※本記事は、株式会社椿本興業 の有価証券報告書(第122期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 椿本興業ってどんな会社?
椿本チエインの製品を中心に扱う機械と技術の総合商社です。動伝部品から大型設備、新素材まで幅広く提供しています。
■(1) 会社概要
1916年に椿本商店として創業し、電気絶縁材料の販売を開始しました。1919年に各種チェーン等の販売を始め、1943年に現在の商号へ変更しました。1971年には大阪証券取引所および東京証券取引所の市場第一部に上場を果たしています。2022年の市場区分見直しに伴い、東京証券取引所プライム市場へ移行しました。
同社の連結従業員数は792名、単体では554名です。筆頭株主は、同社の主要な仕入先であり創業家とも関連の深い椿本チエインです。第2位には太陽生命保険が名を連ねており、事業パートナーおよび金融機関等が大株主として安定的な資本構成を形成しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 椿本チエイン | 10.82% |
| 太陽生命保険 | 9.03% |
| NORTHERN TRUST CO.(AVFC) RE IEDP AIF CLIENTS NON TREATY ACCOUNT | 6.83% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役会長CEOには椿本哲也氏、代表取締役社長COOには香田昌司氏が就任しており、社外取締役比率は27.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 椿 本 哲 也 | 代表取締役取締役会長CEO | 1989年同社入社。シンガポール現地法人社長、同社代表取締役社長、海外事業総括、開発戦略本部長などを歴任。2019年6月より現職。 |
| 香 田 昌 司 | 代表取締役取締役社長COO 兼海外事業統括 | 1981年同社入社。グローバル推進グループ東日本営業部長、経営戦略本部長などを経て2019年4月代表取締役社長に就任。2024年6月より現職。 |
| 春 日 部 博 | 取締役専務執行役員管理総括 | 1972年同社入社。情報管理部長、執行役員財経担当、管理本部長などを歴任。現在は管理総括として内部監査、広報、サステナビリティ、コンプライアンス等を担当。 |
| 藤 重 卓 一 | 取締役専務執行役員営業総括 兼開発戦略総括 兼開発戦略本部長 | 1979年同社入社。東日本営業本部副本部長、東日本本部長などを歴任。現在は営業総括兼開発戦略総括として開発戦略本部長も兼務。 |
社外取締役は、二宮秀樹(早駒運輸代表取締役専務)、安原由美子(弁護士)、山本直道(公認会計士・弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「東日本本部」「西日本本部」「中日本本部」および「開発戦略本部」の4つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 東日本本部
北海道・東北・甲信越・関東地区を担当エリアとし、各種変減速機やコンベヤチェーンなどの動伝部品、クリーンエネルギー関連設備や医薬関連設備などの設備装置の販売を行っています。半導体製造装置関連部品や産業機械向け部品、大型の設備案件などを取り扱っています。
収益は、顧客である製造業等の企業からの商品販売代金や設備工事代金等から得ています。運営は、主に椿本興業および当該エリアに所在する子会社(ツバコー北日本、ツバコー北関東、ツバコー西関東、ツバコー東関東、ツバコー・ケー・アイなど)が行っています。
■(2) 西日本本部
北陸・関西・中国・四国・九州地区を担当エリアとし、動伝部品のほか、化学機械装置、水処理装置、産業用ロボット、各種自動化装置などの設備装置を販売しています。重工業向け部品や大型設備の新規受注、工事進捗に応じた売上計上などが事業の中心です。
収益は、各地域の顧客企業への製品納入や設備設置工事等による対価として得ています。運営は、主に椿本興業および当該エリアに所在する子会社(ツバコー北陸販売、ツバコー・エス・ケー、ツバコー関西、ツバコー四国、ツバコー・ウエスト、ツバコー九州)が行っています。
■(3) 中日本本部
東海地区を担当エリアとし、特に自動車関連業界を中心とした動伝部品の販売や、重工業・自動車・食品業界向け等の設備装置の販売を行っています。各種センサーや電子機器、FAシステムなども取り扱い、顧客の自動化・省力化ニーズに対応しています。
収益は、自動車メーカーや部品メーカーなどの顧客からの商品・設備販売代金から得ています。運営は、主に椿本興業および子会社のツバコー東海が行っています。
■(4) 開発戦略本部
海外エリア全体および国内のマテリアルビジネス(産業資材事業)、新商品開発部門を担当する包括的な戦略事業です。海外子会社を通じた動伝部品・設備の販売や、各種不織布・加工品、機能素材センサ、画像処理システムなどの開発・販売を行っています。
収益は、海外顧客への商品販売や、介護・衛生関連商品、センシング・画像処理ビジネスなどの売上から得ています。運営は、椿本興業および海外子会社(TSUBACO SINGAPORE、TSUBACO KTE、上海椿本商貿など)が連携して行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は着実に増加傾向にあり、直近では1,200億円台に達しています。利益面でも、経常利益、当期利益ともに増加基調を維持しており、利益率も安定して推移しています。全体として業容拡大と収益性の向上が続いています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 896億円 | 969億円 | 1,080億円 | 1,135億円 | 1,243億円 |
| 経常利益 | 38億円 | 48億円 | 54億円 | 56億円 | 65億円 |
| 利益率(%) | 4.2% | 4.9% | 5.0% | 4.9% | 5.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 28億円 | 32億円 | 37億円 | 40億円 | 47億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い売上総利益も拡大しており、売上総利益率は15.4%と安定しています。営業利益率も改善傾向にあります。販管費の増加を売上総利益の増加が上回っており、効率的な事業運営がなされていることが伺えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,135億円 | 1,243億円 |
| 売上総利益 | 175億円 | 191億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.4% | 15.4% |
| 営業利益 | 52億円 | 60億円 |
