※本記事は、日進工具株式会社の有価証券報告書(第65期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日進工具ってどんな会社?
精密・微細加工に不可欠な超硬小径エンドミルの製造および販売に特化する切削工具メーカーです。
■(1) 会社概要
1954年に切削工具の製造を目的として創業し、1961年に法人化されました。1991年に現在の日進工具へ社名を変更しています。2004年に株式を上場しました。その後、2011年に牧野工業を完全子会社化して事業領域を広げ、2013年の香港、2021年の米国での子会社設立など海外市場への展開も推進しています。
現在、同社グループは連結で364名、単体で238名の従業員を擁しています。筆頭株主はエムワイコーポレーション、第2位はソルプティとなっており、第3位には信託業務を行う外国法人が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| エムワイコーポレーション | 10.63% |
| ソルプティ | 10.37% |
| NORTHERN TRUST CO.(AVFC) RE FIDELITY FUNDS | 8.91% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性3名の計10名で構成され、女性役員比率は30.0%です。代表取締役社長は後藤弘治氏が務めています。社外取締役は5名選任されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 後藤弘治 | 代表取締役社長営業担当 | 1986年同社入社。常務取締役、代表取締役副社長を経て、2013年4月より代表取締役社長。2016年10月より現職。 |
| 後藤隆司 | 代表取締役副社長生産・開発担当 | 1984年同社入社。常務取締役などを経て、2013年代表取締役副社長。牧野工業代表取締役などを歴任し、2016年10月より現職。 |
| 足立有子 | 常務取締役総務・財務経理担当 | 1985年同社入社。2005年常務取締役を経て、牧野工業代表取締役会長等を歴任し、2026年4月より現職。 |
| 戸田覚 | 取締役経営企画室長兼財務経理部長 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券等を経て、2020年同社入社。取締役管理部長等を経て、2026年4月より現職。 |
| 田島寛 | 取締役(監査等委員) | ユニバーサル証券を経て、2005年同社入社。経営企画室長、執行役員管理部長等を経て、2021年6月より現職。 |
社外取締役は、斉藤貴宣(元三菱マテリアル戦略本部製品戦略室長)、藤崎直子(元日本マイクロニクス専務取締役)、平賀敏秋(北村・平賀法律事務所パートナー)、笹本憲一(公認会計士笹本憲一事務所代表)、中野秀代(トリアス代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、製品区分別に事業活動を展開しています。
■エンドミル関連
マシニングセンタに取り付けて金属等の精密・微細加工を行う切削工具「エンドミル」の製造および販売を行っています。特に刃径6mm以下の超硬素材を用いた小径サイズ製品に注力しており、自動車や半導体、電子部品などの製造を担う企業を主要顧客としています。
製品の販売による収益を主な収入源としています。同社が製品の開発および生産を担い、国内販売は代理店を通じて展開しています。また、海外市場での販売は日進工具香港有限公司や米国子会社などが展開し、再加工等は日進エンジニアリングが担当しています。
■その他
主力の切削工具以外の事業領域として、工具ケースを中心としたプラスチック成形品の製造および販売を行っています。エンドミル製品の保管や輸送に適したパッケージの供給を通じて、グループ全体の製品価値向上を支援しています。
プラスチック成形品の販売による収益を主な収入源としています。事業の運営は同社の完全子会社である牧野工業が主体となって行い、同社グループ内への供給にとどまらず、外部顧客に向けた事業活動も展開しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上高は90億円台で安定的に推移しており、経常利益も毎年18億円以上を確保しています。一時的な市場成長の鈍化により減収減益となった期もありましたが、高付加価値製品の投入や原価低減活動の成果により、当期は増収ならびに増益へと転じています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 95億円 | 97億円 | 90億円 | 94億円 | 95億円 |
| 経常利益 | 22億円 | 21億円 | 19億円 | 18億円 | 20億円 |
| 利益率(%) | 22.6% | 22.1% | 21.1% | 18.9% | 21.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 13億円 | 13億円 | 13億円 | 11億円 | 12億円 |
■(2) 損益計算書
堅調な需要に支えられ売上高が増加したことに加え、製造工程の効率化などによる原価低減が進んだことで、売上総利益および営業利益ともに前期を上回りました。これに伴い、各段階の利益率も改善傾向を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 94億円 | 95億円 |
| 売上総利益 | 50億円 | 53億円 |
| 売上総利益率(%) | 52.8% | 55.4% |
