※本記事は、アイコム株式会社の有価証券報告書(第62期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アイコムってどんな会社?
無線通信機器の製造および販売を主力とし、グローバルに事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1954年に創業し、1964年に井上電機製作所(現アイコム)として設立され、アマチュア用無線通信機器の製造販売を開始しました。1976年に海上用、1982年に陸上業務用へと事業領域を拡大し、1990年には大阪証券取引所市場第二部に上場を果たしました。その後、2001年に東京・大阪両証券取引所市場第一部への上場を実現しています。近年では、2023年にソフトウェア開発会社であるマクロテクノスを買収するなど、技術力の強化とシステム展開を推進しています。
従業員数は連結で1,063名、単体で639名です。筆頭株主は創業者の井上徳造氏で、第2位はその他の法人であるギガパレスとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 井上 徳造 | 14.28% |
| ギガパレス | 10.26% |
| 公益財団法人アイコム電子通信工学振興財団 | 6.97% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長は中岡洋詞氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 井上 徳造 | 代表取締役会長 | 1954年4月井上電機製作所創業。1964年7月同社設立、代表取締役社長。2006年6月代表取締役会長、2020年8月代表取締役会長兼社長を経て、2021年6月より現職。 |
| 中岡 洋詞 | 代表取締役社長 | 1984年4月同社入社。1999年7月Icom America,Inc.代表取締役社長、2006年6月取締役、2008年6月執行役員を経て、2021年6月より現職。 |
| 榎本 芳記 | 取締役 | 1985年4月同社入社。2007年4月経理部長、2015年6月執行役員経理部長、2024年6月取締役経理部長を経て、2026年4月より現職。 |
社外取締役は、吉澤晴幸(元目黒電波測器社長)、本夛昭文(SOAソリューションズ会長)、村上洋子(村上洋子税理士事務所代表者)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「北米」「ヨーロッパ」「アジア・オセアニア」事業を展開しています。
■日本
同社グループは、日本セグメントにおいて陸上業務用、アマチュア用、海上用などの無線通信機器およびネットワーク機器の製造を行っています。また、完成した製品や周辺機器を国内市場や海外の販売子会社等に向けて販売しています。
収益源は、各製品の販売代金や周辺機器を含むシステム販売によるものです。製品の製造はアイコムおよび子会社の和歌山アイコムが担い、商品の販売はアイコムおよびアイコム情報機器が行っています。また、コムフォースが無線通信システムの構築やサポートを提供しています。
■北米
北米セグメントでは、アメリカを中心とする市場において、同社グループが製造した陸上業務用無線通信機器、アマチュア用無線通信機器、海上用無線通信機器、航空用無線通信機器などの販売を展開しています。
収益は、現地での製品販売代金から得ています。事業の運営は、主に子会社のIcom America, Inc.がアメリカにおいて販売を担っているほか、ICOM CANADA HOLDINGS INC.やICOM DO BRASIL RADIOCOMUNICACAO LTDA.などが各地域で展開しています。
■ヨーロッパ
ヨーロッパセグメントでは、ドイツやスペインなどの主要市場において、同社グループの各種無線通信機器製品の販売を行っています。特に海上用無線通信機器やアマチュア用無線通信機器の需要に対応しています。
製品の販売代金が主な収益源となっています。事業の運営は、現地の販売子会社であるIcom(Europe)GmbHおよびIcom Spain, S.L.が主体となって行っています。
■アジア・オセアニア
アジア・オセアニアセグメントでは、オーストラリアを中心とした市場において、同社グループの無線通信機器製品の販売を展開しています。また、同社への生産用部材の調達拠点としての機能も有しています。
収益は主に製品販売代金によるものです。販売事業の運営は子会社のIcom(Australia)Pty.,Ltd.が行い、部材の調達はPURECOM CO.,LTD.およびICOM ASIA CO.,LTD.が担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は300億円台後半で比較的安定して推移していますが、直近では海外市場における需要の本格回復に至らず、わずかに減収となりました。経常利益も利益率10%前後の水準を維持しているものの、直近では微減益となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 283億円 | 342億円 | 371億円 | 375億円 | 370億円 |
| 経常利益 | 16億円 | 33億円 | 44億円 | 39億円 | 38億円 |
| 利益率(%) | 5.6% | 9.5% | 11.9% | 10.4% | 10.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 5億円 | 20億円 | 33億円 | 24億円 | 27億円 |
■(2) 損益計算書
売上高はわずかに減少しており、売上総利益も連動して微減となっています。売上総利益率はほぼ横ばいで推移していますが、販売費及び一般管理費の増加が影響し、営業利益と営業利益率は低下しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 375億円 | 370億円 |
| 売上総利益 | 166億円 | 162億円 |
| 売上総利益率(%) | 44.4% | 43.8% |
| 営業利益 | 37億円 | 29億円 |
