※本記事は、山陽電気鉄道株式会社の有価証券報告書(第137期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 山陽電気鉄道ってどんな会社?
■(1) 会社概要
同社は1907年に設立された兵庫電気軌道や1919年設立の神戸姫路電気鉄道を源流としています。1933年に宇治川電気の電鉄部が分離独立して設立されました。1936年に乗合自動車運送事業を開始し、その後百貨店業やタクシー業などへ事業を拡大しました。1949年には大阪証券取引所へ上場を果たしています。
現在の同社グループは、連結従業員数1930名、単体従業員数753名の体制で事業を展開しています。大株主の状況を見ると、筆頭株主は同業である阪神電気鉄道で、第2位は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位は関電不動産開発となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 阪神電気鉄道 | 17.40% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 5.30% |
| 関電不動産開発 | 5.00% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役会長は上門一裕氏、代表取締役社長は伊東正博氏が務めています。社外取締役は5名で構成されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 上門一裕 | 代表取締役会長 | 1980年同社入社。2005年取締役、2008年常務取締役を経て、2009年に代表取締役社長に就任。2025年6月より現職。山陽レジャーサービス代表取締役社長も兼務。 |
| 伊東正博 | 代表取締役社長 | 1987年同社入社。大阪山陽タクシー社長等を経て、2022年取締役執行役員に就任。常務、専務執行役員を経て、2025年6月より現職。 |
| 米田真一 | 取締役専務執行役員開発事業本部長 | 1984年同社入社。2013年取締役、常務執行役員等を経て、2023年山電不動産代表取締役会長。2024年6月より現職および山電不動産代表取締役社長。 |
| 増田隆治 | 取締役常務執行役員鉄道事業本部長 | 1994年同社入社。2020年執行役員、2021年取締役執行役員を経て、2023年6月より現職。 |
| 川久保文照 | 取締役常務執行役員経営統括本部長 | 1993年同社入社。2020年執行役員、2022年取締役執行役員を経て、2023年山電不動産代表取締役社長。2025年6月より現職および山陽バス代表取締役社長。 |
| 金谷明彦 | 取締役監査等委員(常勤) | 1984年同社入社。2015年取締役、2016年須磨浦遊園社長等を経て2022年監査役。2025年6月より現職。 |
社外取締役は、長尾真(神姫バス社長)、佐藤陽子(公認会計士佐藤陽子事務所所長)、秦雅夫(阪神電気鉄道会長)、香川次朗(元関電不動産開発会長)、高田厚(神戸土地建物会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「運輸業」「流通業」「不動産業」「レジャー・サービス業」および「その他の事業」を展開しています。
■(1) 運輸業
同社グループの中核として、兵庫県南部を中心とした鉄道路線の運行や、乗合バス・貸切バス、タクシーの運行サービスを提供しています。通勤・通学客から観光客まで、地域社会の幅広い人々の移動を支える公共交通インフラを担っています。
収益源は、鉄道やバス、タクシーを利用する乗客から受け取る運賃収入です。事業の運営は、鉄道事業を同社が直接手がけるほか、バス事業は山陽バス、タクシー事業は大阪山陽タクシーおよび山陽タクシーが行っています。
■(2) 流通業
百貨店やコンビニエンスストアの運営を通じて、地域住民や駅利用者に向けた多様な商品やサービスを提供しています。質の高い商品の販売や集客力のあるブランドの誘致により、地域の顧客ニーズに応える店舗づくりを進めています。
顧客に商品を販売した際の代金が主な収益源となります。百貨店業は山陽百貨店が中核となって運営し、山陽友の会や山陽デリバリーサービスが関連サービスを展開しています。また、コンビニエンスストア業は山陽フレンズが運営を担っています。
■(3) 不動産業
沿線の価値向上を目指し、マンション等の不動産分譲や、商業施設・オフィスビル・賃貸マンションなどの不動産賃貸、および不動産管理サービスを提供しています。保有資産の有効活用や社有地の開発により、魅力あるまちづくりを推進しています。
分譲マンション等を販売した際の代金や、テナントから毎月受け取る賃料が主な収益源です。事業の運営は、同社が分譲事業や賃貸事業を行うほか、山電不動産や姫路再開発ビルなどが不動産管理業を担っています。
■(4) レジャー・サービス業
人々の生活を豊かにするための飲食店の運営や、ゴルフ練習場・フィットネスクラブなどのスポーツ施設、および広告代理業を展開しています。駅周辺や沿線施設を中心に、多様なサービスを提供しています。
飲食店での飲食代金や、スポーツ施設の利用料、および広告主からの広告掲載料が主な収益源となります。事業の運営は、飲食業を山商や大阪山陽タクシーが担い、スポーツ業を山陽レジャーサービス、広告代理業を山陽フレンズが行っています。
■(5) その他の事業
グループ内外の企業を顧客として、情報処理サービスや設備の保守・整備・工事、および労働者派遣・請負事業を展開しています。会社運営をサポートする機能として、グループ全体の事業基盤を支える役割も果たしています。
顧客企業からのシステム開発・運用費、設備工事の請負代金、および人材派遣・請負に伴う手数料が主な収益源となります。事業の運営は、山電情報センターや山電サービス、山陽アメニティサービス、日本ワークシステムなどが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、経常利益は一時的な足踏みがあったものの、概ね右肩上がりの成長基調を維持しています。当期は各事業における需要の回復や各種施策の奏功により、経常利益・当期利益ともに前期を上回る堅調な推移を示しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 経常利益 | 18億円 | 38億円 | 45億円 | 42億円 | 46億円 |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 60億円 | 25億円 | 27億円 | 26億円 | 38億円 |
