阪神内燃機工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

阪神内燃機工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

阪神内燃機工業は東京証券取引所スタンダード市場に上場しており、船舶用ディーゼル機関等の製造販売を主要事業としています。第160期は、内航海運向け主機関の回復や海外向け大型機関の出荷増加により、売上高は前期比38.4%増、当期純利益は17.6%増と大幅な増収増益を達成しました。


※本記事は、阪神内燃機工業株式会社 の有価証券報告書(第160期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 阪神内燃機工業ってどんな会社?


同社は、100年以上の歴史を持つ船舶用ディーゼル機関のメーカーです。内航船向けの低速4サイクルエンジンに強みを持ち、高い国内シェアを誇ります。

(1) 会社概要


同社は1918年に阪神鐵工所として設立され、石油発動機の製造を開始しました。1929年に初のディーゼル機関を完成させ、1953年には業界初のJIS表示許可を取得しました。1955年に大阪証券取引所に上場し、2013年には東証二部(現スタンダード市場)へ上場しました。近年では、2024年に世界初となる船舶用メタノール燃料エンジンを完成させるなど、環境対応技術の開発にも注力しています。

同社の従業員数(単体)は288名です。筆頭株主は情報通信サービス等を手掛ける光通信で、第2位は取引先持株会、第3位は同社製品の部品製造等を行うオゾネとなっています。

氏名 持株比率
光通信 7.42%
阪神ディーゼル取引先持株会 6.61%
オゾネ 6.24%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性2名、計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長社長執行役員は木下和彦氏が務めています。社外取締役比率は44.4%です。

氏名 役職 主な経歴
木下 和彦 代表取締役社長社長執行役員 1983年大丸入社。1992年同社入社。営業担当部長、営業統括部長等を歴任し、2007年代表取締役社長に就任。2015年より現職。
川元 克幸 代表取締役専務執行役員技術統括本部長 1982年同社入社。品質保証部長、明石工場長等を歴任。2019年代表取締役専務執行役員。技術・調達部門等を管掌し、2023年より現職。
藤村 欣則 取締役常務執行役員営業統括本部長 1986年同社入社。営業部長、東京支店長等を歴任。2020年取締役・常務執行役員営業統括本部長に就任。2024年より現職。
中川 智 取締役常務執行役員経営統括本部長 1984年松下電器産業(現パナソニックHD)入社。2009年同社入社。企画部長、総務部長等を歴任し、2024年より現職。
山本 幸二 取締役(監査等委員) 1975年同社入社。企画部長、生産管理部長、常務取締役管理部門管掌等を歴任。2015年監査役を経て、2020年より現職。


社外取締役は、小曽根 佳生(オゾネ代表取締役社長)、羽田 由可(H&S法律事務所代表)、前田 晴秀(元京阪神興業代表取締役社長)、塩入 みか(芦屋国際特許事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「主機関」および「部分品・修理工事」の事業を展開しています。

(1) 主機関


船舶用ディーゼル機関、可変ピッチプロペラ、サイドスラスタ、潤滑油・燃料油清浄装置、遠隔機関監視システム等の製造販売を行っています。特に内航船向けの低速4サイクルディーゼルエンジンにおいては、高い信頼性と長寿命を特徴とし、業界内で確固たる地位を築いています。

主な収益源は、造船所や船主に対するこれらの製品の販売代金です。国内の内航海運業界を主要マーケットとしつつ、東南アジアや東アジアを中心とした海外市場への展開も進めています。運営は主に同社が行っています。

(2) 部分品・修理工事


納入したエンジンのアフターサービスとして、交換用部分品の販売、修理工事、保守管理、機械加工等を提供しています。エンジンのライフサイクル全体を通じて顧客をサポートし、安定的な収益基盤となっています。また、CMR(鋳物・金属機械加工)事業として、エンジン以外の産業用鋳物部品の製造なども手掛けています。

収益源は、船主や運航会社等からの部品代金および修理・メンテナンス等のサービス料です。運営は同社が行っており、部品販売部門やサービス部門が連携して顧客対応を行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は90億円から100億円前後で推移していましたが、第160期には133億円へと大きく伸長しました。これは内航船向け主機関の需要回復や海外向け販売の増加が寄与しています。利益面でも、売上増に伴い経常利益は増加傾向にあり、当期純利益も順調に推移しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 94億円 101億円 91億円 96億円 133億円
経常利益 5.1億円 5.9億円 6.0億円 6.4億円 6.8億円
利益率(%) 5.4% 5.9% 6.6% 6.7% 5.1%
当期純利益(親会社所有者帰属) 3.6億円 3.9億円 4.1億円 4.6億円 5.4億円

(2) 損益計算書


前期から当期にかけて、売上高は約37億円の大幅な増加となりました。これに伴い売上総利益も増加しましたが、資材価格高騰の影響や特定の受注案件における損失引当金の計上などにより、売上総利益率は若干低下しています。一方、営業利益率は5%前後を維持しており、販売費及び一般管理費の増加を売上増で吸収しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 96億円 133億円
売上総利益 21億円 24億円
売上総利益率(%) 22.2% 18.2%
営業利益 5.5億円 6.1億円
営業利益率(%) 5.7% 4.6%


