帝国ホテル 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

帝国ホテル 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所 スタンダード市場に上場し、ホテル事業と不動産賃貸事業を展開しています。当連結会計年度は、国内観光需要やインバウンド需要の回復によりホテル事業が堅調に推移しましたが、再開発に向けたタワー館の営業縮小や建て替え関連費用の計上などが影響し、全体では減収減益となりました。


※本記事は、株式会社帝国ホテル の有価証券報告書(第184期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 帝国ホテルってどんな会社?


日本を代表する高級ホテルとして、ホテルおよび料飲施設の運営、不動産賃貸事業などを展開する企業です。

(1) 会社概要


1887年に有限会社帝国ホテルとして設立され、1890年に開業しました。1961年に東証二部に上場し、1983年にはインペリアルタワーが落成しました。1996年に帝国ホテル大阪を開業し、2022年の市場区分見直しによりスタンダード市場へ移行しました。現在は東京での建て替え計画や京都での新規開業準備を進めています。

連結従業員数は1,813名、単体では1,736名が在籍しています。筆頭株主は同社と業務・資本提携を結び再開発計画のパートナーでもある不動産会社で、第2位は飲料メーカー、第3位は証券持株会社です。安定株主により支えられていますが、筆頭株主との関係は経営に影響を与える可能性があります。

氏名 持株比率
三井不動産 33.20%
アサヒビール 5.74%
大和証券グループ本社 5.05%

(2) 経営陣


同社の役員は男性17名、女性2名の計19名で構成され、女性役員比率は10.5%です。代表取締役社長は風間淳氏が務めています。取締役14名のうち社外取締役は7名で、比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
風間 淳 代表取締役社長社長執行役員内部監査部担当 1986年入社。ホテル事業統括部長、企画部長、代表取締役専務などを経て2025年4月より現職。ニューサービスシステム代表取締役会長も経験。
定保 英弥 取締役会長会長執行役員 1984年入社。帝国ホテル東京総支配人、代表取締役社長などを歴任。2023年には日本ホテル協会会長に就任。2025年4月より現職。
徳丸 淳 代表取締役副社長副社長執行役員企画部、技術ソリューション部、人事部担当、兼SDGs推進担当 1986年入社。総務部長、代表取締役常務などを経て2025年4月より現職。帝国ホテルエンタープライズ取締役を兼任。
古谷 厚史 取締役常務執行役員事業開発部、総務部担当 1988年入社。人事部長、総務部長などを歴任。帝国ホテルサービス等の取締役を務め、2025年4月より現職。ニューサービスシステム代表取締役会長を兼任。
大和田 寛 取締役常務執行役員プロジェクト推進部、帝国ホテル京都、不動産事業部担当 1994年入社。企画部プロジェクト推進室長、執行役員プロジェクト推進部長を経て2025年4月より現職。
今井 徹 取締役執行役員経理部担当 1984年入社。情報システム部長、管理部長などを経て2021年6月より現職。2025年4月より帝国ホテルサービス代表取締役社長を兼任。
八島 和彦 取締役執行役員帝国ホテル東京総支配人 1994年入社。帝国ホテル東京副総支配人兼ホテル事業統括部長などを経て2023年6月より現職。


社外取締役は、筒井義信(日本生命保険相互会社代表取締役社長)、日比野隆司(大和証券代表取締役会長)、小路明善(アサヒグループホールディングス会長)、米山好映(富国生命保険相互会社社長)、寺本秀雄(第一生命経済研究所社長)、野瀬裕之(サッポロビール社長)、徳田誠(三井不動産取締役専務執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ホテル事業」および「不動産賃貸事業」を展開しています。

(1) ホテル事業


帝国ホテル東京、帝国ホテル大阪、上高地帝国ホテルにおける宿泊、レストラン、宴会、婚礼等のサービスに加え、ホテル製品の販売などを行っています。顧客は国内外の観光客や法人など多岐にわたります。

収益は、宿泊客からの客室料、レストラン・宴会利用者からの飲食料、製品購入者からの代金などが主な源泉です。運営は主に帝国ホテルが行い、一部のコミュニティホテルやレストラン運営等は子会社の帝国ホテルエンタープライズなどが担当しています。

(2) 不動産賃貸事業


帝国ホテル東京の敷地内にあるインペリアルタワー等において、オフィスや店舗用スペースの賃貸を行っています。顧客は入居するテナント企業などです。

収益は、テナントからの賃料や共益費などが源泉となります。運営は主に帝国ホテルが行い、不動産管理業務の一部を子会社の帝国ホテルサービス等が担当しています。なお、タワー館は再開発に向けて営業規模を縮小しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、コロナ禍の影響で大きく落ち込んだ売上高は回復基調にありましたが、当期は再開発に伴う営業縮小等の影響で微減となりました。利益面では、回復傾向にあったものの、当期は建て替え関連費用の計上や人的資本投資の影響などで減益となっています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 221億円 286億円 438億円 533億円 526億円
経常利益 -79億円 -78億円 17億円 33億円 21億円
利益率(%) -35.8% -27.4% 3.8% 6.2% 3.9%
当期利益(親会社所有者帰属) -144億円 -79億円 20億円 34億円 25億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で微減となりました。営業利益は大幅に減少し、営業利益率は低下しています。コスト増加要因として、建て替えに向けた一時費用の発生や、ベースアップ等の人件費増加が挙げられます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 533億円 526億円
営業利益 28億円 16億円
営業利益率(%) 5.3% 3.0%


