※本記事は、株式会社パイオラックスの有価証券報告書(第110期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. パイオラックスってどんな会社?
同社は精密ばねや工業用ファスナーを製造する自動車部品メーカーであり、医療機器の製造販売も手がけています。
■(1) 会社概要
1933年に加藤発條製作所として創業し、自動車向けなどの精密金属ばねの生産を開始しました。1939年に会社設立後、1969年には樹脂製自動車用ファスナー類へと事業を拡大しました。1995年に現在のパイオラックスへ商号変更し、1998年に株式上場を果たしました。1999年には子会社を設立して医療機器分野にも進出し、事業領域を広げています。
現在の従業員数は連結で2,784名、単体で582名です。筆頭株主は資本業務提携先である佐賀鉄工所で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行となっています。第3位は個人株主である加藤一彦氏が名を連ねており、安定した株主構成を維持しつつ、事業提携を通じた基盤強化を図っています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 佐賀鉄工所 | 19.83% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.22% |
| 加藤 一彦 | 4.50% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.0%です。代表取締役社長は山田聡が務めており、全取締役9名のうち4名が社外取締役となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山田聡 | 代表取締役社長 | 1987年同社入社。パイオラックス メキシカーナ取締役社長、執行役員・設計部長等を経て2024年6月より現職。 |
| 島津幸彦 | 取締役会長 | 1981年同社入社。海外営業部長、代表取締役社長、中国子会社等の董事長を経て2025年6月より現職。 |
| 梶雅昭 | 常務取締役 | 日本開発銀行を経て2014年同社入社。人事部長や中国子会社の総裁・董事長を歴任し2024年6月より現職。 |
| 増田茂 | 常務取締役 | 1987年同社入社。ファスナーSBU長や生産技術室長を歴任し、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、落合宏行(社会福祉法人とよた光の里理事長)、赤羽真紀子(CSRアジア代表取締役)、小宮山榮(イマニシ税理士法人)、廣渡鉄(廣渡法律事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、「自動車関連等」および「医療機器」事業を展開しています。
■自動車関連等
自動車関連等事業では、主に自動車産業向けに精密ばねや工業用ファスナー(車の内装および外装の結束具)、開閉機構部品などの小型ユニット部品を製造販売しています。日系自動車メーカーを中心に、海外の非日系メーカーにも製品を供給しており、高度な複合成形技術を活かしてADAS(先進運転支援システム)関連部品も提供しています。
主な収益源は、自動車メーカーや関連会社への製品販売による代金です。国内の製造・販売は同社のほか、パイオラックス エイチエフエスなどの子会社が行っています。海外では、米国のパイオラックス コーポレーションや中国の東莞百楽仕汽車精密配件有限公司など、各地域の現地子会社が設計から生産、販売までを担っています。
■医療機器
医療機器事業では、自動車部品の開発で培った金属加工技術を応用し、患者の体に対する負担が少ない低侵襲治療向けの製品を開発、製造、販売しています。具体的には、消化器系を中心とした非血管系治療領域のステントやガイドワイヤ、血管内治療領域向けの血管塞栓コイルなどを国内外の医療機関に提供しています。
主な収益源は、開発した医療機器を医療機関等の顧客に販売することによる製品代金です。当事業の運営は、同社の子会社であるパイオラックス メディカル デバイスが一貫して担っており、国内外の市場ニーズを的確に捉えた独自の製品開発と事業拡大を推進しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の売上高は600億円前後で推移していましたが、当期は主要取引先の減産影響により微減となりました。経常利益は原材料や労務費等のコスト上昇が響き、利益率とともに低下傾向にあります。当期は海外子会社の減損損失計上なども影響し、当期純利益が赤字に転落するなど、収益性の改善が課題となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 551億円 | 584億円 | 646億円 | 634億円 | 620億円 |
| 経常利益 | 58億円 | 49億円 | 57億円 | 34億円 | 15億円 |
| 利益率(%) | 10.5% | 8.3% | 8.8% | 5.4% | 2.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 24億円 | 24億円 | 29億円 | 95億円 | -0.2億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の減少に対し、製造工程における直材費を中心とする変動費や労務費等のコストが上昇したことで、売上総利益および営業利益が縮小しています。営業利益率は前期からさらに低下し、外部環境の不確実性が高まる中で厳しい収益環境が続いています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 634億円 | 620億円 |
| 売上総利益 | 143億円 | 137億円 |
| 売上総利益率(%) | 22.5% | 22.1% |
| 営業利益 | 24億円 | 15億円 |
| 営業利益率(%) | 3.8% | 2.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給与が37億円(構成比30%)、荷造発送費が21億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
