※本記事は、株式会社TDK の有価証券報告書(第129期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. TDKってどんな会社?
フェライト技術を祖業とし、積層セラミックコンデンサや二次電池、センサなどをグローバルに展開する総合電子部品メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1935年、磁性材料フェライトの工業化を目的として東京電気化学工業として設立されました。1961年に東京証券取引所へ上場し、1983年に現在のTDKへ社名を変更しています。2005年にはリチウムポリマー電池製造のAmperex Technology Limitedを買収しエナジー事業を強化しました。2017年には米国のセンサ事業会社InvenSense, Inc.を買収するなど、M&Aを通じて事業ポートフォリオの変革を進めています。
同社グループは連結従業員数105,067人、単体6,241人の体制で事業を展開しています。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行(日本マスタートラスト信託銀行)で、第2位も同様に資産管理を行う信託銀行(日本カストディ銀行)となっており、機関投資家が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 26.89% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 12.67% |
| JP MORGAN CHASE BANK 385632 | 3.37% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長執行役員CEOは齋藤 昇氏が務めています。取締役の過半数を社外取締役が占めており、経営の透明性確保に努めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 齋藤 昇 | 代表取締役社長執行役員CEO加湿器対策本部長 | 1989年入社。欧州営業統括部長、電子部品営業本部長、センサシステムズビジネスカンパニーCEOなどを歴任。2022年社長執行役員に就任し、2024年4月より現職。 |
| 山西 哲司 | 代表取締役副社長執行役員CFО | 1983年入社。経理部長、経理・財務本部長などを経て、2018年代表取締役に就任。2024年4月より現職。 |
| 佐藤 茂樹 | 取締役専務執行役員電子部品ビジネスカンパニーCEО | 1989年入社。プロセス技術開発センター長、技術・知財本部長、CTOなどを歴任。2025年4月より現職。 |
社外取締役は、中山 こずゑ(元横浜市文化観光局長)、岩井 睦雄(日本たばこ産業取締役会長)、山名 昌衛(コニカミノルタシニアアドバイザー)、勝本 徹(元ソニーグループ執行役副社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「受動部品」「センサ応用製品」「磁気応用製品」「エナジー応用製品」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 受動部品
セラミックコンデンサ、アルミ電解コンデンサ、フィルムコンデンサ、インダクティブデバイス(コイル等)、高周波部品などを提供しています。主な顧客は自動車、産業機器、ICT関連のメーカーです。
収益は、これらの電子部品の販売対価として顧客から受け取ります。運営は、同社およびTDK Electronics AG(ドイツ)、TDK Xiamen Co., Ltd.(中国)などの国内外の子会社が行っています。
■(2) センサ応用製品
温度・圧力センサ、磁気センサ、MEMSセンサ(マイクロフォン、モーションセンサ等)を提供しています。自動車や産業機器、スマートフォンなどのICT機器向けに販売しています。
収益は、センサ製品の販売により得ています。運営は、同社に加え、TDK-Micronas GmbH(ドイツ)やInvenSense, Inc.(米国)などの子会社が担っています。
■(3) 磁気応用製品
HDD用ヘッド、HDD用サスペンション、マグネットを提供しています。主な顧客はHDDメーカーやモーターを使用する自動車・産業機器メーカーです。
収益は、製品の販売対価として顧客から受け取ります。運営は、同社およびSAE Magnetics (H.K.) Ltd.(香港)、Magnecomp Precision Technology Public Co., Ltd.(タイ)などの子会社が行っています。
■(4) エナジー応用製品
エナジーデバイス(リチウムイオン二次電池等)および電源製品を提供しています。スマートフォンやタブレット、ノートPCなどのICT機器向け二次電池が主力で、産業機器用電源なども扱っています。
収益は、製品の販売により得ています。特に二次電池は主要顧客グループへの売上が大きく寄与しています。運営は、同社およびAmperex Technology Ltd.(香港)などの子会社が行っています。
■(5) その他
製造設備(メカトロニクス)や、スマートフォン向けカメラモジュール用マイクロアクチュエータなどを提供しています。
収益は、装置や部品の販売対価として得ています。運営は、同社およびTDK Taiwan Corporationなどの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は拡大傾向にあります。2021年3月期から2022年3月期にかけて大幅に伸長し、その後も2兆円台を維持しています。2025年3月期は円安の影響やICT市場の回復により過去最高の売上高と税引前利益を記録しました。当期利益も増加傾向にあり、収益性が向上しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 14,790億円 | 19,021億円 | 21,808億円 | 21,039億円 | 22,048億円 |
| 税引前利益 / 経常利益 / 営業利益 | 1,173億円 | 1,725億円 | 1,672億円 | 1,792億円 | 2,378億円 |
| 利益率(%) | 7.9% | 9.1% | 7.7% | 8.5% | 10.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 747億円 | 1,313億円 | 1,142億円 | 1,247億円 | 1,672億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は4.8%増加し、売上総利益も増加しました。売上総利益率は31.2%と高い水準を維持しています。営業利益は29.7%の大幅増益となり、営業利益率も10.2%へと改善しました。為替の円安効果や数量増に加え、合理化や構造改革の効果が利益を押し上げました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 21,039億円 | 22,048億円 |
| 売上総利益 | 6,030億円 | 6,880億円 |
| 売上総利益率(%) | 28.7% | 31.2% |
| 営業利益 | 1,729億円 | 2,242億円 |
| 営業利益率(%) | 8.2% | 10.2% |
■(3) セグメント収益
