※本記事は、株式会社名村造船所の有価証券報告書(第127期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 名村造船所ってどんな会社?
名村造船所は、各種船舶や鉄鋼構造物の製造販売、船舶修繕を手掛ける歴史ある造船・重機械メーカーです。
■(1) 会社概要
1911年に名村造船鉄工所として創業し、1931年に株式会社へ改組して新発足しました。1949年に大阪証券取引所へ株式を上場し、1974年には主力となる伊万里工場を竣工しています。2001年に函館どつくに資本参加して2008年に連結子会社化したほか、2014年には佐世保重工業を完全子会社化するなど、グループ基盤を拡大してきました。
現在の従業員数は連結で2,436名、単体で1,158名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は事業会社である日本製鉄、第3位も金融機関が名を連ねており、大手企業や機関投資家による安定した資本基盤を有しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.70% |
| 日本製鉄 | 5.44% |
| J.P.MORGAN BANK LUXEMBOURG S.A.384513 (常任代理人 みずほ銀行) | 4.03% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性1名の計12名で構成され、女性役員比率は8.3%です。代表取締役社長は名村建介氏が務めており、社外取締役の比率は25.0%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 名村建介 | 代表取締役社長 | 1997年同社入社。経営業務本部長、代表取締役副社長などを経て2011年4月より現職。 |
| 名村建彦 | 代表取締役会長 | 丸紅飯田(現 丸紅)を経て1987年同社入社。代表取締役社長などを経て2011年4月より現職。 |
| 間渕重文 | 代表取締役専務社長補佐(全般)兼グループ新造船営業管掌兼鉄構事業部担当 | 丸紅を経て2015年同社入社。船舶海洋事業部営業本部長などを経て2023年4月より現職。 |
| 坂田貴史 | 取締役兼専務執行役員船舶海洋事業部長兼生産業務本部担当 | 1993年同社入社。船舶海洋事業部設計本部長などを経て2025年4月より現職。 |
| 向周 | 取締役兼常務執行役員経営業務本部長兼東京事務所長 | 1994年同社入社。経営業務本部企画部長などを経て2022年4月より現職。 |
社外取締役は、古川芳孝(九州大学大学院工学研究院教授)、安酸庸祐(ときわパートナーズ法律事務所設立)、河端瑞貴(慶應義塾大学経済学部教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「新造船」「修繕船」「鉄構・機械」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 新造船事業
各種船舶の製造販売を行っており、国内外の海運会社などを主要な顧客としています。鋼材ショット加工や船舶資材の仕入、船型の技術開発など、設計から製造までグループ各社と連携した体制を構築し、大型撒積運搬船やハンディ型撒積運搬船などの建造を手掛けています。
収益は、顧客である海運会社などからの船舶の建造・販売代金として受け取ります。事業の運営は、主に名村造船所および子会社の函館どつくが行っており、製造加工の一部を伊万里鉄鋼センターに委託、技術開発の一部を名村エンジニアリングが行うなど、グループ内で機能分担しています。
■(2) 修繕船事業
国内艦艇や巡視船などの官公庁向け船舶のほか、客船、LNG運搬船、特殊船、RORO船、漁船といった民間船舶の修繕工事および解体工事を行っています。佐世保や函館・室蘭などの地理的優位性を活かし、日本の安全保障体制の維持や民間船舶の修繕体制強化に貢献しています。
収益は、防衛省や海上保安庁などの官公庁、および国内外の民間海運会社からの船舶修繕代金として受け取ります。事業の運営は、主に子会社である佐世保重工業と函館どつくが担っており、名村造船所が受注した修繕業務の一部を名村マリンが受託する形態もとっています。
■(3) 鉄構・機械事業
道路等の鋼製橋梁などの鉄鋼構造物の製造販売と、舶用エンジン向けのクランク軸など船舶用機器の製造販売を行っています。国や地方自治体からの公共工事受注を通じたインフラ整備のほか、造船向け部材の供給によりグループ内外の需要に対応しています。
収益は、国や地方自治体からの鉄鋼構造物の工事請負代金、および舶用機器メーカー等からの製品販売代金として受け取ります。鉄鋼構造物の運営は主に名村造船所と函館どつくが担当し、舶用機器の製造販売は佐世保重工業が担当しています。
■(4) その他事業
グループの中核事業以外の領域として、ソフトウェア開発、情報機器の販売、設備の保全・保安業務、船舶の貸渡業(海運業)、曳船業務など、多岐にわたる事業を展開しています。グループ各社の収益体制を強化し、事業ポートフォリオの最適化を図っています。
収益は、グループ内外の企業からのシステム開発費用、設備保全費用、船舶の貸渡料や曳船業務の手数料などとして受け取ります。運営は、名村情報システム(ソフトウェア開発)、玄海テック(設備保全)、モーニングダイダラスナビゲーション社などの海外子会社(船舶貸渡業)等が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は第123期の834億円から第126期には1,592億円まで拡大し、当期も1,590億円と高水準を維持しています。利益面でも、第123期は経常赤字でしたが、翌期以降は黒字転換して順調に利益を伸ばし、当期は経常利益295億円を計上するなど、収益力の改善が鮮明に表れています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 834億円 | 1,241億円 | 1,350億円 | 1,592億円 | 1,590億円 |
| 経常利益 | -82億円 | 114億円 | 200億円 | 295億円 | 295億円 |
| 利益率(%) | -9.9% | 9.2% | 14.8% | 18.5% | 18.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -73億円 | 84億円 | 150億円 | 192億円 | 165億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で横ばいの推移ですが、売上原価も同水準にコントロールされており、売上総利益は362億円を確保しています。一方、営業利益は前期の295億円から当期は281億円へとやや減少しており、営業利益率も18.5%から17.7%へとわずかに低下する結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,592億円 | 1,590億円 |
