※本記事は、株式会社牧野フライス製作所 の有価証券報告書(第86期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 牧野フライス製作所ってどんな会社?
創業以来、工作機械の専門メーカーとして「クオリティ・ファースト」を掲げ、グローバル展開する企業です。
■(1) 会社概要
1937年に牧野常造が創業し、1958年には日本初の数値制御立フライス盤を開発しました。1971年に東京証券取引所第一部に上場し、1981年には米国レブロンド社を買収して現地生産体制を構築しました。その後もアジア、欧州へ拠点を拡大し、2022年には東証プライム市場へ移行しました。
同グループは連結従業員4,814名、単体1,415名を擁する組織です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は工作機械技術の振興を目的とする公益財団法人、第3位は国際的な金融機関が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.93% |
| 公益財団法人工作機械技術振興財団 | 3.82% |
| GOLDMAN SACHS INTERNATIONAL | 3.70% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名、計13名で構成され、女性役員比率は15.0%です。代表取締役社長は宮崎正太郎氏です。社外取締役比率は40.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 宮崎正太郎 | 代表取締役取締役社長 | 1986年入社。アジア営業部や海外営業部のゼネラルマネージャ、執行役員営業本部副本部長等を経て、2022年より現職。 |
| 永野敏之 | 代表取締役専務取締役管理本部長兼貿易安全保障管理室長 | 2004年入社。経理部ゼネラルマネージャ、取締役管理本部長、常務取締役、専務取締役を経て、2022年より現職。 |
| 白石治幸 | 常務取締役開発本部長兼設計・製造プロセス革新センタ長 | 1985年入社。生産本部副本部長、執行役員生産本部長、取締役開発本部長等を歴任し、2025年より現職。 |
| 金谷潤 | 取締役カスタマアプリケーションセンタ長兼LASER事業部担当 | 1986年入社。加工技術本部副本部長、執行役員カスタマアプリケーションセンタ長を経て、2025年より現職。 |
| 牧野裕之 | 取締役管理本部副本部長兼IR担当兼経営企画部長 | 2003年入社。経理部ゼネラルマネージャ、生産管理部長、管理本部副本部長等を経て、2025年より現職。 |
| Neo Eng Chong | 取締役MAKINO ASIA PTE LTD CHIEF EXECUTIVE OFFICER | 2012年牧野机床(中国)有限公司入社。MAKINO ASIA PTE LTD VICE PRESIDENT等を経て2016年より同社CEO。2025年より現職。 |
社外取締役は、増田直史(元トヨタ自動車常務役員)、山崎広道(元熊本大学法学部長)、髙橋一夫(元大和証券グループ本社執行役副社長)、高井文子(横浜国立大学教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「セグメントⅠ(日本・その他)」「セグメントⅡ(アジア)」「セグメントⅢ(米州)」「セグメントⅣ(欧州)」事業を展開しています。
■(1) セグメントⅠ(日本・その他)
日本、韓国、中国、大洋州、ロシア、ノルウェイ、イギリスおよび他セグメントに含まれない地域において、工作機械の製造・販売・サービスを行っています。主な顧客は自動車、航空機、産業機械、半導体製造装置などの製造業です。
顧客からは工作機械の製品代金や修理・サービス料を受け取ります。運営は主に同社および国内連結子会社(マキノジェイ、マキノ電装、牧野技術サービス等)が行っています。
■(2) セグメントⅡ(アジア)
中国、ASEAN諸国、インドを主たる地域として、工作機械の製造・販売・サービスを行っています。新エネルギー車関連や半導体製造装置関連など、現地の製造業のニーズに応じた製品を提供しています。
顧客からは製品代金やサービス料を受け取ります。運営はMAKINO ASIA PTE LTD(シンガポール)を中心に行っています。
■(3) セグメントⅢ(米州)
南北アメリカのすべての国を対象に、工作機械の販売・修理を行っています。航空宇宙関連や自動車関連などの幅広い製造業顧客に対し、最適な工作機械と加工技術を提供しています。
顧客からは製品代金や修理・サービス料を受け取ります。運営はMAKINO INC.(アメリカ)が行っています。
■(4) セグメントⅣ(欧州)
ヨーロッパ大陸(ノルウェイを除く)のすべての国を対象に、工作機械の販売・修理を行っています。航空機関連などを中心に、高精度な加工技術を必要とする顧客に製品を提供しています。
顧客からは製品代金や修理・サービス料を受け取ります。運営はMAKINO Europe GmbH(ドイツ)が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は2023年3月期以降2200億円を超える水準で推移しており、直近の2025年3月期は2342億円と過去5期間で最高を記録しました。経常利益も180億円以上の高水準を維持し、利益率は8%台で安定しています。当期純利益については、直近でやや減少しました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,167億円 | 1,866億円 | 2,280億円 | 2,254億円 | 2,342億円 |
| 経常利益 | -14億円 | 143億円 | 199億円 | 189億円 | 201億円 |
| 利益率(%) | -1.2% | 7.6% | 8.7% | 8.4% | 8.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -35億円 | 50億円 | 67億円 | 97億円 | 91億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い、売上総利益も増加しました。販管費も増加しましたが、増収効果により営業利益は前期比で増加しています。営業利益率は前期の7.3%から7.9%へと改善しており、本業の収益性が高まっていることが確認できます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,254億円 | 2,342億円 |
