※本記事は、IHIの有価証券報告書(第209期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. IHIってどんな会社?
資源・エネルギーから航空・宇宙まで幅広い事業を展開する総合重工業メーカーです。
■(1) 会社概要
1853年創設の石川島平野造船所をルーツとし、1889年に有限責任石川島造船所として設立されました。1949年に東京証券取引所等へ上場し、1960年に播磨造船所と合併して石川島播磨重工業となりました。2000年に宇宙航空事業を譲り受け、2007年には現在のIHIへ商号を変更しています。
現在の従業員数は連結で26,224名、単体で8,199名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第2位および第3位の株主も同様に機関投資家や信託銀行が占めており、特定の事業会社や創業家への依存度が低い安定した資本構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.91% |
| THE CHASE MANHATTAN BANK, N.A. LONDONSECS LENDING OMNIBUS ACCOUNT | 7.12% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.73% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性5名の計17名で構成され、女性役員比率は29.4%です。代表取締役社長最高経営責任者は井手博氏が務めています。取締役12名のうち、社外取締役は6名です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 井手博 | 代表取締役社長最高経営責任者 | 1983年同社入社。Jurong Engineering Limited社長、常務執行役員資源・エネルギー・環境事業領域長などを経て、2021年4月より現職。 |
| 盛田英夫 | 代表取締役副社長執行役員 | 1986年同社入社。航空・宇宙・防衛事業領域民間エンジン事業部長、常務執行役員同領域長などを経て、2024年4月より現職。 |
| 小林淳 | 代表取締役副社長執行役員 | 1988年同社入社。社会基盤・海洋事業領域副事業領域長、常務執行役員事業開発統括本部長などを経て、2026年4月より現職。 |
| 佐藤篤 | 代表取締役副社長執行役員 | 1991年同社入社。航空・宇宙・防衛事業領域防衛システム事業部長、常務執行役員同領域長などを経て、2026年4月より現職。 |
| 満岡次郎 | 取締役 | 1980年同社入社。常務執行役員航空宇宙事業本部長、代表取締役社長CEO、代表取締役会長などを経て、2026年4月より現職。 |
| 瀬尾明洋 | 取締役常務執行役員 | 1987年同社入社。経営企画部長、常務執行役員人事部長などを経て、2025年10月より現職。インテリジェント・オペレーションセンター長。 |
社外取締役は、中西義之(元大日本インキ化学工業社長)、松田千恵子(東京都立大学教授)、碓井稔(元セイコーエプソン社長)、内山俊弘(元日本精工社長)、田中弥生(元会計検査院長)、吉田憲一郎(いちごアセットマネジメント会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「資源・エネルギー・環境」「社会基盤」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」の4つの報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■資源・エネルギー・環境
ボイラや貯蔵設備をはじめとするエネルギー関連設備、原子力機器、陸用および舶用の原動機プラント等の製造・販売・サービスを提供しています。電力会社や各種プラント事業者を主な顧客としています。
各種設備の販売代金や保守・メンテナンス等のライフサイクルビジネスに伴うサービス料を収益源としています。運営は同社のほか、IHIプラントやIHI原動機などのグループ各社が行っています。
■社会基盤
橋梁や水門、シールドシステム(トンネル建設機械)などの社会インフラ設備の製造・販売・エンジニアリングを提供しています。国や自治体、インフラ運営事業者などを主な顧客として事業を展開しています。
インフラ設備の建設工事や製品の販売代金、およびその後のメンテナンスや更新工事などのサービスから収益を得ています。運営は同社のほか、IHIインフラスクエアやジャパントンネルシステムズなどの子会社が担っています。
■産業システム・汎用機械
車両過給機(ターボチャージャー)、パーキングシステム、圧縮機などの回転機械、熱・表面処理設備、物流・産業システムなど、多様な産業用機械設備を製造・販売しています。自動車メーカーや製造業全般が顧客です。
各種機械設備の販売代金や設置・保守サービス料から収益を得ています。運営は同社やIHIパーキングスクエア、IHI回転機械エンジニアリング、IHIターボ、IHI物流産業システムなどの子会社が行っています。
■航空・宇宙・防衛
民間向けおよび防衛向けの航空エンジン、ロケットシステムや宇宙利用関連設備、防衛機器システムなどを製造・提供しています。日本航空機エンジン協会や防衛省などが主要な顧客となっています。
製品の販売代金やエンジンの整備・部品修理といったアフターマーケットサービスから収益を得ています。運営は同社を中心に、IHIエアロスペースやIHIキャスティングスなどの子会社が行っています。
■その他
通信、電子、電気計測、情報処理などの機器・装置の製造・販売、および各種サービス業を展開しています。グループ内外の幅広い企業や組織に対してソリューションを提供しています。
各種システム機器の販売や受注斡旋、業務支援サービスの提供に対する料金を主な収益源としています。運営はIHIエスキューブやIHIビジネスサポートなどのグループ会社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上収益は安定して成長を続け、1兆1000億円台から1兆6000億円台へと拡大しています。利益面では2024年3月期に一時的な赤字を計上したものの、その後は急回復し、直近の2026年3月期には税引前利益で1855億円を達成し、利益率も11.3%へと大きく改善しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 11,729億円 | 13,529億円 | 13,226億円 | 16,268億円 | 16,434億円 |
| 税引前利益 | 876億円 | 649億円 | -723億円 | 1,385億円 | 1,855億円 |
| 利益率(%) | 7.5% | 4.8% | -5.5% | 8.5% | 11.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 661億円 | 445億円 | -682億円 | 1,127億円 | 1610億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期比でわずかに増加し、1兆6434億円となりました。売上総利益率は11.0%から11.4%に改善し、営業利益も1435億円から1655億円へと増加しました。営業利益率も10.1%へと向上し、収益性の高まりが確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 16,268億円 | 16,434億円 |
