※本記事は、ケルの有価証券報告書(第64期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ケルってどんな会社?
同社グループは、コネクタの専門メーカーとして最先端の接続技術を追求し、製品を市場に供給しています。
■(1) 会社概要
1962年に創立され、1982年に現在の南アルプス事業所を開設しました。1990年に店頭登録し、2004年にジャスダック上場と台湾子会社設立を果たしました。その後も2008年に中国、2017年にドイツ、2024年に米国、2025年に中国珠海やシンガポールに子会社を設立し、グローバル展開を加速しています。
現在の従業員数は連結で334名、単体で272名となっています。大株主の状況を見ると、筆頭株主は事業会社の菊水ホールディングスで、第2位および第3位はそれぞれ日本生命保険相互会社と三菱UFJ銀行といった金融機関が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 菊水ホールディングス | 7.04% |
| 日本生命保険相互会社(常任代理人 日本マスタートラスト信託銀行) | 4.01% |
| 三菱UFJ銀行 | 4.01% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長技術本部長は春日明氏が務めており、社外取締役比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 春日明 | 代表取締役社長技術本部長 | 1995年同社入社。第三技術部長、技術副本部長、技術本部長等を経て2022年より現職。 |
| 関根健太郎 | 常務取締役営業本部長経営企画室部長 | 1997年同社入社。第二営業部長、海外営業部長等を経て2021年より現職。 |
| 代永秀延 | 取締役生産改革プロジェクト担当兼生産改革室部長 | 1982年同社入社。製造技術部長、第一製造部長、生産本部長等を経て2025年より現職。 |
| 牧田直規 | 取締役コーポレート本部長 | ファミリーマート等を経て2010年同社入社。総務部長、管理本部長等を経て2023年より現職。 |
社外取締役は、太田三男(元三菱UFJ銀行四日市支社支社長)、山本恭仁子(監査法人Bloom設立代表パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは単一セグメントでの事業展開を行っており、主に以下の品目を提供しています。
(1) コネクタ
コネクタ事業では、工業機器や画像機器等の電子・電気機器に実装されるプリント基板間や機器内、機器間の電気的接続および切り離しのためのコネクタを製造、販売しています。
収益は、これらの製品をメーカー等へ納入することによる販売代金から得ています。運営は同社に加え、旺昌電子や開陸連接器などの国内外の子会社が行っています。
(2) ラック
ラック事業では、制御基板や周辺機器の収納をシステム化したラックの製造および販売を行っています。電力および車両関連などの顧客向けに特注ラック等を提供しています。
収益は、システム化されたラック製品の販売代金から得ています。運営は主に同社が主体となって行っています。
(3) その他(ハーネス等)
その他事業として、コネクタとケーブルを接続したハーネス製品などの製造および販売を行っており、顧客の細やかなニーズに対応した製品を提供しています。
収益は、ハーネス製品等の販売代金から得ています。運営は同社を中心に行われています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は一時減少したものの当期は需要回復により増収に転じています。一方、利益面は原材料価格の高騰や新拠点開設等の設備投資によるコスト増加が重しとなり、利益率は低下傾向が続いており、全体として増収減益の局面となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 128億円 | 145億円 | 122億円 | 119億円 | 129億円 |
| 経常利益 | 21億円 | 25億円 | 13億円 | 6億円 | 4億円 |
| 利益率(%) | 16.7% | 17.5% | 10.4% | 4.9% | 3.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 13億円 | 16億円 | 10億円 | 5億円 | 2億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加したものの、原材料価格の高騰や中国工場の量産開始遅延による生産効率低下により売上総利益は減少しました。また、将来を見据えた研究開発投資や設備投資の増加により営業利益も減少し、利益率が低下しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 119億円 | 129億円 |
| 売上総利益 | 29億円 | 28億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.7% | 21.8% |
| 営業利益 | 6億円 | 3億円 |
| 営業利益率(%) | 5.0% | 2.2% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が7億円(構成比29.2%)、支払手数料が3億円(同12.8%)、荷造運搬費が3億円(同10.4%)を占めています。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型の優良企業の状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 12億円 | 14億円 |
| 投資CF | -11億円 | -14億円 |
| 財務CF | -6億円 | -6億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は80.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「コネクタメーカーとして、世界に貢献できる企業になる。」という経営ビジョンを掲げています。また、「オープンで、フェアな企業活動を基本として、信頼される企業を目指す」といった経営基本方針のもと、最先端技術の研究開発に努め、社会の発展に貢献する企業を目指しています。
■(2) 企業文化
個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくることを重視しています。多様な人材が活躍できる組織づくりや従業員のウェルビーイングを意識し、効率的な経営を通じた長期安定的な成長と共存共栄を実現する文化が志向されています。
■(3) 経営計画・目標
「KEL VISION 2030」という長期経営計画の第一フェーズとして、中期経営計画を策定しています。2028年3月期を最終年度とする目標として以下を掲げています。
・売上高155億円
・営業利益率15%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
海外売上の拡大に向けてグローバルな開発・供給・販売体制を強化し、フローティング、高速伝送、ハイパワー、防水などの高付加価値製品の開発に注力しています。また、工業・車載・画像・医療・通信を重点市場とし、品質管理体制の再構築や適正な価格転嫁を進め、収益力と国際競争力の向上を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「組織の成長は働く一人ひとりが成長することでしか成し得ない」という原則のもと、多様な人材がウェルビーイングで活躍できる組織づくりを進めています。階層別研修や次世代人材育成プログラムを導入し、従業員のキャリア意識に向き合った人事制度や働きやすい職場環境の整備を通じてエンゲージメントの強化に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.5歳 | 16.3年 | 5,931,566円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.9% |
| 男性育児休業取得率 | 25.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 83.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 69.9% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新規採用者に占める女性の割合(33.3%)、離職率(6.8%)、有給休暇取得率(69.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
(1) 経営戦略実行上のリスク
エレクトロニクス業界の市場ニーズの変化が加速する中、開発テーマの選定が市場ニーズと乖離し、十分な付加価値を持つ新製品が開発できない場合、受注機会の喪失や収益性低下を招くリスクがあります。また、海外展開が計画通りに進まない場合も成長機会を逸失する可能性があります。
(2) 製品供給に関するリスク
部品加工やラック組み立ての多くを外部協力会社に委託しているため、協力会社の不足や経営不安が生じた場合、生産活動に支障が出るリスクがあります。また、予期せぬ品質問題や原材料の調達不足、国内外の拠点における大規模災害なども製品供給に悪影響を及ぼす可能性があります。
(3) 外部環境によるリスク
エレクトロニクス業界は市況や社会経済環境の変化を受けやすく、競争激化による価格競争や受注環境の悪化が業績に影響する可能性があります。さらに、原材料価格の高騰やエネルギーコストの上昇、為替変動が製品価格へ十分に転嫁できない場合、収益性が低下するリスクがあります。



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