築地魚市場 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

築地魚市場 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所スタンダード市場に上場する、水産物卸売業を主力とする企業です。水産物の加工販売のほか、冷蔵倉庫業や不動産賃貸業も展開しています。直近の業績は、物価上昇等の影響で増収となった一方、労務費等のコスト増や貸倒引当金計上により営業・経常利益は減益、特別利益計上で純利益は増益となりました。


※本記事は、築地魚市場株式会社の有価証券報告書(第78期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 築地魚市場ってどんな会社?


同社は水産物の卸売業を主力事業とし、冷蔵倉庫業や不動産賃貸業なども展開しています。

(1) 会社概要


1948年に水産物の売買などを目的として設立され、築地市場内で営業を開始しました。1962年以降は冷蔵保管業務のための冷凍工場を順次竣工し、1963年には東京証券取引所市場第二部へ上場しました。近年ではグループ子会社の設立や再編を進め、2018年には市場移転に伴い本店を豊洲へ移転しています。

現在の従業員数は連結で292名、単体で164名です。大株主の状況を見ると、筆頭株主は事業会社の丸紅シーフーズで、第2位はヨンキュウ、第3位は東洋水産となっており、水産や食品に関連する事業会社が上位を占めています。

氏名 持株比率
丸紅シーフーズ 11.80%
ヨンキュウ 9.80%
東洋水産 5.47%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は山﨑康司氏が務めています。全取締役6名のうち、2名が社外取締役です(社外取締役比率33.3%)。

氏名 役職 主な経歴
吉田猛 代表取締役会長 1975年丸紅入社、2006年同社入社。2013年代表取締役社長を経て、2024年より現職。
山﨑康司 代表取締役社長 1978年丸紅入社、ダイエー常務等を経て2014年丸紅執行役員。2021年同社入社、2025年より現職。
大竹利夫 取締役常務執行役員管理本部長 1982年同社入社。経理部長等を経て2016年取締役、2024年より現職。
関均 取締役 1984年同社入社。経営企画部長、東市ロジスティクス代表取締役社長等を経て、2026年より現職。


社外取締役は、石川誠(公認会計士)、池邊吉博(元名村造船所取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「水産物卸売業」「冷蔵倉庫業」および「不動産賃貸業」を展開しています。

(1) 水産物卸売業


水産物やその加工製品の卸売を行っています。生鮮加工水産物の委託販売や買付販売を主力とし、仲卸業者やデパート、ホテル、レストランなどの多様な顧客のニーズに応じた商品を提供しています。

主に生鮮水産物や冷凍水産物、加工水産物の販売代金を顧客から受け取ります。運営は同社のほか、消費地加工を担う共同水産、産地加工を担うキタショク、豊洲市場で仲卸を営む築地市川水産などのグループ会社がそれぞれ担っています。

(2) 冷蔵倉庫業


豊洲市場等の設備を活用し、水産物を中心とした食品の冷蔵保管業務と、それに付随する荷役などのサービスを提供しています。市場特有の多機能型冷蔵庫を活用し、流通を支えています。

顧客からの要請に応じた冷蔵冷凍倉庫の賃貸や保管料を収益源としています。運営は主に東市ロジスティクスが行っており、築地企業が同社の冷蔵庫内の荷役作業を担当しています。

(3) 不動産賃貸業


同社およびグループ会社が所有する不動産の一部を、外部ならびにグループ内の企業に賃貸しています。

安定した稼働率の維持・向上を図りながら、不動産の賃貸料を収益として受け取ります。運営は同社および子会社の共同水産が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の業績を見ると、売上高は継続的な拡大傾向にあり、直近では675億円に達しています。一方、経常利益は原材料費や物流費などのコスト上昇の影響を受けて増減を繰り返しており、直近は減益となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、投資有価証券売却益などの計上により増加しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 550億円 580億円 587億円 624億円 675億円
経常利益 1.7億円 2.3億円 0.8億円 3.3億円 1.9億円
利益率(%) 0.3% 0.4% 0.1% 0.5% 0.3%
当期利益(親会社所有者帰属) 1.4億円 1.6億円 -0.5億円 2.9億円 3.9億円

