日本発條 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本発條 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場する自動車部品メーカーです。主要事業として懸架ばね、シート、精密部品、HDD用サスペンション(DDS)などを展開しています。2025年3月期は、自動車関連や情報通信関連の需要回復を受け、売上高・各段階利益ともに前期を上回る増収増益を達成しました。


※本記事は、日本発条株式会社 の有価証券報告書(第105期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本発条ってどんな会社?


独立系自動車部品メーカーとして、懸架ばねやシート、精密部品、HDD用サスペンションなどをグローバルに提供しています。

(1) 会社概要


1936年に芝浦スプリング製作所として設立され、1939年に日本発条へ改称しました。1954年に東京証券取引所へ上場し、1963年にはタイへ進出して海外展開を開始しました。その後も米国や中国などに拠点を拡大し、HDD用サスペンション事業や自動車用シート事業など多角化を推進しています。

2025年3月31日現在、連結従業員数は17,953名、単体では5,281名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は退職給付信託口の大同特殊鋼(共同受託者 日本マスタートラスト信託銀行)、第3位は海外事業における協業先でもある総合商社の双日です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 13.11%
三菱UFJ信託銀行 退職給付信託 大同特殊鋼口 共同受託者 日本マスタートラスト信託銀行 10.97%
双日 6.47%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性4名の計13名で構成され、女性役員比率は30.8%です。代表取締役社長執行役員は上村和久氏です。社外取締役比率は30.8%です。

氏名 役職 主な経歴
茅本 隆司 代表取締役会長、CEO 1979年入社。常務執行役員、取締役専務執行役員、代表取締役社長執行役員を経て2024年4月より現職。
上村 和久 代表取締役社長執行役員、COO 1983年入社。常務執行役員、取締役専務執行役員などを経て2024年4月より現職。
高村 典利 代表取締役副社長執行役員、CQO、CTO 1983年入社。執行役員、常務執行役員、専務執行役員を経て2025年4月より現職。
堀江 雅之 代表取締役副社長執行役員購買本部本部長 1986年入社。執行役員、常務執行役員、専務執行役員を経て2025年4月より現職。
佐 々 木 俊 輔 取締役常務執行役員営業本部本部長 1987年入社。執行役員、常務執行役員を経て2023年6月より現職。


社外取締役は、末啓一郎氏(ブレークモア法律事務所パートナー弁護士)、田中克子氏(元公立大学法人横浜市立大学理事長)、玉越浩美氏(横浜なごみ法律事務所弁護士)、古川玲子氏(元ユニアデックス常勤監査役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「懸架ばね」「シート」「精密部品」「DDS」「産業機器ほか」事業を展開しています。

懸架ばね事業


コイルばね、板ばね、スタビライザ、アキュムレータ、トーションバーなどを製造・販売しています。自動車メーカーなどが主な顧客です。

製品の販売対価として顧客から収益を得ています。国内では日本発条やニッパツ機工などが、海外ではNHKスプリングタイランド社やNHKインターナショナル社などが製造・販売を行っています。

シート事業


自動車用シート、シート用機構部品、内装品などを製造・販売しています。自動車メーカーが主な顧客です。

製品の販売対価として顧客から収益を得ています。国内では日本発条やフォルシア・ニッパツ九州などが、海外ではNHKスプリングタイランド社やNHKシーティングオブアメリカ社などが製造・販売を行っています。

精密部品事業


HDD用機構部品、線ばね、薄板ばね、モーターコア、ファスナー(ねじ)、精密加工品などを製造・販売しています。自動車関連や情報通信関連メーカーが顧客です。

製品の販売対価として顧客から収益を得ています。国内では日本発条や日発精密工業などが、海外ではNHKスプリングタイランド社やNHKオブアメリカサスペンションコンポーネンツ社などが製造・販売を行っています。

DDS事業


HDD用サスペンション、半導体検査用プローブユニットなどを製造・販売しています。HDDメーカーなどが主な顧客です。

製品の販売対価として顧客から収益を得ています。国内では日本発条などが、海外ではNHKスプリングタイランド社や日發科技有限公司などが製造・販売を行っています。

産業機器ほか事業


半導体プロセス部品、セラミック製品、金属基板、駐車装置、ゴルフシャフトなどを製造・販売しています。産業機器メーカーや一般消費者が顧客です。

製品の販売やサービスの提供対価として収益を得ています。国内では日本発条や日本シャフトなどが製造・販売を、日発販売が販売を、日発運輸が運送を行っています。海外ではNHKマニュファクチャリングマレーシア社などが事業を展開しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は順調に増加傾向にあり、直近5期で約1.4倍に拡大しています。経常利益も売上の伸長に伴い増加傾向を示しています。2023年3月期には当期利益が一時的に減少しましたが、その後回復し、直近では過去最高水準の利益を計上しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 5,726億円 5,869億円 6,932億円 7,669億円 8,017億円
経常利益 145億円 307億円 373億円 478億円 580億円
利益率(%) 2.5% 5.2% 5.4% 6.2% 7.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 50億円 311億円 44億円 319億円 321億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で増加し、売上総利益率も改善しました。これに伴い営業利益および営業利益率も向上しています。全体として増収増益の傾向にあり、本業の収益性が高まっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 7,669億円 8,017億円
売上総利益 894億円 1,131億円
売上総利益率(%) 11.7% 14.1%
営業利益 347億円 522億円
営業利益率(%) 4.5% 6.5%


