※本記事は、株式会社IHI の有価証券報告書(第208期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. IHIってどんな会社?
総合重工業メーカーとして、航空エンジン、エネルギー、社会インフラ、産業機械など多岐にわたる製品・サービスをグローバルに提供しています。
■(1) 会社概要
同社は、1853年創設の石川島造船所を起源とし、1960年に播磨造船所と合併して石川島播磨重工業が発足しました。2007年に現在のIHIへ商号を変更しています。近年では、2017年に航空機用エンジンの整備工場として鶴ヶ島工場の稼働を開始し、2019年には原動機事業を再編するなど、事業変革を進めています。2023年からは「グループ経営方針2023」をスタートさせました。
2025年3月31日現在、連結従業員数は27,990人、単体従業員数は7,911人です。主要株主は、筆頭株主が資産管理業務を行う信託銀行(信託口)、第2位も同様に信託銀行(信託口)、第3位は常任代理人を通じた外国法人等となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.16% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.41% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 2.86% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性5名の計17名で構成され、女性役員比率は29.4%です。代表者は代表取締役社長最高経営責任者の井手博氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 満岡 次郎 | 取締役会長 | 1980年入社。航空宇宙事業本部長などを経て、2016年社長兼COO、2017年社長兼CEOに就任。2020年会長兼社長、2021年会長となり、2024年より現職。 |
| 井手 博 | 代表取締役社長最高経営責任者 | 1983年入社。資源・エネルギー・環境事業領域長などを経て、2020年社長兼COOに就任。2021年社長兼CEO兼戦略技術統括本部長となり、2023年より現職。 |
| 盛田 英夫 | 代表取締役副社長執行役員 | 1986年入社。航空・宇宙・防衛事業領域民間エンジン事業部長、同事業領域長などを経て、2024年より現職。 |
| 小林 淳 | 代表取締役副社長執行役員 | 1988年入社。社会基盤・海洋事業領域副事業領域長、ソリューション統括本部長、事業開発統括本部長などを歴任し、2025年より現職。 |
| 土田 剛 | 取締役 | 1984年入社。IHI物流産業システム社長、産業システム・汎用機械事業領域副事業領域長、経営企画部長、副社長などを経て、2025年より現職。 |
| 瀬尾 明洋 | 取締役常務執行役員 | 1987年入社。経営企画部長、人事部長などを経て、2024年より現職。 |
| 福本 保明 | 取締役 | 1990年入社。財務部長、執行役員財務部長などを経て、2025年より現職。 |
| 森岡 典子 | 取締役常務執行役員 | 1987年入社。ソリューション・新事業統括本部副本部長、戦略技術統括本部長などを経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、中西義之(元DIC会長)、松田 千恵子(東京都立大学教授)、碓井稔(セイコーエプソン相談役)、内山俊弘(日本精工相談役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「資源・エネルギー・環境」「社会基盤」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 資源・エネルギー・環境
陸用・舶用原動機、ボイラや貯蔵設備等のカーボンソリューション、原子力機器などを提供しています。電力会社や一般産業、船舶会社などが主な顧客です。脱炭素化に向けたアンモニア燃焼技術や原子力関連技術など、エネルギー分野の課題解決に取り組んでいます。
収益は、機器の製造・販売およびメンテナンス等のサービス提供から得ています。運営は、IHIプラント、IHI原動機などのグループ会社や同社が行っており、海外ではJURONG ENGINEERING LIMITEDなどが事業を展開しています。
■(2) 社会基盤
橋梁・水門、交通システム、シールドシステム、コンクリート建材、都市開発などを手掛けています。官公庁や鉄道会社、建設会社などが主な顧客であり、インフラの整備や保全、防災・減災に貢献しています。
収益は、製品の製造・販売、工事請負、不動産の販売・賃貸などから得ています。運営は、IHIインフラシステム、IHIインフラ建設、新潟トランシスなどのグループ会社や同社が行っています。
■(3) 産業システム・汎用機械
車両過給機、パーキングシステム、圧縮機等の回転機械、熱・表面処理装置、運搬機械、物流・産業システムなどを提供しています。自動車メーカーや一般産業界など幅広い顧客に対し、生産性向上や省エネルギー化に資する製品・サービスを展開しています。
収益は、製品の製造・販売およびアフターサービスから得ています。運営は、IHI運搬機械、IHI回転機械エンジニアリング、IHIターボなどのグループ会社や同社が行っています。
■(4) 航空・宇宙・防衛
航空エンジン、ロケットシステム・宇宙利用、防衛機器システムなどを製造・販売しています。航空会社や防衛省、JAXAなどが主な顧客です。民間航空エンジンの国際共同開発や防衛装備品の開発・製造を行っています。
収益は、エンジンの販売やスペアパーツ供給、整備サービス、防衛装備品の納入などから得ています。運営は、IHIエアロスペースなどのグループ会社や同社が行っています。
■(5) その他
通信、電子、電気計測、情報処理などの機器・装置の製造・販売およびサービス業を行っています。
収益は、製品の販売やサービスの提供から得ています。運営は、IHIエスキューブ、IHI検査計測などのグループ会社や同社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は2024年3月期に一時的な減少があったものの、2025年3月期には大きく回復し増加傾向にあります。利益面では、2024年3月期に航空エンジン関連の追加検査プログラム等の影響で大幅な赤字を計上しましたが、2025年3月期にはV字回復を果たし、税引前利益、当期利益ともに黒字転換しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 11,129億円 | 11,729億円 | 13,529億円 | 13,226億円 | 16,268億円 |
| 税引前利益 | 276億円 | 876億円 | 649億円 | -723億円 | 1,385億円 |
| 利益率(%) | 2.5% | 7.5% | 4.8% | -5.5% | 8.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 131億円 | 661億円 | 445億円 | -682億円 | 1,127億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上収益は約23%増加し、売上総利益率はマイナスから23%へと劇的に改善しています。これに伴い営業利益も大幅な黒字に転換しました。前期の損失計上の反動に加え、航空エンジンのスペアパーツ販売増加や為替円安の影響などが寄与しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 13,226億円 | 16,268億円 |