(2) 損益計算書


直近2期では、売上高の増加に伴い売上総利益も拡大し、売上総利益率はやや改善しています。一方で、販売費及び一般管理費が増加したことにより、営業利益および営業利益率は低下する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 624億円 675億円
売上総利益 42億円 47億円
売上総利益率(%) 6.7% 7.0%
営業利益 3.0億円 1.7億円
営業利益率(%) 0.5% 0.3%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が13億円(構成比29%)、貸倒引当金繰入額が5億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の水産物卸売業は、単価上昇により売上が増加したものの、労務費や調達コスト等の上昇により営業赤字が拡大しています。一方、冷蔵倉庫業は豊洲市場内の設備稼働が寄与して増収増益となり、全体の収益を安定的に支えています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
水産物卸売業 609億円 658億円 -1.9億円 -3.7億円 -0.6%
冷蔵倉庫業 14億円 15億円 4.1億円 4.7億円 31.8%
不動産賃貸業 1.6億円 1.5億円 0.8億円 0.7億円 47.7%
連結(合計) 624億円 675億円 3.0億円 1.7億円 0.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


当期のキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローがともにプラス、財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなっており、営業利益や資産の売却等で得た資金を用いて借入金の返済等を進める「改善型」の状況です。

企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は39.2%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「安全安心な水産物を、卸売市場の流通網を通して消費者にお届けし、日本の豊かな食生活に貢献する」という企業理念を掲げています。また、「国民の健康的な食生活への貢献」という社会的使命を果たしつつ、「旧来型の荷受会社から、広範な機能を有する販売会社への転換」を図り、新たな価値創造を目指しています。

(2) 企業文化


経営理念において「株主、取引先、従業員、消費者、並びに地域社会に貢献する企業を目指す」ことや、「CSRを重視し、ステークホルダーの信頼を得る」ことを重視しています。全役職員が法令や社会規範を遵守し、業務遂行の健全性や透明性を確保して商道徳に則った商活動を旨とする文化が示されています。

(3) 経営計画・目標


新中期経営計画「MF-2026」(Move Forward 2026)を策定し、2027年3月期に向けた持続的な成長を目指して経営目標を掲げています。

* 売上高:700億円
* 営業利益:6.3億円
* 経常利益:6.3億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:5.0億円
* ROE(株主資本利益率):計画最終年度7%以上
* PBR(株価純資産倍率):1倍以上
* ネットDER:1倍以下
* 連結配当性向:20~30%を目途に安定配当

(4) 成長戦略と重点施策


重点課題として、産地との連携等による生鮮水産物の取扱拡大と冷凍水産物の加工製造販売事業の強化を進めています。また、新卒・キャリア採用の強化によるダイバーシティ推進や、グループ内商流の集約を通じた市場内外の物流効率化にも注力し、社会および市場から選ばれる企業グループを目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


重点課題として「人員採用拡大によりダイバーシティを推進し、強靭な組織力を構築」を掲げています。シニア世代や女性が活躍できる職場づくりを目指し、新卒およびキャリア採用の強化で組織を活性化させるとともに、育児・介護等の諸規程を見直し、ワークライフバランスの一層の改善を図る方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。給与や評価については、一般職は等級ごとの評価に基づく仕組み、管理職は役割に応じた評価制度を導入し、資格手当等を通じて能力開発を促進しています。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 46.2歳 17.2年 6,093,935円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員に占める女性社員比率(21.6%)、管理職に占める女性管理職比率(5.3%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 卸売市場を取り巻く懸念


主力の豊洲市場での水産物卸売において、市場流通の減少や量販店の取扱量拡大に伴い、仲卸業者の経営状況が悪化する懸念があります。貸倒引当金の設定等の対策を行っていますが、不良債権の発生や最新設備のコスト増が業績に影響を与える可能性があります。

(2) 物流問題によるコスト増リスク


物流業界におけるいわゆる「2024年問題」により、トラックドライバーの時間外労働が規制され、物流コストが上昇する懸念があります。グループ内の商流と物流の一元化等を進めていますが、コスト増を販売価格へ転嫁できない場合、損益に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 在庫と市況価格変動リスク


市況を勘案して商品の買い付けを行っていますが、保有商品の市況価格が変動することで業績に影響が及ぶ可能性があります。これに対し、社内管理体制の見直しによる保有在庫の適正化や、回転を早めるための在庫残高目標の設定等でリスク管理を行っています。

(4) 国際情勢等による仕入コスト上昇


国際的な政治情勢や地域紛争により、輸入水産物の高騰や輸出入取扱量が減少するリスクがあります。資源価格の高騰による魚価や輸送費等の仕入コスト上昇を販売価格に適切に転嫁できない場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。