日本証券金融 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本証券金融 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本証券金融は東京証券取引所プライム市場に上場し、証券市場のインフラとして貸借取引業務や有価証券を活用したセキュリティ・ファイナンス業務を主力とする企業です。直近の業績では、株式市況の堅調な推移や市場金利上昇による資金需要の増加を背景に、貸借取引業務等が好調に推移したことで大幅な増収増益を達成しました。


※本記事は、日本証券金融の有価証券報告書(第116期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本証券金融ってどんな会社?


証券市場のインフラを担う貸借取引業務とセキュリティ・ファイナンス業務を展開する企業です。

(1) 会社概要


1927年に東株代行として設立後、1949年に日本証券金融へ商号変更し証券金融業務を開始しました。1950年に東京証券取引所に上場し、1951年より現在の主力である貸借取引貸付をスタートさせています。1998年には日証金信託銀行を設立して信託業務へ参入したほか、近年はインドネシアの証券金融会社へ出資を行うなど、アジア市場におけるインフラ支援など新たな領域への展開も進めています。

従業員数は連結で279名、単体で215名です。筆頭株主は投資ファンドであるTHE SFP VALUE REALIZATION MASTER FUND LTD.で、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位は資本市場振興財団となっています。

氏名 持株比率
THE SFP VALUE REALIZATION MASTER FUND LTD. 16.69%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 10.98%
資本市場振興財団 5.70%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表執行役社長は下山田守邦氏が務めており、社外取締役の比率が高いことが特徴です。

氏名 役職 主な経歴
下山田守邦 代表執行役社長 取締役 1986年日本興業銀行入行。みずほコーポレート銀行グローバル人材戦略部長等を経て2015年に同社入社。金融証券営業部長などを歴任し、2026年4月より現職。
岡田豊 代表執行役副社長 1987年日本銀行入行。松江支店長や発券局長などを経て2018年に同社へ顧問として入社。執行役常務などを歴任し、2026年4月より現職。
前田和宏 取締役 1982年に同社入社。総務部長などを経て2016年に常務取締役、2018年に専務取締役へ就任。日本ビルディング取締役社長などを歴任し、2025年6月より現職。


社外取締役は、小幡尚孝(元三菱UFJリース社長・指名委員長等)、杉野翔子(藤林法律事務所パートナー弁護士・監査委員長)、二子石謙輔(元セブン銀行社長)、山川隆義(元ドリームインキュベータ社長)、田中恭代(元旭化成アビリティ社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「証券金融業」「信託銀行業」「不動産賃貸業」を展開しています。

証券金融業


貸借取引を核としたセキュリティ・ファイナンス業務を展開し、主に証券会社や金融機関に対して資金や有価証券の貸付を行っています。株式の円滑な流通や適正な価格形成に寄与するインフラ機能の役割を担っています。

収益源は、証券会社へ制度信用取引に必要な資金や株券を貸し付ける貸借取引、株券等を担保に現金を貸し付ける株券レポ取引等の利息や貸付料です。事業の運営は主に日本証券金融が行っています。

信託銀行業


証券会社などに求められる顧客資産の分別管理信託をはじめとした、管理型の信託銀行業務を展開しています。

ニッチな分野での管理型信託サービスを中心とした信託報酬が主な収益源です。事業の運営は連結子会社である日証金信託銀行が行っています。

不動産賃貸業


日本証券金融グループが所有するオフィスビルなど、不動産の賃貸および管理業務を行っています。

所有する不動産からの賃貸収入が主な収益源となっています。事業の運営は連結子会社である日本ビルディングが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の業績を見ると、営業収益は順調に拡大を続けており、特に直近の期間では前年比で大幅な増収を達成しています。経常利益および当期利益についても安定的な成長軌道を描いており、証券金融を中心とする主力事業が順調に推移し、同社グループの収益基盤の拡大と強化が進んでいることがうかがえます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
営業収益 301億円 425億円 503億円 595億円 1142億円
経常利益 72億円 76億円 110億円 125億円 150億円
利益率(%) 23.9% 17.9% 21.9% 21.0% 13.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 52億円 60億円 80億円 104億円 106億円

(2) 損益計算書


直近2期間の損益構成を見ると、資金需要の増加等により営業収益が大きく伸びたことで、営業総利益および営業利益ともに順調な増益を達成しました。一方で、収益規模の急拡大に伴い利益率は低下傾向にあります。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業収益 595億円 1142億円
営業総利益 187億円 219億円
営業総利益率(%) 31.4% 19.2%
営業利益 113億円 140億円
営業利益率(%) 19.0% 12.3%


