※本記事は、株式会社曙ブレーキ工業 の有価証券報告書(第129期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 曙ブレーキ工業ってどんな会社?
自動車や鉄道車両などの「止まる」を支えるブレーキ専業メーカーです。グローバルに事業を展開し、高い技術力を有しています。
■(1) 会社概要
1929年に曙石綿工業所として創業し、ブレーキライニング等の製造を開始しました。1960年に現社名へ変更し、1983年に東証一部(現プライム)へ上場しました。2007年にはF1のマクラーレンチームへの供給を開始するなど技術力を高めてきましたが、北米事業の不振等により2019年に事業再生ADR手続を申請。その後、構造改革を進め、2024年6月に事業再生計画期間を終了しました。
同社の連結従業員数は5,351名、単体では767名です。筆頭株主は事業再生支援目的で出資した投資事業組合であるジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第弐号投資事業有限責任組合で、50.76%を保有しています。第2位はトヨタ自動車で、同社とは重要な取引関係にあります。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第弐号投資事業有限責任組合 | 50.76% |
| トヨタ自動車 | 5.70% |
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 4.66% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性0名の計7名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役執行役員社長CEOは長岡 宏氏です。社外取締役比率は71.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 長 岡 宏 | 代表取締役執行役員社長CEO | 日産自動車、三菱自動車工業の代表執行役副社長などを経て、2025年1月より同社執行役員社長CEO、同年2月より現職。 |
| 安 藤 昌 明 | 取締役執行役員COO | 1988年同社入社。北米法人社長、グローバル営業部門長、CMOなどを歴任。2024年4月よりCOO、2025年4月より自動車営業部門長を兼務し現職。 |
社外取締役は、駒 形 崇(ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ取締役)、丹 治 宏 彰(元旭テック代表取締役社長)、廣 本 裕 一(ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ代表取締役社長)、三 代 洋 右(元ナブテスコ代表取締役副社長)、河 本 茂 行(河本総合法律事務所代表弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」、「北米」、「欧州」、「中国」、「タイ」、「インドネシア」の6つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 日本
同社が販売および研究開発を担うほか、国内の製造子会社(岩槻、山形、福島、山陽)においてディスクブレーキ、ドラムブレーキ、ブレーキパッド、ライニング、産業機械・鉄道車両用ブレーキ等の製造を行っています。また、物流業務もグループ会社が担当しています。
収益は主に自動車メーカー等の顧客に対する製品販売から得ています。運営は、同社および曙ブレーキ岩槻製造、曙ブレーキ山形製造、曙ブレーキ福島製造、曙ブレーキ山陽製造、物流を担うアロックスなどが行っています。
■(2) 北米
米国およびメキシコにおいて、ディスクブレーキ、ディスクブレーキパッド、ドラムブレーキ等の製造、販売および研究開発を行っています。北米市場は同社グループにとって重要な市場の一つです。
収益は現地の自動車メーカー等への製品販売から得ています。運営は、米国においてはAkebono Brake Corporation、メキシコにおいてはAkebono Brake Mexico S.A. de C.V.が行っています。
■(3) 欧州
スロバキアにおいて、ディスクブレーキの製造および販売を行っています。欧州の自動車メーカー向けに製品を供給しています。
収益は顧客への製品販売から得ています。運営は、Akebono Brake Slovakia s.r.o.が行っています。
■(4) 中国
中国国内において、ディスクブレーキおよびディスクブレーキパッド、ドラムブレーキの製造、販売および研究開発を行っています。現地の需要に対応した生産体制を構築しています。
収益は製品販売から得ています。運営は、ディスクブレーキパッドを扱う曙光制動器(蘇州)有限公司と、ブレーキ本体を扱う広州曙光制動器有限公司が行っています。
■(5) タイ
タイにおいて、ディスクブレーキ、ディスクブレーキパッド等の製造および販売を行っています。また、ブレーキ用鋳鉄部品の製造や、販売・開発の支援サービスも展開しています。
収益は製品販売およびサービス提供から得ています。運営は、製造販売を行うAkebono Brake (Thailand) Co., Ltd.、鋳造部品を扱うA&M Casting (Thailand) Co., Ltd.、支援サービスを行うAkebono Cooperation (Thailand) Co., Ltd.が行っています。
■(6) インドネシア
インドネシアおよびベトナムにおいて、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ、マスターシリンダー等の製造および販売を行っています。二輪車用ブレーキも取り扱っています。
収益は製品販売から得ています。運営は、インドネシアではPT. Akebono Brake Astra Indonesia、ベトナムではAkebono Brake Astra Vietnam Co., Ltd.が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は1300億円台から1600億円台へと回復基調にありましたが、当期は減収となりました。利益面では、前期に黒字転換を果たしたものの、当期は再び最終赤字(親会社株主に帰属する当期純利益ベースでは黒字確保)となっており、不安定な状況が続いています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 1,340億円 | 1,355億円 | 1,540億円 | 1,663億円 | 1,617億円 |
| 税引前利益 / 経常利益 / 営業利益 | -18億円 | 61億円 | 23億円 | 38億円 | -23億円 |
| 利益率(%) | -1.3% | 4.5% | 1.5% | 2.3% | -1.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -36億円 | 8億円 | -25億円 | 14億円 | -75億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で減少しましたが、売上総利益率は改善傾向にあります。一方で営業利益率は低下しており、コストコントロールが課題となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,663億円 | 1,617億円 |
