を主な収益源としています。製品製造の一部については、コウセンサービス、尾上ロープ加工、ケーブルテックに委託して運営しています。
■その他
報告セグメントに含まれない事業として、不動産関連事業を展開しています。
主に不動産の賃貸などを行う資産活用事業を通じて収益を得ており、同社グループが運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の売上高は概ね増加傾向にありましたが、当期は減収となりました。経常利益についても前期まで増加基調で推移していましたが、当期は減益となり、利益率も低下しています。一方で、親会社株主に帰属する当期純利益は安定した水準を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 294億円 | 313億円 | 327億円 | 343億円 | 331億円 |
| 経常利益 | 9億円 | 10億円 | 11億円 | 12億円 | 7億円 |
| 利益率(%) | 3.0% | 3.3% | 3.3% | 3.6% | 2.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 6億円 | 8億円 | 9億円 | 10億円 | 11億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高および売上総利益が減少しています。売上総利益率はほぼ横ばいで推移していますが、販売費及び一般管理費が増加したことなどにより、営業利益および営業利益率が大きく低下する結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 343億円 | 331億円 |
| 売上総利益 | 59億円 | 57億円 |
| 売上総利益率(%) | 17.1% | 17.3% |
| 営業利益 | 12億円 | 7億円 |
| 営業利益率(%) | 3.4% | 2.0% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が18億円(構成比35%)、運搬費が9億円(同17%)を占めています。売上原価は274億円で、売上高に対する原価率は83%となっています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の収益を見ると、すべての報告セグメントで減収となっています。特にエンジニアリング関連事業は公共工事の発注減少などにより大幅な減収および営業損失を計上しました。特殊鋼線関連事業や鋼索関連事業も販売数量の減少などにより減収減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 特殊鋼線関連事業 | 180億円 | 179億円 | 5億円 | 3億円 | 1.6% |
| 鋼索関連事業 | 139億円 | 136億円 | 5億円 | 5億円 | 3.5% |
| エンジニアリング関連事業 | 23億円 | 15億円 | 1億円 | -2億円 | -10.9% |
| その他 | 0.6億円 | 0.6億円 | 0.5億円 | 0.5億円 | 83.6% |
| 連結(合計) | 343億円 | 331億円 | 12億円 | 7億円 | 2.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で得た資金で借入の返済を行い、投資も手元資金で賄っている健全型のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 11億円 | 13億円 |
| 投資CF | -7億円 | -12億円 |
| 財務CF | -1億円 | -6億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も56.9%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、社会の一員として果たすべき役割を示した理念体系「神鋼鋼線ミッション」を掲げています。「社会が前に進むために、『なくてはならない価値』を提供し続ける」という旗印のもとで、持続可能な社会の実現に貢献し、ステークホルダーとともに社会課題の解決を目指して経営を行っています。
■(2) 企業文化
すべての従業員・役員で共有する価値観と行動を示した「神鋼鋼線クレド」を策定しています。一人ひとりが強い「意志」を持ち、「団結」して高い目標に果敢に「挑戦」し続けることを重視し、ミッションを胸にクレドを実践することで新たな価値の提供を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
「Next Innovation 2026」という中期経営計画を策定し、「環境変化に適応し、持続的に成長できる企業基盤の構築」を目指しています。サステナビリティ経営の実践による社会貢献と事業成長の両立を図り、継続できる安定収益基盤の確立を掲げています。
* ROIC 5%以上
* 経常利益 21億円以上
■(4) 成長戦略と重点施策
培ってきた技術やノウハウを活かし、サステナビリティ分野をはじめとした新たな需要開拓やコスト競争力の向上に取り組むとともに、販売価格改定を強化しています。
* 価格転嫁や生産性向上による収益改善
* 新エネルギー分野をはじめとした新分野の市場開拓と新事業育成
* 防災・減災やメンテナンスフリー向けなどサステナビリティ貢献製品・サービスの拡大
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「一人ひとりの個性を活かした、多様な人材に選ばれ、働き続けられる会社」を目指し、人材の確保や育成、人事制度・就労環境の整備に取り組んでいます。従業員の離職を抑制するとともに若年層の人材を積極的に採用・育成し、次世代経営陣の育成や主体的に行動できる価値創造人材の育成に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.4歳 | 17.3年 | 7,000,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.2% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 77.4% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 100.5% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、スタッフ職の女性社員比率(23.5%)、有給取得対象者の年間8日以上取得達成率(99.9%)、月平均残業時間(9.3時間)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 特定業界の市場動向に関するリスク
同社は土木・建築業界や自動車業界、電機業界などを主要な販売先としており、これらの市場動向や需要構造の変化が受注量や販売数量に影響を及ぼす可能性があります。公共投資の動向や自動車業界における技術革新の進展等に適切に対応できない場合、業績に悪影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 原材料や部品の調達に関するリスク
生産活動はサプライヤーからの原材料や部品等の供給に依存しており、大規模自然災害や地政学リスクの高まり等により供給不足や調達遅延が発生する可能性があります。また、インフレ等による原材料価格の上昇が製造コストの増加要因となり、業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) コンプライアンス等に関するリスク
事業を行う国内外において法令や社会規範を遵守する方針ですが、製造物責任法や知的財産権に関する問題により訴訟を提起される可能性や、法令違反等を理由に制裁を受ける可能性があります。これらの事象が発生した場合、社会的信用や財務状況に影響を及ぼすリスクがあります。



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