※本記事は、松尾電機株式会社の有価証券報告書(第77期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 松尾電機ってどんな会社?
同社はコンデンサや回路保護素子を中心とした電子部品メーカーとして、国内外の市場に製品を供給しています。
■(1) 会社概要
同社は1949年に設立され、ペーパーコンデンサの製造販売から事業を開始しました。1959年に現在の主力事業であるタンタル電解コンデンサ、1996年に回路保護素子の製造販売を開始し、事業基盤を拡大しました。2013年には東京証券取引所市場第二部(現在のスタンダード市場)に上場しています。
現在の従業員数は単体で227名です。筆頭株主は電子部品の製造販売を手掛け同社と資本関係にある釜屋電機であり、第2位はSBI証券となっています。第3位には同社の取引先企業で構成されている持株会である松尾電機投資会が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 釜屋電機 | 27.33% |
| SBI証券 | 6.47% |
| 松尾電機投資会 | 4.47% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性1名の計8名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役社長執行役員は陳怡光氏が務めており、社外取締役比率は40.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 陳怡光 | 代表取締役社長執行役員 | 2002年にDUPONT TAIWAN LIMITEDへ入社。2020年に釜屋電機代表取締役社長等を経て、2024年より現職。 |
| 網谷嘉寛 | 取締役 | 1982年に同社へ入社。総務経理部門長などの要職を歴任し、2019年に常務取締役執行役員に就任。2026年より現職。 |
| 岸下学 | 取締役 | 1985年に同社へ入社。福知山工場長などを経て、2018年に執行役員生産部門長に就任。2026年より現職。 |
社外取締役は、陳培真(釜屋電機取締役)、杉山雅彦(元双信電機代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「タンタルコンデンサ事業」「回路保護素子事業」および「その他」事業を展開しています。
■タンタルコンデンサ事業
タンタル電解コンデンサの製造販売を行っています。主にカーエレクトロニクス向けや医療用機器向けに製品を供給しており、自動車の電子化などに伴って安定した需要を獲得しています。
顧客に対する製品の販売を通じて収益を得るモデルです。本事業の運営および製品の製造・販売は、すべて同社が単独で行っています。
■回路保護素子事業
マイクロヒューズやサージアブソーバといった回路保護素子の製造販売を行っています。電子機器の小型・高周波化や安全基準の厳格化に伴い、車載向けやリチウムイオン電池向けの安全部品として需要が高まっています。
ユーザーの仕様に合わせた製品を受注生産し、顧客に販売することで収益を獲得しています。本事業の運営も同社が行っています。
■その他
上記の報告セグメントに含まれない事業として、フィルムコンデンサの製造販売を展開しています。
顧客に対するフィルムコンデンサ製品の販売によって収益を上げる事業モデルです。同事業の運営も同社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、一時的な落ち込みがあったものの回復傾向にあります。2024年3月期は売上・利益ともに減少しましたが、その後は車載向け需要の拡大などにより増収増益基調に転じています。2026年3月期は売上高が51.4億円まで拡大し、経常利益も5.7億円まで回復しました。一方で当期純利益は、事業構造改革費用の計上等により減少しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 47.1億円 | 46.5億円 | 42.1億円 | 45.5億円 | 51.4億円 |
| 経常利益 | 5.7億円 | 5.3億円 | 2.2億円 | 4.6億円 | 5.7億円 |
| 利益率(%) | 12.1% | 11.4% | 5.2% | 10.1% | 11.1% |
| 当期純利益 | -2.2億円 | 3.1億円 | 0.3億円 | 4.5億円 | 3.7億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い、各利益段階でも着実な成長が見られます。売上総利益は前期の14.3億円から16.2億円へ増加し、売上総利益率は31.5%を維持しています。また、営業利益も4.9億円から5.8億円へと拡大し、営業利益率も11.3%へと改善しており、本業の収益性が高まっていることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 45.5億円 | 51.4億円 |
| 売上総利益 | 14.3億円 | 16.2億円 |
| 売上総利益率(%) | 31.5% | 31.5% |
| 営業利益 | 4.9億円 | 5.8億円 |
| 営業利益率(%) | 10.8% | 11.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給料が3.6億円(構成比34.3%)、研究開発費が1.4億円(同13.3%)を占めています。また、当期の総製造費用においては、材料費が15.6億円(構成比43.8%)、経費が10.8億円(同30.4%)、労務費が9.2億円(同25.8%)となっています。
■(3) セグメント収益
