日本電波工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本電波工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する日本電波工業は、水晶振動子や水晶発振器など水晶デバイスの製造・販売を主力事業としています。直近の業績トレンドとしては、売上高が546億円で増収となった一方、将来に向けた研究開発や設備への先行投資等により営業利益は減益となりましたが、当期利益は増益を確保しています。


※本記事は、日本電波工業株式会社の有価証券報告書(第85期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 日本電波工業ってどんな会社?


水晶振動子や水晶発振器など、周波数制御・選択・検出に関連する水晶デバイスの製造および販売を展開しています。

(1) 会社概要


1948年に設立され、翌年より水晶振動子の製造販売を開始しました。1960年には水晶発振器の製造へと領域を広げ、1963年に株式を店頭登録しています。1970年代から米国、マレーシア、英国等へ海外子会社を設立しグローバル展開を推進、1998年に東京証券取引所市場第一部に指定、2022年にプライム市場へ移行しました。

同社グループの連結従業員数は2,313名、単体では672名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に信託業務を行う日本カストディ銀行となっています。第3位にはスイスの金融機関であるSIX SIS LTD.が名を連ねており、機関投資家や海外投資家の比率が高い傾向にあります。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 13.71%
日本カストディ銀行(信託口) 6.96%
SIX SIS LTD.(常任代理人 三菱UFJ銀行) 4.32%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役執行役員社長は加藤啓美氏が務めています。社外取締役比率は37.5%です。

氏名 役職 主な経歴
加藤啓美 代表取締役執行役員社長 1976年同社入社。マレーシア子会社の社長や経営企画室長、管理本部長等を歴任。取締役執行役員副社長を経て2019年より現職。
上木健一 取締役常務執行役員技術本部長 1989年同社入社。マレーシア子会社社長や技術統括本部の各部門長を歴任。執行役員技術本部長を経て2021年より現職。
及川英之 取締役常務執行役員営業サービス本部長 1995年同社入社。欧州子会社社長や営業サービス本部副本部長等を歴任。執行役員営業サービス本部長を経て2021年より現職。
菅原賢一 取締役常務執行役員生産本部長 1989年同社入社。国内外の各製造部門長や子会社役員を歴任。執行役員生産本部長を経て2021年より現職。
竹内謙 取締役常務執行役員管理本部長 2006年リクルート入社。2012年同社入社。米国子会社出向や営業企画部長等を歴任。執行役員営業サービス本部副本部長を経て2021年より現職。


社外取締役は、安樂恒樹(元東京国税局課税第二部長)、筧悦子(元日本アイ・ビー・エムCIOサービスJapan担当理事)、相神一裕(元JVCケンウッド代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「水晶デバイス等」の単一セグメントで事業を展開しています。

(1) 水晶振動子および水晶発振器


スマートフォンや車載機器、AIデータセンターなどのデータサーバー向けに、高周波・高精度・低位相雑音を特徴とする水晶振動子および水晶発振器を提供しています。高い品質と安定供給力を強みとし、国内外の幅広い顧客に対して付加価値の高いタイミングデバイスを展開しています。

顧客に対する製品の販売を通じて収益を得るモデルです。同社が主体となって製造および販売を行うほか、国内では古川エヌ・デー・ケーなどの連結子会社に製造を委託しています。海外ではマレーシアや中国蘇州の子会社に製造を委託し、販売面でも北米や欧州、中国、台湾などの現地法人がグローバルに事業を推進しています。

(2) その他応用機器、人工水晶および水晶片等


半導体製造装置や検査装置、プロ仕様のカメラ市場などに向けた光学製品や応用機器、高品質な人工水晶および水晶片等の部材を提供しています。水晶原石の世界最高水準の高純度と、原材料から加工・製品化までの一貫技術を競争優位の源泉とし、防衛・宇宙分野や産業機器分野等のニーズに対応しています。

これらの関連製品や部材の販売を通じた収益モデルとなります。運営は同社が主体となって製造販売を行うほか、国内においては古川エヌ・デー・ケーなどの連結子会社および持分法適用会社であるNDK SAW devicesに製造を委託しています。また、海外においてはマレーシアの連結子会社に製造を委託する体制を敷いています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は一時的な変動を伴いながらも、車載向けやデータセンター向け需要を背景に500億円台で推移し、全体として拡大傾向にあります。利益面では第82期にピークを迎えましたが、その後の市況変化や将来の成長基盤強化に向けた先行投資の負担により減少傾向にあります。それでも持続的に一定の利益水準を確保しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 454億円 525億円 503億円 531億円 546億円
税引前利益 49億円 75億円 31億円 30億円 26億円
利益率(%) 10.8% 14.3% 6.2% 5.6% 4.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 55億円 62億円 23億円 18億円 21億円

