※本記事は、TOA株式会社の有価証券報告書(第78期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. TOAってどんな会社?
音響および映像機器の製造・販売を中心に、公共空間における情報伝達ソリューションを提供するグローバル企業です。
■(1) 会社概要
1934年に東亞特殊電機製作所として創業し、トランペットスピーカーやマイクロホン等の製造販売を開始しました。1949年に法人組織へ改組し、1989年に現在のTOAへ社名変更しています。国内外で販売や生産の子会社を設立して事業を拡大し、直近ではオランダ企業の子会社化も行っています。
同社グループの従業員数は連結で3,083名、単体で823名体制となっています。筆頭株主は同社の取引先で構成されるTOA取引先持株会で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は公益財団法人が名を連ねています。国内外のグループ会社と連携した事業展開が特徴です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| TOA取引先持株会 | 8.36% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.22% |
| 公益財団法人神戸やまぶき財団 | 5.76% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.0%です。代表取締役社長は谷口方啓氏が務めています。取締役6名のうち2名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 谷口方啓 | 代表取締役社長 | 1994年同社入社。経営企画室長、執行役員管理本部長、執行役員グローバル開発本部長などを経て、2023年より現職。 |
| 早川宏 | 取締役執行役員国内営業本部長 | 1986年同社入社。営業本部九州沖縄営業部長、執行役員ソリューション営業本部長などを経て、2026年より現職。 |
| 西野崇 | 取締役執行役員海外事業本部長 | 1995年同社入社。海外事業本部アジア・パシフィック事業部長、執行役員海外事業本部長などを経て、2026年より現職。 |
| 音野徹 | 取締役執行役員開発本部長 | 1987年同社入社。タケックス社長、執行役員グローバル開発本部長などを経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、村田雅詩(元参天製薬常勤監査役)、半田実(有明興業マテリアルズ代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」、「アジア・パシフィック」、「欧州・中東・アフリカ」、「アメリカ」、「中国・東アジア」の各報告セグメントで事業を展開しています。
■日本
主に同社が企画・開発を行った音響製品および映像製品や、鉄道車両関連製品を日本の顧客向けに提供しています。非常用放送設備をはじめとする多様な音響・映像システムを展開し、国内の官公庁や商業施設、オフィスビル、鉄道インフラなどの安全性や運用効率の向上を支援しています。
製品の販売による収益を主な収益源としています。事業の運営は同社を中心に、アコースやタケックスなどが製品の開発および製造を担い、販売やエンジニアリングサポートをTOAエンジニアリングが担当するなど、複数社で機能分担しながら展開しています。
■アジア・パシフィック
アジアおよびオセアニア地域の市場に向けて、同社グループが企画・開発した音響・映像機器を提供しています。インドネシアでの新庁舎向けや、タイの官公庁、マレーシアの空港、シンガポールの工場など、多様な公共施設やインフラ関連の顧客ニーズに対応しています。
販売子会社を通じた音響および映像製品の販売による収益を主な収益源としています。事業の運営は、シンガポールに拠点を置くTOA ELECTRONICS PTE LTDをはじめとする現地の販売子会社複数社が担当し、各地域の市場開拓を行っています。
■欧州・中東・アフリカ
欧州、中東、およびアフリカ地域を対象に、音響・映像製品や放送システムソリューションを提供しています。アラブ首長国連邦やサウジアラビアの建設需要、南アフリカの官公庁や大型発電プラント向けなど、広範なインフラ整備に関わる顧客を支援しています。
各地域での製品販売および放送システムソリューションの提供を通じた収益を主な収益源としています。事業の運営は、ドイツのTOA Electronics Europe G.m.b.H.やオランダのPA-Vox Holding B.V.などが担当しています。
■アメリカ
米国およびカナダの市場に向けて、同社グループの音響・映像製品などを提供しています。主な顧客層として、米国の小売店や工場、カナダの教育市場や鉄道施設などがあり、現地の施設運用や情報伝達の効率化に貢献する機器を幅広く展開しています。
現地における音響関連製品などの販売による収益を主な収益源としています。事業の運営は、米国ニュージャージー州に拠点を置くTOA ELECTRONICS, INC.などの現地の販売子会社が担当し、アメリカ市場での販売活動を推進しています。
■中国・東アジア
中国、香港、台湾、韓国などの東アジア地域の市場に対して、音響・映像機器を提供しています。現地のインフラ整備や施設運営を支援するため、香港の病院向けや中国の空港向け、台湾の工場向けなど、幅広い業界の顧客にソリューションを展開しています。
同社グループ製品の現地市場での販売による収益を主な収益源としています。事業の運営は、中国・上海のTOA (CHINA) LIMITED.などをはじめとする現地の販売子会社複数社が担当し、東アジア各国の需要に応じた販売体制を構築しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は継続的な増加傾向を示しており、特に直近では大幅な成長を達成しています。経常利益も一時的な踊り場はあったものの、その後は順調に拡大し、利益率も大きく改善しています。最終的な当期利益についても安定して高い水準を確保し、力強い業績の伸びが確認できます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 409億円 | 451億円 | 488億円 | 506億円 | 554億円 |
| 経常利益 | 24億円 | 21億円 | 37億円 | 39億円 | 52億円 |
| 利益率(%) | 5.9% | 4.7% | 7.6% | 7.7% | 9.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 11億円 | 21億円 | 19億円 | 23億円 | 33億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の拡大に伴い、売上総利益および営業利益ともに前期から大きく増加しています。売上総利益率は安定した水準を維持しつつ、営業利益率も上昇しており、本業における収益性の高さと利益創出効果の高まりがうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 506億円 | 554億円 |
