※本記事は、株式会社日本紙パルプ商事 の有価証券報告書(第163期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本紙パルプ商事ってどんな会社?
紙流通業界のリーディングカンパニーとして、紙・板紙の安定供給からリサイクル、不動産事業まで多角的に展開しています。
■(1) 会社概要
同社は1845年に京都で和紙商「越三商店」として創業し、1916年に株式会社中井商店として改組されました。1970年に現商号へ変更し、1972年に東京証券取引所へ上場しました。2017年にはグループブランド「OVOL(オヴォール)」の使用を開始し、近年は海外卸売企業の買収やバイオマス発電等の環境事業を推進しています。
連結従業員数は4,831名、単体では728名です。筆頭株主は事業上の取引関係を有する製紙メーカー大手の王子ホールディングスで、第2位および第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。大手製紙メーカーとの強固な関係性を持ちつつ、安定した株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 王子ホールディングス | 13.00% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.70% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.90% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性4名の計11名で構成され、女性役員比率は36.4%です。代表取締役社長 社長執行役員は渡辺 昭彦氏です。社外取締役比率は約27.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 渡辺 昭彦 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1982年同社入社。国際事業推進本部本部長、Japan Pulp & Paper(U.S.A.)Corp.社長、海外事業統括等を歴任。2017年代表取締役社長に就任し、2023年より現職。 |
| 勝田 千尋 | 代表取締役専務執行役員 | 1982年同社入社。経営企画本部本部長、中部支社支社長、家庭紙事業統括等を歴任。2019年代表取締役専務執行役員に就任。現在は管理全般管掌兼環境・原材料事業統括を務める。 |
| 櫻井 和彦 | 取締役専務執行役員 | 1982年同社入社。北海道支社支社長、北日本支社支社長等を歴任。2015年常務執行役員板紙・家庭紙事業統括を経て、2019年より現職。現在は板紙事業統括兼家庭紙事業統括を務める。 |
| 伊澤 鉄雄 | 取締役専務執行役員 | 1981年同社入社。卸商営業本部本部長、仕入本部本部長、関西支社支社長等を歴任。2021年取締役専務執行役員に就任。現在は洋紙事業統括兼物流統括を務める。 |
社外取締役は、竹内 純子(NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員)、鈴木 洋子(鈴木総合法律事務所パートナー)、髙橋 寛(元日本トラスティ・サービス信託銀行代表取締役副社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「国内卸売」「海外卸売」「製紙加工」「環境原材料」「不動産賃貸」の5つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 国内卸売
国内市場向けに、紙、板紙、および関連商品の販売を行っています。また、倉庫業・運送業や、情報機器等の販売、情報サービス事業も展開しています。紙の需要が構造的に縮小する中、物流改革やDX推進によるサプライチェーンの効率化に取り組んでいます。
主な収益源は、顧客への商品販売代金や物流・情報サービスの対価です。運営は主に日本紙パルプ商事が担うほか、株式会社光陽社などの子会社や関連会社が各領域での事業を行っています。
■(2) 海外卸売
海外市場向けに、紙、板紙、関連商品の販売を行っています。北米、欧州、オセアニア、アジアなど世界各地に拠点を持ち、各市場に根差した卸商経営を展開しています。特に欧米やオセアニアでは現地卸商を買収し、グローバルな販売網を構築しています。
収益源は、海外顧客への商品販売による売上です。運営は、米国のGould Paper Corporation、オーストラリアのBall & Doggett Group Pty Ltd、ドイツのOVOL Papier Deutschland GmbHなど、各国の連結子会社が主体となって行っています。
■(3) 製紙加工
古紙を原料とした段ボール原紙、印刷用紙、家庭紙の製造および加工を行っています。再生原料である古紙の回収から製紙、加工、流通に至るまで、サプライチェーンの川上から川下までをグループ内でカバーする体制を構築しています。
収益源は、段ボール原紙や家庭紙製品などの販売代金です。運営は、段ボール原紙製造の大豊製紙株式会社、家庭紙製造のコアレックスグループ(JPコアレックスホールディングス株式会社等)などの連結子会社が行っています。
■(4) 環境原材料
古紙・パルプ等の原材料販売に加え、総合リサイクル事業、再生可能エネルギーによる発電事業に取り組んでいます。古紙回収ネットワークを通じた製紙メーカーへの原料供給や、太陽光・バイオマス発電による電力供給を行っています。
収益源は、古紙・パルプの販売代金、リサイクル処理料、およびFIT制度を活用した売電収入です。運営は、福田三商株式会社(古紙)、株式会社エコポート九州(リサイクル)、株式会社野田バイオパワーJP(発電)などの連結子会社が行っています。
■(5) 不動産賃貸
東京、大阪、京都等に所有する不動産の賃貸事業を行っています。オフィスビルや集合住宅、商業店舗、ホテルなどへの賃貸を通じて、安定的な収益基盤を形成しています。
収益源は、テナントからの賃貸料収入です。運営は主に日本紙パルプ商事が行っており、保有不動産の管理や再開発、ポートフォリオの最適化を進めています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は2023年3月期に大きく伸長した後、高水準を維持しています。利益面では、2023年3月期をピークに経常利益および当期利益は減少傾向にあります。2025年3月期は、売上収益が増加した一方で、各利益段階では減益となりました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4,629億円 | 4,448億円 | 5,453億円 | 5,342億円 | 5,545億円 |
| 経常利益 | 89億円 | 151億円 | 212億円 | 168億円 | 158億円 |
| 利益率(%) | 1.9% | 3.4% | 3.9% | 3.1% | 2.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 36億円 | 115億円 | 254億円 | 104億円 | 76億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上収益の増加に伴い売上総利益も増加していますが、売上総利益率は16.5%と前年並みの水準で推移しています。一方、営業利益は減益となり、営業利益率は3%台前半から2%台後半へと低下しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,342億円 | 5,545億円 |
| 売上総利益 | 874億円 | 915億円 |
| 売上総利益率(%) | 16.4% | 16.5% |
