※本記事は、武蔵野興業株式会社の有価証券報告書(第155期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 武蔵野興業ってどんな会社?
同社は「新宿武蔵野館」などの映画事業を主力としながら、不動産や自動車教習などの複合的なサービスを提供する企業です。
■(1) 会社概要
同社は1920年に映画興行を目的として設立され、「武蔵野館」を開館したことから始まりました。1949年には東京証券取引所に株式を上場しています。その後、1973年に不動産部門を設置して事業の多角化を進め、1981年には自動車教習事業も開始しました。2025年には福岡証券取引所への上場も果たしています。
現在の従業員数は連結で43名、単体で20名です。筆頭株主は創業関係者である河野義勝氏であり、第2位には有限会社河野商事が名を連ねています。また、第3位には投資・コンサルティング業を営むリサ・パートナーズが入るなど、多様な株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 河野義勝 | 30.82% |
| 有限会社河野商事 | 9.55% |
| リサ・パートナーズ | 9.54% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.2%です。代表取締役社長は河野義勝氏が務めています。社外取締役比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 河野義勝 | 代表取締役社長 | 1986年8月同社入社。1988年取締役、1990年常務、1992年専務、2004年取締役副社長を経て、2005年6月より現職。 |
| 河野優子 | 常務取締役営業担当兼内部統制担当 | 2009年4月同社顧問、同年6月取締役、11月常務取締役に就任。2010年営業担当、2011年5月内部統制担当となり現職。 |
社外取締役は、マッシュー アイアトン(Yoshimoto Entertainment U.S.A., Inc. CEO)、朝山英夫(パンジャパン代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「映画事業」「不動産事業」「自動車教習事業」「商事事業」および「その他」事業を展開しています。
■映画事業
映画館「新宿武蔵野館」の運営や、映画の買付・配給を行っています。幅広い映画ファンに向けた多様な作品の上映や、自社買付配給による相乗効果の創出を追求しています。
主な収益源は、映画館におけるチケット販売(当日券・前売券)やパンフレット・飲食物等の売店収入です。事業の運営は、同社および武蔵野エンタテインメントが行っています。
■不動産事業
東京都や埼玉県に所有する商業テナントビルや賃貸マンションなどの不動産を賃貸しています。また、消費者ニーズを見極めつつ、個人向け住宅の仲介・販売事業も展開しています。
主な収益源は、入居テナントからの安定的な不動産賃貸収入や仲介手数料です。事業の運営は、同社や自由ケ丘土地興業のほか、関連会社の野和ビルが行っています。
■自動車教習事業
埼玉県大里郡において自動車教習所を運営し、普通自動車免許のほか他車種の教習や高齢者講習等、地域のニーズに応じた教習サービスを提供しています。
主な収益源は、教習生から受け取る教習料金や、高齢者講習等に関する委託料収入です。事業の運営は、寄居武蔵野自動車教習所が行っています。
■商事事業
東京都目黒区において軽飲食店の委託経営等を行っており、季節ごとのオリジナルメニューやキャラクターグッズの販売など、顧客ニーズに合ったサービスを提供しています。
主な収益源は、飲食サービスの提供や関連商品の販売を通じた売上です。事業の運営は、自由ケ丘土地興業が行っています。
■その他事業
自動販売機の設置など、報告セグメントに含まれないその他の付随的な業務を展開しています。
主な収益源は、自動販売機から得られる販売手数料等です。事業の運営は、同社および自由ケ丘土地興業が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は13億円前後で推移し、概ね安定した事業規模を維持しています。経常利益は一時的に落ち込みが見られたものの、直近では回復傾向にあります。当期は売上高が微減となった一方で経常利益率が上昇し、さらに投資有価証券の売却に伴う特別利益の計上などにより、当期利益が大幅に拡大しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 13億円 | 14億円 | 13億円 | 14億円 | 13億円 |
| 経常利益 | 0.6億円 | 0.3億円 | 0.2億円 | 0.9億円 | 1.0億円 |
| 利益率(%) | 5.0% | 1.9% | 1.5% | 6.4% | 7.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 2百万円 | 3百万円 | -0.3億円 | 0.1億円 | 3億円 |
■(2) 損益計算書
売上高が微減となったものの、売上原価の減少により売上総利益は増加し、売上総利益率も改善しています。営業利益については前期と同水準を維持しており、本業の稼ぐ力は底堅く推移していることが読み取れます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 14億円 | 13億円 |
| 売上総利益 | 7億円 | 7億円 |
| 売上総利益率(%) | 49.9% | 55.0% |
| 営業利益 | 0.7億円 | 0.7億円 |
| 営業利益率(%) | 5.1% | 5.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が2億円(構成比26.2%)、役員報酬が1億円(同19.7%)、地代家賃が1.0億円(同14.9%)を占めています。また、売上原価については、映画事業売上原価が4億円(同61.6%)、不動産事業売上原価が3億円(同38.4%)を占めています。
■(3) セグメント収益
