近畿車輛 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

近畿車輛 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所スタンダード市場に上場する近畿車輛は、鉄道車両の製造を中心とした鉄道車両関連事業と不動産賃貸事業を展開しています。当期の業績は、国内向け車両の増加により売上高が増収となり、有価証券の売却等により親会社株主に帰属する当期純利益も増益となりましたが、経常利益は減益となっています。


※本記事は、近畿車輛株式会社の有価証券報告書(第114期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。

1. 近畿車輛ってどんな会社?


近畿車輛は、鉄道車両関連事業を中核とし、不動産賃貸事業も展開する企業です。

(1) 会社概要


1920年に田中車輛工場を創設し鉄道車両の製造を開始しました。1945年に近畿日本鉄道へ株式を譲渡し、現在の近畿車輛へ商号変更しています。1961年に東京証券取引所に上場し、2012年には西日本旅客鉄道と業務提携を行いました。2020年に創業100周年を迎えています。

従業員数は連結で1,163名、単体で989名です。筆頭株主は事業会社である近畿日本鉄道の退職給付信託口としての日本マスタートラスト信託銀行です。第2位は同じく事業会社である近鉄グループホールディングス、第3位はファンドのECM MFとなっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(近畿日本鉄道退職給付信託口) 30.30%
近鉄グループホールディングス 14.11%
ECM MF(常任代理人 立花証券) 8.45%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長は吉川富雄氏が務めており、社外取締役比率は23.1%です。

氏名 役職 主な経歴
吉川富雄 代表取締役社長 1981年近畿日本鉄道入社。同社鉄道事業本部技術局車両部長などを経て、2012年に同社取締役に就任。2023年より現職。
青木裕孝 取締役専務執行役員車両統括資材部担任 1982年同社入社。資材部長、海外事業室長などを経て、2015年に取締役に就任。ケーエステクノス代表取締役社長を経て、2024年より現職。
田畑果津志 取締役常務執行役員製作所担任 1984年近畿日本鉄道入社。同社海外事業室部長などを経て、2019年に同社取締役に就任。2023年より現職。
杉森尚志 取締役常務執行役員事業企画室・海外事業室担任 1993年西日本旅客鉄道入社。同社新幹線鉄道事業本部新幹線車両部長などを経て、2023年より現職。
岡島成吉 取締役常務執行役員経営管理室・総務部・人事部・品質保証部担任 1990年同社入社。営業企画部長、事業企画室長などを経て、2024年より現職。
岡崎尚毅 取締役常務執行役員経理部担任 1989年近畿日本鉄道入社。近鉄リテーリング専務取締役管理本部長などを経て、2025年より現職。


社外取締役は、野崎篤彦(元日本生命保険常任監査役)、小森悟(京都大学名誉教授)、大津谷正和(元関西電力企画部長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「鉄道車両関連事業」および「不動産賃貸事業」を展開しています。

鉄道車両関連事業


国内の鉄道事業者および海外市場向けに、鉄道車両の設計・製造を行っています。長寿命で軽量、かつリサイクル性が高く環境負荷の低い、多様な乗客に対して快適な鉄道車両の供給を目指し、社会のニーズに応える最適仕様の車両を提供しています。

顧客からの個別契約に基づくオーダーメイドによる受注車両の納入代金が主な収益源です。事業の運営は同社が行い、ケーエステクノスが車両製造に関わる補助業務を担うほか、複数の海外子会社を通じて海外案件の獲得や納入を行っています。

不動産賃貸事業


商業施設などの不動産の賃貸サービスを提供しています。同社の保有する資産を有効活用し、安定的な収益基盤を構築する事業として位置付けられています。

テナント等からの不動産賃貸料が主な収益源となっています。当事業の運営は主に同社が展開しており、東大阪や所沢の商業施設を中心に堅調な業績を維持しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は300億円台から400億円台の間で推移しており、当期は国内向け車両の増加により増収となりました。一方で経常利益は製造原価の上昇等の影響もあり直近2期間で減少傾向にありますが、有価証券売却益等により当期利益は増益を確保しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 393億円 359億円 432億円 303億円 371億円
経常利益 22億円 13億円 50億円 3億円 2億円
利益率(%) 5.5% 3.6% 11.6% 1.1% 0.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 26億円 27億円 43億円 13億円 24億円

