※本記事は、株式会社三井E&Sの有価証券報告書(第122期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 三井E&Sってどんな会社?
船舶用エンジンや港湾クレーン等の大型機械を手掛けるエンジニアリング企業です。
■(1) 会社概要
1917年に創業し、1937年に株式会社玉造船所として設立されました。1949年に株式上場を果たし、長きにわたり造船・機械事業を展開しています。2018年に持株会社体制へ移行し三井E&Sホールディングスへ商号変更した後、2023年に事業子会社を吸収合併し、事業持株会社として現在の商号に変更しました。
連結従業員数は5,966名、単体従業員数は2,250名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第3位の今治造船は同社と造船事業等で提携関係にある事業会社です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.64% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.44% |
| 今治造船 | 3.83% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性2名、計8名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長CEOは高橋岳之氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 高橋 岳之 | 代表取締役社長CEO、CCO、全般統括、監査室、調達部及び成長事業推進事業部担当 | 1987年入社。経営企画部グローバル戦略室長、三井E&Sマシナリー社長等を経て、2022年4月より現職。 |
| 松村 竹実 | 代表取締役副社長CFO、CIO、社長補佐、コーポレート部門担当 | 1991年入社。経営企画部長、取締役CISO等を経て、2022年4月より現職。 |
| 田中 一郎 | 取締役社長補佐、舶用推進システム事業部及び物流システム事業部担当 | 1986年入社。三井E&Sマシナリー社長、成長事業推進事業部長等を経て、2023年6月より現職。 |
| 塩見 裕一 | 取締役(常勤監査等委員) | 1982年入社。常務執行役員CFO、三井E&Sビジネスサービス社長等を経て、2023年6月より現職。 |
社外取締役は、ウォンライヨン(First Penguin Sdn. Bhd.創業者)、田中浩一(元三井物産代表取締役)、川崎弘一(元JSR代表取締役)、三輪美恵(JTB常務執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「成長事業推進」、「舶用推進システム」、「物流システム」、「周辺サービス」、「海洋開発」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 成長事業推進
産業機械(圧縮機、ガスタービン、送風機、プロセス機器)や水理実験設備の製造・販売・設計を行っています。また、各種機器のアフターサービスも提供しており、幅広い産業分野の顧客を対象としています。
収益は、製品の販売代金や保守・メンテナンス等のサービス対価として得ています。運営は、主に株式会社三井E&Sパワーシステムズや株式会社加地テックが行っています。
■(2) 舶用推進システム
船舶用エンジンや二元燃料エンジン用燃料供給装置・周辺機器の製造・販売・設計を行っています。環境規制に対応した各種エンジンや機器のアフターサービスも提供しており、造船所や海運会社が主な顧客です。
収益は、エンジンの販売代金やアフターサービス料から得ています。運営は、三井ミーハナイト・メタル株式会社、株式会社三井E&S DU、Mitsui E&S Asia Pte. Ltd.等が担っています。
■(3) 物流システム
コンテナクレーンや産業用クレーンの製造・販売・設計を行っています。また、コンテナターミナルマネジメントシステムの販売や各種クレーンのアフターサービスも提供しており、港湾事業者等が顧客です。
収益は、クレーン等の製品代金やシステム利用料、メンテナンス料から得ています。運営は、PACECO CORP.や株式会社三井三池製作所等が行っています。
■(4) 周辺サービス
ガス関連エンジニアリング、陸上発電プラントの運転・保守、システム開発、鋼構造物・船舶ブロックの製造等を行っています。機械・電気設備のメンテナンスも手掛けており、多岐にわたるサービスを提供しています。
収益は、エンジニアリング料やシステム開発費、メンテナンス料等から得ています。運営は、三井造船特機エンジニアリング株式会社、三井E&Sシステム技研株式会社、Burmeister & Wain Scandinavian Contractor A/S等が行っています。
■(5) 海洋開発
浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備の設計、建造、据付を行っています。また、これらの設備の販売、リース、チャーターおよびオペレーションも提供しており、エネルギー関連企業が主な顧客です。
収益は、設備の販売代金やリース料、チャーター料等から得ています。なお、同事業を構成していた三井海洋開発株式会社は、株式の一部売却により2024年6月に持分法適用の範囲から除外されています。
■(6) その他
エンジニアリング事業などを展開しています。これには、上記報告セグメントに含まれない各種事業が含まれています。
収益は、エンジニアリングサービスの提供対価等から得ています。運営は、株式会社三井E&Sエンジニアリング、市原バイオマス発電株式会社、三井E&S造船株式会社等が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの業績を見ると、売上高は変動しつつも直近では回復傾向にあります。利益面では、2022年3月期に赤字を計上しましたが、その後は黒字転換し、直近では利益率も向上しています。特に当期純利益はV字回復を見せ、収益性が改善していることが伺えます。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,447億円 | 5,794億円 | 2,623億円 | 3,019億円 | 3,151億円 |
| 経常利益 | -82億円 | -257億円 | 125億円 | 207億円 | 278億円 |
| 利益率(%) | -1.3% | -4.4% | 4.8% | 6.9% | 8.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1億円 | -218億円 | 156億円 | 251億円 | 391億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の業績を比較すると、売上高は増加し、それに伴い売上総利益も伸長しています。利益率も改善傾向にあり、本業の収益性が高まっていることが分かります。営業利益についても増益となっており、全体として堅調な業績推移を示しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,019億円 | 3,151億円 |
