兼房 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

兼房 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

兼房は東京証券取引所スタンダード市場および名古屋証券取引所メイン市場に上場する総合刃物メーカーです。木材・金属・紙工など幅広い分野向けに工業用機械刃物の製造・販売をグローバルに展開しています。直近の業績は、非住宅関連刃物や欧州向けの販売拡大、中国子会社の構造改革効果などにより増収増益を達成しました。


※本記事は、兼房株式会社の有価証券報告書(第78期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 兼房ってどんな会社?


同社は工業用機械刃物の製造・販売を手掛け、世界のものづくりを支える総合刃物メーカーです。

(1) 会社概要


1948年に兼房刃物工業として設立され、1990年に現在の兼房へ社名を変更しました。1995年に名古屋証券取引所市場第二部、2006年に東京証券取引所市場第二部へ上場を果たしています。インドネシアをはじめ、米国、欧州、中国、ベトナムなど世界各地に拠点を設け、グローバルな事業展開を推進しています。

従業員数は連結で1,135名、単体で581名体制となっています。大株主の状況としては、筆頭株主は大口興産で、第2位は渡邉裕子氏、第3位は太田万佐子氏が名を連ねています。

氏名 持株比率
大口興産 16.55%
渡邉裕子 9.83%
太田万佐子 9.55%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.0%です。代表取締役 社長執行役員は磯谷岳摩氏が務めています。社外取締役比率は22.2%となっています。

氏名 役職 主な経歴
磯谷岳摩 代表取締役社長執行役員 1984年同社入社。丸鋸事業部長、PT.カネフサインドネシア社長、本社工場長などを経て、2023年より現職。
渡邉將人 代表取締役会長 1979年日本電装入社。1985年同社入社。1990年取締役。2000年代表取締役社長を経て、2023年より現職。
渡邉久修 取締役常務執行役員東南アジア拠点担当 2016年同社入社。管理本部副本部長、営業本部副本部長兼新市場開発室長などを経て、2026年より現職。
佐築賢治 取締役常務執行役員管理本部長 1990年協和銀行入行。2016年同社入社。経営管理部長、総務部長などを経て、2026年より現職。
今泉宏一 取締役常務執行役員営業本部長 1988年同社入社。カネフサヨーロッパB.V.社長、PT.カネフサインドネシア社長などを経て、2024年より現職。
中島康貴 取締役常務執行役員事業部門担当兼研究開発部担当 1997年同社入社。丸鋸事業部長、カネフサベトナムマニュファクチャリング社長、本社工場長などを経て、2023年より現職。
山内敏男 取締役(監査等委員) 1986年同社入社。海外部長、国内営業部関東支社長、カネフサUSA,INC.社長などを経て、2023年より現職。


社外取締役は、山崎裕司氏(公認会計士)、岡部真記氏(弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」「インドネシア」「米国」「欧州」「中国」「ブラジル」「ベトナム」および「その他」事業を展開しています。

(1) 日本


同社は木工用、金属切断用などの工業用機械刃物の生産を手掛け、国内外の顧客に向けて製品を供給しています。平刃類、精密刃具類、丸鋸類など幅広い製品ラインナップを展開しています。
製品の販売を通じた収益が柱となっています。運営は主に同社が担い、製造から販売までを一貫して行っています。

(2) インドネシア


インドネシアおよびマレーシアを中心とした東南アジアの顧客に向けて、工業用機械刃物の製造と販売を行っています。主に同社から原材料や半製品の供給を受けて生産しています。
製品販売を通じた収益が中心です。運営は主にPT.カネフサインドネシアが担当しています。

(3) 米国


北米市場の顧客に向けて、工業用機械刃物および関連製品の販売と再研磨サービスを提供しています。自動車関連や鋼管関連などの産業分野を中心に事業を展開しています。
製品の販売および再研磨サービスの提供による収益が柱です。運営はカネフサUSA, INC.が行っています。

(4) 欧州


ヨーロッパ市場の顧客に向けて、工業用機械刃物および関連製品の販売を行っています。木工関連をはじめとする多様な産業分野のニーズに対応した製品を供給しています。
製品販売による収益を主な収入源としています。運営はカネフサヨーロッパB.V.が担当しています。

(5) 中国


中国国内を中心とした顧客に向けて、工業用機械刃物の生産と販売を行っています。同社から原材料などの供給を受け、木工関連や自動車関連などの刃物を製造しています。
製品販売による収益が中心です。運営は昆山兼房高科技刀具有限公司が担っています。

(6) ブラジル


南米市場の顧客に向けて、工業用機械刃物および関連製品の販売と再研磨サービスを提供しています。木工関連や製紙関連などの産業向けに製品を展開しています。
製品の販売および再研磨サービスの提供による収益が主な収入源です。運営はカネフサ ド ブラジル LTDA.が行っています。

(7) ベトナム


紙工関連や自動車関連などの顧客に向けて、工業用機械刃物の生産と販売、ならびに再研磨サービスを提供しています。同社への製品供給も行っています。
製品販売および再研磨サービスを通じた収益が柱です。運営はカネフサベトナム マニュファクチャリングCO.,LTD.およびカネフサベトナム CO.,LTD.が担当しています。

