※本記事は、株式会社エフ・シー・シーの有価証券報告書(第96期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. エフ・シー・シーってどんな会社?
二輪・四輪車用クラッチの製造を主力とし、グローバルに事業を展開する自動車部品メーカーです。
■(1) 会社概要
1939年6月に不二ライト工業所として設立され、クラッチ板等の製造を開始しました。1984年にエフ・シー・シーへ社名変更し、1988年の米国進出を皮切りにタイ、フィリピン、中国、インド等でグローバル展開を加速させました。2003年に東証二部、2004年に東証一部に上場し、現在はプライム市場に属しています。
従業員数は連結で7,804名、単体で1,017名です。筆頭株主は事業会社の本田技研工業で、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位はワイ・エーとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 本田技研工業 | 22.47% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.68% |
| ワイ・エー | 5.28% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長は斎藤善敬氏が務めています。取締役10名のうち5名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 斎藤善敬 | 代表取締役社長 | 2009年同社入社。米国子会社社長等を経て、取締役、常務、専務、代表取締役副社長を歴任し、2020年より現職。 |
| 鈴木一人 | 専務取締役 | 1984年同社入社。経営企画室長、各事業統括を経て2023年専務取締役に就任し、2025年より現職。 |
| 向山敦浩 | 常務取締役 | 1984年同社入社。四輪生産統括や取締役を経て、2021年より現職。 |
| 中谷賢史 | 常務取締役 | 1986年同社入社。経営企画室長や北米事業統括等を歴任し、2024年より現職。 |
| 坪井彰 | 取締役常勤監査等委員 | 1994年同社入社。執行役員四輪研究開発統括や品質統括などを経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、腰塚國博(元コニカミノルタ取締役)、小林和徳(元ヤマハ執行役員)、杉山一統(杉山法律事務所所長)、山本真由美(ときわ監査法人代表社員)、河島多恵(河島多恵法律事務所所長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「二輪事業」、「四輪事業」および「非モビリティ事業」の3つの報告セグメントで事業を展開しています。
■二輪事業
オートバイ、スクーター、ATV(バギー)等向けのクラッチおよびEV・CASE領域における製品の製造と販売を行っています。グローバル市場への全方位対応により、基幹事業の圧倒的シェア確保と電動化転換に対応可能な事業基盤の構築を目指しています。
収益源は、完成車メーカー等からのクラッチおよび関連部品の製品代金です。運営は同社のほか、米国、タイ、インド、インドネシアなどの各海外子会社が行っています。
■四輪事業
主にマニュアル車、オートマチック車等向けのクラッチおよびEV・CASE領域における製品の開発、製造、販売を行っています。北米のICE(内燃機関)やHEV需要の高まりにフレキシブルに対応し、需要変動に応じた生産体制を構築して収益力を維持しています。
収益源は、自動車メーカー等からのクラッチおよび関連部品の製品代金です。同社のほか、米国、メキシコ、中国などの海外子会社が連携して事業を運営しています。
■非モビリティ事業
主に環境・エネルギー分野などにおいて、モビリティ領域で培ったコア技術を活かした製品の開発、製造、販売およびサービスの提供を行っています。社会課題解決につながる脱炭素やエネルギー創出に向けた新製品の開発を加速させています。
収益源は、環境・エネルギー関連製品の販売代金やサービス提供による対価です。運営は同社をはじめ、台湾、タイ、フィリピン、ベトナムの海外子会社が主導しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上収益は順調に拡大を続け、直近では2600億円を突破しています。利益面でもインド市場の成長や北米需要の取り込みにより継続的な増益基調を維持しており、税引前利益および親会社の所有者に帰属する当期利益ともに過去最高水準で推移し、安定した成長を実現しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1709.7億円 | 2189.4億円 | 2402.8億円 | 2566.2億円 | 2608.4億円 |
| 税引前利益 | 119.4億円 | 136.4億円 | 191.7億円 | 200.5億円 | 215.7億円 |
| 利益率(%) | 7.0% | 6.2% | 8.0% | 7.8% | 8.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 85.5億円 | 95.7億円 | 122.3億円 | 158.6億円 | 187.6億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で微増となり、売上総利益や営業利益も堅調に増加しています。外部環境の変化に応じた柔軟な価格対応やコストコントロールが寄与し、各利益率もわずかながら改善傾向を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2566.2億円 | 2608.4億円 |
| 売上総利益 | 161.2億円 | 170.2億円 |
| 売上総利益率(%) | 6.3% | 6.5% |
| 営業利益 | 173.3億円 | 189.3億円 |