| 営業利益率(%) | 9.9% | 7.9% |
販売費及び一般管理費のうち、試験研究費が43億円(構成比32%)、給料及び手当が35億円(同26%)を占めています。売上原価は208億円で、売上高に対する構成比は56%となっています。
■(3) セグメント収益
日本は国内の業務用無線通信機器が堅調で増収となりましたが、北米では関税政策や需要減少が響き、減収となっています。ヨーロッパやアジア・オセアニアは増収となったものの、全体としてはやや弱含みの推移となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 211億円 | 212億円 |
| 北米 | 121億円 | 113億円 |
| ヨーロッパ | 26億円 | 28億円 |
| アジア・オセアニア | 16億円 | 17億円 |
| 連結(合計) | 375億円 | 370億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFおよび財務CFはマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い投資も手元資金で賄う健全型のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 25億円 | 27億円 |
| 投資CF | -27億円 | -36億円 |
| 財務CF | -14億円 | -12億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は89.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「常に最高の技術集団であれ」を社是として掲げています。また、「コミュニケーションで創る楽しい未来・愉快な技術」を経営理念とし、コミュニケーションを円滑に行う機器を作るメーカーとして、急速に発展する情報社会や安全で豊かな社会の実現に貢献することを使命として事業を営んでいます。
■(2) 企業文化
同社は、無線通信機器の専業メーカーにこだわり、創業以来一貫して国内生産(Made in Japan)を堅持する文化を持っています。自社で設計から開発、生産技術、製造までを国内で密接に連携させ、高品質かつ高信頼性の製品を供給するモノづくりを重視しています。また、エンドユーザーとの継続的な対話を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、2030年3月期までの4年間を「新しい転換期」と位置付け、「中期経営計画2030」を策定し、持続的な成長と競争力の強化を図っています。
* 売上高:430億円
* 営業利益:43億円
* 営業利益率:10%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社グループは、RF(高周波)技術を中核技術と位置付け、無線通信分野へ経営資源を集中させています。製品ジャンルを超えて技術資産を横断的に活用し、IP無線を活用したストックビジネスの展開を進めています。中期経営計画では、以下の柱を掲げています。
* 公共インフラへの参入
* 事業提携の加速
* M&Aの推進
* 防衛通信市場への参入
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社グループでは、経営戦略の一環として人材確保や育成を経営基盤の強化策に据えています。社員のリスキリングを支援する取り組みや階層別研修の実施により能力の最大化を図るほか、メンター制度の導入で若手の成長をサポートしています。また、多様な人材が能力を発揮できる組織づくりとしてダイバーシティ&インクルージョンを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.7歳 | 15.8年 | 6,665,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.5% |
| 男性育児休業取得率 | 66.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 76.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 99.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、産休育休取得後の復帰率(100%)、新卒採用に占める女性労働者の割合(17%)、月平均時間外労働時間(6.2時間)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 生産拠点に関するリスク
同社グループは生産拠点を和歌山県内に設置しており、自然災害による被害を抑える対策を講じています。しかし、想定を超える規模の地震や台風等が発生した場合、生産設備の被害やサプライチェーンの寸断によって操業が中断する可能性があります。
■(2) 原材料の調達に関するリスク
電子部品などの原材料を日本国内や中国、東南アジア諸国などから調達しています。調達先において紛争や自然災害などの予期しない要因が発生し、長期にわたり調達が滞るような事態になれば、経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 為替相場の変動によるリスク
同社グループは海外売上高の割合が高水準にあります。外貨建て支払いによる原材料調達の拡大などの対策を講じていますが、為替相場の変動は同社グループの経営成績や財政状態に直接的な影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 知的財産権に関するリスク
特許権や商標権などの知的財産権を取得して自社の技術を保護し、第三者の権利を侵害しないよう慎重に調査しています。しかし、第三者との間で無効、模倣、侵害等の知的財産権に関する問題が発生した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。



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