| 営業利益率(%) | 4.6% | 4.8% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が46億円(構成比35%)、賞与が14億円(同11%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで黒字を確保しています。東日本本部と西日本本部は売上規模が大きく、利益貢献度も高い主力セグメントです。中日本本部も利益率が高く堅調です。開発戦略本部は海外景気の影響を受け減収となりましたが、黒字を維持しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 東日本本部 | 399億円 | 446億円 | 22億円 | 32億円 | 7.2% |
| 西日本本部 | 368億円 | 446億円 | 28億円 | 30億円 | 6.6% |
| 中日本本部 | 161億円 | 179億円 | 9億円 | 11億円 | 6.3% |
| 開発戦略本部 | 207億円 | 172億円 | 8億円 | 5億円 | 3.2% |
| 連結(合計) | 1,135億円 | 1,243億円 | 52億円 | 60億円 | 4.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
椿本興業は、企業価値向上のため、強固な財務体質と資本効率の両立を目指し、経営資源を戦略的に配分しています。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益の増加があったものの、法人税等の支払い増や売上債権の増加などにより、前期と比較して減少しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却収入があった一方、固定資産の取得による支出もあり、前期と比較して増加しました。財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払い増や自己株式の取得による支出により、前期と比較して増加しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 50億円 | 36億円 |
| 投資CF | -0.7億円 | 5億円 |
| 財務CF | -11億円 | -21億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「吾々は社業を通じて社会に貢献することをモットーとする」および「吾々はその繁栄を、常に怠りなき商品の開発と、たゆみなき販路の開拓によって達成させる」を社是として掲げています。また、「機械と技術の総合商社として、産業界の未来価値創造企業を目指す」ことをビジョンとし、長年培った技術力を活かして顧客に新たな価値を提供することを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は「ATOM」(Advanced Technology for Optimum Machinery)をスローガンとし、社会に対する公正さの堅持、地球環境保全への積極的な対応、最適商品の供給を通じた社会貢献を重視しています。また、世界のトレンドと市場ニーズに目を向け、先端技術商品を取り込み、情報力・技術力・提案力を錬磨して価値を創造することを行動の基本としています。
■(3) 経営計画・目標
2023年度から2025年度までの3カ年を対象とする中期経営計画『ATOM2025』を策定しています。2030年度に向けて経常利益の更なる増加を目指し、最終年度である2025年度の定量目標として以下の数値を掲げています。
* 経常利益:53億円
* ROE:10%
■(4) 成長戦略と重点施策
重点業界(物流、環境、自動車等)の深耕に加え、先端半導体やロボティクス、EVなどの新分野へのアプローチを強化しています。また、メーカーとの協働による高付加価値商品の開発・販売拡大や、脱炭素社会における事業機会の探索(再生可能エネルギー、水素関連など)を推進しています。さらに、人的資本への投資やDXの推進、サステナビリティ経営の実践により、中長期的な成長基盤の強化を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
機械と技術の総合商社として新たな価値を提供するため、多様で有能な人材の採用と育成に注力しています。新卒の通年採用や経験者採用、女性総合職の採用強化により多様性を確保しつつ、社員一人ひとりが能力を最大限発揮できる環境整備を進めています。また、DX対応人材や高い専門性を持つ人材の育成、エンゲージメント向上に向けた教育・研修、健康経営への投資も積極的に行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.5歳 | 15.4年 | 8,057,458円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.5% |
| 男性育児休業取得率 | 84.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 59.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 60.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 52.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、人的付加価値率(108)、特定資格保有者数(104)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 設備投資需要の変動
主力事業である動伝事業や設備装置事業は、各産業界の設備投資動向や部品供給量に大きく依存しています。景気低迷等により設備投資や部品供給が抑制された場合、グループ全体の業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、グローバルな経済状況や各業界の動向を注視し、迅速な対応策を講じる体制を整えています。
■(2) 競合の激化
事業分野において競合他社との価格競争や品質競争が激化し、売上高や利益が減少する可能性があります。同社は、顧客価値を高める新商品の開発や、エンジニアリング力を活かしたトータルな設備導入提案を行うことで、付加価値を高めた商品販売に注力し、競争力の維持・強化を図っています。
■(3) 人材の確保
中長期的な成長には従業員の力量が不可欠ですが、適切な時期に優秀な人材を確保できなかったり、育成が滞ったりした場合、成長が阻害される恐れがあります。これをサステナビリティ関連リスクと認識し、独自の人事制度の検討、OJT等の社員教育、待遇改善や働きやすい環境整備を継続的に実施しています。
■(4) 海外事業の拡大と為替レートの変動
東南アジアを中心に海外事業を拡大しており、各国の政情不安や商習慣の違いなどが業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、現地通貨建て項目の円換算時に為替レートの変動が経営成績や財政状態に影響を与える可能性があります。これに対し、情報収集の強化や為替予約取引等によるヘッジを行っています。



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