主力であるタンタルコンデンサ事業は、車載・医療向け需要が増加し増収となりましたが、利益は前期比で減少しました。一方、回路保護素子事業は車載向けやリチウムイオン電池向けの需要が好調に推移し、大幅な増収増益を達成しました。特に回路保護素子事業の高い利益率が全体の収益を牽引しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| タンタルコンデンサ事業 | 29.8億円 | 31.7億円 | 2.8億円 | 1.8億円 | 5.7% |
| 回路保護素子事業 | 14.2億円 | 17.8億円 | 5.8億円 | 8.4億円 | 47.2% |
| その他 | 1.5億円 | 1.9億円 | 0.3億円 | 0.2億円 | 10.5% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | -4.0億円 | -4.6億円 | -% |
| 連結(合計) | 45.5億円 | 51.4億円 | 4.9億円 | 5.8億円 | 11.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -0.9億円 | 7.8億円 |
| 投資CF | -3.0億円 | -2.2億円 |
| 財務CF | -2.5億円 | -1.9億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は45.3%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「企業の存在を許容するのは、お客様である」ことを原点としています。世界中の顧客から信頼を得られる価値ある技術商品の開発・製造・販売を事業活動の軸に据え、「技術立社」であり続けることを経営の基本理念として掲げています。社会の期待に応える質の高いモノづくりを目指しています。
■(2) 企業文化
「価値ある技術商品の開発・製造・販売を事業活動の軸とする『技術立社』であり続けること」を掲げており、双方向コミュニケーションによる風通しの良い組織運営を推進しています。働き方改革や人材獲得を通じて、仕事を時間や量から質へと転換する意識を重視する文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、10年後に売上高100億円を達成することを目指しており、現在の中期経営計画(2025年3月期〜2027年3月期)をその基盤固めの期間と位置づけています。最終年度となる2027年3月期に向けて、具体的な数値目標を設定し、収益基盤の強化に取り組んでいます。
* 売上高:60億円
* 営業利益:8億円
* 売上高営業利益率:13%
* 自己資本利益率:12%
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画では、更なる成長の追求に向けた収益基盤の強化と経営基盤の安定化を基本方針としています。回路保護素子事業では、自動車の電子化需要に応じた車載用製品の拡販により売上・利益の増加を図ります。タンタルコンデンサ事業では、導電性高分子タイプの新製品開発や増産計画を推進します。
* 回路保護素子の海外市場および車載市場への拡販
* 導電性高分子タンタルコンデンサの増産と新製品開発
* 環境負荷低減や働き方改革などESGへの取り組み強化
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「技術立社」であり続けるため、専門性の高い人材やグローバル対応力のある人材を性別・国籍・年齢を問わず獲得する方針です。「必要人材の獲得」「会社風土の改革」「働き方改革」を最大テーマとし、資格取得の奨励や管理職研修の充実など、従業員の能力開発に向けた社内環境整備を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 50.1歳 | 27.5年 | 5,215,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含んでいます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.9% |
| 男性育児休業取得率 | -% |
| 男女賃金差異(全労働者) | -% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | -% |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | -% |
※同社は公表義務の対象ではないため、一部の指標に関する記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(60.8%)、外国籍社員比率(3.5%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場環境の変化と在庫リスク
日本やアジア、欧州など様々な地域に製品を供給しており、各国の経済状況や需要の変化が業績に影響します。また、ユーザーの仕様に合わせた受注生産を行っていますが、生産計画の変更により見込生産分が不動在庫となるリスクや、価格競争による収益性の低下リスクがあります。
■(2) 原材料の安定調達リスク
主力のタンタルコンデンサに使用されるタンタル粉末は希少金属であり、世界的寡占企業に生産が掌握されています。そのため価格が下方硬直性を有しており、他のコンデンサとの価格競争で不利になる可能性や、仕入先の事情による供給停止・価格上昇のリスクがあります。
■(3) カーエレクトロニクス分野への依存
同社の売上高はカーエレクトロニクス向けが4割以上を占め、中でも主要顧客であるデンソーグループへの売上高が全体の約37%を占めています。そのため、自動車市場の動向や主要顧客の経営戦略・生産動向が、同社の業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。



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