アイコム 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アイコム 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の無線通信機器専業メーカー。陸上業務用、アマチュア用、海上用などの無線機やネットワーク機器を製造販売しています。第61期は円安効果や国内入札案件の獲得により、売上高は3期連続で過去最高を更新。営業利益も増益となりましたが、為替差損の計上により経常利益は減益となりました。


※本記事は、アイコム株式会社 の有価証券報告書(第61期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. アイコムってどんな会社?


無線通信機器の専業メーカーとして、陸上・海上・航空・アマチュア用など幅広い分野で製品を展開するグローバル企業です。

(1) 会社概要


1954年に井上電機製作所として創業し、1964年に法人化しました。1976年に欧州現地法人を設立して海外展開を本格化させ、1990年に大証二部へ上場しました。2001年には東証・大証一部へ上場し、2022年の市場区分見直しによりプライム市場へ移行しました。2024年にはコムフォースを子会社化しています。

連結従業員数は1,057名、単体では627名です。筆頭株主は創業者の井上徳造氏で、第2位は資産管理会社と思われる法人、第3位は投資関連法人となっています。

氏名 持株比率
井上 徳造 14.28%
ギガパレス 10.26%
UH Partners 2 9.61%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長は中岡 洋詞氏です。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
井上 徳造 代表取締役会長 1954年創業。1964年社長就任、2006年会長。2021年より現職。
中岡 洋詞 代表取締役社長 1984年入社。Icom America社長、取締役執行役員海外営業部長等を経て2021年より現職。
榎本 芳記 取締役経理部長 1985年入社。経理部経理課長、執行役員経理部長を経て2024年より現職。


社外取締役は、吉澤 晴幸(元目黒電波測器会長)、本夛 昭文(SOAソリューションズ会長)、村上 洋子(税理士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」「北米」「ヨーロッパ」「アジア・オセアニア」の報告セグメントで事業を展開しています。

(1) 日本


無線通信機器の製造・販売およびソフトウェア開発を行っています。親会社が製品開発と国内販売を担い、子会社の和歌山アイコムが製造を行うほか、アイコム情報機器が販売を行っています。また、子会社のマクロテクノスがソフトウェア開発を、コムフォースが通信システムの構築などを手掛けています。

収益は主に製品の販売代金やシステム構築・保守等のサービス対価です。主要な顧客には官公庁や民間企業が含まれます。運営は主にアイコム、和歌山アイコム、アイコム情報機器、マクロテクノス、コムフォースが行っています。

(2) 北米


米国、カナダ、ブラジル等において、陸上業務用、アマチュア用、海上用、航空用などの無線通信機器の販売を行っています。特に陸上業務用無線機の販売が主力であり、広大なエリアをカバーする通信ソリューションを提供しています。

収益は主に現地代理店やエンドユーザーからの製品販売代金です。運営は主にIcom America、ICOM CANADA HOLDINGSなどが担当しています。

(3) ヨーロッパ


ドイツ、スペイン等を拠点に、欧州地域における無線通信機器の販売を行っています。アマチュア無線機や陸上業務用無線機に加え、衛星通信機器などの販売も手掛けています。

収益は主に製品の販売代金です。運営は主にIcom (Europe) GmbH、Icom Spain, S.L.が行っています。

(4) アジア・オセアニア


オーストラリア、中国、ベトナム等において、製品の販売および部材の調達を行っています。オーストラリアでは無線通信機器の販売を、中国やベトナムでは製造用部材の調達やアジア地域への販売支援を行っています。

収益は主に製品の販売代金です。また、製造拠点が日本にあるため、部材調達機能も重要な役割を果たしています。運営は主にIcom (Australia)、PURECOM、ICOM ASIAなどが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間では売上高は増加傾向にあり、第61期は375億円で過去最高を記録しました。経常利益は変動がありつつも黒字を維持しており、利益率は10%前後で推移しています。当期利益も安定して確保しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 279億円 283億円 342億円 371億円 375億円
経常利益 23億円 16億円 33億円 44億円 39億円
利益率(%) 8.1% 5.6% 9.5% 11.9% 10.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 17億円 11億円 26億円 35億円 30億円

