※本記事は、株式会社エノモトの有価証券報告書(第60期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. エノモトってどんな会社?
同社は精密金型技術を基盤とし、半導体やLED向けリードフレーム等の電子部品を製造・販売しています。
■(1) 会社概要
1967年に設立され、1990年にエノモトへ商号を変更しました。2004年にジャスダックに上場した後、市場変更を経て2022年に東証プライム市場へ移行し、2025年にスタンダード市場へ変更しました。国内工場のほか、フィリピンや中国に製造子会社を展開し、グローバルに電子部品を供給しています。
従業員数は連結で1,293名、単体で544名です。大株主については、筆頭株主が資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は有限会社エノモト興産、第3位も信託銀行となっています。また、資本業務提携先である日亜化学工業も上位株主として名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.04% |
| 有限会社エノモト興産 | 7.06% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.79% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性4名、女性2名の計6名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長は白鳥誉氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 白鳥誉 | 代表取締役社長上席執行役員国内統括 | 1988年入社。リードフレーム事業本部塩山工場長等を経て、常務取締役執行役員として海外統括や国内統括を歴任。2024年に代表取締役社長に就任し、2025年より現職。 |
| 武内延公 | 取締役会長 | 1983年入社。各種事業部長や海外子会社の董事長を歴任。2014年6月に代表取締役社長に就任して同社の経営を牽引し、2024年6月より現職。 |
| 小川秀雄 | 取締役上席執行役員海外統括 | 1982年入社。中国子会社の董事を経て、2018年より同社の董事長を務める。2020年に上席執行役員となり、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、橘田和彦(元山梨中央銀行代表取締役専務)、八巻佐知子(弁護士)、氏家美千代(公認会計士・税理士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「プレス加工品関連事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) パワー半導体用リードフレーム
民生用機器、産業用機器、自動車部品などに広く使用されるパワー半導体向けに、多彩な用途・仕様に対応したリードフレームやヒートシンクなどを提供しています。
各種部品メーカーへの販売によって収益を得ています。製造・販売は、同社およびENOMOTO PHILIPPINE MANUFACTURING Inc.やZHONGSHAN ENOMOTO Co.,Ltd.等の子会社が手掛けています。
■(2) オプト用リードフレーム
LED製品の形状を決定する部品であり、自動車部品メーカーや照明機器メーカーと協働して、LEDディスプレイや自動車の各種ランプ等に使用されるリードフレームを提供しています。
金型の設計・製作から大量生産までを一貫対応し、製品の販売により収益を得ています。同社およびENOMOTO PHILIPPINE MANUFACTURING Inc.が主体となって事業を運営しています。
■(3) コネクタ用部品
電子回路や光通信において配線を接続するために用いられる部品・器具です。金属プレスと樹脂成形を融合させ、スマートフォンやウェアラブル端末、自動車向けに極小化が求められる部品を提供しています。
スマートフォン等の各種部品メーカーへの製品販売から収益を得ています。同社の国内工場のほか、海外の製造子会社2社が設計から製造までの一貫生産と販売を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期の業績を見ると、売上高は一時減少したものの、直近では304億円と過去最高水準まで回復しています。経常利益も落ち込みから急回復し、当期は18億円と大幅な増益を達成しました。利益率も1.2%から5.8%へ改善し、高付加価値製品の増加等による収益性の向上が確認できます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 273億円 | 293億円 | 252億円 | 269億円 | 304億円 |
| 経常利益 | 21億円 | 18億円 | 3億円 | 7億円 | 18億円 |
| 利益率(%) | 7.5% | 6.2% | 1.2% | 2.5% | 5.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 9億円 | 4億円 | -2億円 | 1億円 | 6億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の成長に伴い、売上総利益および営業利益ともに大幅な増益を記録しています。売上総利益率は11.7%から14.9%へ、営業利益率も2.3%から5.4%へと大きく改善しており、製品構成の良化やコスト削減の取り組みが収益力の大幅な向上に寄与していることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 269億円 | 304億円 |
| 売上総利益 | 31億円 | 45億円 |
| 売上総利益率(%) | 11.7% | 14.9% |
| 営業利益 | 6億円 | 17億円 |