| 売上総利益 | 1,449億円 | 3,745億円 |
| 売上総利益率(%) | 11.0% | 23.0% |
| 営業利益 | -701億円 | 1,435億円 |
| 営業利益率(%) | -5.3% | 8.8% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が861億円(構成比38%)を占めています。また、売上原価のうち、従業員給付費用は3,021億円(構成比24%)となっています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで黒字を確保しています。特に航空・宇宙・防衛分野は、民間向け航空エンジンのスペアパーツ販売増や防衛事業の拡大により、売上収益が倍増し、利益も前期の巨額赤字から大幅な黒字へ転換しました。一方、社会基盤や産業システム・汎用機械などの一部セグメントでは、事業譲渡に関連する費用計上や採算性悪化により減益となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 資源・エネルギー・環境 | 4,050億円 | 4,115億円 | 177億円 | 161億円 | 3.9% |
| 社会基盤 | 1,710億円 | 1,623億円 | 151億円 | 94億円 | 5.8% |
| 産業システム・汎用機械 | 4,662億円 | 4,849億円 | 128億円 | 108億円 | 2.2% |
| 航空・宇宙・防衛 | 2,704億円 | 5,557億円 | -1,029億円 | 1,228億円 | 22.1% |
| その他 | 561億円 | 609億円 | 45億円 | 31億円 | 5.2% |
| 調整額 | -460億円 | -484億円 | -173億円 | -188億円 | - |
| 連結(合計) | 13,226億円 | 16,268億円 | -701億円 | 1,435億円 | 8.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、親会社の所有者に帰属する当期利益により資本が増加し、親会社所有者帰属持分比率が向上しました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、利益獲得により大幅な収入超過となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、設備投資の増加により支出超過となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の返済により支出超過となりました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 621億円 | 1,776億円 |
| 投資CF | -517億円 | -588億円 |
| 財務CF | -26億円 | -1,162億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「技術をもって社会の発展に貢献する」「人材こそが最大かつ唯一の財産である」という経営理念を掲げています。社会とともに発展するよき企業市民であることを第一義とし、地球的課題の解決と持続可能な社会の実現を目指して事業活動を行っています。
■(2) 企業文化
同社グループは、「自然と技術が調和する社会を創る」ことを将来のありたい姿として掲げています。人権を尊重し、多様な人材が活躍する企業風土を原動力として、ESG経営を推進しています。気候変動対策などの社会課題を事業機会と捉え、環境・社会価値を重視する姿勢を持っています。
■(3) 経営計画・目標
2023年度を初年度とする中期経営計画「グループ経営方針2023」に基づき、持続的な高成長を実現可能な企業体質への変革を進めています。
* 2025年度 ROIC(税引後):8%以上
* 2025年度 営業利益率:7.5%
* 2025年度 CCC:100日
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は事業を「成長事業」「育成事業」「中核事業」の3つに区分し、ライフサイクルとバリューチェーンを意識した事業変革に取り組んでいます。特に航空エンジン・ロケット分野を成長事業、クリーンエネルギー分野を育成事業と位置づけ、経営資源を大胆にシフトさせています。また、デジタル基盤の高度化や変革人材の育成・獲得も推進しています。
* 成長事業(航空エンジン・ロケット):民間向けエンジンの拡大、防衛・宇宙事業の推進。
* 育成事業(クリーンエネルギー):アンモニアバリューチェーンの構築。
* 中核事業(資源・社会基盤等):事業構造改革による収益性・効率性の向上。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「グループ人財戦略2023」に基づき、「良い+強い」会社と個人の「成長+幸せ」の両立を目指しています。新しいリーダーシップと自己変革能力を持つ人材の育成、多様な人材が活躍できる環境整備(DE&I)、従業員エンゲージメントの向上を重点課題としています。また、2030年までに役員女性比率30%以上を目指すなど、経営幹部候補の多様化も進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.1歳 | 15.8年 | 8,134,777円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.8% |
| 男性育児休業取得率 | 296.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 67.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 79.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 36.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職比率(2026年までに7%)、女性採用比率(2026年までに大卒採用者のうち女性比率20%程度)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) コンプライアンスと品質保証
グループ会社において、エンジン試運転記録の不適切修正や除雪装置の仕様不適合、独占禁止法違反などの不適切行為が判明しています。これらに対し再発防止策を講じていますが、法令違反等が生じた場合、過料や行政処分、社会的評価の低下により業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 経済安全保障
防衛装備品や社会インフラを提供する同社グループにとって、国際情勢の変化や経済安全保障問題は重要なリスク要因です。各国の政策や法規制への違反、経済安全保障上の課題への対応不備が生じた場合、社会的信用の毀損や販売機会の逸失につながる可能性があります。
■(3) プロジェクト管理
大型プロジェクトや大型投資において、経済環境の変化や検討不足、予期せぬトラブル等により、見積コストを超過する工事の発生や性能・納期未達によるペナルティ、追加費用の発生等の可能性があります。受注・投資前の審査体制強化やモニタリングを実施していますが、業績への悪影響が生じるリスクがあります。



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