エナジー応用製品が売上の過半を占め、増収増益を牽引しました。磁気応用製品はHDD需要の回復により大幅な増収と黒字転換を果たしています。一方、受動部品は自動車向け需要の減少等で減収減益となり、センサ応用製品は増収ながら減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 受動部品 | 5,656億円 | 5,596億円 | 539億円 | 341億円 | 6.1% |
| センサ応用製品 | 1,805億円 | 1,895億円 | 60億円 | 50億円 | 2.6% |
| 磁気応用製品 | 1,842億円 | 2,236億円 | -356億円 | 34億円 | 1.5% |
| エナジー応用製品 | 11,217億円 | 11,765億円 | 1,957億円 | 2,344億円 | 19.9% |
| その他 | 518億円 | 556億円 | -18億円 | -44億円 | -8.0% |
| 調整額 | - | - | -453億円 | -483億円 | - |
| 連結(合計) | 21,039億円 | 22,048億円 | 1,729億円 | 2,242億円 | 10.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は「健全型」です。本業の営業活動でしっかりと現金を稼ぎ出し(プラス)、将来のための設備投資やM&Aなどを積極的に行い(マイナス)、有利子負債の返済を進めている(マイナス)状態です。財務基盤は安定しており、健全な経営が行われています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 4,470億円 | 4,458億円 |
| 投資CF | -2,166億円 | -2,448億円 |
| 財務CF | -1,464億円 | -1,433億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.5%で市場平均とほぼ同じ水準である一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、東京工業大学(現 東京科学大学)で発明された磁性材料フェライトの工業化を目的としたベンチャー企業として設立されました。「創造によって文化、産業に貢献する」という社是に基づき、独創性を追求し、イノベーションにより創造した新たな価値の提供を通じて、企業価値を高めることを基本方針としています。
■(2) 企業文化
同社は、「創造によって文化、産業に貢献する」という社是のもと、新しい発想とチャレンジ精神を持ち続けることを重視しています。また、グループガバナンスにおいて「Empowerment & Transparency(権限移譲と透明性の確保)」を掲げ、迅速かつ自律的な意思決定と業務執行における透明性の両立を目指す文化があります。
■(3) 経営計画・目標
同社は2024年に長期ビジョンを制定し、その実現に向けた中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)を推進しています。最終年度である2027年3月期に向けた財務目標と、エンゲージメントや環境対応などの未財務目標を設定しています。
* 売上高:2兆5,000億円
* 営業利益率:11%以上
* ROE:10%以上
* ROIC:8%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
グリーントランスフォーメーション(GX)とデジタルトランスフォーメーション(DX)を大きな成長機会と捉え、長期ビジョンの実現に向けて「キャッシュ・フロー経営の強化」「事業ポートフォリオマネジメントの強化」「フェライトツリーの進化(未財務資本の強化)」を3本柱として推進しています。
* 設備投資等の選択と集中による投資効率の管理強化
* 未財務資本(技術力、組織力、人的資本等)の強化による持続的な企業価値向上
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、長期ビジョン「TDK Transformation」の実現に向け、多様性を尊重し、インクルーシブなリーダーシップの実践を推進しています。最高人事責任者(CPSO/CHRO)のもと、グローバルな視点から「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」「イノベーションと効率性の強化」「従業員の健康とエンゲージメントの向上」を重点課題とし、自律型人財やグローバル人財の育成に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.2歳 | 17.2年 | 8,302,532円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.3% |
| 男性育児休業取得率 | 54.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 71.9% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 66.3% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、TME(エンゲージメント)-コミュニケーションスコア(68pt)、TME(エンゲージメント)-サーベイ参加率(90%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済動向変化によるリスク
同社グループのエレクトロニクス事業は、主要消費地である米国、欧州、中国、日本などの経済動向に大きく左右されます。各国の政治・国際問題や景気変動が予想を超えて変化した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。これに対し、製造拠点の最適化や固定費管理の徹底による経営体質改善を進めています。
■(2) 為替変動によるリスク
海外売上高比率が92%に達しており、取引通貨の多くが米ドルやユーロであるため、為替変動の影響を受けます。急激な円高は売上や利益の減少要因となります。リスク軽減のため、外貨建て購買の拡大や現地調達化、為替予約の活用などを進めていますが、大幅な変動は業績に影響を与える可能性があります。
■(3) 国際的な事業活動におけるリスク
世界30以上の国・地域で事業を展開しており、特に中国への売上依存度が高く(連結売上の54%)、生産拠点も集中しています。地政学リスク、貿易摩擦、各国の法規制変更、政治的不安定さなどが顕在化した場合、サプライチェーンや事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。リスク情報の収集と分析、生産拠点の最適化などで対応を図っています。
■(4) 原材料等の調達におけるリスク
マグネット用の重希土類や電池用のコバルトなど、特定の国や地域に依存する原材料を使用しています。輸出入規制、災害、需給逼迫による供給不足や価格高騰、紛争鉱物問題などが発生した場合、生産への影響やコスト増のリスクがあります。調達ルートの複線化や代替材料の開発、サプライチェーンのCSR確認などを進めています。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。