※本記事は、アイホン株式会社の有価証券報告書(第68期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アイホンってどんな会社?
アイホンはインターホンを中心とした通信機器の専門メーカーです。国内外で住宅・ケア・業務市場向けにシステムを提供しています。
■(1) 会社概要
アイホンは1959年3月に名古屋市熱田区で設立された通信機器メーカーです。1970年7月にアメリカへ進出し、1999年1月に東京証券取引所市場第二部へ上場しました(2022年にプライム市場へ移行)。2000年にはタイ、2007年にはベトナムに生産拠点を設立するなどグローバル展開を進めています。
現在の体制として、連結従業員数は2,029名、単体では1,067名が在籍しています。筆頭株主は創業家の市川周作氏で、第2位は信託業務等を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位は従業員持株会となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 市川周作 | 11.66% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.55% |
| アイホン従業員持株会 | 4.99% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役会長は市川周作氏、代表取締役社長は鈴木富雄氏が務めています。社外取締役は取締役5名中3名です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 市川周作 | 取締役会長(代表取締役) | 1975年同社入社。商品企画室長、豊田工場長、営業本部長、代表取締役社長を経て、2019年4月より現職。 |
| 鈴木富雄 | 取締役社長執行役員(代表取締役) | 2014年同社入社。技術管理部長、経営企画室副室長、執行役員経営企画部長を経て、2023年4月より現職。 |
社外取締役は、入谷正章(元愛知県弁護士会会長)、繁治義信(元みずほ銀行常務執行役員)、吉野彩子(弁護士法人後藤・太田・立岡法律事務所弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、日本、北米、欧州、タイ、ベトナムの各報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■(1) 日本
国内の戸建住宅・集合住宅、医療・福祉施設、オフィス・公共施設向け通信機器の製造・販売を行っています。リニューアル市場やケア市場に向けたソリューション提案を推進しています。
収益源は製品の販売や据付工事・修理等で、事業の運営はアイホンが行っています。
■(2) 北米・欧州
北米および欧州市場向けに、セキュリティニーズに対応したIPネットワーク対応商品などの販売を行っています。
製品販売による収益を柱としており、北米ではアイホンコーポレーションが、欧州ではアイホンS.A.S.およびアイホンUKがそれぞれ販売活動を担っています。
■(3) タイ・ベトナム
海外市場向けの製品を生産する拠点として機能しており、自動化と省人化を通じた効率的な生産体制の構築に取り組んでいます。
グループ内での製品供給を主な役割としており、タイではアイホンコミュニケーションズ(タイランド)が、ベトナムではアイホンコミュニケーションズ(ベトナム)が運営しています。
■(4) その他
アジアやオセアニア地域の市場開拓に向けた販売事業を展開しています。シンガポールを中心とする販売体制の強化を進めています。
製品販売による収益を得ており、オーストラリアではアイホンPTYが、シンガポールではアイホンPTE.が販売を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の売上高は500億〜600億円台で推移していますが、経常利益率は原材料価格の変動や開発投資の影響を受け、近年は低下傾向にあります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 520億円 | 528億円 | 613億円 | 633億円 | 630億円 |
| 経常利益 | 59億円 | 42億円 | 61億円 | 42億円 | 32億円 |
| 利益率(%) | 11.4% | 7.9% | 10.0% | 6.6% | 5.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 35億円 | 24億円 | 42億円 | 29億円 | 15億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は概ね横ばいですが、部品コストの増加などにより売上総利益が減少しました。また、人件費等の増加により営業利益も減益となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 633億円 | 630億円 |
| 売上総利益 | 272億円 | 265億円 |
| 売上総利益率(%) | 43.0% | 42.1% |
| 営業利益 | 38億円 | 28億円 |
| 営業利益率(%) | 6.0% | 4.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当及び賞与が89億円(構成比37%)、研究開発費が30億円(同13%)、アフターサービス費が14億円(同6%)を占めています。
■(3) セグメント収益
日本市場および海外市場ともに堅調な需要を維持していますが、北米市場では販売代理店の在庫調整により一時的な売上減少が見られます。一方、東南アジア等のその他地域は増収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 456億円 | 476億円 |
| 北米 | 118億円 | 95億円 |
| 欧州 | 43億円 | 42億円 |
| その他 | 16億円 | 17億円 |
| 連結(合計) | 633億円 | 630億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」の状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 57億円 | 22億円 |
| 投資CF | -7億円 | -23億円 |
| 財務CF | -24億円 | -23億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は87.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
経営理念として「自分の仕事に責任を持て 他人に迷惑をかけるな」を掲げています。また、「コミュニケーションとセキュリティの技術で社会に貢献する」という経営ビジョンの下、「新しい安心をかたちに」をパーパスとして位置づけています。
■(2) 企業文化
サステナビリティ基本方針において、全てのステークホルダーが安心・安全・快適を実感できる商品やサービスを提供することを重視しています。健全で誠実な組織風土を基盤としつつ、変革を捉える挑戦意識の醸成にも取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2032年度までの長期経営戦略では、成長の軸足を海外市場にシフトし、高収益体質の実現を目指しています。具体的な経営指標として、経営基盤の強化に向けた連結売上高営業利益率を重要な指標に設定しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
国内では集合住宅市場のインターホンリニューアルや、ケア市場での見守り支援ニーズを取り込んだソリューション提案を強化します。海外では北米・欧州市場の深耕に加え、シンガポールを中心としたアジア・オセアニア地域の販売体制強化を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
高い専門性を持つ人材のキャリア採用やカムバック制度の導入など、多様な人材の確保・育成を進めています。複線型人事制度の導入や公募型研修の拡充を通じて、社員の主体的な成長と挑戦を促す環境整備に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.9歳 | 15.3年 | 7,085,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.3% |
| 男性育児休業取得率 | 83.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 75.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 50.3% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、外国人管理職比率(24.9%)、中途採用者管理職比率(50.6%)、管理職に占める女性割合の2025年度実績(8.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 新設住宅市場への依存
国内における新設住宅の着工戸数減少が、同社グループの製品需要を低下させ、経営成績に悪影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 競争激化
インターホンを中心とする通信機器市場において競合他社との価格競争が激化した場合や、市場環境の悪化により需要が変動した場合に、収益が圧迫される可能性があります。
■(3) 部品調達
多数の取引先から部品を調達しているため、国際情勢の変動や取引先の事情による部品の供給停止、遅延、価格高騰などが生じた場合、安定的な生産に支障をきたす恐れがあります。
■(4) 品質問題の発生
品質管理には万全を期しているものの、予期せぬ製品の不具合等が発生し、製造物賠償責任などの対応費用が生じた場合、ブランド価値の毀損や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。



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