※本記事は、東邦亜鉛株式会社 の有価証券報告書(第126期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東邦亜鉛ってどんな会社?
亜鉛、鉛、銀などの非鉄金属製錬を主力とし、電子部品や環境リサイクル事業も展開する素材メーカーです。
■(1) 会社概要
1937年に日本亜鉛製錬として設立し安中製錬所を建設、1949年に東証へ上場しました。1950年に契島製錬所を買収して鉛製錬を開始し、2010年には豪州CBH Resources Ltd.を完全子会社化して資源事業を強化しました。2025年3月には第三者割当増資を実施し、事業再生計画を開始しています。
同グループの従業員数は連結785名、単体455名です。筆頭株主は事業再生支援を行う投資ファンドの投資事業有限責任組合アドバンテッジパートナーズⅦ号で、第2位も同ファンドの関連組合です。第3位も同様にファンド関連であり、主要株主が大きく入れ替わっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 投資事業有限責任組合アドバンテッジパートナーズⅦ号 | 22.91% |
| JBO (AP) Ⅶ, L.P.(国内連絡先 株式会社アドバンテッジパートナーズ) | 10.67% |
| APCP Ⅶ, L.P.(国内連絡先 株式会社アドバンテッジパートナーズ) | 10.53% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は伊藤 正人氏です。社外取締役比率は66.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 伊藤 正人 | 代表取締役社長 | 1984年同社入社。電子部品事業本部長、電子部材事業部長、藤岡事業所長等を歴任。2023年6月より代表取締役社長。2024年6月より電子部材・機能材料事業本部管掌を兼務し現職。 |
| 佐藤 義和 | 取締役常務執行役員 | 1990年同社入社。金属・リサイクル事業部長、金属営業部長、構造改革担当等を歴任。2025年5月よりCRO兼経営企画部長兼経営企画室長として現職。 |
| 飯塚 茂 | 取締役(監査等委員) | 1985年同社入社。契島製錬所長、東邦契島製錬代表取締役社長、電子部材・機能材料事業本部副本部長等を歴任。2024年6月より現職。 |
社外取締役は、鷲巣 寛(元伊藤忠商事理事)、印東 徹(元監査法人トーマツ)、田中 耕路(元マッキンゼー・アンド・カンパニー)、宮本 洋之(元三菱商事)、青野 豪(元みずほ銀行理事)、中川 有紀子(元Mizkan Holdings人事部長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「製錬」「環境・リサイクル」「資源」「電子部材・機能材料」および「その他」事業を展開しています。
■製錬事業
同社及び東邦契島製錬が、亜鉛、鉛、銀などの非鉄金属製品および硫酸の製造販売を行っています。主な顧客は建設、自動車、電池メーカーなどの産業界です。また、製錬プロセスから得られる金やビスマスなどの希少金属の回収・販売も行っています。
収益は、製品の販売代金として顧客から受領します。また、受託製錬による加工賃収入も含まれます。運営は、鉛および銀製品の製造については東邦契島製錬が行い、販売については同社が行っています。亜鉛製品については同社が製造販売を行っています。
■環境・リサイクル事業
電炉メーカーから発生する電炉ダストなどを原料として、酸化亜鉛や還元鉄などを製造販売する事業です。酸化亜鉛はゴム、塗料、電子部品などの原料として使用されます。また、廃棄物の処理・再生事業も展開しています。
収益は、酸化亜鉛などのリサイクル製品の販売代金および廃棄物処理に伴う処理費収入等から得ています。運営は主に同社が行っています。
■資源事業
亜鉛、鉛鉱石などの非鉄金属資源の探査、開発、生産および販売を行っています。オーストラリアにある鉱山を拠点として事業を展開していましたが、事業再生計画に基づき撤退を進めています。
収益は、採掘した鉱石(精鉱)の販売代金として得ています。運営は、連結子会社のCBH Resources Ltd.を中心に行っています。なお、同事業からの早期撤退を決定しており、一部鉱山の売却を完了しています。
■電子部材・機能材料事業
ノイズフィルターなどの電子部品、高純度電解鉄、プレーティング(メッキ)製品、機器部品などの製造販売を行っています。電解鉄は特殊鋼や磁性材料の原料として使用されます。
収益は、各製品の販売代金として顧客から受領します。電子部品は主に中国・ベトナムの加工業者に加工を委託し同社が販売しています。電解鉄やプレーティング製品などは同社が製造販売を行い、機器部品については中国の子会社および同社で製造販売を行っています。
■その他事業
土木・建築・プラントエンジニアリング事業、物流事業、環境分析サービスなどを行っています。なお、防音建材事業については事業撤退を完了しています。
収益は、工事請負代金、運送料、分析手数料などとして顧客から受領します。運営は、株式会社ティーディーイー(エンジニアリング)、安中運輸株式会社、契島運輸株式会社、東邦キャリア株式会社(物流)、株式会社中国環境分析センター(分析)などの連結子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2024年3月期に巨額の損失を計上しましたが、直近の2025年3月期では経常損益が黒字転換しました。資源事業の減損や事業再編に伴う特別損失の影響で当期純損益は赤字が続いていますが、赤字幅は大幅に縮小しています。売上高は事業撤退等の影響もあり減少傾向にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,035億円 | 1,243億円 | 1,458億円 | 1,308億円 | 1,263億円 |
| 経常利益 | 54億円 | 94億円 | 31億円 | -107億円 | 37億円 |
| 利益率(%) | 5.2% | 7.5% | 2.2% | -8.2% | 2.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 56億円 | 80億円 | 17億円 | -465億円 | -15億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間では、売上高は減少したものの、売上総利益率は改善し、営業損益は黒字転換しました。製錬事業における金属相場の上昇や円安効果、コスト削減努力などが寄与しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,308億円 | 1,263億円 |
| 売上総利益 | 84億円 | 132億円 |
