※本記事は、近畿車輛株式会社 の有価証券報告書(第113期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 近畿車輛ってどんな会社?
鉄道車両の製造・販売を主力とし、国内のJRや私鉄、海外の鉄道事業者向けに車両を提供する老舗メーカーです。
■(1) 会社概要
1920年に田中車輛工場として創業し、鉄道車両の製造を開始しました。1945年に近畿車輛へ商号を変更し、1961年には東京証券取引所市場第一部に上場を果たしました。2012年に西日本旅客鉄道との業務提携を締結し、関係を強化しています。2022年の市場区分見直しに伴い、スタンダード市場へ移行しました。
同社の従業員数は連結で1,225名、単体で990名です。筆頭株主は近畿日本鉄道が拠出した退職給付信託の受託者である信託銀行で、第2位はその他の関係会社である近鉄グループホールディングスです。第3位には外国法人等が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(近畿日本鉄道株式会社退職給付信託口) | 30.30% |
| 近鉄グループホールディングス | 14.11% |
| ECM MF(常任代理人 立花証券) | 8.45% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長は吉川富雄氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 吉川 富雄 | 代表取締役社長監査部担任 | 1981年近畿日本鉄道入社。同社鉄道事業本部技術局車両部長等を経て2007年同社入社。常務、顧問を経て2023年6月より現職。 |
| 青木 裕孝 | 取締役専務執行役員車両統括資材部・製作所担任 | 1982年同社入社。資材部長、営業本部副本部長、海外事業室長、常務等を経て2024年6月より現職。ケーエステクノス社長を兼務。 |
| 田畑 果津志 | 取締役常務執行役員東京事務所・海外事業室国内営業部担任 | 1984年近畿日本鉄道入社。1999年同社入社。車両エンジニアリング部長、海外事業室部長等を経て2023年6月より現職。 |
| 杉森 尚志 | 取締役常務執行役員事業企画室・研究開発部・エンジニアリング部担任 | 1993年西日本旅客鉄道入社。新幹線車両部長、山陽新幹線統括本部車両部長等を経て2023年6月より現職。 |
| 岡島 成吉 | 取締役常務執行役員経営管理室・総務部・人事部担任 | 1990年同社入社。営業企画部長、事業企画室長等を経て2024年6月より現職。 |
| 岡根 修司 | 取締役相談役 | 1973年近畿日本鉄道入社。同社常務等を経て2011年同社専務。社長、会長を経て2023年6月より現職。 |
社外取締役は、野崎篤彦(元日本生命保険相互会社常任監査役)、小森悟(京都大学名誉教授)、大津谷正和(元住友電設常務)です。
2. 事業内容
同社グループは、「鉄道車両関連事業」および「不動産賃貸事業」を展開しています。
■(1) 鉄道車両関連事業
主に鉄道車両の製造・販売、車両部品の販売、車両の改造工事などを提供しています。主な顧客は、近畿日本鉄道や西日本旅客鉄道などの国内鉄道事業者や、ロサンゼルス郡都市交通局などの海外鉄道事業者です。
収益は、顧客への製品引き渡しや工事の進捗に応じて売上を計上し、対価を受け取ることで得ています。運営は、近畿車輛が行うほか、製造補助業務を株式会社ケーエステクノスが、海外案件の拠点業務をKINKISHARYO International, L.L.C.などが担っています。技術エンジニアリング業務はRAIL TRANSIT CONSULTANTS,INC.が行っています。
■(2) 不動産賃貸事業
大阪府や埼玉県において、自社が保有する複合商業施設や土地の賃貸を行っています。
収益は、賃貸先からの賃料収入によって得ています。この事業の運営は、近畿車輛が単独で行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの5期間を見ると、売上高は300億円台から400億円台の間で推移しており、変動が見られます。利益面では、経常利益率が1%台から11%台まで大きく変動しており、特定の年度で高い利益率を記録する一方、直近の2025年3月期は大幅な減益となっています。当期純利益も同様の傾向を示しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 494億円 | 393億円 | 359億円 | 432億円 | 303億円 |
| 経常利益 | 3億円 | 22億円 | 13億円 | 50億円 | 3億円 |
| 利益率(%) | 0.6% | 5.5% | 3.6% | 11.6% | 1.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 7億円 | 28億円 | 12億円 | 44億円 | 6億円 |
■(2) 損益計算書
2024年3月期と2025年3月期を比較すると、売上高は約129億円減少し、売上総利益も半減しました。売上総利益率は19.1%から13.2%へ低下し、営業利益率は10.0%から0.8%へと大きく悪化しています。これは国内向け車両の減少などが主な要因です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 432億円 | 303億円 |
| 売上総利益 | 83億円 | 40億円 |
| 売上総利益率(%) | 19.1% | 13.2% |
| 営業利益 | 43億円 | 2億円 |
| 営業利益率(%) | 10.0% | 0.8% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が11億円(構成比28%)を占めています。また、売上原価においては、材料費や外注加工費などが主な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