| 売上総利益 | 472億円 | 516億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.7% | 16.4% |
| 営業利益 | 196億円 | 231億円 |
| 営業利益率(%) | 6.5% | 7.3% |
販売費及び一般管理費のうち、役員報酬及び給料手当が150億円(構成比53%)を占めています。
■(3) セグメント収益
舶用推進システムと物流システムが売上の中心を担っています。物流システムは大幅な増収増益を達成し、全体の業績を牽引しました。成長事業推進と舶用推進システムも増益を確保しています。一方、周辺サービスは営業損失となりました。海洋開発は持分法適用除外の影響で期間短縮により利益が減少していますが、黒字を維持しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 成長事業推進 | 408億円 | 400億円 | 59億円 | 68億円 | 17.1% |
| 舶用推進システム | 1,340億円 | 1,355億円 | 64億円 | 75億円 | 5.5% |
| 物流システム | 476億円 | 628億円 | 31億円 | 60億円 | 9.5% |
| 周辺サービス | 741億円 | 752億円 | 24億円 | -16億円 | -2.1% |
| 海洋開発 | - | - | 74億円 | 38億円 | - |
| その他 | 53億円 | 16億円 | 19億円 | 45億円 | 275.6% |
| 調整額 | - | - | -64億円 | -38億円 | - |
| 連結(合計) | 3,019億円 | 3,151億円 | 196億円 | 231億円 | 7.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
三井E&Sは、関係会社株式の売却による収入が投資活動による資金収入を大きく押し上げました。営業活動では、売上債権や契約資産の増加、仕入債務の減少などがあったものの、税金等調整前当期純利益の計上や契約負債の増加により、前年度の支出から収入へと転換しました。一方、財務活動では、長期借入れによる収入があったものの、短期借入金の返済や自己株式の取得などにより、支出超過となりました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -344億円 | 149億円 |
| 投資CF | -4億円 | 609億円 |
| 財務CF | 241億円 | -766億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「エンジニアリングとサービスを通じて、人に信頼され、社会に貢献する。」という企業理念を掲げています。また、2030年までに、マリンの領域を軸として「脱炭素社会の実現」と「人口縮小社会の課題解決」を目指すビジョンを描いています。
■(2) 企業文化
同社は、「シンプル、ユニーク、プラクティカルな製品やサービスに挑戦」を行動規準としています。常に顧客目線でこれら3つの価値が重なる製品やサービスを考え、堅実な事業へと育て、社会に貢献することを重視しています。また、新しい価値の創造を顧客と共に実現する姿勢を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、ローリング方式による中期経営計画「三井E&S Rolling Vision 2025」を策定しています。2027年度の経営数値目標として以下を掲げています。
* 連結売上高:3,800億円
* 連結営業利益率:7.4%
* 自己資本比率:42%
* ROIC:9%
■(4) 成長戦略と重点施策
中核事業である舶用推進システム事業と物流システム事業を、「グリーン」と「デジタル」の視点から進化させる戦略です。環境対応型製品や自動化・遠隔化技術の開発・展開を強化します。また、成長事業推進事業では、新規事業の創出や保守・メンテナンスビジネスの拡大により、収益基盤の多様化を図ります。
* 環境対応製品の2022~30年度累積販売・稼働台数によるCO2削減:▲1,000万t-CO2/年以上
* 港湾関連製品の自動化・システム化 2022~30年度累積販売・稼働台数:1,000件以上
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を最も重要な経営資源と位置づけ、既存の枠組みを超えて挑戦し、自ら学び続け、社会動向に関心を持つ人材の育成を目指しています。そのために人事制度改革や教育研修制度の見直しを進めています。また、多様性の推進として女性や外国人の採用・登用目標を設定し、博士課程学生の採用強化等も行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 39.9歳 | 15.9年 | 7,035,876円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.0% |
| 男性育児休業取得率 | 95.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 77.9% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 116.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性比率(8.0%)、技術職新卒採用女性比率(7%)、外国人比率(3.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業の特性によるリスク
同社の事業は個別受注生産が中心であり、長期にわたる工事も多いため、社会情勢の変化により見積原価と実際原価に差異が生じる可能性があります。また、製品の性能や品質、納期の遅れによるクレームや、生産過程での環境汚染が発生した場合、損害賠償費用が発生するリスクがあります。
■(2) 法的規制及びカントリーリスク
国内外での事業遂行において、法令の改廃や新たな規制、政情不安、経済制裁、米中対立等の地政学的リスクの影響を受ける可能性があります。これらにより資機材調達の遅れや資金移動の制約、関税等のコスト増が発生し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 大規模災害のリスク
地震や風水害等の災害、パンデミックが発生した場合、生産活動の停止や物流の麻痺、顧客の投資決定の遅れ等により、事業活動に支障が出る可能性があります。これにより受注の遅れや損失が発生し、経営成績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(4) 情報セキュリティに関するリスク
事業活動において機密情報や個人情報を取り扱っており、サイバー攻撃や機器の障害等により情報流出や消失が発生した場合、社会的信用の失墜や損害賠償等により業績に影響を及ぼす可能性があります。



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