■(2) 損益計算書
営業利益に焦点を当てて直近2期間の損益状況を比較すると、前期から当期にかけて利益が着実に拡大していることが分かります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 41億円 | 45億円 |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が30億円(構成比55%)、経費が19億円(同35%)を占めています。
■(3) セグメント収益
運輸業は旅客数の増加等により増収を達成しています。不動産業も分譲収入の増加などから好調に推移しました。一方、流通業は百貨店における一部商品の売上減などにより微減となりましたが、全体としては安定した収益基盤を維持しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 運輸業 | 200億円 | 213億円 |
| 流通業 | 95億円 | 94億円 |
| 不動産業 | 55億円 | 58億円 |
| レジャー・サービス業 | 22億円 | 24億円 |
| その他の事業 | 13億円 | 13億円 |
| 連結(合計) | 385億円 | 401億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で得た資金を活用し、借入金の返済を進めつつ投資を手元資金で賄う健全な状態にあります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 59億円 | 80億円 |
| 投資CF | -78億円 | -54億円 |
| 財務CF | 33億円 | -17億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は47.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「幅広く人々の生活を支える総合サービスを提供することによって、社会の発展に貢献し、『連結での成長』を目指していくこと」を経営の基本方針として掲げています。兵庫県南部を基盤とし、地域社会とのつながりを大切にしながら、地域の発展と人々の豊かな生活に寄与することを使命としています。
■(2) 企業文化
同社グループは、「地域とともに走り続け、人々の生活を支える企業グループであるために」という価値観を根底に持っています。安全・安心を最優先としつつ、グループ内や企業・行政との連携を深めることで、新たな価値を共創し、持続的な成長と社会課題の解決に主体的に取り組む姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2026年度から2028年度までの中期経営計画において、以下の連結目標経営指標を掲げています。
・営業収益:480億円
・営業利益:46億円
・有利子負債/EBITDA倍率:6倍台
・ROE:6%台
・連結配当性向:35%以上
・連結投資額(3年間合計):360億円
■(4) 成長戦略と重点施策
長期ビジョン「“つなぐ”で価値を最大化」の実現に向け、事業構造変革の推進と新たな連携基盤づくりに取り組んでいます。既存事業の強靭化を進めるとともに、不動産業の規模拡大など成長領域へ積極的に投資を展開し、多様な人材の活躍を後押しすることで、持続的な企業価値の向上を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人こそが価値創造の源泉」との考えのもと、多様な人材がそれぞれのライフステージで活躍できる環境づくりを推進しています。目標・成果・能力に連動した評価制度の運用や階層別研修の充実を通じて、自律的な成長と挑戦を促し、事業の深化と持続的成長を牽引する組織力の強化を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与は東京証券取引所プライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.7歳 | 18.0年 | 5,873,976円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合 | - |
| 男性労働者の育児休業取得率 | 87.5% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(全労働者) | 74.8% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(正規雇用労働者) | 72.1% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(パート・有期労働者) | - |
※管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合は、公表項目として選択していないため記載が省略されています。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、総合職の採用者に占める女性の割合(28.6%)、年次有給休暇取得率(94.5%)、階層別研修(昇格者研修)実施率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 法令違反等による事業制限
鉄道事業法や道路運送法等の各種法規制の認可を前提として事業を遂行しており、法令違反により企業活動が制限された場合、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 他の交通機関との競合や人口減少
運輸部門において他の交通手段と競合しているほか、沿線の就業人口減少や少子高齢化の進展により、長期的な収益基盤が影響を受けるリスクがあります。
■(3) 流通事業での消費低迷と競争激化
百貨店業を中心とする流通部門において、景気低迷による消費の落ち込みや、同一・近隣商圏における他店舗の新規進出により、競争が激化して収益が減少する可能性があります。
■(4) 燃料価格・電気料金の変動
国際情勢の影響による原油価格の変動や発電コストの上昇が、鉄道の電気料金やバス・タクシーの燃料費の増加に直結し、収益を圧迫するリスクが存在します。



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