(2) 損益計算書


売上高は微増し、売上総利益率は44.4%と高い水準を維持しています。営業利益は増加しましたが、営業利益率は9.9%となっています。為替差損の影響等により経常利益は減少しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 371億円 375億円
売上総利益 160億円 166億円
売上総利益率(%) 43.2% 44.4%
営業利益 34億円 37億円
営業利益率(%) 9.2% 9.9%


販売費及び一般管理費のうち、試験研究費が40億円(構成比31%)、給料及び手当が34億円(同26%)を占めています。技術開発型企業として研究開発に重点を置いていることがわかります。売上原価は208億円で、売上高に対する構成比は56%です。

(3) セグメント収益


日本セグメントは国内需要や海外への輸出増加により増収となりましたが、内部取引の影響等で減益でした。北米は在庫調整の影響で減収減益、ヨーロッパは増収減益となりました。アジア・オセアニアは増収増益でした。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
日本 195億円 211億円 35億円 30億円 14.2%
北米 136億円 121億円 5億円 1億円 1.1%
ヨーロッパ 24億円 26億円 2億円 2億円 6.3%
アジア・オセアニア 16億円 16億円 1億円 1億円 9.0%
連結(合計) 371億円 375億円 34億円 37億円 9.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

アイコムは、営業活動を通じて堅調な資金を生み出しており、事業運営の基盤を支えています。一方で、将来の成長に向けた設備投資や有価証券への投資も積極的に行っています。株主還元としては、配当金の支払いを通じて利益を還元しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 22億円 25億円
投資CF -37億円 -27億円
財務CF -11億円 -14億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


創業以来、「常に最高の技術集団であれ」を社是としています。また、「コミュニケーションで創る楽しい未来・愉快な技術」を経営理念とし、円滑なコミュニケーションを実現する無線通信機器メーカーとして、安全で豊かな社会の実現に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


創業以来一貫して「Made in Japan」のモノづくりにこだわっています。ソフトウェア・ハードウェアを含めたほぼ全ての要素技術を自社で開発し、製品設計から製造までを国内拠点で行うことで、優れた製品を少量多品種で効率よく生産するノウハウを蓄積しています。

(3) 経営計画・目標


「アイコムを100年企業へ」をスローガンに、2026年3月期を最終年度とする「中期経営計画2026」を推進しています。持続的な成長に向けた取り組み(ESG)や高利益率を創出する会社基盤の強化を進めています。

(4) 成長戦略と重点施策


コアビジネスの強化として、無線機単体からシステムへの展開や衛星無線通信分野への進出を進めています。また、ストックビジネスの海外展開や異業種参入による新たなビジネスモデルへの挑戦、スマートファクトリー化によるモノづくりの改革に取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


中期経営計画において人材確保・育成を経営基盤強化策の一つと位置づけています。従業員のリスキリング支援やメンター制度の導入、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を通じて、社員一人ひとりが能力を最大限発揮できる組織づくりに取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 42.3歳 17.2年 7,055,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.4%
男性育児休業取得率 33.3%
男女賃金差異(全労働者) 71.2%
男女賃金差異(正規雇用) 76.9%
男女賃金差異(非正規雇用) 76.3%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用に占める女性労働者の割合(25%)、FSV取得率(81%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 生産拠点に関するリスク


生産拠点を和歌山県内に集中して設置しており、南海トラフ巨大地震等の自然災害が発生した場合、生産設備への被害やサプライチェーンの寸断により操業が中断し、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 原材料の調達に関するリスク


電子部品等の原材料を国内外から調達しており、紛争や自然災害等により調達が滞った場合、生産に支障をきたし業績に影響を与える可能性があります。調達先の複数化等でリスク軽減に努めています。

(3) 為替相場の変動によるリスク


海外売上高比率が高水準であり、為替相場の変動が業績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。外貨建て支払いによる原材料調達拡大等の対策を講じています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。