| 営業利益率(%) | 2.3% | 5.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が7億円(構成比23%)、運賃搬送費が4億円(同12%)、荷造費が3億円(同11%)を占めています。
■(3) セグメント収益
製品群別の売上高を見ると、自動車向けやスマートフォン向けが好調に推移したコネクタ用部品が大きく伸び、全体の成長を牽引しています。また、ハイエンド品の量産が本格化したオプト用リードフレームも大幅な増収を記録しました。一方、パワー半導体用リードフレームは在庫調整の影響で微減となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| パワー半導体用リードフレーム | 108億円 | 102億円 |
| オプト用リードフレーム | 34億円 | 52億円 |
| コネクタ用部品 | 121億円 | 144億円 |
| その他 | 7億円 | 7億円 |
| 連結(合計) | 269億円 | 304億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」の優良な状態にあります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 7億円 | 25億円 |
| 投資CF | -16億円 | -16億円 |
| 財務CF | -1.0億円 | -0.2億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は67.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「経営の中心は人であり、健全なものづくりを通じて、豊かな社会の実現に貢献する。」を経営理念として掲げています。絶えず顧客に信頼される製品を提供し、新製品の開発を行うことで、会社の繁栄と社会の発展の一致を目指しています。また、全てのステークホルダーとの信頼を基礎に企業価値の最大化を図ります。
■(2) 企業文化
同社は「エノモト企業倫理行動指針」を制定し、全ての役員および従業員が高い倫理観を持ち、法令や社会規範を遵守して誠実に行動する文化を重視しています。また、国内外の拠点で人財や技術の交流を活発に行い、知識を共有することで、相互に支援し合える協力的気風と強固な組織体制を培っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2024年度から2026年度までの中期経営計画において、経営の質的向上とイノベーションによる企業価値の最大化を目指しています。経営重点指標として、連結ベースでの営業利益率とROEの確保を掲げ、以下の数値目標を設定しています。
* 営業利益率:8%以上
* ROE:9%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、長期経営ビジョン「金型の技術で未来を創る」のもと、コア技術である精密複合加工技術の進化と新規分野への展開を図っています。特に、工程の自動化やスマートファクトリー化による生産効率の向上、職人技のデジタルデータ化による技術伝承を進め、高付加価値な最先端デバイス市場への積極的な投資を実施します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「経営の中心は人」という理念のもと、従業員の能力向上と組織力強化に向けた人財育成を推進しています。若手技術者の確保と育成を恒久的な課題とし、「エノモトキャリア形成プログラム」に基づく階層別研修を実施しています。また、ワークライフバランスの実現に向けた柔軟な働き方の推進にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.1歳 | 16.4年 | 5,232,065円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 0.0% |
| 男性育児休業取得率 | 138.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 83.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 58.9% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、定着率(95.5%)、女性従業員数(115人)、健康診断における疾病の有所見率(64.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済状況による需要変動リスク
同社が製造するリードフレームやコネクタ用部品などの電子部品は、販売先の国や地域の経済変動の影響を強く受けます。景気後退局面では急激な受注減少が生じる恐れがあるため、幅広い分野に対応できる技術力でリスク軽減を図っています。
■(2) 海外進出に伴うカントリーリスク
中国やフィリピンに生産拠点を展開しているため、進出国における予期せぬ法律・税制の変更や政治的・経済的な事象、社会的混乱が発生した場合、事業遂行に深刻な影響を与える可能性があります。同社は拠点間の相互バックアップ体制の構築を進めています。
■(3) 競合と技術革新への対応遅れ
電子部品業界は価格と技術の競争が激しく、急速な技術革新や顧客ニーズへの迅速な対応が遅れた場合、受注機会の損失や価格下落を招く恐れがあります。大学や取引先との連携により、常に最先端の加工技術の保持に努めています。
■(4) 原材料価格の高騰および調達リスク
主原料である鋼材や銅材、金・銀などの貴金属は、市場環境や資源価格高騰により調達難やコスト増加を招く可能性があります。また、協力会社の供給不足や地政学的リスクによる物流阻害も生産に悪影響を及ぼす恐れがあります。



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