池上通信機 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

池上通信機 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

池上通信機は、東京証券取引所スタンダード市場に上場する情報通信機器メーカーです。主に放送局向けのカメラや中継車システムなどの放送システム事業と、医療用カメラや検査装置などの産業システム事業を展開しています。直近の業績は、国内外でシステム案件が好調に推移し、前年同期比で増収増益を達成しました。


※本記事は、池上通信機株式会社の有価証券報告書(第85期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 池上通信機ってどんな会社?


同社は、放送局向けカメラや医療用カメラなど、高品質な情報通信機器を開発・製造するメーカーです。

(1) 会社概要


同社は1946年に池上通信機材製作所として創業しました。1961年に東京証券取引所第二部に上場し、1984年には同第一部へ指定替えとなりました。その後、海外での販売体制強化を進め、テクノイケガミの連結子会社化やシンガポール法人の設立などを経て、現在はグローバルに情報通信機器事業を展開しています。

同社グループは連結で774名、単体で630名の従業員を擁しています。筆頭株主は合同会社センスで、第2位は金融商品取引業者のINTERACTIVE BROKERS LLC、第3位には自社の従業員持株会が名を連ねており、安定した株主構成となっています。

氏名 持株比率
センス 4.79%
INTERACTIVE BROKERS LLC 4.15%
池上通信機従業員持株会 3.98%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性1名の計12名で構成され、女性役員比率は8.3%です。代表取締役社長最高経営責任者は清森洋祐氏が務めています。社外取締役は4名選任されています。

氏名 役職 主な経歴
清森洋祐 代表取締役社長最高経営責任者 東芝入社後、同社に入社。経営戦略統括部担当、常務取締役、専務取締役、取締役副社長などを経て、2012年より現職。
青木隆明 取締役社長補佐 総務、法務、人事、経理、情報システム、DX推進、ESG経営推進担当(兼)専務執行役員経営管理本部長 同社入社後、経営管理本部長、常務取締役などを歴任し、2025年より現職。
小島睦 取締役技術・開発・知的財産戦略、生産・調達担当(兼)常務執行役員システムセンター担当 東芝入社後、同社に入社。システムセンター長、常務執行役員などを経て、2025年より現職。
篠田広司 取締役営業・マーケティング、CS推進担当(兼)上席執行役員営業・マーケティング本部長 同社入社後、放送通信事業本部部門長、営業本部長などを歴任し、2023年より現職。
荒川潤 取締役経営戦略、IR、広報、秘書担当(兼)上席執行役員社長室長 同社入社後、社長室経営戦略部長などを経て、2025年より現職。


社外取締役は、永井研二(元NHKアイテック社長)、薄田賢二(元不二越社長)、安田明代(弁護士)、秋津勝彦(元日本アビオニクス社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「情報通信機器」の単一セグメントで事業を展開していますが、大きく分けて放送システム事業と産業システム事業を展開しています。

(1) 放送システム事業


放送局向けのスタジオカメラや中継車搭載用カメラ、公営競技市場向けシステム、官公庁向けのヘリコプター電送システムなどの情報通信機器を提供しています。国内の放送局や映像プロダクション、官公庁のほか、北米や欧州、アジアなどグローバル市場に向けて製品やシステムを展開しています。

顧客である国内外の放送局や官公庁等から、機器の販売代金や据付調整費用、保守サービス料を収益として得ています。開発・生産および国内市場への販売は池上通信機が中心となって行い、北米や欧州などの海外市場での販売およびサービス活動は各地域の現地子会社が担っています。

(2) 産業システム事業


医療分野向けの内視鏡用・顕微鏡用カメラや医療用モニター、セキュリティー分野向けの監視カメラや鉄道向けシステムなどを提供しています。さらに、医薬品市場向けの錠剤検査装置などの検査・画像処理ソリューションも手掛けており、多岐にわたる産業分野のニーズに応えています。

国内外の医療機関や官公庁、鉄道会社、医薬品メーカー等から製品販売代金や保守サービス料を得るほか、海外メーカーへのOEM供給による収益も得ています。同事業も放送システム事業と同様に、主に池上通信機と国内外の現地子会社が共同で運営し、販売やサポートを提供しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、売上高は安定して200億円前後で推移しています。一時的に利益が落ち込んだ時期もありましたが、その後は放送局向けシステムや産業用機器の需要回復に支えられ、黒字基調を維持しています。直近の決算でも増収増益を達成しており、安定した収益基盤を確立しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 185億円 221億円 216億円 207億円 213億円
経常利益 3億円 -10億円 9億円 3億円 4億円
利益率(%) 1.6% -4.5% 4.2% 1.7% 1.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 1億円 -10億円 7億円 2億円 4億円