販売費及び一般管理費のうち、給料・手当・賞与が279億円(構成比46%)、支払手数料が72億円(同12%)、運送費が51億円(同8%)を占めています。

(3) セグメント収益


DDS事業と産業機器ほか事業、精密部品事業が増収増益となり、特にDDS事業は大幅な増収増益を達成しました。一方、懸架ばね事業とシート事業は減収減益となりました。懸架ばね事業は一時費用の増加などが、シート事業は北米やタイでの減産などが影響しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
懸架ばね 1,711億円 1,691億円 16億円 5億円 0.3%
シート 3,241億円 3,039億円 191億円 112億円 3.7%
精密部品 945億円 1,020億円 7億円 43億円 4.2%
DDS 672億円 1,115億円 65億円 267億円 23.9%
産業機器ほか 1,100億円 1,152億円 68億円 95億円 8.3%
連結(合計) 7,669億円 8,017億円 347億円 522億円 6.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

日本発條は、営業活動により資金を創出し、それを事業投資や財務活動に充当する方針です。
営業活動の結果得られた資金は、主に事業活動から生み出されたものです。
投資活動では、主に設備投資のために資金を使用しました。
財務活動では、借入れや株式発行による収入があった一方、自己株式の取得や配当金の支払い、借入金の返済等により資金を使用しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 667億円 557億円
投資CF -103億円 -478億円
財務CF -210億円 -236億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「グローバルな視野に立ち、常に新しい考え方と行動で企業の成長をめざすと共に、魅力ある企業集団の実現を通じて豊かな社会の発展に貢献する」という企業理念を掲げています。この理念のもと、顧客に魅力ある商品・サービスを提供し、持続的な成長とステークホルダーからの信頼獲得を目指しています。

(2) 企業文化


同社は「透明性を維持すること」「倫理的に行動すること」「地球環境を保全すること」「人をはぐくむこと」「グループ・グローバルで取り組むこと」の5つを宣言した「グローバルCSR基本方針」を制定しています。また、「創造挑戦型」の研究開発や「開発提案型」の新製品開発に取り組む姿勢を重視しています。

(3) 経営計画・目標


2026年度を最終年度とする中期経営計画「2026中計」において、以下の経営目標を掲げています。
* 売上高:8,500億円
* 営業利益:520億円
* 経常利益:570億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:430億円
* ROE:10%以上
* ROIC:7%以上
* 配当性向:30%以上
* 自己資本比率:50%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「2026中計」では、「人を大切にし、社会へ貢献する」「サステナビリティ活動の更なる推進」をスローガンに掲げています。事業環境の変化に対応し、自動車の電動化や情報通信の高度化といった分野でのキーパーツ提供を通じて、社会課題解決と企業価値向上を目指します。

* 懸架ばね事業:グローバル全拠点での安定生産・供給体制確立、北米拠点の収益改善、EV化に伴う軽量化・高耐久化製品の開発。
* シート事業:金属加工から縫製までの一貫生産体制を活かし、軽量化や乗り心地向上、車酔い低減シートなどの開発推進。
* 精密部品事業:モーターコア等の独自工法開発、電動化対応製品の強化。
* DDS事業:AI活用等による生産性向上、高容量HDD向けサスペンションの技術開発。
* 産業機器ほか事業:半導体プロセス部品や金属基板の生産能力増強、EV向け製品の拡販。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人を大切にし、社会へ貢献する」をスローガンに、多様な人材の成長支援と活躍推進を掲げています。「求める人材像」と「目指す組織像」を制定し、採用基準の見直しや教育体系の再構築を進めています。また、ダイバーシティ推進や働き方改革、人事制度改革を通じて、エンゲージメント向上と働きがいのある職場づくりに取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 41.8歳 18.5年 7,914,122円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.9%
男性育児休業取得率 60.2%
男女賃金差異(全労働者) 76.8%
男女賃金差異(正規雇用) 76.2%
男女賃金差異(非正規雇用) 76.7%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメント診断スコア(67.6pt)、総合職定期採用女性採用比率(11.1%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 世界経済の急激な変動


同社グループは自動車関連及び情報通信関連製品をグローバルに供給しているため、世界的な景気変動の影響を強く受けます。日本、アジア、米国、欧州などの主要市場で急激な景気後退や需要縮小が発生した場合、経営成績及び財政状態に多大な影響を与える可能性があります。

(2) 為替レートの変動


海外での生産・販売を行っているため、円換算時の為替レートの影響を受けます。また、円高は輸出製品の価格競争力を低下させ、円安は海外からの原材料調達コストを高騰させます。為替ヘッジ取引を行っていますが、予測を超えた変動があった場合、業績及び財務状態に影響を与える可能性があります。

(3) 原材料・諸資材・エネルギーの価格変動並びに、原材料・部品の不足


鋼材等の主要原材料やエネルギーを外部から調達しており、市況変化による価格変動は販売価格への転嫁を進めるものの、時期のずれ等により業績に影響する可能性があります。また、供給元の事故や災害、輸出入規制、政治情勢等により原材料や部品の不足が生じた場合、生産活動が低下し、経営成績等に影響を与える可能性があります。

(4) 関税の引き上げ


米国をはじめ海外に生産拠点を持ち、原材料等を他国から調達する場合に関税の対象となります。各国の通商政策見直しによる関税率の引き上げや対象拡大等は不透明であり、販売価格への転嫁の実現度合いによっては、経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。