※本記事は、株式会社NITTANの有価証券報告書(第104期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. NITTANってどんな会社?
小型エンジンバルブや船舶用部品、精密鍛造歯車の製造販売をグローバルに手がける自動車部品メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1948年に日本鍛工から分離して日鍛バルブ製造として設立され、1962年に東京証券取引所市場第二部へ上場しました。1969年の台湾での合弁会社設立を皮切りに、米国、インドネシア、タイ、中国などへグローバル展開を加速しました。2022年に商号をNITTANに変更し、事業を拡大しています。
現在の従業員数はグループ全体で2,503名、単体で660名です。筆頭株主は同社と技術提携等を行う事業会社のイートンコーポレーションで、第2位は韓国企業の持分を管理するKSD-KB、第3位は主要取引銀行の横浜銀行となっており、国内外のパートナー企業や金融機関が上位株主に名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| イートンコーポレーション(常任代理人 みずほ銀行決済営業部) | 17.18% |
| KSD-KB(常任代理人 シティバンク、エヌ・エイ東京支店) | 4.78% |
| 横浜銀行(常任代理人 日本カストディ銀行) | 4.52% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長は李太煥氏が務めており、社外取締役の比率は30.8%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 李太煥 | 代表取締役社長先行開発部担当 | 1989年起亜自動車入社。1995年同社入社。営業統括部海外業務部長などを経て、2022年より現職。 |
| 安藤輝明 | 常務取締役執行役員製造本部、量産開発部、生産技術開発部担当 | 1986年同社入社。ニッタン・グローバル・テック代表取締役社長等を経て、2024年より現職。 |
| 鈴木隆司 | 常務取締役事務間接管掌兼営業部担当 | 1992年同社入社。営業統括部第1営業部部長、取締役執行役員等を経て、2024年より現職。 |
| 栗原伸元 | 取締役執行役員人事部、品質保証部、購買部担当 | 1998年日本イートン入社。2008年同社入社。営業統括部第2営業部部長等を経て、2020年より現職。 |
| 遠藤浩光 | 取締役執行役員GMO(グローバルマネジメントオフィサー)兼海外統括部、情報システム部担当兼グローバル・コンプライアンス責任者 | 1997年同社入社。海外統括室室長等を経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、石垣和男(元熊谷組副社長)、熊平美香(エイテッククマヒラ社長)、増田由美子(消費者の声研究所社長)、徳永健二郎(日本イートン合同会社ジャパン・カントリー・コントローラー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「小型エンジンバルブ」「舶用部品」「歯車」および「その他」の事業を展開しています。
■(1) 小型エンジンバルブ
同社グループの主力事業として、乗用車や二輪車、トラック、バス、汎用製品等に向けた小型エンジンバルブの製造・販売を行っています。顧客は国内外の自動車メーカーや二輪車メーカーであり、内燃機関の高効率化や燃費改善、排ガス規制に対応した付加価値の高い次世代型冷媒封入中空バルブなども開発・提供しています。
収益は顧客である自動車・二輪車メーカー等からの製品の販売代金として得ています。事業の運営は同社が国内で行うほか、米国のU.S.エンジンバルブ(パートナーシップ)や中国の日照日鍛汽車部件をはじめ、台湾、インドネシア、タイ、ポーランド、ベトナム、インドなどの海外子会社がグローバルに展開しています。
■(2) 舶用部品
船舶用や発電機用などに向けたエンジンバルブの製造・販売を行っています。造船業界などを顧客とし、内燃機関の長寿命化技術として耐摩耗盛金材などの高付加価値製品を提供しているほか、次世代エンジン開発に向けた舶用中空バルブや中型油圧ラッシュアジャスターなどの開発も推進し、業界のニーズに応えています。
収益は、造船メーカーや発電機メーカーなどからの製品販売代金から得ています。生産および販売の運営は主に同社が行っており、国内の堀山下工場を中心に製造を行っています。また、海外においては関連会社であるKN-Techが韓国にて船舶用エンジンバルブの製造・販売を担当し、事業を展開しています。
■(3) 歯車
自動車やトラックをはじめ、農業機械、建設機械、産業機械などに向けた精密鍛造歯車の製造・販売を行っています。素材投入量や使用電力、スクラップの削減につながるニアネット鍛造技術や金型の長寿命化を見据えた開発を行い、環境負荷の低減とコスト競争力を両立した高強度・高付加価値な歯車製品を提供しています。
収益は、自動車メーカーや各種機械メーカーからの製品の販売代金から得ています。精密鍛造歯車事業の運営は同社が国内において主体的に行っており、秦野市の本社工場などを拠点として生産活動を展開しています。販売価格の適正化や新規市場への参入も進めながら、顧客企業の多様なニーズに対応した製品を供給しています。
■(4) その他
報告セグメントに含まれない事業として、バルブリフターやローラーロッカーアーム、自動車用電磁式連続カム位相可変機構、工作機械の製造・販売などを行っています。また、グループ内の機械加工や表面処理、不動産賃貸のほか、海外拠点では工作機械の製造やバルブリフター等の原材料の製造販売なども手がけています。
各製品・サービスの販売や提供により収益を得ています。事業運営は同社が国内で行うほか、日本国内ではNITTAN恵那金属や秦和が事業を担当しています。海外では韓国の新和精密や中国の関連会社がバルブリフター等を製造販売し、台湾日鍛工業が工作機械を製造するなど、複数社で多角的に事業を運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の売上高は387億円から517億円へと順調な拡大傾向を示しています。経常利益は原材料費の高騰等の影響もあり一時的に伸び悩む時期も見られましたが、直近では販売価格の適正化や為替の円安効果、舶用部品の収益改善が寄与し、利益率8.6%を記録するなど大幅な増益を達成しました。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 387億円 | 419億円 | 495億円 | 514億円 | 517億円 |
| 経常利益 | 21億円 | 18億円 | 25億円 | 19億円 | 44億円 |
| 利益率(%) | 5.4% | 4.2% | 5.0% | 3.7% | 8.6% |