(2) 損益計算書


直近2期間の業績を比較すると、放送局向け製品や官公庁向けシステムの販売が好調に推移したことで、売上高・各段階利益ともに増加しました。売上総利益率の改善も見られ、収益性が着実に向上していることが確認できます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 207億円 213億円
売上総利益 59億円 65億円
売上総利益率(%) 28.5% 30.5%
営業利益 3億円 4億円
営業利益率(%) 1.2% 1.9%


販売費及び一般管理費のうち、給料等人件費が25億円(構成比40%)、研究開発費が10億円(同17%)を占めています。売上原価は148億円で、売上高に対する構成比は69%となっています。

(3) セグメント収益


同社は「情報通信機器」の単一セグメントで事業を展開しています。当期は、放送システム事業において国内の放送局向けカメラや中継車システムが堅調だったことに加え、官公庁向けシステムが大きく伸長したことで増収となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
情報通信機器 207億円 213億円
連結(合計) 207億円 213億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスの「健全型」です。本業で生み出した営業利益をもとに、事業拡大に向けた投資を行いながら、借入金の返済も進めている優良なキャッシュ・フローの状態です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF -35億円 15億円
投資CF -5億円 -10億円
財務CF 11億円 -2億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は47.8%でこちらも市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、社会における存在意義(パーパス)を『「技術」のチカラで、あなたをしあわせに。』と定めています。卓越した技術と匠の技で社会が求める新たな価値を創造し、持続可能な社会インフラ構築の一翼を担い、社会から必要とされる企業であり続けることを目指しています。

(2) 企業文化


創業理念として「技術の向上、開発へのたゆまざる意欲と不屈の精神を支えとし、使って喜ばれる製品を作り出し、世の中に寄与してゆく」ことを掲げています。絶え間ない技術の研鑽に努め、時代を先取りした技術革新に果敢に挑戦し続けるという価値観を全社で共有し、事業活動を推進しています。

(3) 経営計画・目標


同社は、中期的な経営指標として2027年3月期の通期連結業績目標を定めています。売上高の拡大と利益の創出を目指し、各事業領域において販売促進と新規市場の開拓を進めています。

* 売上高:210億円
* 営業利益:3億円
* 経常利益:1億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:5億円

(4) 成長戦略と重点施策


産業システム事業の注力領域(防衛・鉄道等のセキュリティー、医薬検査など)への成長・拡大戦略と、放送システム事業における安定的事業規模の維持・確保を推進しています。また、コア技術の進化と深耕、アライアンスの活用により既存事業のバリューアップを図り、事業領域の更なる拡大を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、多様性に富む従業員が各々の生活環境に合わせた働きやすい柔軟な仕組みを選択でき、ワークライフバランス推進に資する社内環境を整備しています。失敗を恐れず挑戦する好奇心旺盛な人材や、柔軟な発想で行動できる人材を求め、職場の安全と心身の健康を守るとともに、健全な職場環境の確保に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 46.7歳 21.3年 6,661,526円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.3%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 75.2%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 78.3%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 52.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性社員比率(24%)、管理職の中途採用者比率(29%)、年次有給休暇取得率(79%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 国際情勢に関するリスク


同社グループは米国、欧州、アジア等で製品を供給しているため、各地域の経済状況や地政学的要因の影響を受ける可能性があります。原材料価格の高騰や供給制限が生じた場合、経営成績に影響を及ぼす恐れがあるため、各現地法人と連携してサプライチェーンの強化を図っています。

(2) 品質および製品開発に関するリスク


情報通信機器の設計から製造に至るまで品質管理を徹底していますが、製品の不具合による賠償や製造物責任問題を提起される可能性があります。また、市場での競争激化によって製品競争力が相対的に低下するリスクもあるため、次世代技術の獲得やマーケティング戦略の実行に注力しています。

(3) コンプライアンスに関するリスク


国内外で事業を展開する上で、各国の法的規制の適用を受けています。法令違反や社会規範に反した行動が発生した場合、社会的制裁を受け、顧客からの信頼を失うリスクがあります。同社は、リスク・コンプライアンス委員会を設置し、従業員への教育を通じて未然防止に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。