アネスト岩田 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アネスト岩田 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アネスト岩田は、東京証券取引所プライム市場に上場し、圧縮機、真空機器、塗装機器および塗装設備の製造販売をグローバルに展開する企業です。直近の業績では、国内外での積極的な販売活動や新製品の浸透効果などもあり、売上高の増加に加えて最終利益の大幅な増益を達成し、安定的な事業成長を継続しています。


※本記事は、アネスト岩田株式会社の有価証券報告書(第80期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. アネスト岩田ってどんな会社?


同社は圧縮機や塗装機器などの産業機械を製造し、世界市場へ提供する開発型メーカーです。

(1) 会社概要


1926年に岩田製作所として創業し、1957年に岩田塗装機工業を設立しました。1973年には東京証券取引所市場第一部へ上場を果たしています。1991年には世界初のオイルフリースクロールコンプレッサを発売し、1996年に現在の社名であるアネスト岩田に変更しました。

現在の従業員数は連結で1,897名、単体で613名体制です。大株主の状況は、筆頭株主が資産管理業務を行う信託銀行であり、第2位は金融機関である第一生命保険、第3位には取引先等で構成されるアネスト岩田得意先持株会が名を連ねています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.40%
第一生命保険 5.70%
アネスト岩田得意先持株会 5.30%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長執行役員CEOは三好栄祐が務めており、社外取締役の比率は55.6%となっています。

氏名 役職 主な経歴
三好 栄祐 代表取締役社長執行役員CEO 1993年同社入社。コーティングマーケティング部長、経営管理本部長、常務執行役員営業本部長などを経て、2026年4月より現職。
大澤 健一 取締役専務執行役員CTO 開発技術本部長 1990年同社入社。上海の関連会社総経理や東アジア市場統括、専務執行役員コーティング事業部長などを経て、2026年4月より現職。
岩田 仁 取締役常務執行役員CSO 事業戦略本部長 1998年同社入社。アネスト岩田キャンベル代表取締役、常務執行役員エアエナジー事業部長などを経て、2026年4月より現職。
武田 克己 監査等委員である取締役(常勤) 1989年同社入社。執行役員塗装機部長、常務執行役員コーティング事業部コーティングシステム部長などを経て、2024年6月より現職。


社外取締役は、島本誠(元ヤマハ発動機取締役上席執行役員)、金山貴博(元住友金属鉱山取締役常務執行役員)、松木和道(元三菱商事法務部長)、大橋玲子(大橋公認会計士事務所所長)、白井裕子(ウィング総合法律事務所パートナー弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」「欧州」「米州」「中国」および「その他」事業を展開しています。

(1) 日本


同社および国内子会社が、圧縮機、真空機器、塗装機器および塗装設備を製造し、国内の幅広い産業向けに販売しています。主要な顧客は、自動車や半導体、一般産業機械など多岐にわたる製造業の企業です。
収益は、製品の販売代金や修理・メンテナンスなどのサービス提供による対価から得ています。製品の製造と販売は主に同社が担い、アフターサービスや修理についてはA&Cサービスなどの子会社が担当しています。

(2) 欧州


ドイツ、フランス、イタリアなどに拠点を置く現地法人が、現地の需要に合わせた圧縮機や塗装機器の製造および販売を行っています。主な顧客は、欧州域内の自動車補修市場や各種製造業、OEM供給先などです。
製品販売による収益を主な収入源としており、利益率の高いオイルフリー圧縮機や自動車補修向けスプレーガンなどを販売しています。製造や販売は、アネスト岩田ヨーロッパやアネスト岩田ストラテジックセンターなどの子会社が運営しています。

(3) 米州


アメリカ、ブラジル、メキシコの現地法人が、圧縮機本体を組み込んだ製品や真空機器、塗装設備などを製造・販売しています。現地の各種製造業や車両搭載市場、アート・美容市場などが主な顧客層です。
収益は各市場に向けた製品の販売により得ており、スプレーガンやエアーブラシなどの提供も行っています。事業の運営は、アネスト岩田アメリカズやアネスト岩田メディアなどの子会社が行っています。

(4) 中国


中国国内の製造拠点を通じて、圧縮機や真空機器、塗装機器・設備の製造と販売を展開しています。中国国内の各種製造業をはじめ、リチウムイオン電池製造関連や自動車部品製造向けの需要に対応しています。
製品の販売代金を主な収益源としており、一部の製品については欧州、アジア、北米などへも供給を行っています。運営は、上海斯可絡圧縮機や嘉興阿耐思特岩田産業機械などの子会社が担っています。

(5) その他


台湾、インド、タイ、韓国などの現地法人が、各地域に特化した圧縮機や塗装機器の製造および販売を行っています。自動車や住宅設備機器の生産に関連した設備投資案件など、多様な顧客ニーズに対応しています。
製品販売や設備納入による収益が中心であり、一部地域ではコンシューマー向け製品の販売も展開しています。これらの事業は、アネスト岩田マザーソンやアネスト岩田サウスイーストアジアなどの子会社が運営しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、順調な事業規模の拡大が伺えます。経常利益についても高水準を維持しており、利益率も安定的に推移しています。最終利益も直近2年間は高い水準を確保しており、堅調な業績を示しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 423億円 485億円 534億円 544億円 559億円
経常利益 56億円 70億円 80億円 71億円 77億円
利益率(%) 13.2% 14.5% 14.9% 13.1% 13.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 28億円 34億円 37億円 54億円 51億円

