※本記事は、TOA株式会社 の有価証券報告書(第77期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. TOAってどんな会社?
音響機器と映像機器の製造販売を主力とし、「音の報せる力」を軸にグローバルに事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1934年に東亞特殊電機製作所として創業し、拡声放送機器の製造を開始しました。1949年に法人改組し、1977年に大阪証券取引所市場第二部へ上場しました。1989年に現社名へ変更し、2013年には東京証券取引所市場第一部へ上場、2022年の市場区分見直しに伴いプライム市場へ移行しました。近年では2024年にオランダの空港向け放送システム企業を買収するなど、グローバル展開を加速させています。
連結従業員数は3,144名、単体では816名です。筆頭株主は同社の取引先で構成される持株会であり、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。安定した株主構成のもと、長期的な視点での経営が行われています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| TOA取引先持株会 | 9.37% |
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 8.78% |
| 公益財団法人神戸やまぶき財団 | 6.65% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名(監査役)の計9名で構成され、女性役員比率は11.0%です。代表取締役社長は谷口方啓氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 谷口方啓 | 代表取締役社長 | 1994年入社。英国現法社長、経営企画室長、管理本部長などを歴任し、グローバル開発本部長を経て2023年より現職。 |
| 井谷憲次 | 取締役会長 | 1976年入社。物流部長、SCM本部長、オーディオ開発本部長などを経て2009年社長就任。2017年より現職。 |
| 早川宏 | 取締役執行役員ソリューション営業本部長 | 1986年入社。九州沖縄営業部長、首都圏営業部長などを歴任し、ソリューション営業本部長として国内営業を統括。2022年より現職。 |
| 西野崇 | 取締役執行役員海外事業本部長 | 1995年入社。アジア・パシフィック事業部長などを経て、2024年海外事業本部長就任。2024年より現職。 |
社外取締役は、村田雅詩(元参天製薬常勤監査役)、半田実(元ソニー品質・環境センター副センター長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「アジア・パシフィック」「欧州・中東・アフリカ」「アメリカ」「中国・東アジア」の5つの報告セグメントを展開しています。
■(1) 日本
音響・映像製品の企画・開発から製造、販売までを一貫して行っています。業務用放送設備、防犯カメラシステム、鉄道車両向け放送システムなどを提供しており、顧客は官公庁、交通インフラ、商業施設、教育機関など多岐にわたります。
製品の販売による収益が主軸であり、機器の納入に加え、システム設計や施工、保守サービス等の対価を得ています。運営は主に同社が行い、製造はアコース株式会社やタケックス株式会社等の国内子会社が担当し、販売やエンジニアリング機能はTOAエンジニアリング株式会社等が担っています。
■(2) アジア・パシフィック
東南アジア、オセアニア、インド等において、音響・映像製品の販売を行っています。急速な都市開発が進む地域において、商業施設や交通インフラ、宗教施設等への納入実績を拡大しています。インドネシアやベトナムには生産拠点も有しています。
製品販売による収益が中心です。各国の市場ニーズに合わせたローカル製品の展開も進めています。運営は、シンガポールのTOA ELECTRONICS PTE LTDをはじめ、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム等の現地販売子会社が行っています。
■(3) 欧州・中東・アフリカ
欧州全域および中東、アフリカ地域において、音響・映像製品の販売および空港向けソリューションの提供を行っています。特にボイスアラームシステム等の非常用放送設備や、空港施設向けの多言語放送システムに強みを持っています。
製品およびシステムソリューションの販売による収益を得ています。運営はドイツのTOA Electronics Europe G.m.b.H.等が統括し、2024年に買収したオランダのPA-Vox Holding B.V.が空港向けシステム開発・販売を担っています。
■(4) アメリカ
北米(米国、カナダ)および中南米地域において、音響・映像製品の販売を行っています。学校向けの教育用オーディオシステムや、店舗・商業施設向けのBGM・放送システム、鉄道車両関連事業などを展開しています。
製品の販売による収益を得ています。運営は米国のTOA ELECTRONICS, INC.、カナダのTOA CANADA CORPORATION、および鉄道関連を扱うTOA Communication Systems, Inc.が行っています。
■(5) 中国・東アジア
中国、台湾、香港、韓国等において、音響・映像製品の販売を行っています。中国では空港や大規模施設への納入、台湾では半導体工場向け等の需要に対応しています。台湾には生産拠点も有しています。
製品の販売による収益を得ています。運営は中国のTOA (CHINA) LIMITED.、香港のTOA (HONG KONG) LIMITED、台湾のTOA ELECTRONICS TAIWAN CORPORATION等が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は長期的に増加傾向にあり、直近の第77期には500億円を突破しました。利益面では、第76期に大幅な増益を達成した後、第77期も増益基調を維持しています。経常利益率は7%台後半で推移しており、収益性は安定的に向上しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 406億円 | 409億円 | 451億円 | 488億円 | 506億円 |
| 経常利益 | 26億円 | 24億円 | 21億円 | 37億円 | 39億円 |
| 利益率(%) | 6.3% | 5.9% | 4.7% | 7.6% | 7.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 11億円 | 11億円 | 21億円 | 19億円 | 23億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い売上総利益が増加し、売上総利益率も改善傾向にあります。販管費も増加していますが、増収効果により吸収し、営業利益率は上昇しています。本業の収益力が着実に強化されていることが読み取れます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 488億円 | 506億円 |