鉄道車両関連事業は、国内向け車両の減少などにより大幅な減収減益となりました。一方、不動産賃貸事業は売上高が横ばいで推移し、安定した利益を生み出しています。全社費用等の調整額が利益を圧迫しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 鉄道車両関連事業 | 423億円 | 294億円 | 52億円 | 7億円 | 2.5% |
| 不動産賃貸事業 | 8億円 | 8億円 | 7億円 | 7億円 | 86.4% |
| 調整額 | - | - | -15億円 | -12億円 | - |
| 連結(合計) | 432億円 | 303億円 | 43億円 | 2億円 | 0.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
* **末期型**
* 営業CF(-)、投資CF(-)、財務CF(-)の状態です。本業の営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスであり、投資活動と財務活動も支出超過となっています。一般的に資金繰りが厳しい状態を示唆しますが、同社の場合、営業CFのマイナスは主に棚卸資産の増加によるものであり、現預金残高も確保されています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 89億円 | -49億円 |
| 投資CF | 26億円 | -6億円 |
| 財務CF | -46億円 | -0億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.1%で市場平均とほぼ同じ水準です。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「我々は、常に誠意と熱意を持って、優れた技術と創造力を発揮し、豊かで快適な人間環境の実現に貢献します。」を企業理念として掲げています。創業以来、人と物の移動手段の近代化のために鉄道車両製造に携わってきました。
■(2) 企業文化
同社は「サステナビリティ」理念を制定し、社会的責任とその姿勢を明確にしています。環境に優しく多様な人にとって快適な鉄道車両の供給を通じて、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。また、財務報告に係る内部統制の重要性を認識し、信頼性の確保に努める姿勢を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、環境面も考慮した持続可能な社会を実現するため、最適仕様の車両について提案を行い案件獲得に注力するとしています。具体的な数値目標としては、気候変動に対する指標として「2030年度にCO2排出量を2013年度比46%減」とする政府目標を掲げています。
■(4) 成長戦略と重点施策
中期的には国内市場での車両新造の回復や海外市場での計画始動を見込み、長期的には国内外での鉄道需要の継続を予測しています。こうした環境下で、国内案件に加え、カイロ地下鉄向け電車やロサンゼルス郡都市交通局向け電車などの大型海外案件の遂行に努めます。また、製造体質の強化や合理的な生産体制の追求により収益を確保し、環境配慮型車両の提案による案件獲得に注力する方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続可能な事業活動を実現するため、優秀な人材を積極的に採用し公平に登用する方針です。多様な人材がやりがいと誇りを持って働けるよう、人事施策、社員教育、職場環境の整備を進めています。特に、65歳定年実施に向けた制度整備や、若年層の技量アップを図る訓練センターの設置などに取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 45.1歳 | 21.0年 | 5,709千円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.1% |
| 男性育児休業取得率 | 84.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 84.8% |
| 男女賃金差異(正規) | 88.6% |
| 男女賃金差異(非正規) | 116.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、喫煙率(20.3%)、検診における有所見率(53.2%)、高ストレス者比率(14.3%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業の特性
同社グループは鉄道車両専業メーカーであり、業績は新製車両の需要動向に左右されやすい特性があります。個別契約に基づくオーダーメイド案件が多く、受注から納車まで長期間を要するため、景気や経済情勢の変動による原材料価格の高騰や部品納入遅延、設計・工程変更による追加費用が発生し、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 製品の品質
公共輸送を担う鉄道車両の製造において、厳格な品質管理を行っていますが、予期せぬ事故や不具合、品質に起因するクレームやリコールが発生した場合、損害賠償や訴訟費用等の多額のコストが生じ、業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対処するため、ISO9001の認証取得や技術開発の推進に取り組んでいます。
■(3) 人材確保
鉄道車両製造は多品種少量生産であり、熟練工の技術力が不可欠です。少子高齢化や団塊世代の退職により、若年層の人材確保や技術伝承が困難になった場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。訓練センターでの若年層育成や職場環境の整備、採用活動を通じて人材確保に努めています。



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