販売費及び一般管理費のうち、人件費が152億円(構成比38%)、賃借料が40億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


ホテル事業は、インバウンド需要や国内需要の取り込みにより増収となりましたが、利益はコスト増により減少しました。不動産賃貸事業は、タワー館の営業終了に伴い大幅な減収減益となり、赤字に転落しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
ホテル事業 511億円 523億円 49億円 47億円 8.9%
不動産賃貸事業 22億円 3億円 4億円 -3億円 -92.7%
調整額 -0億円 -0億円 -24億円 -28億円 -
連結(合計) 533億円 526億円 28億円 16億円 3.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は営業活動で得た資金を、設備投資等の投資活動に充当し、財務活動では借入返済等を進めている健全型です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 42億円 71億円
投資CF -31億円 -141億円
財務CF -7億円 -7億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.9%でスタンダード市場の平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は65.7%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、創業の精神を継ぐ日本の代表ホテルであり国際的ベストホテルを目指す企業として、最も優れたサービスと商品を提供することにより、国際社会の発展と人々の豊かでゆとりのある生活と文化の向上に貢献することを企業理念として掲げています。

(2) 企業文化


誠実で人間味あふれる従業員の存在を企業価値の原点と考えています。従業員の満足度を高めることでサービスレベルを向上させ、顧客満足度と収益を上げ、それを人材投資等に還元するという理想的なサイクルの循環を使命としています。

(3) 経営計画・目標


東京事業所建て替え後を見据えた『中長期経営計画2036』を策定しています。いかなる経営環境下においても企業継続できる体制を構築し、2040年の開業150周年を目指しています。定量目標としてEBITDA(経常利益+支払利息+減価償却費)を掲げています。

(4) 成長戦略と重点施策


日比谷本館建て替えによるハードウェア刷新と人材育成強化による「グランドホテルの進化」、不動産事業等の拡充による収益力・財務基盤強化を通じた「企業としての安定的成長」、そしてSDGs貢献度を向上させる「社会的課題の解決」を基本戦略としています。

具体的には、帝国ホテル本社の資産活用、帝国ホテル大阪での万博需要対応、上高地での高品質サービス提供に加え、2026年春開業予定の「帝国ホテル京都」の準備を進めています。また、帝国ホテル東京の建て替え計画を最重要課題と位置づけ推進しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


従業員を企業の原点と位置づけ、多様な強みを持つ人材が活躍できる環境整備を進めています。創業の精神を理解し最高のサービスを提供できる人材、イノベーションを実現する人材、多様性を受容・活用できる人材の育成を目指しています。また、語学研修や資格取得支援、ハラスメント対策、両立支援、健康経営の推進などを通じ、安心して働き続けられる環境を整えています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.2歳 14.8年 5,887,000円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 18.1%
男性育児休業取得率 82.6%
男女賃金差異(全労働者) 68.1%
男女賃金差異(正規雇用) 76.4%
男女賃金差異(非正規雇用) 51.8%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、採用した労働者に占める女性労働者割合(70.5%)、男女の平均勤続年数差異(7.5年)、障がい者雇用率(2.56%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 自然災害及び火災等の事故の発生


大規模な地震、台風等の自然災害や火災等の事故は、建物や施設に損害を与え、営業停止による売上減少や修復費用を発生させる可能性があります。また、直接的な被害がなくとも、交通機関への影響等による来客数減少が収益に影響する可能性があります。

(2) 感染症の発生、まん延


新型インフルエンザ等の感染症の発生やまん延は、入国規制や外出自粛等による宿泊・宴会需要の低下を招き、売上が減少し収益確保に大きく影響する可能性があります。

(3) テロ、戦争の勃発


テロや戦争等の世界情勢の変化は、海外からの渡航制限や消費マインドの減退、原材料・建築資材等の調達コスト上昇を引き起こし、特に外国人比率の高い事業所での売上回復の遅れや利益への悪影響が生じる可能性があります。

(4) 帝国ホテル東京建て替え計画に関するリスク


本館等の建て替え期間中は一部事業規模の縮小による一時的な収益力低下の可能性があります。また、物価上昇による建設費用の増加や資金調達コストの変動、共同事業者との契約締結や許認可取得の状況によっては、計画の進捗や経営成績に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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