秩父鉄道 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

秩父鉄道 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

秩父鉄道はスタンダード市場に上場し、鉄道事業を柱として不動産、観光、卸売・小売事業などを展開する企業です。直近の業績では、観光需要の好調や運賃改定の効果により、前期の営業収益53億円から当期56億円への増収、経常利益も2.7億円から4.8億円へと増収増益を達成し、堅調な回復傾向にあります。


※本記事は、株式会社秩父鉄道の有価証券報告書(第203期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 秩父鉄道ってどんな会社?


鉄道事業を中核に、不動産や観光、卸売・小売事業などを多角的に展開し、地域社会の発展を支える企業です。

(1) 会社概要


1899年に上武鉄道として設立され、1901年に熊谷・寄居間で開業しました。1916年に秩父鉄道へと社名を変更し、以降、沿線の交通インフラとして路線を拡大してきました。2004年にジャスダック証券取引所に上場し、2022年の市場区分見直しによりスタンダード市場へと移行しています。

同社グループは連結従業員数377名、単体298名の体制で事業を運営しています。筆頭株主はセメント製造業を展開する事業会社の太平洋セメントで、第2位は有恒鉱業、第3位は個人株主となっています。なお、筆頭株主の太平洋セメントとは原料輸送や設備保守等で緊密な取引関係にあります。

氏名 持株比率
太平洋セメント 33.52%
有恒鉱業 14.38%
二反田静太郎 3.45%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性0名の計10名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は牧野英伸氏が務めており、社外取締役の比率は20.0%となっています。

氏名 役職 主な経歴
牧野英伸 代表取締役社長 太平洋セメント入社後、同社U.S.A.副社長や法務部長、人事部長などを歴任し、2022年より現職。
坂本昌己 取締役常務執行役員鉄道事業本部長鉄道事業本部鉄道企画室長 同社入社後、企画部長兼総務部長などを経て、2025年1月より現職。
鷹啄泰則 取締役執行役員観光事業本部長人事部長 同社入社後、事業部長や人事部長を歴任し、2025年1月より現職。
荒舩慎一 取締役執行役員鉄道事業本部運輸部長 同社入社後、列車区長や運輸部次長などを経て、2025年6月より現職。


社外取締役は、會田哲也(あぽろ法律事務所)、曽根原正宏(寳登山神社宮司)です。

2. 事業内容


同社グループは、「鉄道事業」「不動産事業」「観光事業」「卸売・小売業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 鉄道事業

主に鉄道による旅客運輸サービスおよび貨物運輸サービスを提供しています。一般の利用者や通勤・通学者を対象とするほか、法人向けのセメント原料輸送なども担っています。
収益は、定期券や乗車券の利用に伴う旅客収入と、太平洋セメント等への原料輸送による貨物運賃収入から得ています。運営は同社が行っています。

(2) 不動産事業

オフィスビルや店舗などの賃貸物件の提供、土地および建物の分譲、請負工事などを手掛けており、地域の個人および法人を顧客としています。
収益は、賃貸借契約期間にわたって得られる不動産賃貸収入や、請負工事代金などを主な収入源としています。運営は同社が行っています。

(3) 観光事業

長瀞ラインくだりや宝登山ロープウェイといった遊船・索道事業、動物園の運営、飲食および土産品販売など、観光客向けのサービスを提供しています。
収益は、乗客からの運賃や施設利用料、飲食・土産物等の販売代金として利用時に受け取っています。運営は同社が行っています。

(4) 卸売・小売業

駅構内の売店やコンビニエンスストアの運営、資材等の購入・卸販売を展開しており、一般の旅行客や法人を対象としています。
収益は、商品を引き渡した時点での小売代金や卸販売代金を源泉としています。運営は主に秩鉄商事が行っています。

(5) その他

貸切や乗合などのバス事業、ならびに線路施設や電気施設の保守を担う建設・電気工事業を展開しています。
収益は、バスの乗車運賃や工事の完成に伴う請負代金などから構成されています。運営は秩父鉄道観光バスや秩父建設が担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、前期から当期にかけて旅客運賃改定の効果や観光需要の回復により売上収益が伸長しています。利益面でも、各種施策の成果により赤字から黒字へと転換し、経常利益および当期利益は着実な増加傾向を示しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 44億円 47億円 49億円 53億円 56億円
経常利益 -1.9億円 -3.1億円 0.2億円 2.7億円 4.8億円
利益率(%) -4.4% -6.6% 0.4% 5.1% 8.6%
当期利益(親会社所有者帰属) -0.1億円 -50.3億円 0.5億円 0.6億円 3.7億円