| 売上総利益 | 158億円 | 162億円 |
| 売上総利益率(%) | 9.5% | 10.0% |
| 営業利益 | 32億円 | 31億円 |
| 営業利益率(%) | 1.9% | 1.9% |
販売費及び一般管理費のうち、給料が46億円(構成比35%)、荷造運搬費が17億円(同13%)を占めています。
■(3) セグメント収益
日本と北米が売上の大半を占めていますが、北米は依然として赤字が続いています。中国とインドネシアは利益率が比較的高く、収益源となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 606億円 | 588億円 | 28億円 | 27億円 | 4.6% |
| 北米 | 493億円 | 491億円 | -32億円 | -32億円 | -6.5% |
| 欧州 | 135億円 | 122億円 | 5億円 | 3億円 | 2.7% |
| 中国 | 120億円 | 106億円 | 1億円 | 6億円 | 5.9% |
| タイ | 67億円 | 66億円 | 7億円 | 6億円 | 9.4% |
| インドネシア | 243億円 | 243億円 | 21億円 | 18億円 | 7.6% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | -億円 | -億円 | -% |
| 連結(合計) | 1,663億円 | 1,617億円 | 32億円 | 31億円 | 1.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社グループは、事業運営に必要な流動性と資金源泉の安定確保を基本方針としています。
営業活動によるキャッシュ・フローは、事業活動から生み出される現金の流れを示します。投資活動によるキャッシュ・フローは、設備投資や有価証券の取得・売却などによる現金の流れを表します。財務活動によるキャッシュ・フローは、借入や返済、配当金の支払いなどによる現金の流れを示しています。
有利子負債残高から現金及び預金を差し引いたネット有利子負債残高は前期末から減少しました。また、同社はドイツ銀行東京支店をアレンジャーとするシンジケートローン契約を締結しており、財務上の特約としてグロスレバレッジ比率やデットサービスカバー比率などが定められています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 76億円 | 14億円 |
| 投資CF | -35億円 | 60億円 |
| 財務CF | -19億円 | -185億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「私達は、『摩擦と振動、その制御と解析』により、ひとつひとつのいのちを守り、育み、支え続けて行きます。」という企業理念を掲げています。重要保安部品メーカーとして、モノづくりを通じた価値創出と企業価値向上を目指し、全てのステークホルダーと良好な関係を維持しながら持続可能な成長を遂げることを重視しています。
■(2) 企業文化
同社は、「会社を成功に導く最も重要なファクターは『人財』である」という考えのもと、社員一人ひとりが自発的に学び、「自律型人財」として成長できる環境を重視しています。また、安全・安心や環境保全への貢献を社会的責任と捉え、サステナビリティを経営の基軸に据えた活動を推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は事業再生計画期間を終了し、今後は新たな中長期経営計画の策定を進めています。再成長に向けた明確な方向性を明示し、経営資源を集中すべき事業を見極めることで企業価値向上を目指しています。
* 連結営業利益:32億円(2024年3月期目標)
■(4) 成長戦略と重点施策
今後は「強い経営体質の実現」と「生き残るために進むべき方向の明示」を方針として掲げています。具体的には、北米事業の再構築(1工場体制の確立)による黒字化、電動化や自動運転技術への対応、環境規制強化に対応した製品開発を推進します。
* 米国2工場のうち1工場を閉鎖し、北米事業の黒字化を実現
* 電動化・自動運転技術に対応した製品開発の強化
* 環境規制強化に対応した持続可能な製品開発
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「自律型人財」の育成を掲げ、社員が自ら学び成長できる仕組み(「Ai-Campus」など)を構築しています。また、多様化推進として経験者採用や女性活躍推進、障がい者雇用に注力し、ワークライフバランスの推進や健康経営を通じて、誰もが活躍できる環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 45.7歳 | 20.5年 | 6,964,844円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.7% |
| 男性育児休業取得率 | 83.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.5% |
| 男女賃金差異(正規) | 74.9% |
| 男女賃金差異(非正規) | 81.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、リスキリングプログラムの受講者数(3名)、管理職に占める中途採用者の割合(26.9%)、メンタルヘルス(セルフケア)研修受講率(100.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 技術革新・新製品開発に関するリスク
自動車業界では電動化や自動運転などの技術革新が急速に進んでおり、市場や顧客ニーズの変化に対応した新製品をタイムリーに開発できなかった場合、競争力を失う可能性があります。特に電動ブレーキや環境対応製品(銅フリー摩擦材など)の開発競争が激化しています。
■(2) 生産技術・設備に関するリスク
同社は生産拠点の再編を進めており、国内工場は専門工場化しています。そのため、自然災害や事故により特定の工場で生産が停止した場合、国内での代替生産が困難となり、製品供給に支障をきたす恐れがあります。海外工場との補完体制はあるものの、リードタイム等の課題があります。
■(3) 品質に関するリスク
重要保安部品であるブレーキ製品の不具合は、大規模なリコールや損害賠償につながる可能性があります。万が一、製品欠陥が発生し流出を防止できなかった場合、多額の費用発生や社会的信用の失墜により、同社の業績や財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 上場維持基準に関するリスク
同社の流通株式比率はプライム市場の上場維持基準を満たしていません。事業再生支援を受けたファンドが大株主となっているためです。2030年3月末までの計画期間内に基準に適合しない場合、上場廃止となるリスクがあります。



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