日進工具 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日進工具 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日進工具は東証プライム上場の切削工具メーカーです。主力製品は超硬小径エンドミルで、精密・微細加工分野に特化しています。第64期は、半導体関連の需要増や海外市場の好調により増収となりましたが、原材料費や人件費の高騰が響き減益となりました。小径工具市場での高シェアと高い自己資本比率が特徴です。


※本記事は、日進工具株式会社 の有価証券報告書(第64期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日進工具ってどんな会社?


同社は超硬小径エンドミルを中心とした切削工具の製造・販売を行うメーカーです。微細加工分野で高いシェアを誇ります。

(1) 会社概要


1954年に日進工具製作所として創業し、1991年に現社名へ変更しました。2004年にジャスダック証券取引所へ上場し、2017年には東証一部へ市場変更を果たしました。2022年の市場区分見直しに伴い、プライム市場へ移行しています。主力のエンドミル事業に経営資源を集中し、成長を続けています。

2025年3月31日現在、グループ全体の従業員数は358名、単体では232名です。筆頭株主は株式会社エムワイコーポレーションで、次いで株式会社ソルプティ、資産管理業務を行う信託銀行が続きます。

氏名 持株比率
エムワイコーポレーション 10.02%
ソルプティ 9.77%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 8.82%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性3名の計10名で構成され、女性役員比率は30.0%です。代表取締役社長は後藤弘治氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
後藤 弘治 代表取締役社長営業担当 1986年入社。取締役総括グループ次長、専務取締役等を経て2013年より現職。NS TOOL USA, Inc. President/CEO等を兼務。
後藤 隆司 代表取締役副社長生産・開発担当 1984年入社。生産本部次長、常務取締役、専務取締役等を経て2016年より現職。日進エンジニアリング代表取締役等を兼務。
足立 有子 常務取締役総務・管理担当 AIU保険会社を経て1985年入社。取締役総務部長、ジーテック代表取締役社長等を経て2016年より現職。牧野工業代表取締役会長を兼務。
戸田 覚 取締役経営企画室長兼管理部長 東海銀行(現三菱UFJ銀行)、三菱UFJモルガン・スタンレー証券を経て2020年入社。取締役社長室長等を経て2021年より現職。
田島 寛 取締役(監査等委員) ユニバーサル証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)を経て2005年入社。執行役員経営企画室長等を経て2021年より現職。


社外取締役は、斉藤貴宣(元三菱マテリアル戦略本部室長)、藤崎直子(元日本マイクロニクス専務取締役)、平賀敏秋(北村・平賀法律事務所パートナー)、笹本憲一(公認会計士笹本憲一事務所代表)、中野秀代(トリアス代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「エンドミル関連」事業および「その他」事業を展開しています。

**(1) エンドミル関連事業**
工作機械に取り付けて金属等の加工を行う切削工具「エンドミル」の製造・販売を行っています。特に刃径6mm以下の超硬小径エンドミルに注力しており、取扱高の約8割を占めます。製品は自動車、半導体、電子部品等の精密金型や部品加工に使用されます。

主な収益は製品の販売による対価です。同社が製造を行い、連結子会社のジーテック(国内)、日進工具香港有限公司(中国)、NS TOOL USA,INC.(米国)などを通じて販売しています。また、連結子会社の日進エンジニアリングが加工の一部を受託しています。

**(2) その他事業**
エンドミル関連以外の製品として、工具ケースを中心としたプラスチック成形品の製造・販売を行っています。

主な収益はプラスチック成形品の販売による対価です。運営は主に連結子会社の牧野工業が行っています。この事業の売上規模は連結全体の1割未満です。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は90億円台で安定して推移しています。第62期に過去最高益水準となりましたが、その後は原材料費の高騰や経費増により利益率は低下傾向にあります。第64期は増収ながらも減益となりましたが、経常利益率は依然として18.9%と高い収益性を維持しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 81億円 95億円 97億円 90億円 94億円
経常利益 17億円 22億円 21億円 19億円 18億円
利益率(%) 21.1% 22.6% 22.1% 21.1% 18.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 12億円 15億円 15億円 13億円 13億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で増加しましたが、売上総利益は微増にとどまりました。これは製造コストの上昇などが影響しています。営業利益率は低下しており、収益性の改善が課題となっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 90億円 94億円
売上総利益 49億円 50億円
売上総利益率(%) 54.7% 52.8%
営業利益 19億円 18億円
営業利益率(%) 20.7% 18.7%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が7億円(構成比22%)、研究開発費が4億円(同13%)を占めています。売上原価では、人件費や電力費の上昇圧力が続いています。