(2) 損益計算書


売上高は前年同期を上回って推移しているものの、売上総利益および営業利益は減少しています。これは将来の成長基盤を強化するための取り組みとして、研究開発やDX、および最先端設備への先行投資を積極的に実施したことが、当期の利益を一時的に押し下げる要因となったためです。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 531億円 546億円
売上総利益 161億円 157億円
売上総利益率(%) 30.3% 28.8%
営業利益 46億円 34億円
営業利益率(%) 8.7% 6.1%


販売費及び一般管理費(当期99億円)のうち、人件費が47億円(構成比47%)、支払手数料が17億円(同17%)を占めています。また、売上原価(当期389億円)においては、原材料費が170億円(構成比44%)、労務費が107億円(同28%)を占めています。

(3) セグメント収益


同社は「水晶デバイス等」の単一セグメントであるため、全体業績での分析となります。当期は、AIデータセンター向けの関連需要が堅調に推移したほか、特機向け製品も伸長し増収となりました。一方で、将来の成長に向けた先行投資や基盤強化の費用が先行したことなどにより、利益面では減益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
連結(合計) 531億円 546億円 46億円 34億円 6.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」に分類されます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 61億円 42億円
投資CF -45億円 -74億円
財務CF 19億円 -24億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.8%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は29.6%であり、いずれも市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


創業理念として「お客様への奉仕を通じて、社会の繁栄、世界の平和に貢献する」ことをミッションに掲げています。豊かで平和な社会を実現するために不可欠な周波数の制御と選択、検出に関連する製品の専業メーカーとして、業界をリードする高信頼性商品を開発、製造、販売し、顧客に喜ばれることを経営の基本としています。

(2) 企業文化


全社員が共有する普遍的な行動指針として「品質」「挑戦」「チームワーク」「主体性」の「4つの志」を掲げています。個々がもつ多様性を組織の力につなげ、互いを尊重し高め合うチームワークを築くことや、多様なライフスタイルや価値観を受け入れる寛容な職場環境を整備し、創造的な対話を広げる活力ある組織風土の醸成を重視しています。

(3) 経営計画・目標


2026年3月期を初年度とする3か年の中期経営計画を策定し、将来の成長に向けた新規領域の検討を進めながら、中長期的な事業ポートフォリオの持続的成長を目指しています。また、温室効果ガス排出量に関する目標として、2030年度までにスコープ1および2で2023年度比42%削減を掲げています。

(4) 成長戦略と重点施策


事業ポートフォリオ構想として「Five Pillars + One」を掲げ、車載、移動体、産機、光学、特機の5つの市場を柱としつつ、新規領域(+One)の開拓による持続的成長を図ります。また、長期的な市場ニーズの明確化と先行開発を推進するためマーケティング部門を設置し、大学や研究機関との連携を通じた技術戦略の強化に取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人的資本を企業価値へつなげる」という課題に対し、「人の成長を、事業成長の推進力に」を基軸とした人材戦略を推進しています。多様で優秀な人材の確保と活躍支援、柔軟な働き方の進化、キャリアデザイン面談などを通じた主体的なキャリア形成の支援、そして組織の垣根を超えて「全社で人を育てる会社」の実現に向けた取り組みを進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 43.1歳 16.5年 7,011,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.2%
男性育児休業取得率 33.3%
男女賃金差異(全労働者) 78.8%
男女賃金差異(正規労働者) 81.2%
男女賃金差異(非正規労働者) 58.0%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、中途採用における女性比率(21.0%)、従業員一人当たりのeラーニング受講プログラム数(4.4講座)、離職率(2.16%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 競争激化のリスク


水晶業界は競争が非常に厳しく、想定以上の価格下落や、最大限の経営努力をしても競争優位を維持できないリスクがあります。また、競争力を維持するために多額の研究開発や設備投資が必要であり、投資計画の前提条件が変動した場合には投資を回収できない可能性や機会損失を被るリスクが存在します。

(2) 仕入先等に関するリスク


同社グループは製品の製造にあたり、多岐にわたる原材料等を購入しています。これらが安定的に調達・維持できない場合、想定していた利益を確保できないリスクや、工程の遅延、機会損失、ならびに顧客等への賠償責任が発生するリスクがあります。

(3) 各国の公的規制リスク


グローバルな事業展開を行っているため、国内外の進出先において国家安全保障上の輸出入規制や、通商、独占禁止、租税などの政府規制の適用を幅広く受けています。これらの規制や法令の変更により、事業停止等による業績への影響が出るほか、対応コストが増加するリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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