※本記事は、日本特殊塗料株式会社の有価証券報告書(第120期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本特殊塗料ってどんな会社?
塗料および自動車用防音材の製造・販売を主力事業とする化学メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1929年に合資会社として設立され、1936年に株式会社へ改組されました。1961年に東京証券取引所市場第二部に上場し、1967年には現在の主要提携先であるスイス企業と防音材料等に関する技術提携を結びました。その後も国内外での工場新設や合弁会社設立を通じて、グローバルに事業規模を拡大しています。
現在の従業員数は連結で1,079名、単体で626名です。筆頭株主は事業展開で技術提携関係にあるAUTONEUM HOLDING AGであり、第2位株主は同業の事業会社である関西ペイント、第3位には金融機関である三菱UFJ銀行が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| AUTONEUM HOLDING AG | 14.44% |
| 関西ペイント | 5.18% |
| 三菱UFJ銀行 | 4.07% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長執行役員 最高執行責任者は遠田比呂志氏が務めており、社外取締役比率は30.0%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 田谷純 | 取締役会長 最高経営責任者 | 1976年三菱銀行入行。2005年同社入社。常務取締役、最高財務責任者、代表取締役専務などを経て、2019年代表取締役社長に就任。2023年より現職。 |
| 遠田比呂志 | 代表取締役社長執行役員 最高執行責任者 | 1983年同社入社。自動車製品関連部門の部長や本部長を歴任。2018年常務取締役を経て2021年代表取締役社長に就任。2023年より現職。 |
| 鈴木裕史 | 取締役専務執行役員 | 1985年同社入社。塗料事業本部副本部長や平塚工場長等を経て、2017年執行役員。2019年取締役および塗料事業本部長に就任し、2023年より現職。 |
| 中村信 | 取締役専務執行役員 | 1987年同社入社。中国の関連会社総経理や愛知工場長等を経て、2019年取締役に就任。2021年自動車製品事業本部の生産統括責任者となり、2023年より現職。 |
社外取締役は、奈良道博(元第一東京弁護士会会長)、矢部耕三(一般社団法人日本国際知的財産保護協会業務執行理事)、浅香衣世(元日本ランズエンド代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「塗料関連事業」および「自動車製品関連事業」の2つの報告セグメントと「その他」事業を展開しています。
■塗料関連事業
建築・構築物用等の塗料の製造・販売および工事請負を行っています。航空機用塗料で培った高い技術力をベースに、地球環境に配慮した環境対応型塗料や省エネに寄与する遮熱塗料などを多様な顧客向けに開発・提供しています。
塗料販売店や塗装施工店を中心とした自社製品の販売ネットワークを通じた製品販売や、工事の請負による収益を主な収入源としています。事業の運営は同社やニットクメンテ、ニットク商工などの関係会社が担っています。
■自動車製品関連事業
自動車用防音材(制振材、吸・遮音材)や防錆塗料を中心とした自動車部品の製造および販売を行っています。国内外の自動車メーカーを主要顧客とし、自動車の軽量化や車室内の快適性向上といったニーズに応える新技術・新製品を提供しています。
主に国内外の自動車メーカー向けに製品を直接納入することによる販売収益を柱としています。事業の運営は同社のほか、日晃工業、大和特殊工機、武漢日特固防音配件有限公司等の国内外の子会社・関連会社が広く展開しています。
■その他
報告セグメントに含まれない事業として、保険代理業を展開しています。グループ内外を対象に損害保険契約の取り扱いを行っています。
各種保険契約の取り扱いに伴う手数料を主な収益源としています。本事業は主に子会社であるニットク保険センターが運営を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は増加基調が続いていましたが、直近の期では一部事業の反動減等により減収に転じました。一方、経常利益については利益率の継続的な改善や持分法投資利益の増加等に支えられ、右肩上がりの成長を持続しており、最終利益とともに堅調な増益傾向を示しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 548億円 | 607億円 | 647億円 | 661億円 | 619億円 |
| 経常利益 | 26億円 | 31億円 | 60億円 | 67億円 | 68億円 |
| 利益率(%) | 4.8% | 5.2% | 9.2% | 10.2% | 11.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 17億円 | 22億円 | 39億円 | 42億円 | 55億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期の損益構成では、売上高の減少にもかかわらず、売上総利益はほぼ横ばいを維持し、売上総利益率が改善しています。しかし、販売費及び一般管理費の増加が影響し、営業利益および営業利益率は前年度と比較してやや低下する結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 661億円 | 619億円 |
| 売上総利益 | 145億円 | 146億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.9% | 23.6% |
| 営業利益 | 45億円 | 40億円 |