| 営業利益 | 18億円 | 20億円 |
| 営業利益率(%) | 18.7% | 20.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が7億円(構成比22%)、研究開発費が5億円(同14%)、役員報酬が3億円(同9%)を占めています。また、当期総製造費用の内訳としては、経費が22億円(同51%)、材料費が13億円(同30%)、労務費が8億円(同19%)となっています。
■(3) セグメント収益
同社グループは単一セグメントですが、製品区分別の売上高を見ると、主力の刃径6mm以下のエンドミルが全体の約8割を占めており、安定した需要を見せています。また、その他の事業領域も前年を上回り推移しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| エンドミル(6mm以下) | 75億円 | 76億円 |
| エンドミル(6mm超) | 8億円 | 8億円 |
| エンドミル(その他) | 4億円 | 4億円 |
| その他 | 7億円 | 7億円 |
| 連結(合計) | 94億円 | 95億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業といえる状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 20億円 | 21億円 |
| 投資CF | -4億円 | -4億円 |
| 財務CF | -7億円 | -21億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も90.1%といずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「SOFT(技術)・HARD(機械)・HEART(心)を創ります。人と地球に優しい製品を開発し社会に貢献します」の経営理念のもと、生産性の向上に役立つ切削工具等の開発・製造・販売に携わっています。また、ブランドステートメントとして“「つくる」の先をつくる”を掲げ、顧客や社会のニーズに応える高付加価値製品を生み出すことを基本方針としています。
■(2) 企業文化
社会との共存と自社の持続可能性を同期させた「サステナビリティ基本方針」を策定し、事業活動を展開しています。「人と地球にやさしい高付加価値製品を、最小限の資源でつくり、環境負荷の低減に努める」という姿勢を重視し、精密・微細加工用工具分野における独自の存在感の確立を目指す文化が醸成されています。
■(3) 経営計画・目標
同社は売上よりも利益を優先する方針を掲げ、売上高経常利益率の確保を目標としています。また、株主資本を効率的に活用する観点から自己資本純利益率(ROE)の確保も重要な経営指標に設定しています。
* 売上高経常利益率20%
* 自己資本純利益率(ROE)10%
■(4) 成長戦略と重点施策
製品開発を起点とする「高付加価値製品の循環戦略」を重点的に展開しています。開発部門では他社との明確な「違い」を基軸とした製品拡充を進め、生産部門では自動化や小集団改善活動による原価低減を図っています。販売部門では国内外の販売網を整備し、精密・微細加工市場の開拓を進める方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
経営理念の「HEART(心)」が示す人的資本を重視し、社是である「明るく、楽しく、創造をしよう。」を自ら実践できる多様な人材の育成を重要な経営課題と位置づけています。階層別の研修体系の整備や組織活性化に向けた研修プログラムなどを通じて、従業員が働きがいと成長実感を持って活躍できる環境の構築を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 38.5歳 | 13.7年 | 6,616,698円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.1% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 80.5% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 50.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、全従業員における女性比率(22.4%)、年次有給休暇取得率(30%以上)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 生産・開発拠点の集中
宮城県の仙台北部中核工業団地に拠点を集約して効率的な体制を構築している一方、大地震等の災害発生時に生産・開発体制全体が影響を受け、製品供給が滞るリスクがあります。対策として、在庫の分散保有や新潟工場での生産拡充によるリスク分散を進めています。
■(2) 小径切削工具への集中
主力の超硬小径エンドミルに経営資源を集中しているため、将来的に他の素材や新たな加工方法(レーザー加工機など)に代替された場合、事業に影響が及ぶ可能性があります。同社は他の素材の研究や、小径切削工具の比較優位性をアピールすることで対応を図っています。
■(3) 原材料の調達および資源価格の上昇
主要素材である超硬合金の原料タングステンは国際市況商品であり、価格や供給量が需給関係や生産国の動向に大きく影響されます。原料価格の高騰に対し、原価低減や価格改定、調達先の分散および在庫の積み増しなどで安定調達に努めています。



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