| 当期利益 | 11億円 | 6億円 | 10億円 | 13億円 | 21億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で微増の横ばいとなりましたが、利益面は大きく改善しています。コスト上昇分の販売価格への反映や為替の円安効果に加え、火災影響から復旧した舶用部品事業の収益性回復が寄与し、売上総利益率は12.9%から17.7%へ向上しました。その結果、営業利益も前期の15億円から40億円へと急拡大しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 514億円 | 517億円 |
| 売上総利益 | 66億円 | 91億円 |
| 売上総利益率(%) | 12.9% | 17.7% |
| 営業利益 | 15億円 | 40億円 |
| 営業利益率(%) | 2.9% | 7.7% |
販売費及び一般管理費のうち、給与が14億円(構成比27%)、運賃が3億円(同7%)を占めています。また、売上原価は425億円で、売上原価合計に対する構成比は82%となっています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上動向を見ると、主力の小型エンジンバルブは欧州等で受注が増加したものの、北米拠点の転注や中国等の販売不振により減収となりました。一方、舶用部品は工場火災からの復旧と造船業の堅調な需要により増収を達成しました。その他事業は新規連結子会社化の効果により売上が大きく伸長しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 小型エンジンバルブ | 446億円 | 415億円 |
| 舶用部品 | 38億円 | 50億円 |
| 歯車 | 23億円 | 18億円 |
| その他 | 7億円 | 33億円 |
| 連結(合計) | 514億円 | 517億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金の範囲内で投資活動(有形及び無形固定資産の取得等)や財務活動(長期借入金の返済や配当金の支払等)の支出を賄っており、手元資金で着実に借入返済と投資を進める健全型のキャッシュ・フロー状況と言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 43億円 | 78億円 |
| 投資CF | -38億円 | -29億円 |
| 財務CF | -9億円 | -26億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.4%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は46.3%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「環境との共生」「品質優先」「人間性尊重」を経営の基本理念として掲げています。企業の発展を通じた社会貢献や、顧客の信頼に応えるものづくり、夢と活力のある職場の創造を重視しています。また、パーパスとして「多様な技術を駆使し、脱炭素化社会の実現に貢献する」ことを宣言し、既存技術と新商品開発力を活かして社会課題の解決を追求しています。
■(2) 企業文化
同社はコーポレートスローガンとして「CHALLENGE・CREATION・SPEED(挑戦・創造・スピード)」を掲げています。努力や感謝、謙虚さ、情熱を兼ね備えた「誠実」な人材の育成を重視し、「従業員の成長こそ企業の成長」という価値観を根付かせています。また、生産システム効率化を極限まで追求する独自の改善活動「NPM」を展開し、全社でプロ意識を持って挑戦する風土の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は中長期経営ビジョン「NITTAN Challenge 10(NC10)」を策定し、「基盤強化」「永続的発展」「企業風土改革」を戦略の柱として、既存事業の収益力強化と新規事業の開拓を推進しています。本計画において、2030年までに達成すべき経営の数値目標として以下を掲げています。
* 売上高:1,000億円以上
* 営業利益額:100億円以上
* 売上高営業利益率:10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は既存の内燃機関部品の高付加価値化を目指す「VISIONⅠ」と、電動化や異業種領域への挑戦を本格化させる「VISIONⅡ」の両輪で成長を追求しています。成長市場であるインドでの生産体制強化や高付加価値製品の販売拡大を進めるとともに、投資規律を意識した戦略的M&Aや他社との事業提携を通じて、収益源の多元化と全事業の黒字化に向けた事業ポートフォリオの再編を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、持続的成長の核となる「人材」の育成を重視し、多様な人材の活躍推進やマルチスキル・専門人材の育成、若手の抜擢による中核人材の計画的な育成を進めています。また、従業員の自律的なキャリア形成を支援する制度の整備に加え、健康経営やワークライフバランスの確保、ハラスメント防止など、心身ともに健やかに働ける安全で快適な職場環境の整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 45.8歳 | 20.0年 | 6,726,921円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.1% |
| 男性育児休業取得率 | 83.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 59.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 78.9% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 70.8% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 自動車業界の電動化等による市場環境変化
自動車用の内燃機関の電動化進展や、それに伴う内燃機関の生産減少は、同社の既存事業領域であるエンジンバルブ等の市場規模縮小につながる恐れがあります。また、地政学・経済などの市場環境の変化や為替変動、革新的な技術の出現が、製品の競争力低下や業績悪化を招くリスクを有しています。
■(2) 海外拠点のガバナンス不全と合弁事業リスク
同社は多数の海外関係会社を有していますが、言語の問題や人員配置の制約によりガバナンスが不十分となり、不正や決算の誤謬が発生するリスクがあります。また、大株主や合弁パートナーの経営方針の変化が合弁事業の運営に影響を与え、海外拠点の業績が悪化する可能性を抱えています。
■(3) リコール等の品質不良と基幹システムの移行
製品の品質不良やリコールが発生した場合、顧客への多額の損害賠償や信用失墜、取引の打ち切りに直面するリスクがあります。さらに、特定の取引先への調達依存による供給リスクや、予定している基幹システムの刷新時に不備が生じ、企業活動の停止や財務報告の誤りを引き起こすリスクが存在します。



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