(8) その他


インドやメキシコなどにおける工業用機械刃物の販売および再研磨サービス、ならびにグループ会社の株式保有などの事業を展開しています。
製品販売およびサービス提供による収益が中心です。運営はカネフサインディア Pvt.Ltd.、カネフサメキシコ S.A. DE C.V.、大口サービスなどが担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5年間の業績を見ると、売上高は概ね200億円前後で安定的に推移しています。経常利益は一時的に落ち込む時期もありましたが、直近ではコスト上昇要因がありながらも事業構造改革の効果などにより大幅な増益に転じており、収益力の回復が見られます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 197億円 211億円 201億円 202億円 209億円
経常利益 19億円 17億円 14億円 7億円 13億円
利益率(%) 9.8% 7.9% 7.2% 3.5% 6.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 13億円 14億円 9億円 13億円 7億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で増加し、売上総利益および営業利益もそれぞれ改善しています。特に営業利益率は前期の3.7%から5.2%へ向上しており、本業の収益性が高まっていることがうかがえます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 202億円 209億円
売上総利益 60億円 63億円
売上総利益率(%) 29.4% 29.9%
営業利益 7億円 11億円
営業利益率(%) 3.7% 5.2%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が10億円(構成比20%)、研究開発費が3億円(同5%)、荷造運搬費が2億円(同5%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の日本セグメントを中心に、米国や欧州など複数の地域で売上を伸ばしています。特に欧州やブラジルでの増収が全体を牽引しており、各地域の需要に合わせた販売戦略が奏功していることが読み取れます。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
日本 106億円 108億円
インドネシア 24億円 24億円
米国 24億円 25億円
欧州 20億円 23億円
中国 9億円 9億円
ブラジル 7億円 8億円
ベトナム 1億円 2億円
その他 12億円 12億円
連結(合計) 202億円 209億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 26億円 11億円
投資CF -18億円 -9億円
財務CF 14億円 -6億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は81.6%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「私たちは、一人一人がプロフェッショナルとして、刃物の先を見つめ、新しい価値を創造し、世界のものづくりに貢献します。」という企業理念を掲げています。「刃物の先」として切削技術の未来を見つめ、高付加価値の製品づくりを通じて「世界の兼房」を目指しています。

(2) 企業文化


基本方針として、顧客視点に立った信頼される技術とサービスの提供や、同社にしかできない世界に通用する仕事への挑戦を重んじています。また、共に働く仲間を尊重して力を合わせ、誇りを持てる会社を目指すという価値観を共有し、日々の業務に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


中長期的な企業価値向上と持続的な成長に向けて、収益性を重視した経営を推進しています。また、中期ビジョンとして「変化への対応スピードとやりきる力で持続的成長を実現」を掲げ、企業体質の改善・改革に取り組んでいます。具体的な数値目標は以下の通りです。

* 連結売上高営業利益率:5.0%以上の継続的な実現

(4) 成長戦略と重点施策


成長戦略として、事業の選択と集中による「市場価値の向上」、ものづくり革新とDX実装による「競争力の強化」、そして「人財力の引き出し」を三本柱としています。自動車や住宅向けのグローバル戦略製品に加え、EV・半導体関連などの新市場攻略製品にも注力し、北中南米やインドを重点市場として展開を進めます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


企業理念実現の原動力である人材を育むため、公正な処遇による働きがいの追求や、自由闊達で活力あふれる職場づくりを推進しています。また、変化に対応できる人材を育成し、グローバル企業への成長を目指す「人事基本理念」を掲げ、能力開発や多様性の確保、労働環境の整備に積極的に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.0歳 17.8年 5,949,869円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.5%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 62.9%
男女賃金差異(正規雇用) 68.5%
男女賃金差異(非正規雇用) 57.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率「70%以上」の割合(91.8%)、障がい者雇用比率(2.2%)、国家技能検定合格率(53%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) カントリーリスク

海外での事業活動において、戦争・暴動等の社会的混乱や労働争議、法的規制や税制の予期せぬ変更が発生した場合、事業展開に影響を及ぼす可能性があります。また、移転価格税制など国際税務に関する税務当局との見解の相違により、追加課税が発生するリスクも存在します。

(2) 為替相場・原材料価格の変動

グローバルに事業を推進しているため、外貨建取引や海外子会社の財務数値は為替相場の変動による影響を受けます。また、製品の原材料となる鋼材や超硬合金の価格高騰、特にレアメタルの供給減少による調達コストの上昇が、製造原価および収益を圧迫するリスクがあります。

(3) 情報セキュリティリスク

取引先の情報や従業員の個人情報、経営機密情報を管理しているため、近年増加するサイバー攻撃等の脅威にさらされています。情報漏洩やシステム停止などのインシデントが発生した場合、損害賠償義務の発生や社会的信用の低下を招き、事業活動に支障をきたすおそれがあります。

(4) 従業員の労働安全衛生

製造現場における機械設備の操作や化学物質の使用など、従業員の安全衛生に影響を及ぼす業務が存在します。労働災害やメンタルヘルス不調が発生した場合、従業員の離職や生産性の低下、補償費用の発生などにより、事業運営に重大な影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。