※本記事は、池上通信機株式会社 の有価証券報告書(第84期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 池上通信機ってどんな会社?
放送局向けのプロ用カメラやモニター、産業用映像機器等を展開し、「技術の池上」として知られる企業です。
■(1) 会社概要
1946年、通信機用小型変圧器等の製造を目的に創業し、1948年に法人を設立しました。1949年よりNHK技術研究所の指導を受け、放送機器分野へ進出しました。1961年に株式を公開し、その後、米国や西ドイツ(現ドイツ)に現地法人を設立するなどグローバル展開を推進してきました。2022年の東証市場区分見直しに伴い、現在はスタンダード市場へ移行しています。
連結従業員数は812名、単体では655名です。筆頭株主は池上通信機従業員持株会、第2位は池上通信機取引先持株会であり、従業員や取引先が主要な株主となっている点が特徴です。第3位には個人株主が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 池上通信機従業員持株会 | 3.73% |
| 池上通信機取引先持株会 | 2.99% |
| 豊嶋 唯充 | 2.64% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性1名、計12名で構成され、女性役員比率は8.3%です。代表取締役社長最高経営責任者は清森 洋祐氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 清森 洋祐 | 代表取締役社長最高経営責任者 | 1976年東京芝浦電気(現東芝)入社。2008年池上通信機入社。常務、専務、副社長を経て、2012年10月より現職。 |
| 青木 隆明 | 取締役社長補佐 総務、法務、人事、経理、情報システム、DX推進、ESG経営推進担当(兼)専務執行役員経営管理本部長 | 1984年入社。経営戦略部長、経営管理本部長等を歴任。2025年6月より現職。 |
| 小島 睦 | 取締役技術・開発・知的財産戦略、生産・調達担当(兼)常務執行役員システムセンター担当 | 1983年東京芝浦電気(現東芝)入社。2016年池上通信機入社。生産調達統括本部付主席技監等を経て、2025年6月より現職。 |
| 篠田 広司 | 取締役営業・マーケティング、CS推進担当(兼)上席執行役員営業・マーケティング本部長 | 1985年入社。放送システム営業第一部門長、営業本部長等を歴任。2023年6月より現職。 |
| 荒川 潤 | 取締役経営戦略、IR、広報、秘書担当(兼)上席執行役員社長室長 | 2001年入社。社長室経営戦略部長、執行役員社長室長兼経営戦略部長を経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、永井 研二(元NHK専務理事・技師長)、薄田 賢二(元不二越代表取締役社長)、安田 明代(弁護士)、秋津 勝彦(元日本アビオニクス代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「情報通信機器」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 放送システム事業
放送局や映像制作プロダクション、官公庁等を主な顧客とし、放送用カメラシステム、中継車、映像伝送装置、モニターなどの映像制作・配信に関連する機器を提供しています。特に4K・8Kといった高精細映像技術に対応した製品開発に注力しています。
収益は、これらの機器の販売代金やシステム構築費用、および納入後の保守サービス料から得ています。運営は主に池上通信機が担当し、海外では米国やドイツ、シンガポールの現地法人が各地域での販売・サービスを行っています。
■(2) 産業システム事業
セキュリティ、メディカル、検査装置の3分野を展開しています。セキュリティ分野では官公庁や鉄道向け監視カメラ、メディカル分野では手術用カメラや顕微鏡用カメラ、検査装置分野では医薬品等の錠剤検査装置を提供しており、幅広い産業分野の顧客を対象としています。
収益源は、各市場に向けた製品の販売代金および保守サービス料です。また、メディカル事業等ではOEM供給による売上も含まれます。国内での開発・生産は池上通信機および子会社のテクノイケガミが行い、海外販売は現地法人が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は200億円前後で推移していますが、利益面では変動が見られます。2023年3月期には赤字を計上しましたが、翌期には黒字回復を果たしました。当期は再び減益となり、利益率は低い水準にとどまっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 219億円 | 185億円 | 221億円 | 216億円 | 207億円 |
| 経常利益 | 5.0億円 | 2.9億円 | -10億円 | 9.0億円 | 2.9億円 |
| 利益率(%) | 2.3% | 1.6% | -4.5% | 4.2% | 1.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 3.9億円 | 11億円 | -10億円 | 6.5億円 | 1.9億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高の減少に伴い、売上総利益および営業利益が縮小しています。営業利益率は前期の3.7%から1.2%へと低下しており、収益性の改善が課題となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 216億円 | 207億円 |