| 売上総利益 | 225億円 | 247億円 |
| 売上総利益率(%) | 44.4% | 44.6% |
| 営業利益 | 36億円 | 47億円 |
| 営業利益率(%) | 7.1% | 8.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び福利費が113億円(構成比56.5%)、販売諸経費が24億円(同11.9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントにおいて、前期から売上が増加しています。特に主力の日本市場では官公庁や商業施設向けの納入が伸び、欧州・中東・アフリカ市場では大型プロジェクトの獲得により大きな成長を遂げるなど、全体として順調な拡大傾向が見られます。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 296億円 | 326億円 |
| アジア・パシフィック | 100億円 | 102億円 |
| 欧州・中東・アフリカ | 65億円 | 77億円 |
| アメリカ | 27億円 | 30億円 |
| 中国・東アジア | 18億円 | 19億円 |
| 連結(合計) | 506億円 | 554億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
キャッシュ・フローの状況を見ると、営業活動、投資活動、財務活動のすべてのキャッシュ・フローがプラスとなっており、営業CFと資金調達に加え、資産の入れ替え等により手元資金を確保し、事業の転換や投資に向けた備えを進めている局面と言えます。
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は76.0%で市場平均を上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 56億円 | 59億円 |
| 投資CF | -24億円 | 11億円 |
| 財務CF | -21億円 | 28億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「Smiles for the Public 人々が笑顔になれる社会をつくる」という企業目的を掲げています。社会の公器として、人々の集まりである社会に対し「安心・信頼・感動」という価値を提供し、すべての人々が笑顔になれる社会の実現を目指しています。また、すべての企業活動の原点をお客様に置き、顧客が真に求める価値を常に問い続ける姿勢を基本方針としています。
■(2) 企業文化
企業目的を実現するための行動指針として「お客様が安心して使用できる商品をつくる」「取引先が安心して取引きできるようにする」「従業員が安心して働けるようにする」という「三つの安心」を定めています。また、これを日常業務に生かすための価値観として「信用、協力、堅実、先進」の四つの言葉を掲げ、多様な人材の主体的な挑戦と活躍を重んじる文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
2034年度の創業100周年に向けた長期経営戦略「NEXT100 TOA」をスタートし、事業成長と社会課題の解決を両立させる目標を掲げています。その最初の3年間を計画期間とする中期経営基本計画において、「事業構造の再定義」を起点に変革の道筋を定め、持続的な飛躍的成長に向けた土台作りを推進しています。
* 2034年度連結売上高目標:1,000億円超
* 2027年3月期業績目標:売上高565億円、営業利益47億円
* 2029年3月期業績目標:売上高600億円、営業利益51億円、ROIC 6.6%
■(4) 成長戦略と重点施策
強い収益構造の確立を目指し、すべての人が適切に情報を受け取れる社会に向けた「報せるソリューションの革新」や、有望地域への活動強化による「海外成長の加速」を進めています。また、現場の安全性や運用効率の向上を支援する顧客支援ソリューションを進化させ、既存領域とは異なる新規事業開発を推進するとともに、高付加価値化とデジタル技術を活用した事業基盤の強化に取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、人材と技術への投資を強化し、「個の強み」×「チーム力」×「挑戦」の好循環を生み出す人材戦略を推進しています。「自律的な成長支援」「マネジメント力強化」「挑戦が生まれる仕組みづくり」を重要テーマとし、業務時間の一部を学びに充てる制度の導入や、社内インターンシップの実施など、多様な人材が主体的に挑戦し活躍できる職場環境の整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.9歳 | 15.4年 | 7,470,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.2% |
| 男性育児休業取得率 | 77.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.9% |
| 男女賃金差異(正規労働者) | 65.6% |
| 男女賃金差異(非正規労働者) | 74.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率(72.6%)、エンゲージメントサーベイ総合スコア(67.3pt)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 海外活動にかかるリスク
同社は日本だけでなく、アジアや欧州、アメリカなど複数の海外セグメントで事業を展開し、海外生産子会社も多く配置しています。そのため、進出先の各国・地域における景気後退や需要の縮小、予期せぬ法規制や税制の変更、政治的な不安定要因や社会的混乱などが発生した場合、サプライチェーンや販売に支障をきたし、グループ全体の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 情報セキュリティにかかるリスク
事業活動において個人情報や取引先の秘密情報など多くの重要情報を保有しているほか、ネットワークを介して連携する製品やサービスを提供しています。外部からのサイバー攻撃や不正アクセス、従業員の不注意による情報漏えいやシステムの停止、製品の誤作動などのインシデントが発生した場合、社会的信用の低下や損害賠償費用の発生につながるリスクが存在します。
■(3) 品質問題の発生にかかるリスク
多様な音響・映像関連の製品やサービスをグローバルに製造・販売しており、公共の安全や情報伝達に関わる製品も多く取り扱っています。製品に欠陥が生じた場合、製造物賠償責任保険でカバーしきれない多大な賠償費用の発生や、製品回収・対策費用の負担が生じるおそれがあり、ブランド価値の毀損や顧客からの評価低下を招き、財務状況に影響を与えるリスクがあります。



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