自動車関連等セグメントは、日系自動車メーカーの減産による影響で減収減益となりました。一方、医療機器セグメントは積極的な拡販により増収を確保したものの、労務費などのコスト増加が利益を圧迫し、前年を下回る結果となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自動車関連等 | 582億円 | 568億円 | 31億円 | 24億円 | 4.2% |
| 医療機器 | 52億円 | 53億円 | 3億円 | 3億円 | 5.3% |
| 連結(合計) | 634億円 | 620億円 | 34億円 | 26億円 | 4.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 81億円 | 30億円 |
| 投資CF | 33億円 | -76億円 |
| 財務CF | -65億円 | -31億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-0.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は64.0%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「人と社会を技術でつなぎ、心弾む未来を実現する」というパーパスと、「新しい価値の創造 -弾性を創造するパイオニアからその先へ-」というビジョンを掲げています。金属や樹脂などあらゆる素材の「弾性(Elasticity)」を追求した独自の製品開発力をコアコンピテンスとし、新しい価値を創造することで、より豊かで安全快適な未来の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「パイオニアを志し、挑戦と変化を続ける」「最良を目指し、熱意と信頼を以て協調する」「創造性を尊び、自由にしなやかに発想する」という3つのバリューを重んじています。また、社是として「至誠・協力・奉仕」を掲げており、多様な人材が安心して活躍できる職場づくりを通じて、ステークホルダーとともに持続可能な社会に貢献する文化を育んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は、中期経営計画(2025~2027年度)において「自動車生産台数だけに頼らない経営推進」を掲げ、需要変動下でも安定的に収益を確保できる組織構造への転換を最優先課題としています。また、資本効率の改善に向けて、自己株式取得の実施や配当性向100%の継続といった方針を打ち出しています。
* 2027年度 連結売上高 650億円
* 2027年度 連結営業利益 25億円
■(4) 成長戦略と重点施策
商品戦略として、金属と樹脂の高度な複合成形技術を活かし、ADAS関連部品や電動車向けバスバーなどの高付加価値品を創出します。地域戦略では、北米・中国・インドを重点地域に据え、非日系自動車メーカーへの拡販を強化します。同時に、間接部門を含む全社的な業務プロセスの見直しによる収益構造改革と、低侵襲治療に向けた医療機器事業の展開にも注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社グループは、従業員を会社の重要な経営資源である「人財」と位置づけ、企業理念に共感し、高い専門性と主体性を持つ人材の育成を経営戦略の中核としています。階層別・職種別の教育研修や人事ローテーションによる計画的な育成に加え、能力や適性に応じた柔軟な配置を実施しています。また、多様な人材が相互に尊重し合える職場環境の整備や、挑戦を適切に評価する人事制度を通じて、組織の活性化を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.0歳 | 16.2年 | 6,186,246円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.4% |
| 男性育児休業取得率 | 90.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.8% |
| 男女賃金差異(正規労働者) | 81.8% |
| 男女賃金差異(非正規労働者) | 53.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員に占める女性割合(22.7%)、採用した従業員に占める女性の割合(18.8%)、役員に占める女性の割合(22.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 自動車産業の構造変化
同社の売上高の大部分は自動車産業向けであり、電動化の加速や新興EVメーカーの台頭など、事業環境の構造変化が業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、同社はEV・HEV対応などの成長領域への対応を強化し、全社横断的な高付加価値商品の開発やコスト競争力の向上に取り組んでいます。
■(2) 特定取引先への依存
日産自動車などの特定企業グループへの販売比率が相対的に高く、同グループの生産・販売計画や調達方針の変動が業績に直結するリスクがあります。このため、同社は機能別組織への改編を通じて非日系メーカーへの拡販や高付加価値化を進め、需要変動に柔軟に対応できる体制整備を図っています。
■(3) 海外事業に潜在するリスク
北米、欧州、アジアでのグローバル展開において、各国の法規制の変更、関税政策、政治・経済情勢の変動などが事業活動の停滞や追加コストの発生を招く可能性があります。同社は、現地子会社のガバナンス強化やサプライチェーンの多様化、現地調達の拡大を通じてリスクの低減に努めています。
■(4) 気候変動等による影響
炭素税の導入やエネルギー転換による調達・物流コストの高騰など、気候変動に伴う移行リスクや物理的リスクが存在します。同社は、カーボンニュートラルの実現に向けて環境配慮型原材料の採用や、工場・倉庫のレジリエンス強化、省エネルギー施策を推進し、持続可能な事業基盤の構築を図っています。



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