販売費及び一般管理費に該当する一般管理費のうち、報酬給与等が33億円(構成比42%)、賞与引当金繰入額が6億円(同8%)を占めています。また、営業費用の内訳としては売現先利息が387億円(同42%)、支払利息が343億円(同37%)となっており、資金調達に関連するコストが大部分を占めています。

(3) セグメント収益


セグメント別の状況を見ると、主力である証券金融業は市場金利上昇等の影響で資金需要が増加し、大幅な増収増益を記録しました。信託銀行業も管理型信託サービスが堅調に推移し成長を牽引しています。不動産賃貸業は小規模ながら高い利益水準を安定的に維持しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
証券金融業 530億円 1029億円 106億円 138億円 13.4%
信託銀行業 57億円 105億円 18億円 28億円 26.6%
不動産賃貸業 8億円 7億円 7億円 7億円 100.0%
調整額等 -6億円 -6億円 -13億円 -27億円 -
連結(合計) 595億円 1142億円 125億円 150億円 13.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、本業で創出した利益で借入金の返済を進めつつ、手元資金で必要な投資を行っている健全な優良企業のキャッシュ・フロー・パターンを示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF -5351億円 1350億円
投資CF 17億円 -4億円
財務CF -90億円 -102億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.8%で市場平均を下回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も0.9%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


証券金融の専門機関として、常にその公共的役割を強く認識するとともに、証券界、金融界の多様なニーズに積極的に応え、市場参加者や利用者の長期的な利益向上を図ることで、証券・金融市場の発展に貢献することを使命とし、健全な業務運営を通じてゆるぎない社会的信頼を確立することを目指しています。

(2) 企業文化


証券市場のインフラ機能を担う企業としての社会的責任を重視し、コンプライアンスの徹底や堅固なガバナンス体制のもとで健全な業務運営を実践する文化が根付いています。また、経営環境の変化に機動的かつ柔軟に対応し、社員の多様な価値観を尊重しながら企業活力と組織変革力を高める姿勢を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


同社は、2026年度から2028年度までの3年間を計画期間とする「第8次中期経営計画」を策定しており、収益力と資本効率の向上を目指して以下の経営目標を掲げています。

* 連結経常利益:150億円(2028年度まで)
* ROE:8%(2028年度まで)
* 株主還元:ROE8%達成まで総還元性向100%を継続

(4) 成長戦略と重点施策


貸借取引業務の安定運用と利便性向上を図るとともに、セキュリティ・レンディングのさらなる強化を軸としたセキュリティ・ファイナンス業務の拡充を成長エンジンとして位置づけています。また、海外市場、特にアジアにおける主要プレイヤーとしてのポジション強化や、デジタル技術を活用したビジネスイノベーションと業務効率化を推進し、持続的な成長を目指します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


事業戦略を担うプロフェッショナル人材を戦略的に採用・育成し、多様性・専門性・主体性の強化を軸とした人材ポートフォリオの構築により基盤強化を図っています。「人的資本ポリシー」を定め、社員がそれぞれの個性と強みを発揮して自ら成長できる機会を提供するとともに、多様な働き方が可能な職場環境づくりを推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.1歳 20.0年 10,227,913円

※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.5%
男性育児休業取得率 60.0%
男女賃金差異(全労働者) 59.8%
男女賃金差異(正規) 60.6%
男女賃金差異(非正規) 78.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用者に占める女性比率(50.0%)、育児休業復帰率(85.7%)、経験者採用者の割合(10.0%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 許認可・法的規制に関するリスク


貸借取引業務は金融商品取引法に基づく内閣総理大臣の免許を受けて運営しており、法令や規制の変更、あるいは業務範囲の制限などが同社の事業展開や業績に影響を及ぼす可能性があります。また、万が一コンプライアンス上の重大な問題が発生した場合は、信用低下や行政処分を招く恐れがあります。

(2) 制度信用取引の動向に関するリスク


同社の基幹業務である貸借取引業務は株式市況の動向に大きく影響を受けます。個人投資家による制度信用取引の利用減少や、投資スタイルの多様化に伴い一般信用取引などへのシフトが進んだ場合、貸借取引の残高が減少し、同社の収益を圧迫するリスクがあります。

(3) 資金調達・金融市場の変動リスク


コールマネーや債券レポ取引などによる短期かつ低利の資金調達を中心としているため、金融市場の混乱や短期金利の急騰、あるいは同社や日本国債の格下げが発生した場合、資金調達コストの上昇や取引制限を受ける可能性があり、業務の安定運営や業績に悪影響を及ぼす恐れがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。