| 売上総利益 | 1,790億円 | 1,874億円 |
| 売上総利益率(%) | 11.0% | 11.4% |
| 営業利益 | 1,435億円 | 1,655億円 |
| 営業利益率(%) | 8.8% | 10.1% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が917億円(構成比38%)、研究開発費が391億円(同16%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力である航空・宇宙・防衛セグメントは、民間向け航空エンジンの需要増や防衛事業の拡大により大幅な増収を達成し、全体の利益を牽引しています。産業システム・汎用機械セグメントも車両過給機の販価改善などにより大幅な増益となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 資源・エネルギー・環境 | 4,115億円 | 3,767億円 | 161億円 | 60億円 | 1.6% |
| 社会基盤 | 1,460億円 | 1,319億円 | -42億円 | 37億円 | 2.8% |
| 産業システム・汎用機械 | 4,849億円 | 4,505億円 | 108億円 | 308億円 | 6.8% |
| 航空・宇宙・防衛 | 5,557億円 | 6,517億円 | 1,228億円 | 1,124億円 | 17.3% |
| その他 | 772億円 | 843億円 | 168億円 | 359億円 | 42.5% |
| 調整額 | -484億円 | -518億円 | -188億円 | -232億円 | - |
| 連結(合計) | 1,6268億円 | 16,434億円 | 1,435億円 | 1,655億円 | 10.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
キャッシュ・フローの状況を見ると、営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業(健全型)のパターンを示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,776億円 | 1,214億円 |
| 投資CF | -588億円 | -184億円 |
| 財務CF | -1,162億円 | -979億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は28.4%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は27.3%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「技術をもって社会の発展に貢献する」「人材こそが最大かつ唯一の財産である」という経営理念を掲げています。さらに、2040年に向けた中長期の方向性として「世界中の人々の安心・安全、豊かな暮らしを根幹から支える」ことを目指し、日本の産業力・国力を再び世界トップレベルに高め、世界各国の安全保障に貢献することを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は持続可能な社会の実現を目指す「ESG経営」を推進し、環境と社会に対する貢献と責任を重視しています。また、多様な人材のバックグラウンドや経験、個性が変革を進める原動力になると考え、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)を実践し、「新たな価値につながる挑戦と応援が連鎖する組織文化の浸透・実現」に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は2026年度から2028年度までの3か年を、先行投資および財務基盤強化に注力する期間(フェーズ1)と位置付けています。2029年度以降のフェーズ2では営業利益と営業キャッシュ・フローの拡大を実現し、2032年度以降のフェーズ3ではフリーキャッシュ・フローの大幅な拡大を目指すロードマップを描いています。
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「エアロスペース」「エネルギー」「インフラ」の3事業ドメインに注力します。特にエアロスペースとクリーンエネルギー分野へは大胆なリソースシフトを継続し、成長事業として民間向け航空エンジンや防衛・原子力分野の生産能力増強を進めます。また、育成事業としてアンモニアのバリューチェーン構築や宇宙関連事業の拡大を図り、持続的な高成長を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「良い+強い」会社と個人の「成長+幸せ」の両立を目指し、持続可能な成長を牽引する人材の育成を推進しています。将来の事業変革を担う経営人材や高度専門人材の計画的な育成プログラムを整備するとともに、成長領域へのリソースシフトや外部採用による人材獲得を強化し、自律的なキャリア形成を支援する環境づくりを進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.4歳 | 15.2年 | 10,005,041円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.1% |
| 男性育児休業取得率 | 366.7% |
| 男女賃金差異(全従業員) | 68.4% |
| 男女賃金差異(正規従業員) | 79.9% |
| 男女賃金差異(非正規従業員) | 28.4% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済安全保障に関するリスク
同社はグローバルに事業を展開しており、中東の軍事衝突や米中の政治的対立、輸出規制などによる影響を受けます。複雑化する国際情勢の中で輸出規制等の対象となった場合、販売機会の逸失やサプライチェーンの断絶が生じる可能性があり、事業運営に悪影響を及ぼすおそれがあります。
■(2) 大型プロジェクトにおける管理リスク
同社の事業は長期にわたる大型プロジェクトが多く、初期計画が成否に大きく影響します。受注契約後にエネルギー価格や資機材価格の高騰、サプライチェーンの途絶など予期せぬ経済環境の変化が発生した場合、見積コストを上回る追加費用が生じ、収益性を圧迫する可能性があります。
■(3) コンプライアンスに関するリスク
同社グループでは品質保証や契約に伴うコンプライアンスを重視していますが、万が一、役員・従業員による法令違反や事実と異なる不当な報告等の不適切行為が発生した場合、行政処分による営業停止や社会的信用の低下を招き、同社の業績に悪影響を及ぼすリスクがあります。
■(4) 調達および物流に関するリスク
同社はキー部品を自社グループで製造する一方、複数の外部調達先からも供給を受けています。資機材価格の急激な変動や国際情勢の急変、自然災害等によりサプライチェーンが途絶した場合、コスト上昇や納期遅延などの問題が生じ、製品の安定供給に支障をきたす可能性があります。



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