| 売上総利益 | 680億円 | 724億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.2% | 30.9% |
| 営業利益 | 164億円 | 185億円 |
| 営業利益率(%) | 7.3% | 7.9% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が221億円(構成比41%)、運賃荷造費が75億円(同14%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで黒字を確保しています。特に日本を中心とするセグメントⅠと米州のセグメントⅢが利益の柱となっており、セグメントⅢは増収増益となりました。一方、セグメントⅠは減収ながらも増益を達成し、高い利益率を維持しています。欧州のセグメントⅣは利益率が相対的に低くなっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| セグメントⅠ | 537億円 | 511億円 | 94億円 | 120億円 | 23.4% |
| セグメントⅡ | 896億円 | 949億円 | 48億円 | 44億円 | 4.6% |
| セグメントⅢ | 604億円 | 695億円 | 22億円 | 27億円 | 3.9% |
| セグメントⅣ | 217億円 | 187億円 | 5億円 | 3億円 | 1.6% |
| 連結(合計) | 2,254億円 | 2,342億円 | 164億円 | 185億円 | 7.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業で稼いだ利益(営業CFプラス)を使って借入金の返済(財務CFマイナス)を進めつつ、投資(投資CFマイナス)も自己資金の範囲内で行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 129億円 | 136億円 |
| 投資CF | -64億円 | -139億円 |
| 財務CF | -64億円 | -67億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は61.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
創業以来、工作機械の専門メーカーとして、工作機械の真髄を「クオリティ・ファースト」と位置づけています。「信頼こそ企業の存立基盤」とし、すべての製品とサービス、組織と社員のあり方において品質を最優先に追求することを経営理念として掲げています。
■(2) 企業文化
「使う人、売る人、造る人、みんなが信頼し合えること」を願い、製品とサービスを通じて信頼関係を築くことを重視しています。基幹産業としての自負を持ち、厳しい環境下でも収益を確保できる強固な企業体質の確立を目指す姿勢が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
工作機械産業の収益変動が大きい特性を踏まえ、短期間に変化する事業環境へ適切に対応することを戦略の要諦としています。特定の数値目標に固執するよりも、環境変化への柔軟な対応と収益確保のための強固な体質づくりを重視しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
市場が求める高品位・高精度な工作機械をいち早く投入するための開発体制の強化を進めています。また、需要の変化に柔軟に対応できる効率的な生産体制の確立と、グローバルな顧客に対応するための海外拠点(営業およびサービス)の拡大と充実に積極的な投資を継続しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を「財」と捉え、社員一人ひとりの成長が会社の成長につながる好循環を目指しています。社員の自律的なキャリア形成やスキルアップのための機会を提供するとともに、多様な人材の価値観を受け入れ、革新的な製品・サービスを生み出せる社内環境の整備を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.3歳 | 18.6年 | 7,118,216円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.1% |
| 男性育児休業取得率 | 80.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 77.5% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 53.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、管理職に占める中途採用者の割合(30%程度)、従業員全体に占める中途採用者の割合(25%以上)、係長級の女性社員の割合(9%程度)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国際経済の景気変動
同社の売上は、日本、アジア、アメリカの製造業における設備投資に大きく依存しています。企業の投資意欲は景気後退時に大きく減退する可能性が高いため、生産財である同社製品の受注・売上は、景気後退局面において大きく減少する可能性があります。
■(2) 自動車産業等への依存
製品の多くは自動車関連企業によって利用されています。自動車産業は設備投資動向が比較的安定しているものの、規模が大きいため工作機械の需給環境に与える影響が大きく、同社の売上も左右されます。また、IT・デジタル家電分野への売上は需給変動が激しく、業績変動の要因となります。
■(3) 為替相場の変動
製品の半分以上が海外で販売されており、海外への多角的な進出を行っているため、為替相場の変動は売上および利益に影響を与えます。これに対し、為替予約等を行うことでリスク回避に努めています。
■(4) 部品・原材料需給の変動
工作機械は多種多様な部品・原材料で構成されているため、需給環境の逼迫による価格上昇や、必要な品質・量・納期の確保が困難になることがリスク要因となります。これに対し、サプライヤーとの連携強化や在庫の適正化、複社購買などの対策を講じています。



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