| 営業利益率(%) | 6.7% | 6.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が27億円(構成比25%)、研究開発費が19億円(同18%)、運搬費が17億円(同16%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上推移を見ると、主力となる自動車製品関連事業は、国内および北米市場における自動車生産の堅調な推移により前年度から微増となりました。一方、塗料関連事業は、集合住宅の大規模改修工事等における大型物件の反動減が響き、前年度比で二桁の減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 塗料関連事業 | 237億円 | 193億円 |
| 自動車製品関連事業 | 423億円 | 426億円 |
| その他 | 0.2億円 | 0.2億円 |
| 連結(合計) | 661億円 | 619億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 31億円 | 64億円 |
| 投資CF | -12億円 | -52億円 |
| 財務CF | -20億円 | -48億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は70.5%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「創意工夫」を社是に掲げ、「卓越した技術と製品により社会に貢献する」「株主の利益を尊重し、社員の人格を大切にする」「環境と共生し、国際標準に準拠しつつ、永遠の発展を目指す」という3つの経営理念を定めています。これらを基盤として独自の技術と製品で顧客の信頼に応え、持続的な企業価値の向上と永遠の発展を目指して事業活動を展開しています。
■(2) 企業文化
同社は「創意工夫」を重んじる文化のもと、新しい課題に対して積極果敢に立ち向かう「変革と挑戦」の精神を大切にしています。世界で活躍する企業として総合開発力を結集し、新製品や新需要の開拓に挑戦し続ける姿勢が根付いています。また、人材の育成・登用を重視するとともに、一切の無駄を省きながら高生産性・高収益を追求する合理的な行動様式も同社の組織風土を形成する重要な要素となっています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2026年3月期から2030年3月期までの5年間を対象とする中期経営計画を策定しています。「変革と挑戦」をテーマに、事業領域の拡大や新規事業の育成に取り組み、創業100周年を迎える最終年度に向けて以下の数値目標を掲げています。
* 売上高:800億円
* 営業利益:61億円
* 営業利益率:7.6%
* 自己資本利益率(ROE):10.0%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は成長に向け、製品ポートフォリオの最適化や生産性の抜本的改善、技術力の革新を基本施策として推進しています。塗料関連では環境対応型・省エネ塗料の開発や販売網の強化を図り、自動車製品関連では電動化などモビリティの変革に対応した新技術の提供やグローバルサプライチェーンの最適化に取り組みます。また、総還元性向70%を目指す株主還元と、DX推進等の基盤強化を並行して進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は持続的な企業価値向上のため、人的資本の充実を経営基盤戦略の柱に据えています。「多様な人財の活躍」「人財育成と働きがい向上」「安全で働きやすい職場づくり」を重要課題に掲げ、性別や年齢を問わず能力を発揮できる環境整備に取り組んでいます。また、個々のライフプランや適性に応じた資格取得支援や教育機会の拡充、ワークライフバランスの推進を通じて、採用から定着までの一貫した人材戦略を展開しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.9歳 | 14.9年 | 6,857,870円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.5% |
| 男性育児休業取得率 | 62.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 57.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 70.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 63.4% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 合弁事業および技術提携における連携リスク
同社グループは技術開発や事業運営の効率化のため、国内外で多くのパートナーと合弁や技術提携の形で事業を展開しています。各部門間で情報共有や連携強化に努めていますが、共同活動の当事者間で戦略や方針の不一致が生じた場合、事業展開や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 気候変動および環境規制への対応リスク
温室効果ガスの排出や気候変動に対する政策・規制強化は、市場環境や顧客ニーズに直結する重要課題です。同社はカーボンニュートラルの実現を目指し、環境対応型製品の開発を推進していますが、想定外の規制強化等に伴い事業活動が制限される可能性やコスト増加が業績に影響するリスクがあります。
■(3) 製品の品質管理および製造物責任リスク
品質基準「ISO9001」の認証を取得し、厳格な品質管理体制を敷いていますが、予期せぬ製品の欠陥やクレームが発生する可能性はゼロではありません。製造物責任賠償保険などでカバーしきれない大規模な製品不具合による損失が生じた場合、社会的信用の低下や業績の悪化につながる恐れがあります。
■(4) 海外事業展開に伴うカントリーリスクや為替変動
北米や中国、東南アジアなどで合弁事業を主体にグローバル展開を行っています。各地域における法律・規制の変更、インフラ障害、政情不安などのカントリーリスクが存在します。これらに加え、外貨建取引や原材料調達に伴う為替相場や原材料価格の変動リスクが業績に直接的な影響を及ぼす可能性があります。



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