| 売上総利益 | 363億円 | 362億円 |
| 売上総利益率(%) | 22.8% | 22.8% |
| 営業利益 | 295億円 | 281億円 |
| 営業利益率(%) | 18.5% | 17.7% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が14億円(構成比17%)、研究開発費が8億円(同10%)を占めています。また、売上原価においては、直接材料費が513億円(構成比50%)、直接経費が330億円(同32%)を占めています。
■(3) セグメント収益
新造船事業は主力商品の建造が順調に進み、円安の恩恵もあって増収増益となりました。一方で修繕船事業は国内艦艇修繕の発生工事量が減少し、大幅な減収減益となっています。鉄構・機械事業は大型案件の受注により増収増益を達成しました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 新造船事業 | 1,229億円 | 1,256億円 | 276億円 | 286億円 | 22.8% |
| 修繕船事業 | 230億円 | 205億円 | 36億円 | 16億円 | 7.6% |
| 鉄構・機械事業 | 62億円 | 63億円 | 1億円 | 3億円 | 5.5% |
| その他事業 | 71億円 | 66億円 | 8億円 | 9億円 | 13.4% |
| 調整額 | - | - | -27億円 | -33億円 | - |
| 連結(合計) | 1,592億円 | 1,590億円 | 295億円 | 281億円 | 17.7% |
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 377億円 | 388億円 |
| 投資CF | -53億円 | -94億円 |
| 財務CF | 23億円 | -5億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は17.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は51.3%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「存在感」を企業理念として掲げ、創業以来、船舶の製造を基軸とした事業活動を営んでいます。顧客のニーズに応えた高品質の船舶を長年にわたり安定的に製造・供給することを経営の基軸とし、顧客の信頼を獲得し、全社一丸となって企業価値の向上に努めることを使命としています。
■(2) 企業文化
名村造船所グループでは、豊かな社会創りに貢献するとともに、法令遵守が企業の最低限の社会的責務であるとの考えのもと、「名村造船所グループ行動憲章」を定めています。すべての役員・従業員が遵守すべき行動指針として企業倫理の確立と社会的責任の遂行を重視し、適法・適正で透明性の高い経営を保つ文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは中長期的な企業価値の向上と安定収益体制の構築を目指し、今後の成長を見据えた目標を掲げています。特に環境対応船の需要増加に対応するため、IMO(国際海事機関)の温室効果ガス削減戦略に沿って、2040年より前にゼロエミッション船建造比率100%の体制を構築することを目標としています。
■(4) 成長戦略と重点施策
既存事業の「深化」と新たな事業展開による「進化」を基本戦略としています。新造船事業ではスマートファクトリー化による生産性向上を進め、修繕船事業では経済安全保障政策に沿った設備と技術の強化を図ります。鉄構・機械事業では安定収益体制の確立に向け、建造技術力の強化を通じたシェア拡大に注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
競争力の源泉は人材であるとの認識のもと、国籍や性別に関係ない公正な採用と、従業員の自律的なキャリア構築を支援する育成方針を掲げています。また、多様な個人の掛け合わせによるイノベーション創出を目指し、従業員一人ひとりが多様な働き方を選択できる社内環境の整備を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.1歳 | 17.2年 | 6,901,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.5% |
| 男性育児休業取得率 | 55.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 83.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 85.6% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 68.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇の取得率(81.0%)、勤続年数(男性)(15.9年)、勤続年数(女性)(13.6年)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 政治・経済情勢
グループの中核である新造船事業は海運市況に大きく左右されるため、世界経済の悪化や地政学的リスクの高まりなどにより海運市況が低迷した場合、新造船需要が後退し受注確保が困難になるリスクがあります。修繕船事業や鉄構・機械事業においても、国内外の政治・経済情勢が受注環境に影響を及ぼします。
■(2) 新造船市場の事業・競争環境
世界の新造船需要は堅調に推移し船価も改善傾向にありますが、世界的なインフレ等の不安要素が存在します。また、新造船は受注から竣工まで2~3年を要するため、仕事量確保のための受注や戦略的受注が赤字となり、受注時点で工事損失引当金を計上するリスクや、為替変動の影響を受ける可能性があります。
■(3) 環境規制・気候変動への対応
地球環境問題への対応として、船舶からの温室効果ガス(GHG)排出に対する国際的な規制が強化されており、新燃料船等のニーズが高まっています。環境対応型船型の開発や効率的な生産体制の確立が遅れた場合、新造船事業における技術的優位性が損なわれ、競争力が低下するリスクがあります。
■(4) 外貨建て取引に伴う為替変動
新造船事業は輸出比率が高く、受注の大半が米ドル建ての契約となっているため、売上高や入金額、工事損失引当金は為替レートの変動による影響を直接受けます。為替予約等により影響の軽減に努めていますが、急激な円高が進行した場合には、グループの業績および財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。



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