| 売上総利益 | 67億円 | 59億円 |
| 売上総利益率(%) | 31.2% | 28.5% |
| 営業利益 | 7.9億円 | 2.5億円 |
| 営業利益率(%) | 3.7% | 1.2% |
販売費及び一般管理費のうち、給料等人件費が23億円(構成比41%)、研究開発費が9億円(同16%)を占めています。売上原価については、商品及び製品の原価等が計上されています。
■(3) セグメント収益
同社グループは、「情報通信機器」事業の単一セグメントであり、個別事業の利益を開示していません。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業は赤字だが、将来成長のため借入で投資を継続する「勝負型」です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 30億円 | -35億円 |
| 投資CF | -8億円 | -5億円 |
| 財務CF | -2億円 | 11億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は47.4%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、社会における存在意義(パーパス)を『「技術」のチカラで、あなたをしあわせに。』と定めています。卓越した技術で新たな価値を創造し、持続可能な社会インフラ構築の一翼を担うことで、広く世の中に貢献し、社会から必要とされる企業であり続けることを目指しています。
■(2) 企業文化
創業理念である「技術の向上、開発へのたゆまざる意欲と不屈の精神」をベースに、「Ikegami Way」の追求を掲げています。絶え間ない技術研鑽と革新への挑戦を通じて技術優位性を確立し、顧客ニーズをいち早く具現化することで、顧客満足と社会の信頼に応える姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2026年3月期の通期連結業績目標として、以下の数値を掲げています。
* 売上高:215億円
* 営業利益:4.0億円
* 経常利益:2.5億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:2.0億円
■(4) 成長戦略と重点施策
産業システム事業では、防衛や鉄道等の公共性の高い分野および医薬市場向け検査装置等の成長領域に注力し、売上拡大と高収益化を図ります。放送システム事業では、IP対応製品の開発強化やソリューション提案により更新需要を取り込み、事業の安定化を目指します。
* 産業システム事業:防衛市場への研究開発・販売強化、医薬市場向け検査自動化ニーズへの対応、海外OEM事業の開拓。
* 放送システム事業:次世代新技術を活用したトータルシステムソリューションの提案強化、4Kカメラシステムの販売促進。
* その他:サプライチェーンの多様化による地政学的リスク対応、ESG経営の推進。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を最大の経営資源と位置づけ、失敗を恐れず挑戦する好奇心、最後までやり抜く責任感、柔軟な発想で行動できる人材を求めています。多様な人材が能力を発揮できるよう、公正な選考と育成を行うとともに、ワークライフバランスに配慮した柔軟な仕組みや、差別のない健全な職場環境の整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 46.5歳 | 21.5年 | 7,069,043円 |
※平均年間給与は賞与および基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.6% |
| 男性育児休業取得率 | 100% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.4% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 53.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性社員比率(23%)、管理職の中途採用者比率(23%)、年次有給休暇取得率(74%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国際情勢について
同社グループは米国、欧州、アジア等で事業を展開しており、各地域の経済状況や地政学的要因、法的規制の影響を受ける可能性があります。特にウクライナ情勢や中東地域の情勢によるインフレ等は、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、現地法人との連携強化やサプライチェーンの強化、為替予約等によるリスク軽減に努めています。
■(2) 災害・事故について
工場での労働安全衛生や環境マネジメントシステムの認証取得、震災マニュアルの策定等に取り組んでいますが、大規模地震や台風等の自然災害、工場や輸送中の事故等が発生した場合、生産設備の被害や供給支障が生じ、経営成績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 品質リスク
製品の品質・安全性には細心の注意を払っていますが、製造物責任(PL)問題や製品の不具合による賠償請求等が発生するリスクがあります。これに備え、設計段階からのデザインレビューや製品化前の評価試験、出荷前テストを徹底しています。また、競合他社との競争激化による製品競争力の低下リスクに対しても、次世代技術の習得やマーケティング戦略の実行により対応しています。



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