※本記事は、株式会社帝国ホテルの有価証券報告書(第185期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 帝国ホテルってどんな会社?
帝国ホテルは、国内外の賓客を迎えるホテル事業と不動産賃貸事業を展開する老舗ホテル企業です。
■(1) 会社概要
1890年に帝国ホテルが落成・開業しました。1961年に東京証券取引所市場第二部に上場し、1970年には本館が落成しました。1996年の帝国ホテル大阪開業に続き、直近では2026年3月に30年ぶりの新規ホテルとなる帝国ホテル京都を開業しています。
従業員数は連結で1,899名、単体で1,823名です。筆頭株主は事業会社の三井不動産で、第2位はアサヒビール、第3位は大和証券グループ本社です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 三井不動産 | 33.20% |
| アサヒビール | 5.74% |
| 大和証券グループ本社 | 5.13% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性17名、女性2名の計19名で構成され、女性役員比率は10.5%です。代表取締役社長執行役員は風間淳が務めています。社外取締役比率は36.8%(19名中7名)です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 定保英弥 | 取締役会長執行役員 | 1984年同社入社。帝国ホテル東京総支配人、代表取締役社長などを経て、2025年6月より現職。 |
| 風間淳 | 代表取締役社長執行役員内部監査部担当 | 1986年同社入社。企画部長、常務取締役などを経て、2025年6月より現職。 |
| 徳丸淳 | 代表取締役副社長執行役員企画部、技術ソリューション部、人事部担当、兼SDGs推進担当 | 1986年同社入社。総務部長、代表取締役常務などを経て、2025年6月より現職。 |
| 古谷厚史 | 取締役専務執行役員事業開発部、総務部担当 | 1988年同社入社。人事部長、総務部長、ニューサービスシステム代表取締役会長などを経て、2026年4月より現職。 |
| 大和田寛 | 取締役常務執行役員プロジェクト推進部、不動産事業部担当 | 1994年同社入社。プロジェクト推進室長、プロジェクト推進部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 今井徹 | 取締役常務執行役員経理部担当 | 1984年同社入社。情報システム部長、管理部長、帝国ホテルサービス代表取締役社長などを経て、2026年4月より現職。 |
| 八島和彦 | 取締役執行役員帝国ホテル東京総支配人兼マーケティング部担当 | 1994年同社入社。帝国ホテル東京副総支配人兼ホテル事業統括部長などを経て、2023年6月より現職。 |
社外取締役は、小路明善(アサヒグループホールディングス会長)、米山好映(富国生命保険取締役会長)、寺本秀雄(元第一生命保険副会長)、野瀬裕之(サッポロビール会長)、徳田誠(三井不動産副社長)、中田誠司(大和証券グループ本社取締役会長)、藤本宣人(日本生命保険副社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ホテル事業」および「不動産賃貸事業」を展開しています。
■ホテル事業
宿泊、宴会、レストランでの飲食提供、ホテル製品などの販売や付帯サービスを国内外の顧客に提供しています。直営の帝国ホテル東京、大阪、京都に加え、上高地帝国ホテルの運営も行っています。
利用客からの宿泊費、飲食代、宴会利用料などを主な収益源としています。運営は同社のほか、帝国ホテルエンタープライズなどの子会社が行い、帝国ホテルキッチンが調理食品の製造販売を担っています。
■不動産賃貸事業
主に賃貸用マンションなどの不動産賃貸・管理を行っており、企業や個人を顧客としています。
顧客と締結する賃貸借契約に基づく賃貸収入を主な収益源としています。この事業は主に同社が主体となって運営を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んだ業績から回復傾向が続いています。インバウンド需要の伸長や客室稼働の再開などにより売上高は増加基調にあり、利益面も各種経費の抑制や価格政策の見直しが奏功し、安定した黒字を確保しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 286億円 | 438億円 | 533億円 | 526億円 | 563億円 |
| 経常利益 | -78億円 | 17億円 | 33億円 | 21億円 | 27億円 |
| 利益率(%) | -27.4% | 3.8% | 6.2% | 3.9% | 4.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -80億円 | 18億円 | 33億円 | 25億円 | 42億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い営業利益も拡大し、本業の収益力が着実に向上しています。積極的な人的投資を行う一方で、デジタル化の推進を通じた業務効率化により経費をコントロールしたことが増益に寄与しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 526億円 | 563億円 |
| 営業利益 | 16億円 | 21億円 |