(2) 損益計算書


売上高は前期から増加していますが、営業利益はわずかに減少しています。売上総利益率はほぼ横ばいで推移していますが、販売費および一般管理費の増加などが影響し、営業利益率はやや低下する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 544億円 559億円
売上総利益 253億円 261億円
売上総利益率(%) 46.5% 46.8%
営業利益 59億円 56億円
営業利益率(%) 10.8% 10.0%


販売費および一般管理費のうち、役員報酬および給料手当が70億円(構成比34.0%)、支払手数料が24億円(同11.5%)を占めています。売上原価は300億円であり、売上高に対する構成比は53.2%となっています。

(3) セグメント収益


日本セグメントや欧州セグメントでは、製品販売の増加や効率化により増収増益となりました。一方で、中国セグメントは市況低迷の影響を受け減収減益となり、米州セグメントでも一部製品の販売が落ち込み減益となるなど、地域によって業績にばらつきが見られます。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
日本 248億円 272億円 26億円 29億円 10.7%
欧州 101億円 102億円 8億円 10億円 10.0%
米州 74億円 73億円 9億円 9億円 11.9%
中国 126億円 123億円 9億円 5億円 4.2%
その他 99億円 103億円 15億円 15億円 14.4%
調整額 -105億円 -113億円 -9億円 -12億円 -
連結(合計) 544億円 559億円 59億円 56億円 10.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業キャッシュ・フローはプラス、投資キャッシュ・フローと財務キャッシュ・フローはともにマイナスとなっており、本業で稼いだ資金を元手に投資を行い、同時に借入金の返済も進める健全型の状態を示しています。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.0%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は68.0%であり、いずれも市場平均を上回っています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 97億円 81億円
投資CF -33億円 -43億円
財務CF -39億円 -39億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「アネスト岩田フィロソフィ」において、経営理念やビジョンを定めています。グループ経営ビジョンとして「お客様の立場に立ち、誠心を込めて高性能かつ高品質な製品とサービスをご提供できる、活力と新規性に満ちた開発型企業となる」ことや、「真のグローバルワン・エクセレントメーカ」になることを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「誠心(まことのこころ)」を社是として掲げており、これを中核としたフィロソフィを全従業員と共有しています。失敗を恐れずに挑戦する人材を尊重し、「Be an OWNER(当事者であれ)」「WILL(志を持つ、やり抜く)」「OPEN(外に目を向ける)」という3つの指針を定めています。

(3) 経営計画・目標


2036年3月期に連結売上高1,000億円の達成を目指す「Vision2035」を掲げており、その実現に向けた第一段階として中期経営計画を推進しています。2028年3月期を最終年度とする目標は以下の通りです。

・連結売上高 620億円以上
・連結営業利益 61.7億円以上
・EPS(1株当たり当期純利益) 132.0円以上
・ROE 11.0%以上

(4) 成長戦略と重点施策


既存事業を深化させつつ、周辺分野や新規領域での事業創出に注力する戦略を掲げています。具体的には、M&Aを含む投資の強化や、海外市場を中心とした販路拡大を推進します。また、省エネ性の高いオイルフリー圧縮機の拡販による環境負荷低減や、AI技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進により、持続的な成長基盤の確立を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「変革と成長」をキーワードに掲げ、人材への戦略的投資を推進しています。従業員が自律的なキャリアを形成できるよう自己啓発支援制度を整備するほか、マネジメント力強化研修や外国籍社員への日本語教育など多様な学びの機会を提供し、従業員が働きがいを実感しながら能力を発揮できる環境づくりに注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.6歳 15.2年 5,949,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.1%
男性育児休業取得率 86.7%
男女賃金差異(全労働者) 74.9%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 77.8%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 95.7%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) グローバルな事業環境の変化


同社は海外販売比率が過半を占めており、各国の市場構造の変化や需要減少、急激な為替変動の影響を強く受ける可能性があります。また、地政学的な不確実性や法規制の変更が、サプライチェーンの停滞やコスト増をもたらし、業績に影響を及ぼすリスクがあります。

(2) M&Aをはじめとした事業拡大


持続的な成長に向けてM&Aや業務提携を積極的に推進していますが、買収後の統合プロセスが計画通りに進まない場合や、想定したシナジー効果や収益性が得られなかった場合には、対象企業の価値低下などを通じて業績に影響を与える可能性があります。

(3) 多様化する人材の確保と定着


事業環境の変化に柔軟に対応するためには、多様な人材の確保が重要です。しかし、採用戦略や人事評価制度の見直しが不十分な場合、必要な人材の確保が困難になり、人材流出や労働問題の発生につながることで、事業運営に支障を来すリスクがあります。

(4) 法令遵守と情報セキュリティ


多様な国や地域で事業を展開しているため、各国の法規制への対応が求められます。輸出入管理や知的財産権の保護、製品安全に関する規制変更への対応が遅れたり、サイバー攻撃等による情報漏洩が発生したりした場合には、社会的信用の失墜や損害賠償を通じて業績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。