※本記事は、株式会社三井E&Sの有価証券報告書(第123期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 三井E&Sってどんな会社?
同社グループは、船舶用エンジンや港湾向けクレーンの製造などを手がける重工メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1917年に三井物産造船部として創業し、1937年に玉造船所として分離独立しました(のちに三井造船へ商号変更)。1949年に株式上場を果たし、2018年には持株会社体制へ移行して三井E&Sホールディングスとなりました。その後、2023年に事業持株会社へ移行し、現在の三井E&Sへと商号を変更して事業を展開しています。
現在の従業員数は連結で5,998名、単体で2,284名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主ならびに第2位株主は資産管理業務などを行う信託銀行となっています。また、第3位には造船事業を手がける今治造船が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.66% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.19% |
| 今治造船 | 3.83% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性2名の計7名で構成され、女性役員比率は28.6%です。代表取締役社長CEOは高橋岳之氏が務めており、社外取締役の比率は42.9%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 高橋 岳之 | 代表取締役社長CEO、CCO、全般統括、監査室、調達部及び成長事業推進事業部担当 | 1987年同社入社。機械・システム事業本部運搬機システム営業部長、三井E&Sマシナリー社長、成長事業推進室長等を経て、2022年より現職。 |
| 松村 竹実 | 代表取締役副社長CFO、CIO、社長補佐、コーポレート部門担当 | 1991年同社入社。2013年東京大学博士号取得。船舶・艦艇事業本部基本設計部長、経営企画部長等を経て、2022年より現職。 |
| 田中 一郎 | 取締役社長補佐、舶用推進システム事業部及び物流システム事業部担当 | 1986年同社入社。ディーゼル設計部長、三井E&Sマシナリー社長、CEO、CTO等を経て、2023年より現職。 |
| 塩見 裕一 | 取締役(常勤監査等委員) | 1982年同社入社。玉野事業所経理部長、財務経理部長、常務執行役員CFO、常勤監査役等を経て、2023年より現職。 |
社外取締役は、川崎弘一(元日本合成ゴム生産技術部長等)、三輪美恵(元東日本旅客鉄道執行役員等)、ウォンライヨン(First Penguin Sdn. Bhd. Founder等)の3名です。
2. 事業内容
同社グループは、「成長事業推進」「舶用推進システム」「物流システム」「周辺サービス」および「その他」の事業を展開しています。
■成長事業推進
産業機械(圧縮機、ガスタービン、送風機など)、水理実験設備、ならびにドローン点検システム等のデジタル技術を活用したサービス・ソリューションを提供しています。主に産業界の各種プラントや設備を保有する企業を顧客としています。
収益は、機器の販売やアフターサービス、保守・メンテナンス領域のデジタルソリューションの提供により得ています。事業の運営は三井E&S、三井E&Sパワーシステムズ、加地テックなどが行っています。
■舶用推進システム
舶用エンジンや、二元燃料エンジン用燃料供給システム等の製造・販売、ならびにアフターサービスを提供しています。主に国内外の造船会社や海運会社を顧客としています。
収益は、エンジンの製造・販売代金や、部品販売・メンテナンスなどのアフターサービス料金から得ています。事業の運営は三井E&S、三井E&S DU、三井ミーハナイト・メタルなどが行っています。
■物流システム
コンテナクレーンや産業用クレーンの製造・販売、コンテナターミナルマネジメントシステム等の提供を行っています。主に国内外の港湾ターミナル運営者や物流事業者を顧客としています。
収益は、クレーンの販売や据付工事、システム販売、稼働状況に応じた各種アフターサービスの提供により得ています。事業の運営は三井E&S、PACECO CORP.などが担当しています。
■周辺サービス
ガス関連エンジニアリング、陸上発電プラントの運転・保守、システム開発・関連機器の販売、鋼構造物等の製造などを提供しています。幅広い産業分野の企業を対象としています。
収益は、エンジニアリング事業や保守サービスの提供対価、システムの販売等から得ています。事業の運営は三井造船特機エンジニアリング、三井E&Sシステム技研などが行っています。
■その他
エンジニアリング事業などの各種周辺事業を展開しています。
収益は、エンジニアリング事業などから得ています。事業の運営は三井E&Sエンジニアリングなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は事業再編の影響で一時減少しましたが、直近では回復傾向にあります。経常利益は2022年3月期に赤字を計上したものの、その後は黒字転換し、継続的に利益率が改善するなど収益力が向上しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 5794億円 | 2623億円 | 3019億円 | 3151億円 | 3532億円 |
| 経常利益 | -257億円 | 125億円 | 207億円 | 278億円 | 449億円 |
| 利益率(%) | -4.4% | 4.8% | 6.9% | 8.8% | 12.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -218億円 | 156億円 | 251億円 | 391億円 | 385億円 |
■(2) 損益計算書
増収に伴い売上総利益が拡大し、売上総利益率および営業利益率ともに改善しています。特に営業利益は大幅な増益を達成しており、収益性の向上が確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3151億円 | 3532億円 |
| 売上総利益 | 516億円 | 695億円 |
| 売上総利益率(%) | 16.4% | 19.7% |
| 営業利益 | 231億円 | 376億円 |
