※本記事は、大谷工業の有価証券報告書(第87期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 大谷工業ってどんな会社?
電力・通信インフラを支える架線金物や鉄塔・鉄構、建築用スタッドなどを製造・販売するメーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1946年に前身である大谷重工業の富山支社小杉製作所として設立され、架線金物の製造を開始しました。1954年に現在の大谷工業に商号を変更しています。1977年に建築分野で使用するスタッドの製造販売を開始し、現在の事業基盤を築きました。1988年に株式の店頭登録を行い、現在はスタンダード市場に上場しています。
現在の従業員数は単体で179名です。同社の筆頭株主は事業会社のニュー・オータニで、第2位はエムアンドエーコーポレーション、第3位はテーオーシーサプライとなっています。一部の役員が主要株主の関連会社の役員を兼任しており、事業会社を中心とした株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ニュー・オータニ | 27.82% |
| エムアンドエーコーポレーション | 9.93% |
| テーオーシーサプライ | 7.05% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は鈴木和也氏が務めています。社外取締役は3名選任されており、取締役全体に対する社外取締役の比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 鈴木和也 | 取締役社長(代表取締役) | 1981年入社。営業第一グループマネージャーなどを経て、2018年に代表取締役社長に就任。2025年6月より社長執行役員として現職。 |
| 中澤忠彦 | 常務取締役 | 1983年入社。管理グループマネージャーや取締役管理・IR担当を経て、2023年に常務取締役に就任。2025年6月より常務執行役員として現職。 |
| 市道宏司 | 取締役 | 1993年入社。営業第一グループマネージャーや同グループ執行役員を経て、2026年6月より取締役執行役員として現職。 |
社外取締役は、大谷卓男(テーオーシー代表取締役社長)、崎山喜代志(テーオーシー執行役員秘書室長)、長谷修嗣(テーオーシー顧問)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電力通信部門」および「建材部門」の2つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 電力通信部門
電力会社や通信会社等を対象に、インフラの構築や維持に不可欠な架線金物や鉄塔・鉄構の製造・販売を行っています。また、通信業界向けに光ケーブル用金物や次世代通信用金物なども提供し、社会インフラの安全性向上に貢献しています。
製品の販売対価として、主に電力会社や通信関連の建設会社から収益を得るビジネスモデルです。当事業の運営は主に大谷工業が行っています。
■(2) 建材部門
建設会社等を対象に、ビルや施設の建築工事に使用される建築用スタッドや免震ベースプレートの製造・販売および施工付き販売を提供しています。大型再開発物件向けの資材や、施工の効率化に寄与する機材開発なども行っています。
製品の販売代金や施工に関する請負代金を建設会社等から受け取ることで収益を得ています。当事業の運営は主に大谷工業が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
同社の売上高は長らく拡大傾向にありましたが、当期は建設業界での工期見直しなどの影響を受けて減収に転じました。利益面においても、前期までは経常利益率が上昇していましたが、当期は原材料の価格高騰や減価償却費の増加などが響き、減益となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 64億円 | 72億円 | 79億円 | 79億円 | 75億円 |
| 経常利益 | 2億円 | 3億円 | 4億円 | 5億円 | 4億円 |
| 利益率(%) | 2.8% | 3.6% | 5.4% | 6.0% | 5.1% |
| 当期純利益 | 1億円 | 2億円 | 3億円 | 4億円 | 3億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の減少に加え、原材料費や物流費などの上昇により売上総利益が圧迫され、営業利益も減益となっています。新工場の稼働に伴う製造経費の増加も利益率の低下要因となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 79億円 | 75億円 |
| 売上総利益 | 17億円 | 15億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.8% | 20.5% |
| 営業利益 | 5億円 | 4億円 |
| 営業利益率(%) | 6.0% | 5.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が3億円(構成比28%)、荷造運送費が2億円(同20%)を占めています。売上原価の大部分は、材料費や労務費、外注加工費などの製造費用で構成されています。
■(3) セグメント収益
電力通信部門は通信建設工事の投資が低調だったことや新工場の減価償却費負担により減収減益となりました。建材部門も建設業界の人手不足や工期順延などの影響を受け、売上高・利益ともに減少しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電力通信部門 | 49億円 | 48億円 | 8億円 | 7億円 | 13.5% |
| 建材部門 | 30億円 | 27億円 | 2億円 | 1億円 | 5.5% |
| 調整額 | - | - | -5億円 | -4億円 | - |
| 連結(合計) | 79億円 | 75億円 | 5億円 | 4億円 | 5.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、本業は赤字だが、将来成長のため借入で投資を継続する「勝負型」の傾向を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 8億円 | -3億円 |
| 投資CF | -4億円 | -5億円 |
| 財務CF | -0.7億円 | 0.3億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「豊かな社会を築き上げる」ことを理念とし、経営方針として「目標達成、調和、志気高揚」を掲げています。社会インフラの一翼を担う矜持を持ち、「安心・安全・高品質」な製品を届けることで、社会に継続していく意義のある企業として貢献し続けることを使命としています。
■(2) 企業文化
豊富な知識と高度な技術で鉄に生命の息吹を与えることを重視し、社会課題の解決と企業価値の向上を両立させる企業活動を進めています。目標達成に向けた調和と志気高揚を大切にし、技術の継承や多様な人材が活躍できる職場環境の創出に努める文化が形成されています。
■(3) 経営計画・目標
毎期安定的な利益を継続的に確保するとともに、株主利益重視と経営効率化の観点から総資本利益率(ROA)、自己資本比率および配当性向の向上を重要な指標として位置づけています。
・総資本利益率(ROA):3.9%
・自己資本比率:57.8%
・配当性向:7.9%
■(4) 成長戦略と重点施策
培ってきたノウハウや金属加工技術を駆使した提案型営業に注力し、膜天井金物など架線金物以外の新分野での製品開発に努めます。また、被災地域の復興に向けた電力会社への協力を継続し、カーボンニュートラルや5Gなど事業環境の変化に対応したビジネス展開を図っていきます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「安心・安全・高品質」な製品を安定的に供給し持続的な成長を実現するため、人材を最も重要な経営資源と位置づけています。社内教育等を通じた技術継承と次世代人材の育成に注力するとともに、従業員一人ひとりの適性や経験を踏まえた適材適所の配置を行うことで、組織の連携力向上を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.2歳 | 18.5年 | 6,213,500円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、入社3年以内の離職率(約12.0%)、正社員採用者に占める女性割合の目標(20%以上)、中堅社員特別研修の女性割合の目標(30%以上)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業環境の変化に伴うリスク
電力通信関連や建材関連の各市場において、景気動向やニーズの変化への的確な対応ができない場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、国際情勢の悪化や景気の冷え込みに伴う設備投資や建築需要の抑制もリスク要因となります。
■(2) 原材料等の価格変動によるリスク
生産に必要な原材料や副資材、外注加工品の価格が想定以上に高騰し、製造コストが上昇した場合、そのコストを販売価格へ適切に転嫁できなければ採算性の悪化につながり、業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) 製品の品質に関するリスク
ISO規格認証を受けた品質マネジメントシステムを活用し品質の確保に努めていますが、予期せぬ製品の欠陥が判明し、大規模な製品の回収や無償交換といった措置による費用が発生した場合、同社の信頼性低下や業績悪化につながるリスクがあります。



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