記事タイトル:神姫バス転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態
※本記事は、神姫バス株式会社の有価証券報告書(第143期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 神姫バスってどんな会社?
自動車運送事業を中核とし、地域の発展とともに多様なサービスを展開する企業です。
■(1) 会社概要
1927年に旅客自動車運送事業を目的として設立されました。1945年に兵庫県下での乗合バス統合を完了し、1961年に大阪証券取引所へ上場しました。その後、旅行業や飲食業、不動産事業などに領域を拡大し、2013年に東京証券取引所へ上場を果たしています。近年は持株会社体制の構築やM&Aを推進しています。
現在の従業員数は連結で3,543名、単体で1,716名となっています。大株主の構成を見ると、筆頭株主は事業会社である阪神電気鉄道で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。また、第3位には従業員持株会が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 阪神電気鉄道 | 9.78% |
| 日本カストディ銀行(三井住友信託銀行再信託分・山陽電気鉄道退職給付信託口)(注)3 | 7.28% |
| 神姫バス従業員持株会 | 2.54% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性1名の計14名で構成され、女性役員比率は7.1%です。代表取締役社長は長尾真氏が務めています。取締役10名のうち4名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 長尾真 | 代表取締役社長 | 1982年同社入社。企画部長等を経て、2005年エー・ビー・シー神姫トラベル(現神姫トラベル)代表取締役社長。2005年取締役、2009年常務、2012年専務を歴任し、2013年より現職。 |
| 丸山明則 | 代表取締役専務取締役総括・東京オフィス担当 | 1981年同社入社。2003年バス事業部長、2006年取締役、2009年常務を経て、2012年神姫クリエイト(現神姫Bizプロデュース)代表取締役社長。2013年専務を歴任し、2017年より現職。 |
| 三谷康生 | 専務取締役経営企画部担当 | 1990年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2007年日本M&Aセンター執行役員、2016年ジャパンM&Aアドバイザー代表取締役社長等を経て、2021年同社取締役。2025年より現職。 |
| 梅谷榮一 | 常務取締役バス事業部・次世代モビリティ推進室担当 | 1987年同社入社。2012年バス事業部明石営業所長を経て、2015年神姫クリエイト(現神姫Bizプロデュース)代表取締役社長。2021年同社取締役、経営企画部長を歴任し、2023年より現職。 |
| 井村在宏 | 取締役総務部・人事部担当人事部長 | 1994年同社入社。2016年神姫観光ホールディングス(現神姫観光)取締役、2018年同社人事部長等を経て、2019年しんきエンジェルハート代表取締役。2020年より現職。 |
| 三木公仁 | 取締役共創事業本部担当共創事業本部長 | 2001年同社入社。2016年事業戦略部バンコクオフィス所長を経て、2017年Shinki International代表取締役社長。2023年同社取締役を歴任し、2026年より現職。 |
社外取締役は、上門一裕(山陽電気鉄道代表取締役会長)、藤岡資正(明治大学専門職大学院専任教授)、殿村美樹(TMオフィス代表取締役)、久須勇介(阪神電気鉄道代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「自動車運送」「車両物販・整備」「不動産」「レジャーサービス」「旅行貸切」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 自動車運送
同社グループの中核として、一般乗合旅客運送(路線バス・高速バス)や企業・学校向けの特定旅客運送サービスを広く一般顧客に提供しています。また、タクシーや貨物運送、公共施設の指定管理も手がけています。
乗客からの運賃や、企業・自治体等からの業務受託料が主な収益源です。運営は同社のほか、神姫ゾーンバスやウイング神姫、神姫タクシーといった子会社がそれぞれの担当領域においてサービスを提供しています。
■(2) 車両物販・整備
同社グループ向けや一般顧客に対し、車両の部品やタイヤの販売、車両の修理・車検整備などのサービスを提供しています。自動車の長期使用に伴う整備需要に応え、安全性と稼働率の維持を支えています。
車両部品の販売代金や修理・整備代金が主な収益源です。運営は主に子会社の神姫産業および神姫商工が行っており、同社グループ内の車両メンテナンスを一手に引き受けるとともに外部顧客も開拓しています。