| 営業利益率(%) | 7.3% | 10.6% |
販売費及び一般管理費のうち、役員報酬及び給料手当が162億円(構成比50.9%)を占めています。また、売上原価は2837億円で、売上原価合計に対する構成比(売上原価率)は80.3%となっています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの売上高は総じて増加傾向にあり、特に舶用推進システム事業と周辺サービス事業が全体を力強く牽引しています。物流システム事業や成長事業推進事業も堅調に推移しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 成長事業推進 | 400億円 | 438億円 |
| 舶用推進システム | 1355億円 | 1497億円 |
| 物流システム | 628億円 | 652億円 |
| 周辺サービス | 752億円 | 943億円 |
| その他 | 16億円 | 2億円 |
| 連結(合計) | 3151億円 | 3532億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFと投資CFがプラス、財務CFがマイナスとなっており、営業利益と資産売却等による収入を借入金の返済にあてる改善型の局面となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 149億円 | 284億円 |
| 投資CF | 609億円 | 26億円 |
| 財務CF | -766億円 | -104億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は19.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は46.3%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
企業理念として「エンジニアリングとサービスを通じて、人に信頼され、社会に貢献する。」を掲げています。また、ビジョンとして「2030年までに、マリンの領域を軸に、脱炭素社会の実現と、人口縮小社会の課題解決を目指す。」と定め、事業を通じた社会課題の解決を目指しています。
■(2) 企業文化
経営姿勢として「新しい価値の創造を顧客と共に実現」「健全な財務体質と堅実な利益を追求」「人的資本経営の推進」を掲げています。行動規準には「シンプル、ユニーク、プラクティカルな製品やサービスに挑戦」を据え、顧客目線で3つの価値が重なる製品やサービスを考え、社会に貢献する文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
ローリング方式による中期経営計画「三井E&S Rolling Vision 2026」において、2028年度までに以下の数値目標を掲げています。
* 売上高:4,400億円
* 営業利益率:9.5%
* 自己資本比率:50%
* ROIC:10%
■(4) 成長戦略と重点施策
「脱炭素社会の実現」と「人口縮小社会の課題解決」をマテリアリティとし、中核事業である舶用推進システムと物流システムをグリーンとデジタルの視点から進化させます。アンモニア焚きエンジンやゼロエミッション型クレーンなどの開発を推進するとともに、成長事業では水素関連などの新規事業やドローン点検等のサービス展開に注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人材多様性の推進」「人材流動化への対応」「人的資本と環境整備への投資」を戦略の柱とし、顧客と共に新しい価値の創造に挑む人材の育成を目指しています。キャリア採用の強化や若手の人材ローテーション、階層別研修の再構築に加え、ウェルビーイングの向上や従業員持株会を活用した報酬制度の導入も推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.2歳 | 16.3年 | 8,021,833円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.0% |
| 男性育児休業取得率 | 93.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 82.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 83.5% |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | 84.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員全体 女性比率(8.0%)、従業員全体 外国人比率(4.4%)、技術職新卒採用 女性比率(8.6%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 個別受注生産の事業特性によるリスク
同社の事業は個別受注生産が中心であり、契約から引き渡しまでの長期間にわたる工事において、社会情勢などの変化により見積原価と実際の原価との間に差異が生じる可能性があります。また、納入した製品に起因するクレームや環境汚染が発生した場合、社会的評価の低下や損害賠償による費用が発生するリスクがあります。
■(2) 法的規制及びカントリーリスク
国内外での事業遂行において、法令の改廃や新たな規制が設けられる場合や、海外の政情不安、国家間対立による経済制裁、経済情勢の急変などにより、資金移動の制約や追加費用が発生する可能性があります。また、中東情勢の悪化や各国の関税政策がサプライチェーンや業績に影響を及ぼすリスクも存在します。
■(3) 大規模災害・感染症のリスク
地震や風水害などの各種災害が発生した場合、物的・人的被害や物流機能の麻痺により生産活動をはじめとする事業活動に深刻な影響を及ぼす可能性があります。また、感染症が大流行した場合には、経済の混乱や外出自粛等による商談機会の減少が受注の遅れにつながり、業績に影響を与える懸念があります。
■(4) 市場・為替・金利変動によるリスク
為替レートの大幅な変動は、外貨建ての取引や海外向け受注において収益に影響を及ぼす可能性があります。また、新造船市場などの顧客の環境変化によって価格競争が激化した場合の収益悪化リスクや、金利レートの上昇に伴って有利子負債による金融コストが増加するリスクなど、市場変動が業績に影響を与える可能性があります。



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