※本記事は、大和自動車交通株式会社 の有価証券報告書(第118期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 大和自動車交通ってどんな会社?
タクシー・ハイヤー業界の大手4社の一角として知られる旅客運送会社です。不動産賃貸や燃料販売なども多角的に展開しています。
■(1) 会社概要
1939年に中野相互自動車として設立され、1945年に現在の商号となりました。1949年には業界に先駆けて東京証券取引所に上場しています。2011年には信和事業協同組合加盟各社と業務提携契約を締結し、事業基盤を拡大しました。2022年の市場区分見直しに伴い、現在はスタンダード市場に上場しています。
連結従業員数は2,158名、単体では98名が在籍しています。筆頭株主は個人の新倉文明氏で、第2位は同業の東都自動車、第3位は金融機関の太陽生命保険です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 新倉 文明 | 9.36% |
| 東都自動車 | 8.38% |
| 太陽生命保険 | 8.28% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名、計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は大塚一基氏が務めています。社外取締役比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 大塚 一基 | 代表取締役社長 | 1984年三井住友銀行入行。2013年同社入社、執行役員総合企画部長等を経て2021年より現職。 |
| 岩﨑 孝雄 | 常務取締役 | 1986年同社入社。タクシー事業統括部部長、執行役員総務部長等を経て2024年より現職。 |
| 松本 敬之 | 常務取締役 | 1988年三井住友銀行入行。2020年同社入社、執行役員関連事業部長を経て2024年より現職。 |
| 新倉 眞由美 | 取締役 | 2005年より著述業などに従事。2016年より現職。 |
| 和田 彩輝 | 取締役 | アスクル、モーション事業戦略本部執行役部長等を経て2024年より現職。 |
社外取締役は、石山智久(太陽生命保険取締役常務執行役員)、宮内敏光(元第一生命保険執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「旅客自動車運送事業」「不動産事業」「販売事業」「サービス・メンテナンス事業」の4つの報告セグメントを展開しています。
■旅客自動車運送事業
ハイヤーおよびタクシーによる旅客運送サービスを、法人および個人顧客向けに提供しています。ハイヤーは役員車や報道機関向けなどの契約輸送、タクシーは流し営業や無線配車、アプリ配車による輸送を行っています。
収益は、乗客からの運賃・料金や、契約先からの運行管理料等から得ています。運営は、大和自動車交通ハイヤー、大和自動車交通江東、大和自動車などの連結子会社が主に行っています。
■不動産事業
保有するオフィスビルやマンション等の不動産を活用した賃貸および管理事業を行っています。主な物件は東京都内に所在し、テナントや居住者に対して物件を提供しています。
収益は、テナントや入居者からの賃料収入や管理料収入等から得ています。運営は、同社(親会社)および連結子会社のスリーディが行っています。
■販売事業
ガソリンスタンドの運営や、タクシー用LPG等の燃料販売、不動産事業に関連する資材の販売、金属製品の製造販売などを行っています。
収益は、一般顧客や法人顧客への燃料・資材等の商品販売代金から得ています。運営は、連結子会社の大和物産や大和工機などが行っています。
■サービス・メンテナンス事業
オフィスビルや商業施設、マンション等の清掃および設備メンテナンスサービスを提供しています。
収益は、施設所有者や管理者からの業務委託料から得ています。運営は、連結子会社のスリーディやトータルメンテナンスジャパンが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績トレンドを見ると、売上高は回復基調にあり、直近では190億円まで拡大しています。コロナ禍の影響を受けた時期には大幅な赤字を計上しましたが、その後は赤字幅が縮小し、直近の2025年3月期には当期純利益が黒字化しました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 115億円 | 153億円 | 178億円 | 184億円 | 190億円 |
| 経常利益 | -21億円 | -0.3億円 | 2.0億円 | -3.3億円 | -0.0億円 |
| 利益率(%) | -18.1% | -0.2% | 1.1% | -1.8% | -0.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -16億円 | 18億円 | 1.8億円 | -4.5億円 | 1.3億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の業績を比較すると、売上高は前期比で増加し、営業損失および経常損失は大幅に縮小しました。売上総利益率は改善傾向にあります。最終的な当期純利益は、特別利益の計上などもあり黒字に転換しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 184億円 | 190億円 |
| 売上総利益 | 15億円 | 17億円 |
| 売上総利益率(%) | 8.1% | 9.1% |
| 営業利益 | -3.6億円 | -0.2億円 |
| 営業利益率(%) | -1.9% | -0.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が9億円(構成比50%)、諸手数料が3億円(同17%)を占めています。売上原価においては、人件費等の労務費が高い割合を占める構造となっています。
