ケル 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ケル 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証スタンダード市場に上場する産業用コネクタメーカー。工業機器や画像機器、車載機器向けのコネクタ、ラック、ソケット等の製造・販売を主力としています。当期は車載向けが好調だったものの、画像機器向け等の減少や研究開発投資の増加により、減収減益(売上高2.9%減、経常利益53.8%減)となりました。


※本記事は、ケル株式会社 の有価証券報告書(第63期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. ケルってどんな会社?


同社は、産業用機器向けを中心とした高品質なコネクタやラック、ソケット等の電子部品を製造・販売する専門メーカーです。

(1) 会社概要


同社は1962年に東京都渋谷区で創立し、1990年に日本証券業協会へ店頭登録しました。2004年には台湾に現地法人を設立し、海外展開を本格化させています。2013年に東証JASDAQ(スタンダード)へ上場し、市場再編を経て現在はスタンダード市場に上場しています。直近では海外事業の強化を進めており、2024年にアメリカ、2025年に中国へ新たな現地法人を設立しました。

同社グループは連結従業員315名、単体273名の体制で事業を展開しています。筆頭株主は塗料・電子機器等の事業を行う菊水ホールディングスで、次いで日本生命保険相互会社、三菱UFJ銀行といった金融機関が名を連ねています。

氏名 持株比率
菊水ホールディングス 7.05%
日本生命保険相互会社 4.01%
三菱UFJ銀行 4.01%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は春日明氏が務めています。社外取締役比率は28.6%です。

氏名 役職 主な経歴
春日 明 代表取締役社長技術本部長 1995年入社。技術部門を歩み、技術本部長、常務取締役などを経て2022年より現職。
関根 健太郎 常務取締役営業本部長経営企画室部長 1997年入社。営業部門での経験が長く、営業本部長、取締役などを経て2021年より現職。
代永 秀延 取締役生産改革プロジェクト担当兼生産改革室部長 1982年入社。製造技術部長、生産本部長などを歴任し、2021年取締役就任。2025年より現職。
牧田 直規 取締役コーポレート本部長 ファミリーマート等を経て2010年入社。総務部長、管理本部長などを経て2023年より現職。
原 俊彦 取締役監査等委員 本多通信工業を経て1993年入社。生産本部長などを歴任し、2021年より現職。


社外取締役は、太田三男(新東工業元執行役員)、山本恭仁子(監査法人Bloom代表パートナー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「電子部品製造販売」の単一セグメントですが、製品群として「コネクタ」「ラック」「ソケット」「その他」の事業を展開しています。

**(1) コネクタ事業**
工業機器や画像機器、車載機器などの電子・電気機器において、基板間や機器間の電気的接続・切り離しを行うためのコネクタを製造・販売しています。特にハーフピッチコネクタやフローティングコネクタなど、高機能・高信頼性が求められる産業用分野に強みを持っています。

収益は、電機メーカーや産業機器メーカー等の顧客に対する製品販売から得ています。運営は主にケルおよび海外子会社(台湾・中国・ドイツ等)が行っており、開発・製造から販売までをグループで連携して手掛けています。

**(2) ラック事業**
通信機器や制御機器などで使用される制御基板や周辺機器を収納するためのシステムラック(バスラック等)を製造・販売しています。標準品のほか、顧客の要望に合わせたカスタマイズ製品(特注ラック)の提供も行っています。

収益は、通信・産業機器メーカー等への製品販売により得ています。運営は主にケルが担当しており、設計・製造・販売を一貫して行っています。

**(3) ソケット事業**
IC(集積回路)をプリント基板に実装・交換するためのICソケットを製造・販売しています。主に遊技機器や産業機器向けに製品を提供しています。

収益は、機器メーカー等への製品販売から得ています。運営は主にケルが行っています。

**(4) その他**
上記に含まれないハーネス(コネクタとケーブルを加工・接続した製品)などの製造・販売を行っています。顧客の仕様に合わせた付加価値の高い接続ソリューションを提供しています。

収益は製品販売によるもので、運営は主にケルが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、2023年3月期に売上・利益ともにピークを迎えましたが、その後は調整局面が続いています。特に当期は、売上高が約119億円と微減にとどまったものの、将来の成長に向けた研究開発投資や海外展開への投資負担等により、利益面では経常利益が前期比半減以下となるなど、収益性が低下しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 102億円 128億円 145億円 122億円 119億円
経常利益 10億円 21億円 25億円 13億円 6億円
利益率(%) 9.9% 16.7% 17.5% 10.4% 4.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 7億円 15億円 17億円 9億円 4億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高の減少に加え、売上原価率はほぼ横ばいで推移したものの、販売費及び一般管理費が増加したことで営業利益が大きく減少しています。特に研究開発費や人件費などの固定費負担が増加しており、利益率を圧迫する要因となっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 122億円 119億円
売上総利益 33億円 29億円
売上総利益率(%) 26.8% 24.7%
営業利益 11億円 6億円
営業利益率(%) 9.0% 5.0%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が7.1億円(構成比31%)、荷造運搬費が2.6億円(同11%)を占めています。また、売上原価における研究開発費等の負担も含め、将来への投資コストが増加傾向にあります。

