※本記事は、株式会社名村造船所 の有価証券報告書(第124期、自 2022年4月1日 至 2023年3月31日、2023年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 名村造船所ってどんな会社?
新造船と修繕船を中核に、鉄鋼構造物や機械の製造も手掛ける造船企業グループです。
■(1) 会社概要
1911年に名村源之助が創業した名村造船鉄工所を起源とし、1931年に株式会社へ改組しました。1949年に大阪証券取引所へ上場し、1974年には伊万里工場を竣工させて生産体制を拡充しました。2014年には佐世保重工業を完全子会社化するなどグループ規模を拡大しています。
同グループの連結従業員数は2,213名、単体では1,028名です。筆頭株主は同社との取引関係がある大手鉄鋼メーカーの日本製鉄で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本製鉄 | 7.26% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 5.46% |
| 三菱UFJ銀行 | 3.22% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性0名の計11名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は名村建介氏です。社外取締役比率は約18.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 名村建介 | 代表取締役社長 | 1997年同社入社。経営業務本部長等を経て2010年副社長。2011年4月より現職。佐世保重工業社長も兼任。 |
| 名村建彦 | 代表取締役会長 | 1964年丸紅飯田(現丸紅)入社。1987年同社入社。社長を経て2011年4月より現職。函館どつく会長等を兼任。 |
| 間渕重文 | 代表取締役専務社長補佐(全般)兼グループ新造船営業管掌兼鉄構事業部担当 | 1982年丸紅入社。2015年同社入社。船舶海洋事業部営業本部長等を経て2022年6月より現職。 |
| 向周 | 取締役兼常務執行役員経営業務本部長兼東京事務所長 | 1994年同社入社。経営業務本部企画部長等を経て2022年4月より現職。 |
| 坂田貴史 | 取締役兼常務執行役員船舶海洋事業部長兼生産業務本部担当 | 1993年同社入社。船舶海洋事業部設計本部長等を経て2023年6月より現職。 |
社外取締役は、鈴木輝雄(元神戸地方裁判所判事)、古川芳孝(九州大学大学院工学研究院教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「新造船事業」、「修繕船事業」、「鉄構・機械事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 新造船事業
各種船舶の製造販売を行っています。伊万里事業所を主力工場と位置付け、連結子会社の函館どつくとも連携して事業を展開しています。また、船型の技術開発や船舶設計の一部はグループ会社が担っています。
収益は、顧客への船舶の引渡し等により対価を得ています。運営は主に同社および函館どつくが行い、鋼材加工等は伊万里鉄鋼センターに委託しています。
■(2) 修繕船事業
佐世保重工業、函館どつくの函館造船所および室蘭製作所を拠点とし、船舶の修繕を行っています。大型艦艇や巡視船、LNG運搬船、フェリーなどの修繕工事や、環境対応船への改造工事等を手掛けています。
収益は、船主や官公庁からの修繕工事代金等から構成されます。運営は佐世保重工業および函館どつくが行い、名村マリンが同社より船舶修繕を受託しています。
■(3) 鉄構・機械事業
橋梁などの鉄鋼構造物や、クランク軸等の船舶用機器の製造販売を行っています。鉄構橋梁部門では橋梁の新設や修繕工事を担い、舶用機器部門では新造船市場の需要に対応しています。
収益は、橋梁工事や機器販売による対価を得ています。鉄構橋梁部門の運営は同社および函館どつくが行い、舶用機器部門は佐世保重工業が製造を行っています。
■(4) その他事業
ソフトウェア開発、情報機器の販売、設備の保全・保安業務、船舶貸渡業、曳船業務などを展開しています。
収益は、システム開発、船舶貸渡料、曳船業務等の対価からなります。運営は名村情報システム、玄海テック、名村マリン、佐世保マリン・アンド・ポートサービスおよび海外の子会社等が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2019年3月期から2022年3月期にかけては経常損失が続き、当期純損失を計上するなど厳しい業績で推移していました。しかし、2023年3月期は売上高が大幅に回復し、経常利益および当期利益ともに黒字転換を果たしています。
| 項目 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,246億円 | 1,119億円 | 984億円 | 834億円 | 1,241億円 |
| 経常利益 | -39億円 | -163億円 | -106億円 | -82億円 | 114億円 |
| 利益率(%) | -3.1% | -14.6% | -10.8% | -9.9% | 9.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 6億円 | -180億円 | -188億円 | -84億円 | 112億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は約1.5倍に増加し、売上総利益率はマイナスからプラスへ大幅に改善しました。これに伴い営業利益も黒字化し、収益性が大きく向上しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 834億円 | 1,241億円 |
| 売上総利益 | -41億円 | 150億円 |