■(3) セグメント収益
旅客自動車運送事業は運賃改定の浸透や稼働率向上により増収となり、赤字幅が縮小しました。不動産事業は新規物件取得効果もあり増収増益となりました。販売事業は減収ながら黒字を確保し、サービス・メンテナンス事業は増収で黒字転換しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 旅客自動車運送事業 | 133億円 | 139億円 | -2.1億円 | -0.4億円 | -0.3% |
| 不動産事業 | 10億円 | 11億円 | 5.4億円 | 5.8億円 | 55.0% |
| 販売事業 | 21億円 | 20億円 | -0.3億円 | 1.2億円 | 5.8% |
| サービス・メンテナンス事業 | 20億円 | 20億円 | -0.1億円 | 0.3億円 | 1.4% |
| 連結(合計) | 184億円 | 190億円 | -3.6億円 | -0.2億円 | -0.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業の営業活動から得たキャッシュと資産売却等による投資キャッシュ・フローのプラス分を原資として、借入金の返済を進めている「改善型」のキャッシュ・フロー状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 6.8億円 | 5.5億円 |
| 投資CF | -33億円 | 0.4億円 |
| 財務CF | 8.3億円 | -8.9億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.4%で市場平均を下回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は30.7%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
創業以来「和」の精神を企業理念として掲げています。顧客満足(CS)を第一に考え、営業の効率化と原価意識の徹底を図ることで、増収増益を実現する組織体制と経営基盤の確立を目指しています。また、旅客運送事業等の運営を通じて社会の発展に貢献することを経営の基本方針としています。
■(2) 企業文化
「安心・安全・おもてなし」の向上を掲げ、グループの総力を挙げて企業価値を高める文化があります。また、人材を最大の財産と認識し、従業員が健康で仕事と個人生活を充実させられるよう労働環境の整備に取り組む姿勢を重視しています。「環境との和」を指針とし、ESG視点を経営に取り入れています。
■(3) 経営計画・目標
2025年度を初年度とする3ヶ年の中期経営計画「中期経営計画2027」を策定しています。事業の収益性向上、経営基盤のアップデート、地域社会の交通インフラ維持への貢献を基本方針とし、以下の数値目標を掲げています。
* 連結営業利益:10億円
* ROE:7%
* 配当:1株当たり年間8円を下限とし、2027年度に配当性向30%を目標
■(4) 成長戦略と重点施策
ハイヤー・タクシー部門において事業所の大型化による効率化を図り、大口法人需要の確保による安定収益の確立を目指しています。また、立地条件の良い事業所の立体化利用による収益基盤の強化も進めています。MaaSや自動運転の発展、乗務員不足といった環境変化に対応し、中長期的な成長基盤の確立に取り組みます。
* 脱炭素対応としてEV・水素自動車の導入促進
* 外国人乗務員(特定技能制度)の採用検討
* デジタル配車システム・アプリの導入による効率化
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を最大の財産と位置づけ、社員エンゲージメントの向上や多様な人材が活躍できる環境整備に注力しています。具体的には、エンゲージメント調査に基づく職場改善、採用ブランディングの強化、研修体系の充実(安全教育、接客スキル、デジタル活用等)を推進しています。また、高齢運転者への支援や特定技能外国人の採用も検討しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 47.6歳 | 16.0年 | 5,097,854円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.3% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 62.0% |
| 男女賃金差異(正規) | 72.3% |
| 男女賃金差異(非正規) | 47.7% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 労働力確保に関するリスク
タクシー業界全体で乗務員不足が深刻化しており、離職率の上昇や乗務員の高齢化に伴う稼働減少が懸念されます。同社は社員エンゲージメント向上施策や採用ブランディングの強化、外国人乗務員の活用検討などを進めていますが、十分な労働力を確保できない場合、業績に影響が及ぶ可能性があります。
■(2) 市場環境変動リスク
燃料価格の変動や、インバウンド需要を含む需要動向の変化、配車アプリ規制や運賃改定といった規制・制度変更が業績に影響を与える可能性があります。これに対し、多様なサービスの提供による収益源の分散や、デジタル配車システムの導入による効率化・利用促進を図っています。
■(3) 環境・気候変動リスク
気候変動に伴う極端気象による事業運営への影響や、脱炭素に向けた法規制の強化、燃料コストの上昇などがリスク要因となります。同社は中期経営計画において、ハイブリッド車やEV・水素自動車の導入推進、燃費改善運行などを掲げ、環境対応とコスト管理の両面から対策を進めています。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。