| 売上総利益 | 209億円 | 225億円 |
| 売上総利益率(%) | 42.9% | 44.4% |
| 営業利益 | 30億円 | 36億円 |
| 営業利益率(%) | 6.2% | 7.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び福利費が108億円(構成比57.0%)、販売諸経費が24億円(同12.6%)を占めています。人件費が主要なコスト要因となっています。
■(3) セグメント収益
日本セグメントは万博関連の納入等により増収増益でした。アジア・パシフィックおよび欧州・中東・アフリカは大型案件や為替効果により増収増益となりました。一方、中国・東アジアは不動産不況等の影響で減収減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 284億円 | 296億円 | 63億円 | 66億円 | 22.4% |
| アジア・パシフィック | 94億円 | 100億円 | 17億円 | 19億円 | 19.3% |
| 欧州・中東・アフリカ | 63億円 | 65億円 | 7億円 | 8億円 | 12.4% |
| アメリカ | 26億円 | 27億円 | 1億円 | 2億円 | 6.2% |
| 中国・東アジア | 20億円 | 18億円 | 2億円 | 1億円 | 5.8% |
| 連結(合計) | 488億円 | 506億円 | 30億円 | 36億円 | 7.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 51億円 | 56億円 |
| 投資CF | -9億円 | -24億円 |
| 財務CF | -52億円 | -21億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は72.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「プロの厳しい基準にかなう高い専門性を追求し、徹底した市場細分化と創造的な商品開発により、人間社会の《音によるコミュニケーション》に貢献する国際企業をめざす」という企業目的を掲げています。また、企業価値を「Smiles for the Public -人々が笑顔になれる社会をつくる-」と定めています。
■(2) 企業文化
同社は「三つの安心」を経営基本方針としています。これは「顧客が安心して使用できる商品をつくる」「取引先が安心して取引きできるようにする」「従業員が安心して働けるようにする」という3点を重視する価値観であり、創業以来一貫してこの方針に基づき事業を進めています。
■(3) 経営計画・目標
2030年を見据えた経営ビジョンとして「Dr. Sound -社会の音を良くするプロフェッショナル集団- になる」を掲げています。中期経営基本計画の最終年度である2026年3月期の業績目標として、以下の数値を公表しています。
* 連結売上高:545億円
* 連結営業利益:45億円
* 連結経常利益:47億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:27.5億円
■(4) 成長戦略と重点施策
パブリック空間における「音の報せる力」を進化させるため、カメラやセンサー、AI技術を組み合わせたソリューション提供の自動化・自律化を推進しています。また、デジタルシフト推進と人材育成に注力し、DX本部の新設やサプライチェーンのデジタル化を進めています。
* ネットワーク技術とオープン規格を活用した新たなコミュニケーションシステムの発売
* 大阪・関西万博におけるネットワーク統合型放送システムの実装とフィードバック活用
* 産学官との共創や連携の深化
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「成長が実感できる人材育成」「エンゲージメント向上」「ダイバーシティの推進」を重点課題とし、これらを支えるデジタルシフトとグローバル視点の醸成に取り組んでいます。社内インターンシップ制度の導入やデジタルスキルの可視化、対話を通じた信頼関係の醸成などを進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.1歳 | 15.8年 | 6,958,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.2% |
| 男性育児休業取得率 | 77.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 62.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 64.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 72.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントサーベイ総合スコア(66.3pt)、健康経営度総合評価(52.8)、年次有給休暇取得率(70.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 海外活動および為替変動のリスク
海外売上高比率が高く、生産拠点も海外に配置しているため、各国の景気後退や政治情勢、法制度変更の影響を受けます。また、外貨建て取引や海外子会社の財務諸表換算において為替変動の影響を受けるリスクがあります。地産地消や為替マリー等でリスク低減を図っていますが、急激な変動は業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原材料等の調達および価格高騰リスク
製品生産のために外部から原材料や半導体等の電子部品を調達しています。調達難や価格高騰が継続した場合、生産活動や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、生産工程の自動化、生産キャパシティの拡大、設計変更、製品価格の改定などの対策を講じています。
■(3) 研究開発および人材確保のリスク
市場において継続的に新商品を投入する必要があり、研究開発力が経営の重要要素です。研究開発投資が必ずしも成果に結びつかないリスクがあるほか、技術スキルの高い人材の確保・育成ができなかった場合、企業の成長や競争力維持に支障をきたす可能性があります。



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