販売費及び一般管理費のうち、給料・報酬等が6.4億円(構成比35%)、荷造費及び運賃が2.7億円(同15%)を占めています。売上原価においては、材料費が73億円(製造費用に対する構成比62%)、外注加工費等の経費が24億円(同20%)となっています。

(3) セグメント収益


主機関事業は、近海船向け2サイクル機関の出荷増などにより売上が前期比約1.7倍に急増しました。部分品・修理工事事業も、国内向けのサービス活動強化やCMR事業の貢献により堅調に推移し、増収となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
主機関 46億円 80億円
部分品・修理工事 51億円 54億円
連結(合計) 96億円 133億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、本業で稼いだ現金を原資として、設備投資や株主還元、借入返済を行いつつ、手元資金も厚く確保している健全型といえます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 11.0億円 15.9億円
投資CF -22.5億円 -0.1億円
財務CF -1.7億円 -2.1億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.7%でスタンダード市場平均(7.2%)を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は59.1%で市場平均(57.5%)を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、100年を超える経験と知識を基盤とし、事業分野の制約を外して社会課題の解決を第一に認識することを基本理念としています。その解決に尽力した結果として、顧客満足度を向上させ、経済価値を高めることを目指しています。GHG(温室効果ガス)フリーの技術開発やCMR事業の拡大などを通じて、この理念を体現しようとしています。

(2) 企業文化


同社は、「自ら、見つめ、考えて、そしてチャンスをつかみとる」というスローガンや、「鉄と工(たくみ)の創造力で掴むWIN-NOVATION(WIN+INNOVATION)」という言葉に象徴されるように、自律的な思考と技術力を重視する文化を持っています。伝統的なモノづくりの精神(モットー)を継承しながらも、時代の変化に合わせて新たな価値を創造しようとする姿勢がうかがえます。

(3) 経営計画・目標


2024年4月より、3ヵ年新中期経営計画「Go for it ! やってみなはれ !!」をスタートさせました。この計画では、既存事業の付加価値最大化を目指す「ORIGINAL HANSHIN」、CMR事業拡大や海外市場開拓を進める「NEW HANSHIN」、脱炭素エンジンの開発や新ビジネスを探求する「FUTURE HANSHIN」の3本柱を掲げています。

(4) 成長戦略と重点施策


成長戦略として、国内ではGHG排出改善エンジンの拡販や機関監視システムの高度化による付加価値向上を図り、シェアを堅持する方針です。海外では、中国市場の開拓や東南アジア等でのサービス・営業一体となった活動を強化します。また、CMR事業を第2の柱とすべく、加工品目の拡大や生産効率化を進めるとともに、メタノール燃料エンジンの製品化や次世代燃料技術の開発に注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は人的資本の強化を重点課題とし、管理者のマネジメント力向上に注力しています。具体的には、部下育成能力の養成、人権尊重、起業家精神の育成を柱とし、人事評価制度の改定などを通じて、多様な価値観を持つステークホルダーの視点で自律できる管理者の養成を目指しています。また、女性活躍推進にも力を入れ、採用比率や管理職比率の目標を設定しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 42.9歳 19.4年 6,485,847円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 3.9%
男性育児休業取得率 45.5%
男女賃金差異(全労働者) 80.6%
男女賃金差異(正規雇用) 80.1%
男女賃金差異(非正規雇用) 48.2%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、係長級にある者に占める女性労働者の割合(9.2%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 内航船業界への依存と市場縮小リスク

同社の主力市場である内航海運業界は、船舶の大型化や船員不足により、稼働隻数が減少傾向にあります。また、建造可能な造船所の能力も限られており、限られたパイを巡る受注競争が激化しています。同社はこのリスクに対し、新技術による付加価値向上や海外市場の開拓で対応しようとしています。

(2) 低速4サイクルディーゼルエンジンへの偏重

同社の主力製品は低速4サイクルディーゼルエンジンであり、その高い熱効率と信頼性が強みですが、環境規制の強化や技術トレンドの変化により、ディーゼルエンジン自体の需要が減少する可能性があります。これに対し、エンジンの性能改善に加え、メタノール燃料エンジンやガスエンジンの開発など、脱炭素を見据えた研究開発を進めています。

(3) 新卒人材採用の困難化

少子高齢化の影響により、新卒採用が計画通りに進まない状況が続いています。これにより、技術やノウハウの伝承が滞り、将来的な事業機会を喪失するリスクがあります。対策として、通年採用や経験者採用の強化、待遇改善、リファラル採用の活用など、採用活動の多角化に取り組んでいます。

(4) 資材価格高騰と価格転嫁の遅れ

原材料やエネルギー価格の高騰が続く中、コストアップ分を製品価格に十分に転嫁できない場合、業績を圧迫するリスクがあります。特に内航船向け主機関において価格転嫁が遅れている現状があり、取引先への理解を求め適正価格への是正に注力するとともに、海外調達やVA・VEによる原価低減活動を徹底しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。