不動産事業が安定的に高い利益水準を維持し、全社の収益基盤を支えています。映画事業は前期の赤字から黒字転換を果たし、収益性が改善しました。一方、自動車教習事業は普通車教習料金の値上げ等で増収となったものの、設備投資に伴う減価償却費の増加などにより減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 映画事業 | 5億円 | 4億円 | -0.3億円 | 0.2億円 | 4.0% |
| 不動産事業 | 6億円 | 6億円 | 3億円 | 3億円 | 55.0% |
| 自動車教習事業 | 3億円 | 3億円 | 0.4億円 | 0.3億円 | 8.1% |
| 商事事業 | 0.1億円 | 0.1億円 | 0.1億円 | 0.1億円 | 100.0% |
| その他 | 0.1億円 | 0.1億円 | 0.1億円 | 0.1億円 | 97.1% |
| 連結(合計) | 14億円 | 13億円 | 0.7億円 | 0.7億円 | 5.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業CFがマイナス、投資CFがプラス、財務CFがマイナスとなる「事業検討型」のキャッシュ・フローのパターンを示しています。本業のキャッシュ創出が一時的にマイナスとなった一方、投資有価証券の売却等による収入で借入金の返済を進めています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2億円 | -5百万円 |
| 投資CF | -0.7億円 | 4億円 |
| 財務CF | -0.3億円 | -0.5億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.5%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は62.8%となっており、いずれもスタンダード市場の平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
創業以来、映画文化の多様性を通じて「人々に夢と楽しみと感動を提供する」という経営理念を掲げています。また、「映画事業を通じて社会に健全な娯楽を提供するとともに、映画文化の発展に寄与すること」を基本方針とし、顧客ニーズに応えられる複合的なサービス展開を通じて社会への貢献を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、経営理念の実現において「社内人的資本の多様性の積み上げが欠かせない」という価値観を重視しています。採用活動では性別や国籍、新卒・中途を問わず、個人の持つパーソナリティが組織力の向上に寄与するかを重視し、社員のやりがいを高めるための表彰制度なども整備する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
主力である映画事業は経済環境や消費マインドの影響を複雑に受けやすく、予想と実績の乖離が生じやすいため、同社は特定の経営指標を用いた数値目標を定めていません。しかし、資本コストや資本収益性を十分に意識したうえで、収益基盤の強化と中長期的な収益積み上げを目標として事業運営を行っています。
■(4) 成長戦略と重点施策
映画事業においては集客力のある良質な作品の上映とコストを意識した運営で黒字安定化を目指し、独自のイベントや自社買付配給による相乗効果を追求します。不動産事業では安定的な賃貸収入の確保と個人向け住宅の仲介・販売に取り組み、自動車教習事業では他車種の教習や高齢者講習等に注力して基幹事業の安定化を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
お客様の多様性に則した事業運営のため、性別や国籍を問わない柔軟な採用活動を行っています。社員が働きやすいよう残業時間の削減や有給休暇の取得促進など労務環境の改善を継続的に進め、シニア人材の積極活用にも注力しています。また、個々のスキルや適性を総合的に勘案したOJTや研修を通じ、人材育成を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 54.3歳 | 15.9年 | 4,554,846円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は法定開示義務の対象外であるため、有報には本稿の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(60.2%)、女性社員比率(15.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 劇場用映画の興行成績に関するリスク
映画事業は上映作品の集客力によって興行成績が大きく左右される側面があります。多様化する映画ファンの嗜好や、劇場の立地・特性を考慮した適切な作品選定が常に求められます。また、映画配給事業において公開状況や配給成績が当初の計画と乖離した場合、同社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 経済状況・消費動向に関するリスク
同社グループの各事業は主に個人顧客を対象としています。そのため、景気の悪化や物価上昇に伴う消費低迷が続いた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、自動車教習事業においては、原油価格高騰による燃料費増加のリスクが存在します。同社は各セグメントの財務安定化を図り、バランスの取れた経営を目指しています。
■(3) 不動産賃貸に関するリスク
不動産事業においては、入居テナントの退去に伴う賃料減少リスクがあります。また、設備の老朽化に起因する維持管理費の増加や新たな設備投資の負担のほか、自然災害による損害や予期せぬ事故等による信用力低下が業績に影響を及ぼす可能性があります。同社はテナント動向に細心の注意を払い、早期の対策を実施しています。



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