(3) セグメント収益


当期の品目別売上高を見ると、主力のコネクタ事業は画像機器向け等の減少により減収となりました。一方、ラック事業は医療機器や鉄道関連向けの特注品が好調で大幅な増収となりました。ソケット事業は遊技機器向けの受注減により大きく売上を落としています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
コネクタ 102億円 102億円
ラック 12億円 15億円
ソケット 3億円 1億円
その他 0.6億円 0.6億円
連結(合計) 122億円 119億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業で稼いだ現金を、設備投資や海外展開への投資に充てつつ、配当支払いなどの株主還元も実施する健全なキャッシュ・フロー構造です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 23億円 12億円
投資CF -15億円 -11億円
財務CF -7億円 -6億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は81.8%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「コネクタメーカーとして、世界に貢献できる企業になる。」を経営ビジョンに掲げています。創業以来、高品質の小型コネクタをエレクトロニクス市場に提供することを基本とし、常に最先端の接続技術(コネクション・テクノロジー)を追求しています。市場ニーズを先取りした製品を開発・供給し続けることを最優先課題としています。

(2) 企業文化


同社は「オープンで、フェアな企業活動」を基本とし、信頼される企業を目指しています。また、「個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土」をつくることを掲げ、社員の物心両面の幸せを追求するとともに、企業活動を通じて社会の発展に貢献することを理念としています。

(3) 経営計画・目標


同社は中期計画において、魅力ある新製品開発の促進や、事業・市場・地域を含めたビジネス全体の拡大を基本方針としています。経営効率の指標としては「株主資本利益率(ROE)」を重要視しており、その向上を目指しています。

* 株主資本利益率(ROE):2.6%(当期実績)

(4) 成長戦略と重点施策


今後の成長に向け、海外売上拡大のためのグローバル体制(開発・供給・販売)の強化を基本方針としています。製品面ではフローティング、高速伝送、ハイパワー、防水などの技術を強化し、市場面では工業、車載、画像、医療、通信を注力市場と定めています。

* 海外展開:アジア・欧州・北米のビジネス強化、インド・東南アジアの販路構築、中国自社工場の立ち上げ
* 製品戦略:付加価値ビジネスへの転換、新製品開発による商品群増強
* 品質管理:設計から出荷までのトータル品質管理体制の強化(社外不具合撲滅)

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、成長の源泉を有能な技術者をはじめとする人材の確保と育成にあると捉えています。「多様な人材が活躍できる組織づくり」をマテリアリティの一つに掲げ、階層別研修やキャリア研修などの教育制度を充実させています。また、次世代人材育成プログラムの導入や、働き方の見直し、健康経営の推進などを通じて、従業員エンゲージメントの向上と組織力の強化を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 40.3歳 16.2年 5,925,939円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.8%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 76.9%
男女賃金差異(正規雇用) 82.0%
男女賃金差異(非正規雇用) 64.7%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新規採用者数に占める女性の割合(26.7%)、有給休暇取得率(69.7%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 新製品開発力と技術革新への対応


エレクトロニクス業界では技術進歩が速く、顧客ニーズの変化も激しいため、市場の要求に合った新製品をタイムリーに開発できるかが重要です。同社は直近3年以内に開発された新製品で受注の約20%を獲得することを目指していますが、的確な製品開発ができなかった場合、将来の成長や収益性が低下する可能性があります。

(2) 海外事業展開に伴うリスク


同社は海外事業の拡大を掲げていますが、進出国における貿易摩擦や経済リスク、法規制の変更、社会的混乱などが事業に悪影響を及ぼす可能性があります。特に米国の関税政策や地政学リスク、為替変動などは業績への影響が懸念されます。これらに対し、現地専門家との連携や情報収集により対応しています。

(3) 原材料調達とサプライチェーン


製品の主な原材料である原油や非鉄金属の価格変動や需給逼迫はリスク要因です。急激な需要増や調達遅延が生じた場合、生産活動に支障が出る可能性があります。また、原材料価格の高騰を製品価格に転嫁できない場合、利益を圧迫する要因となります。同社は調達先の多様化などでリスク軽減を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。