■(3) 不動産
注文住宅の建築や建売住宅の販売、オフィスビルや商業施設、賃貸マンションなどの不動産賃貸、仲介、管理サービスを展開しています。加えて、車両の清掃業務や警備業務なども手がけています。
住宅・建物の販売代金や工事請負代金、および不動産の賃貸料や管理手数料が主な収益源です。運営は同社が賃貸事業を中心に行い、子会社の神姫バス不動産が建築や不動産売買、清掃・警備事業を担っています。
■(4) レジャーサービス
高速道路のサービスエリア等における物販や飲食店の運営、書籍・CD・DVDの販売、および体験型複合施設の運営など、地域住民や観光客に向けて多様なエンターテインメントや飲食サービスを提供しています。
店舗での商品販売代金や飲食代金、施設の利用料が主な収益源です。運営は同社がフランチャイズ事業や複合施設の運営を担い、子会社の神姫フードサービスや与太呂が飲食業や売店運営を行っています。
■(5) 旅行貸切
インバウンドを含む観光客や一般の旅行者に対し、パッケージ型旅行商品の企画・販売を行うほか、貸切バスによる需要に応じた旅客輸送サービスを提供しています。国内旅行や団体旅行のニーズに広く対応します。
旅行商品の販売代金や、貸切バスの運賃・利用料が主な収益源です。運営は同社が旅行事業の一部を手がけるほか、子会社の神姫観光や神姫トラベルが旅行業および貸切旅客運送事業を展開しています。
■(6) その他
公共施設の指定管理者としての運営受託、広告代理業、Webサービスの提供、農業(農作物の販売)、保育施設や介護事業所の運営など、地域社会の生活基盤を支える多彩な周辺事業を展開しています。
施設管理の受託料や広告掲載料、商品販売代金、保育・介護サービスの利用料が主な収益源です。運営は同社のほか、神姫Bizプロデュース、ケアサービス神姫、しんきエンジェルハートなどの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は毎年着実な成長を続けており、それに伴って経常利益も右肩上がりで拡大しています。特に利益率の向上が顕著であり、事業構造の見直しや効率化、需要回復の取り込みが奏功し、収益性が大幅に改善していることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 189億円 | 207億円 | 221億円 | 234億円 | 247億円 |
| 経常利益 | 11億円 | 26億円 | 33億円 | 37億円 | 44億円 |
| 利益率(%) | 5.7% | 12.7% | 14.8% | 15.9% | 17.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 20億円 | 12億円 | 15億円 | 14億円 | 16億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の成長に伴い、売上総利益および営業利益ともに堅調に増加しています。売上総利益率、営業利益率も改善傾向にあり、コストコントロールと高付加価値化が進展し、本業における稼ぐ力が着実に強まっていることがわかります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 234億円 | 247億円 |
| 売上総利益 | 122億円 | 139億円 |
| 売上総利益率(%) | 52.1% | 56.3% |
| 営業利益 | 35億円 | 42億円 |
| 営業利益率(%) | 14.8% | 17.0% |
販売費及び一般管理費のうち、給料・手当等が52億円(構成比53.1%)、施設使用料が10億円(同10.2%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の自動車運送をはじめ、大半のセグメントで前年を上回る売上を計上しています。とくにレジャーサービスや旅行貸切、車両物販・整備が堅調に推移し、全体としての増収に大きく貢献しました。一方、不動産やその他事業はわずかに減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 自動車運送 | 239億円 | 256億円 |
| 車両物販・整備 | 76億円 | 79億円 |
| 不動産 | 56億円 | 55億円 |
| レジャーサービス | 45億円 | 50億円 |
| 旅行貸切 | 65億円 | 70億円 |
| その他 | 47億円 | 46億円 |
| 連結(合計) | 530億円 | 556億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は71.9%で市場平均を大きく上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 47億円 | 48億円 |
| 投資CF | -53億円 | -72億円 |