| 売上総利益率(%) | 6.5% | 10.5% |
| 営業利益 | -7億円 | 56億円 |
| 営業利益率(%) | -0.5% | 4.5% |
販売費及び一般管理費のうち、商品及び製品運賃諸掛が27億円(構成比35.1%)、従業員給与及び賞与が13億円(同17.2%)を占めています。
■(3) セグメント収益
製錬事業は減収ながらも金属相場上昇等により増益となりました。環境・リサイクル事業は販売価格上昇により増収増益です。資源事業は鉱山売却により大幅減収となりましたが、損失は解消しました。電子部材・機能材料事業は電子部品の販売減で減収となったものの、増益を確保しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 製錬 | 1,057億円 | 1,050億円 | 20億円 | 23億円 | 2.2% |
| 環境・リサイクル | 53億円 | 64億円 | 6億円 | 17億円 | 26.3% |
| 資源 | 94億円 | 65億円 | -132億円 | 5億円 | 7.1% |
| 電子部材・機能材料 | 51億円 | 46億円 | 2億円 | 5億円 | 10.4% |
| その他 | 53億円 | 39億円 | 6億円 | 5億円 | 12.3% |
| 調整額 | -84億円 | -70億円 | -9億円 | -17億円 | - |
| 連結(合計) | 1,308億円 | 1,263億円 | -107億円 | 37億円 | 2.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は「積極型」のキャッシュ・フロー状態です。営業活動で得た現金に加え、財務活動(第三者割当増資等)でも資金を調達し、手元資金を厚くしています。投資活動は設備投資等を行いつつも、有価証券や関係会社株式の売却収入により支出が抑制されました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 37億円 | 29億円 |
| 投資CF | -76億円 | -4億円 |
| 財務CF | 77億円 | 50億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-22.8%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は10.2%で市場平均を大きく下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「顧客を満足させる良質の製品・サービスを提供する」「株主の期待に応える業績をあげ、企業価値の増大を図る」「従業員の生活を向上させ、働き甲斐のある会社にする」「地域の一員として認められ、地域にとって存在価値のある会社を目指す」の4項目を経営理念として掲げ、経営を行っています。
■(2) 企業文化
同社は、長年の経営ガバナンスの不在と現状維持を是とし変革を探求しない経営体質があったことを反省し、今後は変化に挑戦する企業文化・意識改革を推し進め、新しい東邦亜鉛へ成長することを目指しています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、2024年12月に新たな「事業再生計画」を取りまとめました。今後5年間を事業再生期間と位置付け、不採算事業の撤退・再編を完遂するとともに、基盤・成長事業の強化と収益拡大に取り組むことで、永続的に成長する企業体へ進化することを目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
事業再生計画の一環として、不採算事業である資源事業からの早期撤退と、亜鉛製錬事業の再編(主要設備の稼働停止)を実行しています。一方で、基盤・成長事業である鉛・銀製錬事業では生産量拡充やリサイクル強化、環境・リサイクル事業では酸化亜鉛の生産拡充、電子部材・機能材料事業では販路拡大に取り組み、新たな収益モデルの構築を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、事業再生計画に基づき、亜鉛製錬事業の再編に伴う希望退職の募集や配置転換を実施しています。一方で、多様な人材の確保と育成を重視し、女性や外国人、中途採用者の登用を進めています。また、個人の能力・適性による評価を行い、働きがいのある職場環境の整備に努めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 45.2歳 | 20.6年 | 5,501,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.1% |
| 男性育児休業取得率 | 55.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.1% |
| 男女賃金差異(正規) | 80.2% |
| 男女賃金差異(非正規) | 56.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性比率(13%)、外国人及び海外勤務経験者(17%)、中途採用者(21%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市況関連リスク
製錬事業における原料鉱石価格と製品価格は国際市場価格(LME相場等)を基準としており、需給バランスや投機等により変動します。また、製錬費や製品価格は米ドル建てまたはそれを基礎としているため、為替相場の変動の影響を受けます。さらに、電力やコークス等のエネルギー資源価格の高騰は製造原価を悪化させ、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 安全・安定操業の確保
主力事業である製錬事業の主原料である鉱石は全量を海外から調達しており、世界的な需給状況や鉱山事故等による調達難は生産に影響します。また、自然災害や操業トラブル等により計画通りの生産が行えない場合、販売機会の喪失や単位当たり原価の悪化を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 継続企業の前提に関する重要事象等
前連結会計年度の大幅な赤字により財務基盤が棄損し、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況が存在していました。第三者割当増資の完了や金融機関との協定締結により資金面での懸念は解消したものの、当期も最終赤字であり自己資本比率も低水準であることから、依然として当該状況は継続しています。



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