| 営業利益 | 174億円 | 151億円 |
| 営業利益率(%) | 3.3% | 2.7% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料及び手当が258億円(構成比34%)、運賃が102億円(同13%)を占めています。
■(3) セグメント収益
当期は、海外卸売セグメントが売上収益を牽引し増収となりましたが、利益面では主要な国内・海外卸売および環境原材料セグメントで減益となりました。製紙加工セグメントは売上増に対して利益は微減にとどまりました。不動産賃貸セグメントは安定的な収益を維持しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 国内卸売 | 1,964億円 | 2,006億円 | 67億円 | 60億円 | 3.0% |
| 海外卸売 | 2,601億円 | 2,755億円 | 35億円 | 32億円 | 1.2% |
| 製紙加工 | 501億円 | 516億円 | 70億円 | 68億円 | 13.1% |
| 環境原材料 | 236億円 | 227億円 | 16億円 | 20億円 | 8.9% |
| 不動産賃貸 | 41億円 | 42億円 | 15億円 | 16億円 | 37.3% |
| その他 | - | - | - | - | -% |
| 調整額 | -210億円 | -205億円 | -36億円 | -37億円 | -% |
| 連結(合計) | 5,342億円 | 5,545億円 | 168億円 | 158億円 | 2.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社グループは、事業活動に必要とされる運転資金及び投融資資金の確保について、多様な手段の中から市場環境等を考慮して資金調達を実施しております。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益の計上や売上債権の減少等により、収入となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、海外での事業譲受や子会社株式の取得等により、支出となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、社債の償還や長期借入金の返済及び配当金の支払等により、支出となりました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 209億円 | 210億円 |
| 投資CF | -29億円 | -112億円 |
| 財務CF | -317億円 | -93億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「社会と地球環境のよりよい未来を拓きます」という使命(Our Mission)を掲げています。また、「紙、そしてその向こうに」をスローガンとし、紙流通業界のリーディングカンパニーとして紙・板紙の安定供給を通じ、循環型社会の構築に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社グループは、「誠実」「公正」「調和」を大切にすべき価値観(Our Corporate Spirit)としています。また、グループ役職員が積極的に実践すべきこととして、「変革」「挑戦」「創造」を掲げ(Our Principles)、全てのステークホルダーから信頼される企業を目指す文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
2030年のありたい姿として「世界最強の紙流通企業グループ」等を掲げる「OVOL長期ビジョン2030」のもと、「OVOL中期経営計画2026」(2025年3月期~2027年3月期)を策定しています。最終年度の財務目標として以下を掲げています。
* 連結経常利益:220億円
* ROE:8.0%以上
* ROA:5.0%以上
* ROIC:7.0%以上
* ネットD/Eレシオ:1.0倍以下
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画では、「具体的な仕組みづくり・仕掛けづくりの3年間」と位置づけ、グループ内外のコミュニケーション拡充による提供価値の向上、人材力とワークエンゲージメントの向上、M&Aを駆使した事業拡大を基本方針としています。
* 国内卸売:グループ総合力を駆使した収益最大化
* 海外卸売:安定的な収益構造の構築と収益源の多様化
* 製紙加工:環境保全への取り組みと安定収益基盤の構築
* 環境原材料:循環型ビジネスによる社会貢献
* 不動産賃貸:ポートフォリオの最適化と安定収益の継続
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は人材を「持続的な成長のための投資」と捉え、「役割と責任を果たす人材の育成」「変革期に対応する自立型人材の育成」をコンセプトに、戦略的な採用・育成・配置を推進しています。また、健康経営やエンゲージメント向上、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組み、多様な人材が活躍できる職場風土の醸成と環境整備に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.4歳 | 20.4年 | 8,904,812円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.2% |
| 男性育児休業取得率 | 63.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 52.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 52.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 91.3% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用者数(16名)、有給休暇取得率(79.7%)、離職率(自己退職)(0.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 主な取扱商品の需要減少
デジタル化やペーパーレス化の進展により、主力商品である紙・板紙の需要が構造的に減少するリスクがあります。これに対し、環境配慮型や高機能素材などの高付加価値品の販売拡大、紙の価値普及活動、製紙加工や環境原材料事業への展開による事業ポートフォリオの多角化を進めています。
■(2) 不動産市況の影響
不動産賃貸事業において、人口減少による供給過剰やオフィスの空室率上昇、賃料下落などのリスクがあります。同社は東京・大阪・京都等の需要が見込める地域に物件を保有していますが、修繕計画の実行や再開発、ポートフォリオの最適化を通じて、安定収益の維持を図っています。
■(3) 取引先の信用リスク
取引先に対する掛売りや貸付等において、信用状況の悪化により債権回収が困難になるリスクがあります。同社グループでは、取引先ごとの信用限度額の設定や定期的な見直し、担保・保証の設定、信用保険の利用などを通じて、債権保全策を講じています。
■(4) 仕入先メーカーの方針変更
製紙メーカーの生産中止や撤退、寡占化により、商品の安定供給が困難になるリスクや価格交渉力が低下する可能性があります。同社は調達先のグローバル化や多様化を進めるとともに、サプライチェーンにおける機能や付加価値を高め、競争力の維持・向上に努めています。



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