| 営業利益率(%) | 3.0% | 3.8% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が165億円(構成比38.2%)、賃借料が43億円(同10.0%)、業務委託費が41億円(同9.4%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力のホテル事業は、インバウンド需要の増加やタワー館客室の稼働再開が大きく貢献し、大幅な増収となりました。不動産賃貸事業についても、物件の入居率が改善したことで売上高が順調に伸びています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| ホテル事業 | 523億円 | 559億円 |
| 不動産賃貸事業 | 3億円 | 4億円 |
| 連結(合計) | 526億円 | 563億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.1%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は59.9%で、いずれも市場平均を上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 71億円 | 41億円 |
| 投資CF | -141億円 | -97億円 |
| 財務CF | -7億円 | 79億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
帝国ホテルは「創業の精神を継ぐ日本の代表ホテルであり国際的ベストホテルを目指す企業として、最も優れたサービスと商品を提供することにより、国際社会の発展と人々の豊かでゆとりのある生活と文化の向上に貢献する」ことを企業理念に掲げています。日本の迎賓館としての役割を担い、あらゆるステークホルダーの期待に応えていくことを使命としています。
■(2) 企業文化
誠実で人間味あふれる従業員の存在を、企業価値を高める上で最も大切な原点と位置づけています。従業員満足度を高めながらサービスレベルを向上させることで顧客満足度を上げ、その結果として収益が向上し、さらに人材投資へとつなげる「理想的なサイクル」を回すことを重視し、人を原点とするブランドの進化を目指す文化があります。
■(3) 経営計画・目標
東京事業所の建て替え後を見据えた「中長期経営計画」を策定し、いかなる経営環境下においても企業継続できる体制を構築して、2040年の開業150周年を目指しています。ボラティリティの高いホテル事業を補うため、不動産事業等の拡充によって収益力・財務基盤の強化を図り、持続的な成長を達成することを目標としています。
■(4) 成長戦略と重点施策
ハードウェアの刷新と人材育成の強化により、グランドホテルとしての進化を目指します。日比谷本館の建て替えによる施設強化とともに、不動産事業を拡充して収益の安定化を図ります。また、語学やICTに長けた顧客対応力の高い従業員を育成し、社会課題の解決に向けて企業活動全体でSDGsへの貢献度を向上させていく方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業の持続的な成長の原点は従業員であると考え、優秀な人材の育成に注力しています。創業の精神を継承し最高のサービスを提供できる人材や、時代の潮流を捉えてイノベーションを実現できる人材の育成を目指しています。また、多様な背景や価値観を持つ人材が強みを発揮できるよう、能力向上に向けた環境整備やワークライフバランスの支援を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 38.1歳 | 13.6年 | 5,822,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 20.5% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 68.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 74.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 55.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、採用した労働者に占める女性労働者割合(64.1%)、男女の平均勤続年数差異(8.7年)、障がい者雇用率(2.80%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 食の安全と衛生管理に関するリスク
ホテルやレストランにおける食中毒やアレルギー事故等、食の安全に関する問題が発生した場合、企業ブランドと信用の失墜を招き、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。同社は「食の安全と信頼委員会」を設置し、定期的な衛生管理点検や従業員の腸内検査、アレルギー対応の徹底など、食の安全管理に細心の注意を払っています。
■(2) 帝国ホテル東京建て替え計画に伴う影響
帝国ホテル東京の本館およびタワー館の建て替えにおいて、営業縮小による一時的な収益低下や、物価上昇による建築費の高騰が生じるリスクがあります。同社は営業を継続しながら建て替えを進めるとともに、機動的な価格政策や付加価値の高い商品企画を行うことで、事業規模縮小による収益への影響を最小限に抑えるよう努めています。
■(3) 労働力不足と労務環境の変化
接客を主体とするホテル事業において、労働法令の変更への対応や人手不足が深刻化した場合、人件費の増加やサービス提供の遅延が生じるリスクがあります。同社は従業員のモチベーション向上を目指した賃上げや業務効率化に加え、時間外就労の管理や多様な働き方に対応する制度の整備を進め、人材の確保と定着に取り組んでいます。



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