#日本タングステン転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態
※本記事は、株式会社日本タングステンの有価証券報告書(第114期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本タングステンってどんな会社?
粉末冶金技術をコアとし、自動車、半導体、衛生用品製造設備向けの精密部品等を製造・販売する企業です。
■(1) 会社概要
1931年に佐賀市で日本タングステン合名会社として設立され、翌1932年に株式会社へ改組しました。1961年に東京証券取引所市場第二部へ上場し、2022年の市場区分見直しに伴いスタンダード市場へ移行しました。タングステン等のレアメタル加工技術を軸に、超硬製品やセラミックス製品へと事業領域を拡大しています。
連結従業員数は511名、単体では430名体制です。筆頭株主は九州電力および九州電力送配電の退職給付信託口を持つ日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は福岡銀行、第3位は取引先持株会です。九州電力グループとの資本的な結びつきや、地元の金融機関・取引先との安定した関係を有しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(退職給付信託口・九州電力及び九州電力送配電口) | 6.87% |
| 福岡銀行 | 4.42% |
| 日本タングステン取引先持株会 | 4.34% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名(監査等委員)の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役取締役社長社長執行役員は後藤信志氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 後藤 信 志 | 代表取締役取締役社長社長執行役員 | 1982年同社入社。営業部長、ものづくり推進担当、開発技術センター担当等を経て2016年6月より現職。 |
| 中 原 賢 治 | 取締役副社長執行役員経営企画部担当 | 1989年ファナック入社。1996年同社入社。機械部品事業本部長、電機部品事業本部長等を歴任し2025年4月より現職。 |
| 毛 利 茂 樹 | 取締役常務執行役員事業統括責任者(営業本部・製造本部担当)、工場支援部担当 | 1982年同社入社。機械部品事業本部長、事業・開発技術統括責任者等を歴任し2025年4月より現職。 |
| 原 口 寿 | 取締役執行役員経営管理本部長、調達部担当、コンプライアンス担当 | 1986年ロイヤル(現ロイヤルホールディングス)入社。2006年同社入社。経営管理部長、経営戦略本部副本部長等を経て2025年4月より現職。 |
社外取締役は、成清好寛(九州電力執行役員)、仲宏敏(元TOTO監査役)、久留和夫(久留公認会計士事務所代表)、小田昌彦(元安川電機取締役監査等委員)、杉原知佳(三浦・奥田・杉原法律事務所共同経営弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「機械部品事業」「電機部品事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 機械部品事業
衛生用品製造設備用カッター(NTダイカッター)、HDD用磁気ヘッド基板、半導体・液晶関連部品、プラント用耐摩耗部品などを提供しています。主な顧客は、衛生用品メーカー、電子部品メーカー、産業機械メーカーなどです。
収益は、これらの精密加工部品や自動化・省力化機器の販売により得ています。運営は主に日本タングステンが行っており、海外においてはNIPPON TUNGSTEN USA, INC.やNIPPON TUNGSTEN EUROPE S.r.l.などの子会社が販売や再研磨サービスを担当しています。
■(2) 電機部品事業
電力機器用の電気接点、自動車電装部品や産業機器向けの電極、医療用・環境用途向けのタングステン・モリブデン製品などを提供しています。電力インフラや自動車産業、医療機器メーカーなどが主要な顧客となります。
収益は、各種接点・電極製品や素材の販売から得ています。運営は日本タングステンが中心となり、連結子会社の昭和電気接点工業所が電極製品等の受託加工を行っています。また、中国の上海恩悌三義実業発展有限公司も一部製造販売に関与しています。
■(3) その他
上記セグメントに含まれない事業として、ビル管理事業などを行っています。
収益は、ビル管理サービスの提供等から得ています。運営は日本タングステンが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は100億円前後から120億円台で推移しており、当期は前期比で増収となりました。利益面では、経常利益が7億円から12億円の範囲で推移しており、当期は増益を確保しています。当期利益についても黒字を維持しており、全体として安定した収益基盤を有しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 99億円 | 120億円 | 126億円 | 115億円 | 124億円 |
| 経常利益 | 6.4億円 | 12億円 | 12億円 | 7.9億円 | 10億円 |
| 利益率(%) | 6.5% | 10.3% | 9.7% | 6.9% | 7.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -3.1億円 | 7.3億円 | 7.4億円 | 4.6億円 | 6.6億円 |
■(2) 損益計算書
当期は前期と比較して増収増益となりました。売上高の増加に伴い売上総利益が増加し、売上総利益率も改善しています。販管費は増加しましたが、増収効果により営業利益率は上昇しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 115億円 | 124億円 |
