※本記事は、曙ブレーキ工業株式会社の有価証券報告書(第130期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 曙ブレーキ工業ってどんな会社?
同社は自動車や産業機械・鉄道車両向けのブレーキ製品を開発・製造する独立系ブレーキ部品メーカーです。
■(1) 会社概要
1929年に曙石綿工業所として創業し、1936年に曙石綿工業を設立しました。1960年に現在の曙ブレーキ工業へと社名を変更し、1983年に東証第一部へ上場しました。1986年の米国での合弁会社設立をはじめ、欧州やアジアなどグローバルに生産・販売拠点を拡大し、事業を展開してきました。
従業員数は連結で5,096名、単体で745名です。筆頭株主は事業再生支援を目的として出資を行ったジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第弐号投資事業有限責任組合で、第2位および第3位には事業会社であるトヨタ自動車やいすゞ自動車が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第弐号投資事業有限責任組合 | 50.75% |
| トヨタ自動車 | 5.70% |
| いすゞ自動車 | 4.46% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性0名の計7名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役執行役員社長CEOは長岡宏氏が務めています。社外取締役の比率は57.1%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 長岡宏 | 代表取締役執行役員社長CEO | 1986年日産自動車入社。三菱自動車工業代表執行役副社長などを経て、2025年1月同社執行役員社長CEOに就任。同年2月より現職。 |
| 安藤昌明 | 取締役執行役員 | 1988年同社入社。米国子会社社長、グローバル営業部門長、COOなどを歴任し、2023年6月取締役に就任。2026年1月より現職。 |
| 戎野順一 | 取締役 | 2006年新日本監査法人入所。ジャパン・インダストリアル・ソリューションズに入社しシニアマネージングディレクター。2025年6月より現職。 |
社外取締役は、駒形崇(丸の内キャピタル等を経てジャパン・インダストリアル・ソリューションズ取締役)、丹治宏彰(元旭テック代表執行役社長)、河本茂行(河本総合法律事務所代表弁護士)、片山智裕(片山法律会計事務所代表弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「北米」「欧州」「中国」「タイ」「インドネシア」の6つの報告セグメントを展開しています。
■日本
同社および国内子会社を通じて、自動車向けディスクブレーキやドラムブレーキ、摩擦材のほか、産業機械・鉄道車両用ブレーキ製品を開発・製造・販売しています。国内外の完成車メーカーや鉄道事業者などを主な顧客としています。
収益はこれらの製品の販売代金から得ています。運営は同社のほか、曙ブレーキ岩槻製造、曙ブレーキ山形製造、曙ブレーキ福島製造、曙ブレーキ山陽製造などの製造子会社が行っており、物流はアロックスが担っています。
■北米
北米市場において、自動車向けのディスクブレーキやドラムブレーキ、ブレーキパッドなどを製造・販売しています。現地の完成車メーカーや日系メーカーの現地拠点が主な顧客です。
収益は製品の販売によって獲得しています。事業の運営は、米国に拠点を置くAkebono Brake Corporationを中心に、メキシコのAkebono Brake Mexico S.A. de C.V.などが担っています。
■欧州
欧州市場において、自動車向けディスクブレーキを中心とするブレーキ部品の製造および販売を展開しています。欧州域内の完成車メーカーなどを顧客としています。
収益は製品の販売代金から得ています。同地域における事業運営は、スロバキアに生産拠点を持つAkebono Brake Slovakia s.r.o.が主体となって行っています。
■中国
中国市場でディスクブレーキやドラムブレーキ、ブレーキパッドなどの製造・販売、研究開発を行っています。日系メーカーのほか、現地の新興EVメーカーなどへの納入も進めています。
製品の販売代金が主な収益源です。中国における事業の運営は、広州曙光制動器有限公司と曙光制動器(蘇州)有限公司が主体となって推進しています。
■タイ
タイを中心とするASEAN地域の顧客に向けて、ディスクブレーキやブレーキパッド、ブレーキ用鋳鉄部品などの製造・販売を展開しています。
製品販売による代金を収益としています。事業運営はAkebono Brake (Thailand) Co., Ltd.や、鋳鉄部品を製造するAkebono Brake Foundry (Thailand) Co., Ltd.などが担っています。
■インドネシア
インドネシアおよびベトナム市場において、四輪車用および二輪車用のディスクブレーキ、ドラムブレーキ、マスターシリンダーなどの製造と販売を行っています。
製品の販売代金が主な収益源となります。事業運営は、PT. Akebono Brake Astra Indonesiaと、ベトナムのAkebono Brake Astra Vietnam Co., Ltd.が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上高は1,300億円台から1,600億円台へと拡大傾向にあります。利益面では一時的に経常損失を計上した期もありましたが、直近では価格転嫁や合理化施策の進展などにより収益性が大幅に改善し、経常利益・当期純利益ともに黒字転換を果たしています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1355億円 | 1540億円 | 1663億円 | 1617億円 | 1601億円 |
| 経常利益 | 61億円 | 23億円 | 38億円 | -23億円 | 48億円 |
| 利益率(%) | 4.5% | 1.5% | 2.3% | -1.4% | 3.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 8億円 | -25億円 | 14億円 | -75億円 | 32億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前年比で微減となったものの、売上総利益は増加し、売上総利益率も10.0%から11.4%へと向上しています。また、販売費及び一般管理費の削減も進んだことで、営業利益は前年の31億円から56億円へと大幅に増加し、営業利益率は3.5%に改善しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1617億円 | 1601億円 |
| 売上総利益 | 162億円 | 183億円 |
| 売上総利益率(%) | 10.0% | 11.4% |