(2) 損益計算書


売上高は増加したものの、原材料やエネルギー価格の高騰による売上原価の増加幅が大きく、売上総利益は減少しました。これにより、販売費及び一般管理費を吸収できず営業損失の計上となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 303億円 371億円
売上総利益 40億円 36億円
売上総利益率(%) 13.2% 9.8%
営業利益 2億円 -2億円
営業利益率(%) 0.8% -0.6%


販売費及び一般管理費のうち、給与及び手当が12億円(構成比32%)、賞与が1億円(同3%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の鉄道車両関連事業が西日本旅客鉄道や近畿日本鉄道向け電車などの売上により大幅な増収を牽引しました。不動産賃貸事業も既存の商業施設を中心に安定した売上を維持しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
鉄道車両関連事業 294億円 363億円
不動産賃貸事業 8億円 8億円
連結(合計) 303億円 371億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは健全型です。営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態を示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF -49億円 156億円
投資CF -6億円 -6億円
財務CF -0.1億円 -43億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.5%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は49.3%となっており、いずれも市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「我々は、常に誠意と熱意を持って、優れた技術と創造力を発揮し、豊かで快適な人間環境の実現に貢献します。」を企業理念として掲げています。創業以来、人と物の移動手段の近代化のために鉄道車両製造に携わり、サステナビリティ理念のもと社会的責任とその姿勢を明確にして事業活動を行っています。

(2) 企業文化


「サステナビリティ」理念に基づき、環境に優しく多様な人にとって快適な鉄道車両の供給を通じて持続可能な社会の実現に貢献する文化を重視しています。また、多様な人材がやりがいと誇りを持って働けるよう、人事施策や社員教育、職場環境の整備を行い、事業を持続可能にする体制づくりを進めています。

(3) 経営計画・目標


「CO2排出量(原単位)」を指標として採用し、政府目標値である「2030年度に2013年度比46%減」を掲げています。直近では再生可能エネルギー由来電力の導入によりすでに50%減を達成し、今後は「2035年度に2013年度比60%減」の前倒し達成となる約80%減を目標に取り組んでいます。

(4) 成長戦略と重点施策


DXや製造設備改良によるものづくりの変革で生産性を高め、再生可能エネルギー電力の使用により持続可能な企業活動を推進します。国内案件や大型海外案件を確実に遂行するとともに、デザイン力や製造技術力を活かし、環境面も考慮した最適仕様の車両を提案して案件獲得と収益の確保に努めます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


要員の確保・定着・育成を重要課題と位置づけ、採用活動のエリア拡大や業務の効率化・多能工化を進めています。評価制度の透明化や手当の拡充、健康支援を通じて安心して長く働ける職場を作り、計画的な階層別教育や技能教育を通じて自ら学び挑戦できる人材を育成する方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 45.4歳 21.3年 6,052,000円

※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.1%
男性育児休業取得率 55.6%
男女賃金差異(全労働者) 90.5%
男女賃金差異(正規雇用) 93.1%
男女賃金差異(パート・有期) 102.7%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、喫煙率(19.5%)、検診における有所見率(54.1%)、高ストレス者比率(16.8%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 新製車両の需要動向と受注競争


同社は鉄道車両関連事業の売上高が大半を占めるため、新製車両の需要動向に左右されやすい事業構成です。経済情勢等の影響で受注競争が激化し、安定的に受注できなかった場合や厳しい条件での受注となった場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) オーダーメイド案件による追加費用の発生


個別契約に基づき受注するオーダーメイド案件が多く、受注から納車まで数年に及ぶため、著しい景気変動や経済情勢の変動による原材料価格の高騰、調達部品の納入遅延、設計・工程変更による想定外の追加費用が発生するリスクがあります。

(3) 製品の品質と事故・クレーム対応


公共輸送を担う鉄道車両を製造しており、厳しい基準を適用して品質確保に努めていますが、予想しえない事故や不具合の発生、品質に起因するクレームやリコールにより損害賠償等のコストが発生した場合、業績に影響を及ぼすリスクがあります。

(4) 熟練技術者の確保と技術伝承


鉄道車両は多品種少量生産であり、多くの熟練社員の手作業に依存しています。少子高齢化が進む中、将来を支える若年層の人材確保が難しくなっており、人材が十分に確保・定着しない場合は、技術伝承や安定的な生産体制の維持に影響を及ぼすおそれがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。