| 売上総利益率(%) | -5.0% | 12.1% |
| 営業利益 | -95億円 | 96億円 |
| 営業利益率(%) | -11.4% | 7.7% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が19億円(構成比36%)、その他費用が8億円(同15%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで増収増益となりました。特に主力の新造船事業は操業量の増加や円安進行により売上が大幅増となり、営業利益も黒字転換しました。修繕船事業やその他事業も増益を確保しています。
| 区分 | 売上(2022年3月期) | 売上(2023年3月期) | 利益(2022年3月期) | 利益(2023年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 新造船事業 | 570億円 | 950億円 | -82億円 | 99億円 | 10.4% |
| 修繕船事業 | 153億円 | 163億円 | 5億円 | 10億円 | 6.1% |
| 鉄構・機械事業 | 58億円 | 70億円 | -0.2億円 | 2億円 | 3.2% |
| その他事業 | 54億円 | 58億円 | 2億円 | 4億円 | 7.6% |
| 調整額 | - | - | -19億円 | -20億円 | - |
| 連結(合計) | 834億円 | 1,241億円 | -95億円 | 96億円 | 7.7% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のCF状態は「健全型」です。営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態です。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 151億円 | 90億円 |
| 投資CF | -7億円 | -13億円 |
| 財務CF | -25億円 | -34億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は25.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は39.8%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
長期的視野に立ったグループ経営により、持続的発展に向けた取り組みを強化し、収益力の安定・強化に努めることを方針としています。また、ステークホルダーとの信頼関係を強化し、持続的な成長を期待される「存在感」ある企業グループの形成を目指しています。
■(2) 企業文化
製造業の原点である総合的な国際競争力の強化を基本としつつ、地球環境の改善や地域社会への貢献を重視しています。顧客・取引先・金融機関・従業員・地域など様々なステークホルダーとの信頼関係の強化・拡大を図る姿勢を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
建造・生産能力の拡大に向け、収益力の安定・強化を目指しています。また、財務面においては、将来の成長に必要な投資のために長期資金の調達手段を検討することを掲げています。具体的な数値目標としてのKPI等は有価証券報告書には記載されていません。
■(4) 成長戦略と重点施策
新造船事業では、コスト削減と商品開発力の強化を進めるとともに、伊万里事業所を主力工場としてデジタル技術による生産最適化を図ります。函館どつくとの連携によるコストダウンや、環境対応型船舶の開発も推進します。修繕船事業では、佐世保重工業等の拠点を活かし、大型艦艇や多様な船舶の修繕に取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
競争力の源泉は人材であるという認識のもと、階層別・職種別研修を実施し、自律的なキャリア構築やリスキリングを支援しています。また、多様な個人の掛け合わせによるイノベーション創出を目指し、女性や外国人材の採用推進、多様な働き方を実現できる環境づくりに取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 41.2歳 | 17.9年 | 5,587,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.5% |
| 男性育児休業取得率 | 18.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 84.3% |
| 男女賃金差異(非正規) | 60.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性の在籍人数(99名)、有給休暇の取得率(66.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 政治・経済情勢と新造船需要
新造船事業の需要は海運市況に大きく左右されるため、世界経済の悪化や地政学的リスクの高まりにより海運市況が低迷した場合、受注確保が困難になる可能性があります。修繕船や鉄構・機械事業も同様に政治・経済情勢の影響を受けます。
■(2) 事業環境・競争環境
新造船事業は受注から引渡しまで長期間を要するため、受注時の環境によっては赤字受注となる場合があり、工事損失引当金を計上するリスクがあります。また、船価は主に米ドル建てであるため、売上高等は為替レート変動の影響を受けます。
■(3) 気候変動対応と環境規制
国際海事機関(IMO)による環境規制強化や脱炭素化の動きに対応するため、環境対応型船舶の開発・建造が必須となっています。効率的な研究開発や生産体制が確立できない場合、技術的優位性や競争力が低下する恐れがあります。



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