| 営業利益 | 31億円 | 56億円 |
| 営業利益率(%) | 1.9% | 3.5% |
販売費及び一般管理費(127億円)のうち、給料が43億円(構成比34%)、荷造運搬費が17億円(同13%)を占めています。売上原価(1,419億円)については、製造コストの低減や価格転嫁が進んだことで、売上高に対する原価率は前年の90.0%から88.6%へと低下しています。
■(3) セグメント収益
日本やアジア地域が手堅く利益を稼ぎ出しています。特に日本は価格転嫁や合理化により大幅な増益を達成し、中国やタイでも増益となっています。一方で、北米は一部車種の生産終了や労務費の増加により営業赤字が継続しており、欧州も受注減少の影響で減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 588億円 | 596億円 | 27億円 | 45億円 | 7.6% |
| 北米 | 491億円 | 487億円 | -32億円 | -32億円 | -6.6% |
| 欧州 | 122億円 | 86億円 | 3億円 | 1億円 | 1.2% |
| 中国 | 106億円 | 115億円 | 6億円 | 11億円 | 9.6% |
| タイ | 66億円 | 71億円 | 6億円 | 10億円 | 14.1% |
| インドネシア | 243億円 | 246億円 | 18億円 | 19億円 | 7.7% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | 2億円 | 2億円 | - |
| 連結(合計) | 1617億円 | 1601億円 | 31億円 | 56億円 | 3.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業といえるキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 14億円 | 48億円 |
| 投資CF | 60億円 | -24億円 |
| 財務CF | -185億円 | -9億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.7%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も39.2%となり、いずれもプライム市場の平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「私達は、『摩擦と振動、その制御と解析』により、ひとつひとつのいのちを守り、育み、支え続けて行きます。」という企業理念を掲げています。この理念のもと、モノづくりを通じた新たな価値の創出と企業価値の向上を目指し、重要保安部品メーカーとして持続可能な成長と社会の発展に貢献することを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は、サステナビリティを経営の基軸と位置づけ、安全・安心な製品の提供と地球環境の保全を重視する文化を持っています。また、「会社を成功に導く最も重要なファクターは『人財』である」という考えのもと、社員一人ひとりの多様性を尊重し、自律的な成長と活躍を支援する組織づくりを推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2026年3月期から2028年3月期を「基盤再構築」の期間と位置づける中期経営計画を推進しています。外部環境に左右されにくい安定的な収益基盤を構築し、全地域での黒字化を目指しています。
* 営業利益80億円
* 営業利益率6%
* フリー・キャッシュ・フロー60億円
■(4) 成長戦略と重点施策
基盤再構築に向け、国内でのコスト構造改革や、鉄道車両用・補修品での即効性のある拡販を実行し、米国事業をはじめとする全リージョンでの黒字化を最優先の課題としています。さらに、次期中期経営計画での「再成長」と過去最高益の再達成を見据え、カーボンニュートラルや電動化に対応する新技術・新商品への仕込みにも注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、中期経営計画の着実な遂行を支えるため、「報酬」「目標設定及び評価」「働く環境」の3本柱からなる人財戦略を推進しています。業績と連動した報酬制度への見直しや、目標設定プロセスの可視化を通じて従業員の貢献意欲を高めるとともに、安全で衛生的に働け、多様な人財が能力を最大限に発揮できる環境づくりに取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 46.0歳 | 20.8年 | 7,147,943円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.9% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女の賃金差異(全労働者) | 74.2% |
| 男女の賃金差異(正規雇用) | 73.3% |
| 男女の賃金差異(パート・有期) | 79.0% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」などのセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、管理職に占める中途採用者の割合(27.2%)、メンタルヘルス研修受講率(100.0%)、リスキリングプログラムの受講者数(3名)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 技術革新・新製品開発への対応遅れ
自動車業界の電動化(EVシフト)や環境規制の強化が急速に進む中、同社が市場や顧客ニーズの急激な変化を予測し、電動パーキングブレーキや摩耗粉塵排出を抑制した次世代摩擦材などの新技術・新製品をタイムリーに開発できなかった場合、他社に先行され、事業や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 生産設備の損壊と供給停滞リスク
同社は最適生産の取り組みとして工場の専門化を進めており、国内外の拠点で生産を補完する体制を構築しています。しかし、地震や洪水などの自然災害、あるいは大規模な火災・爆発事故等によって生産設備や建屋が損壊し、補完機能が機能せずに顧客への製品供給に遅延や不能が生じた場合、事業継続に重大な影響を及ぼす恐れがあります。
■(3) 製品の品質とリコールに関するリスク
同社のブレーキ製品は自動車などの安全性に直接関わる重要保安部品です。万全の品質保証体制を構築して製造に努めていますが、万が一製品に欠陥が発生し、重大な事故や大規模なリコールに発展してしまった場合、多額の損害賠償費用や改修費用の発生、さらには社会的信用の低下を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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