| 売上総利益 | 26億円 | 29億円 |
| 売上総利益率(%) | 22.3% | 23.6% |
| 営業利益 | 4.8億円 | 6.9億円 |
| 営業利益率(%) | 4.2% | 5.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が9.3億円(構成比42%)、賞与引当金繰入額が1.5億円(同7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
機械部品事業は、HDD用磁気ヘッド基板やNTダイカッターが好調に推移し、大幅な増収増益となりました。電機部品事業は、自動車関連部品の需要低迷等はあったものの、産業用ブレーカー接点の回復等により増収となりましたが、利益面では減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 機械部品事業 | 64億円 | 71億円 | 5.0億円 | 8.9億円 | 12.4% |
| 電機部品事業 | 51億円 | 53億円 | 5.3億円 | 4.0億円 | 7.5% |
| 調整額 | -0.3億円 | -0.3億円 | -5.6億円 | -5.9億円 | - |
| 連結(合計) | 115億円 | 124億円 | 4.8億円 | 6.9億円 | 5.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業で稼いだ資金で借入返済を行いつつ、投資も自己資金の範囲内でコントロールしている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2.9億円 | 10億円 |
| 投資CF | -11億円 | -9.4億円 |
| 財務CF | -3.0億円 | -2.6億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は71.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、パーパスとして「より少なく、よりよく。Building a better world from less.」を掲げています。限りある資源をもとにものづくりを行う企業として、持続可能な社会への貢献を使命とし、経済だけでなく社会や地球環境に対して価値を提供することを目指しています。
■(2) 企業文化
2050年の長期ビジョンとして「サステイナブルビジョン2050」を策定しています。「より少なく、よりよく。」に共感するパートナーと共に、物質的制約を超えるソリューションを創造し、資源枯渇や気候変動といった社会課題が解消された世界の実現を目指すという価値観を共有しています。
■(3) 経営計画・目標
2024年度を最終年度とする「2024中期経営計画」では、売上高130億円、営業利益10億円、ROE 8%を目標としていました。実績は売上高123億円、営業利益6.8億円、ROE 5.5%となり、目標には届きませんでした。この結果を踏まえ、2026年度から始まる次期中期経営計画の策定を進めています。
■(4) 成長戦略と重点施策
次期に向けて、「全社戦略の抜本的強化」「組織間シナジーの最大化」「生産性と付加価値の向上」を経営課題として設定しています。既存事業の根幹である粉末冶金技術を強化しつつ、顧客ニーズの深い理解に基づいた価値ある製品・サービスの提供を目指します。また、収益改善に向けて事業ポートフォリオの再編を強化する方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
社員が必要なスキルや自らのキャリアを主体的に意識し行動するための人材育成プログラムに取り組み、個人の能力開発と成長を支援しています。また、多様な属性・価値観を持った人材が互いに認め合い、前向きに挑戦できる健全な職場環境の構築を目指しており、サステナビリティの柱の一つとして「働きがいと創造力のスパイラルアップ」を掲げています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.1歳 | 16.7年 | 6,198,464円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.5% |
| 男性育児休業取得率 | 53.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 77.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 95.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年間一人当たりの人材育成研修費用(41千円)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場環境・競争力等
衛生用品機器、半導体、自動車、産業用機器の4つの市場に注力製品を供給していますが、市場環境の急変や主要顧客の投資抑制、価格競争、技術革新等により売上が減少する可能性があります。特に米国関税政策等の影響も懸念されています。これに対し、新商品の投入や拡販、原価低減、サプライチェーン対応等を進めています。
■(2) 原材料調達、価格の変動
製品の原材料にはタングステンやコバルト等のレアメタルを使用しており、これらは中国や欧州からの輸入に依存しています。地政学的リスクや需給逼迫による調達難、市況による価格の急激な変動が業績に影響を与える可能性があります。対策として、複数購買やグローバル調達体制の強化を行っています。
■(3) 海外での事業活動
米国、イタリア、中国、タイに関係会社を有しており、各地域の政治・経済変動、法規制、労働争議等の影響を受ける可能性があります。また、為替変動や海外拠点での競争激化もリスク要因です。これに対し、現地情報の収集、営業強化、円建て取引の推進等によるリスク低減を図っています。



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