| 財務CF | 6億円 | 24億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「地域共栄 未来創成」という企業理念を掲げています。この理念のもと、輸送サービスを中心として地域の発展とともに企業価値を向上させていくことを基本方針としています。また、2030年のあるべき姿として「グループ構想2030」を策定し、地域に不可欠な「まちづくり・地域づくり企業」へ進化することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、1927年の創業以来、公共性の極めて高い事業を中核としており、地域に密着した企業としての役割を重視する文化を持っています。短期的な営利を追求するのではなく、中長期的に存続するために必要な「経済性」と「公共性」のバランスの取れた経営を重要視しています。また、「安全は全てに優先する」という基本理念を現場の隅々まで徹底しています。
■(3) 経営計画・目標
「中期経営計画(2025-2027)」では、最終年度である2028年3月期の連結数値目標を設定しています。既存事業の強化と成長事業の拡大を通じた両利きの経営を推進し、持続的な成長の実現を目指します。
・連結売上高:590億円
・連結営業利益:37億円
・連結経常利益:38億円
・売上高経常利益率:6.4%
■(4) 成長戦略と重点施策
既存事業の強化と成長事業の開拓・拡大からなる「両利きの経営」を推進しています。自動車運送業では、都市部への路線拡充や観光路線の活性化、DX活用による効率化を進めます。不動産業では、賃貸での安定収益確保に加え、開発事業に参入しフロー型ビジネスを始動します。旅行貸切業では、インバウンド需要の取り込みに注力し、周辺事業への投資も加速させます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を経営の根幹と位置づけ、積極的な人的投資を行う「人的資本経営」を推進しています。働きやすさと働きがいを高めるため、多様な働き方に対応したオフィス環境の整備や処遇改善を実行しています。また、社員一人ひとりの自律的なスキルアップを支援する自己啓発補助や、多様な経験を提供するジョブローテーション等の制度により、人材の成長と定着を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 49.7歳 | 11.1年 | 5,275,024円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.9% |
| 男性育児休業取得率 | 68.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 48.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 76.9% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 66.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(81.1%)、喫煙者率(27.8%)、社内保健師による保健指導受診率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 自動車運送業に係る補助金制度の変更
同社グループは、社会的要請の高い不採算路線について補助金制度を活用しながら運行を維持しています。将来的に国や自治体による補助金制度の廃止や削減が行われた場合、路線廃止等による事業規模の縮小を余儀なくされ、地域社会からの信用低下や業績悪化を招く可能性があります。
■(2) 原油相場の動向によるコスト増加
バスの動力源として原油に大きく依存しているため、原油価格の動向が業績に直結します。地政学的リスク等を背景に燃料費が高騰した場合、運行コストの増加に繋がります。また、今後電気バス(EVバス)への移行が進んだとしても、電力価格は原油相場に依拠する部分が多く、継続的な影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 自動車運送業に係る重大事故の発生
運送事業の特性上、重大な交通事故が発生するリスクが常に存在します。死亡事故や重大事故が発生した場合、多額の賠償費用が発生するだけでなく、行政処分によって新たな事業計画が抑制される恐れがあります。さらに、社会的信用の失墜が運送以外の事業にも波及し、経営基盤を揺るがす事態に発展するリスクがあります。
■(4) 深刻な労働力の不足
事業を継続・拡大する上で、運転士をはじめとする人材の確保が不可欠です。しかし、業界全体で深刻化する労働力不足や少子高齢化の影響により、求める人材の採用や育成が計画通りに進まない可能性があります。人材確保が難航した場合、減便や路線の縮小など事業計画の停滞を招き、業績に悪影響を及ぼす恐れがあります。



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