(3) セグメント収益


同社は報告セグメントが単一ですが、製品区分別の売上高を開示しています。主力の「エンドミル(6mm以下)」が増収となり全体を牽引しました。「エンドミル(6mm超)」も微増、「その他」は横ばいで推移しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
エンドミル(6mm以下) 72億円 75億円
エンドミル(6mm超) 8億円 8億円
エンドミル(その他) 4億円 4億円
その他 7億円 7億円
連結(合計) 90億円 94億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは、本業で稼いだ資金(営業CFプラス)の一部を設備投資に回し(投資CFマイナス)、残りを配当等の株主還元に充てる(財務CFマイナス)という「健全型」のパターンを示しています。強固な財務基盤を有しており、安定した経営状態といえます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 18億円 20億円
投資CF -6億円 -4億円
財務CF -9億円 -7億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は91.4%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「SOFT(技術)・HARD(機械)・HEART(心)を創ります。人と地球に優しい製品を開発し社会に貢献します」を経営理念としています。また、ブランドステートメントとして「“「つくる」の先をつくる”」を掲げ、顧客や社会のニーズに応える高付加価値製品を生み出し、モノづくりの夢と可能性を切り拓くことを基本方針としています。

(2) 企業文化


同社は「サステナビリティ基本方針」に基づき、社会との共存と自社の持続可能性を重視しています。生産現場では「ものづくり行動指針」を基本とし、品質改善と原価低減のための小集団改善活動「オレンジFC活動(FCはFuture Challenge)」を展開するなど、現場主導での改善・革新を推進する風土があります。

(3) 経営計画・目標


同社は売上よりも利益を優先する方針を掲げ、中長期的な目標として以下の指標を設定しています。第64期はこれらの目標を下回りましたが、次期計画の着実な遂行により、中期的な達成を目指しています。

* 売上高経常利益率:20%
* 自己資本利益率(ROE):10%

(4) 成長戦略と重点施策


持続的成長のため、開発・生産・販売の各部門で連携を強化しています。開発では他社との違いを意識したユニークな製品や新素材工具の開発、生産では自社開発機による自動化・省力化の推進、販売では在庫の充実とデジタル技術を活用したマーケティング強化を重点施策としています。また、海外では地域特性に合わせた市場開拓を進めています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「従業員の働きがい」をマテリアリティの一つとし、「人財育成方針」と「社内環境整備方針」を策定しています。多様な人財の育成を重要課題とし、新入社員への長期基礎研修、中堅社員への技術研修、多能工教育などを実施しています。また、人事委員会による公正な評価や定期個別面談を通じて、働きがいのある職場環境の提供を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 38.6歳 13.5年 6,442,545円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.6%
男性育児休業取得率 90.9%
男女賃金差異(全労働者) 78.0%
男女賃金差異(正規) 80.0%
男女賃金差異(非正規) 82.7%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率目標(30%以上)、女性社員の比率向上目標(1%向上)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 災害や新型感染症等の影響

大規模災害や感染症により工場へのアクセスが制限された場合、製品供給が停滞する可能性があります。同社は在庫の分散保有や新潟工場での生産能力増強による分散生産体制を推進し、リスク低減を図っています。

(2) 生産・開発拠点の集中

生産・開発拠点が宮城県に集約されているため、当該地域での災害発生時に影響を受ける可能性があります。仙台工場では免震機構の採用など地震対策を強化しており、過去の地震でも早期復旧を実現していますが、引き続き在庫や生産拠点の分散に取り組んでいます。

(3) 小径エンドミルへの集中

経営資源を超硬小径エンドミルに集中しているため、代替素材や新たな加工技術(3Dプリンター等)の普及により、需要構造が変化するリスクがあります。同社はcBNやPCDなど新素材製品の開発や、エンドミル加工の優位性をアピールすることで対応しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。