| 営業利益率(%) | 6.8% | 7.3% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が75.4億円(構成比25.4%)、人件費が68.4億円(同23.1%)、製品保証引当金繰入額が41.9億円(同14.1%)を占めています。
■(3) セグメント収益
二輪事業はインドやブラジルでの販売が好調に推移し増収増益となりました。四輪事業は北米での販売が増加したものの為替の影響等により売上は横ばいでしたが、米国での減価償却費等の減少により利益は大きく改善しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 二輪事業 | 1204.1億円 | 1246.9億円 | 120.8億円 | 122.3億円 | 9.8% |
| 四輪事業 | 1361.2億円 | 1359.8億円 | 81.0億円 | 91.6億円 | 6.7% |
| 非モビリティ事業 | 0.9億円 | 1.7億円 | -28.6億円 | -24.6億円 | -1447.1% |
| 連結(合計) | 2566.2億円 | 2608.4億円 | 173.3億円 | 189.3億円 | 7.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」の優良なキャッシュ・フロー状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 279.3億円 | 227.8億円 |
| 投資CF | -257.8億円 | -164.9億円 |
| 財務CF | -146.3億円 | -78.4億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.6%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は79.4%であり、いずれもプライム市場の平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「独創的なアイデアと技術でお客様に喜ばれる製品・サービスを供給することで社会へ貢献する」ことを企業理念の基本方針として掲げています。輸送機器の機能部品メーカーとして、顧客のニーズを的確に捉え、独自の技術力を活かした性能の優れた製品を供給し続けることで、社会に対する継続的な価値提供を目指しています。
■(2) 企業文化
企業理念を実現するため、「安全と環境に配慮した企業活動を行う」「独創性を生かして積極的に活動する」「常に自己研鑽に励み、改革・改善を行う」「スピーディーかつタイムリーに行動する」「人の和を大切にし、明るい職場をつくる」という5つの行動指針を定めています。人材育成を持続的成長の源泉とし、自己成長とチームワークを重んじる文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
2026年度を初年度とする第13次中期経営計画を策定し、「第二の創業 未来へ拓く、新たな価値創造へ」という事業方針のもとで事業構造の転換を進めています。持続的な企業価値の向上を実現するため、創出される資金を戦略的に成長投資へ配分し、財務目標として以下を掲げています。
・2030年度のROE(自己資本利益率):9.0%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
基幹事業であるクラッチ事業の収益最大化を図りつつ、電動化への転換に対応するための事業変革を進めています。二輪事業ではグローバル市場への全方位対応で圧倒的シェアを確保し、四輪事業ではフレキシブルな生産体制による収益力維持とEV・CASE向け事業の加速を図ります。さらに、環境・エネルギー領域での社会課題解決につながる新製品開発も推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続可能な成長に向けて人的資本の強化を経営戦略の中核に据えています。「エンゲージメント向上」「多様性の推進」「人材育成・能力開発」を柱とし、事業ポートフォリオの変革を支える人材の採用・育成・配置を一体的に推進しています。次世代経営人材の育成やデジタル人材の強化を図るとともに、柔軟な働き方の拡充や健康経営を通じて、多様な人材の働きがいと定着を支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.6歳 | 19.8年 | 7,703,580円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.5% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 77.5% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 70.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、社員エンゲージメントスコア(-76.2pt)、重大災害件数(3件)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) クラッチ製品に特化した事業展開
現在の事業が内燃機関向けのクラッチ製品に特化しているため、将来的なEV化や内燃機関車の規制強化により市場価値観が変化した場合、クラッチ製品の需要が減少し業績に影響を及ぼす可能性があります。電動化製品や環境・エネルギーソリューションなど新規事業の開発を急いでいます。
■(2) 特定の産業や取引先への依存
売上の大半を自動車・二輪車産業に依存しており、特に本田技研工業グループへの売上割合が約36%を占めています。そのため、顧客の事業戦略や購買政策、業界全体の動向に業績が左右されるリスクがあります。新規顧客の獲得に向けた積極的な提案を推進しています。
■(3) 製品の欠陥に対する補償
製品の品質には万全を期していますが、万が一納入した製品の欠陥等により完成車メーカーが大規模なリコールを実施する事態が生じた場合、多額の補償コストの発生や社会的信用の低下を招き、財政状態に深刻な影響を与える可能性があります。



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