(2) 損益計算書


前期から当期にかけて営業収益(売上高)は増加しており、これに伴って営業利益も拡大しました。一部の原価や費用の上昇要因があるものの、収益性の改善により営業利益率は大きく向上しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 53億円 56億円
営業利益 3億円 5億円
営業利益率(%) 5.8% 9.6%


販売費及び一般管理費のうち、給与・手当が4.5億円(構成比34.4%)、減価償却費が0.5億円(同3.9%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の鉄道事業が運賃改定等により増収増益を牽引したほか、観光事業も施設リニューアルや誘客活動が奏功し大幅な増益を達成しました。一方で不動産事業や卸売・小売業は、一部費用の増加等により減益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
鉄道事業 34億円 36億円 0.2億円 2.1億円 5.9%
不動産事業 4億円 3億円 2.3億円 1.9億円 57.3%
観光事業 5億円 6億円 0.4億円 1.1億円 17.9%
卸売・小売業 6億円 6億円 0.2億円 0.2億円 2.4%
その他 4億円 5億円 0.1億円 0.1億円 1.2%
連結(合計) 53億円 56億円 3億円 5億円 9.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業活動で生み出した資金を用いて設備等への投資を継続しつつ、借入金の返済なども進めている「健全型」のキャッシュ・フロー状況にあります。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 5.4億円 3.1億円
投資CF -4.1億円 -4.8億円
財務CF -0.4億円 -1.2億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は31.2%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略

(1) 経営理念

同社は、「お客様に対し、安全でゆとりとやすらぎのある快適なサービスを提供する」「沿線地域社会の発展と環境保全に貢献する」「これらを実現するため経営資源の充実と経営基盤の強化に全力を傾注する」ことを経営理念に掲げ、人々の豊かな生活と未来を築くことを目指しています。

(2) 企業文化

経営理念に基づく基本方針として、「安全基本方針」「環境経営基本方針」「人材育成基本方針」を定めています。企業活動を通じ、沿線地域社会の発展に貢献するとともに、地域の緑豊かな自然をはじめ地球環境を保全するための活動を推進しています。

(3) 経営計画・目標

現在、全社一丸となって収益構造の改善と累積損失の解消に取り組んでいます。そのため、具体的な目標とする経営指標などについては、安定的に収益が確保できる体制が確立できた段階で設定する方針としています。

(4) 成長戦略と重点施策

鉄道事業では更なる利便性向上に取り組み、関係自治体と連携した持続可能性の高い地域公共交通への再構築を目指しています。また、観光事業では宝登山山頂の魅力向上に向けた施設整備、不動産事業では駅前不動産の有効活用を推進し、安定した経営基盤の構築と企業価値向上を図ります。

5. 働く環境

(1) 人材戦略・方針

中長期的な企業価値の向上のためには多様な人材の活用と育成が重要であると考え、「人材育成基本方針」を定めています。専門知識や経験を有する人材を育成するとともに、就業環境の改善を図ることで、従業員にとって魅力ある会社づくりを進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.0歳 19.1年 5,164,104円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 3.2%
男性育児休業取得率 75.0%
男女賃金差異(全労働者) 59.5%
男女賃金差異(正規雇用) 77.6%
男女賃金差異(非正規雇用) 115.1%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、毎月の平均基準外労働時間(14.1時間)、育児休業の女性社員の取得率(100.0%)などです。

6. 事業等のリスク

(1) 太平洋セメント等への取引依存

主要株主である太平洋セメントのセメント原料等を輸送しており、その営業収益は同社グループの全営業収益の22.1%を占めています。同社の輸送方法の変更や輸送量の減少が生じた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 法的規制の変更・強化

鉄道事業法や道路運送法をはじめとする法令・規則等の規制を受けて事業を展開しています。将来的にこれら法令の変更や強化が行われた場合、対応に伴う費用増加などにより財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 原油価格などの変動

鉄道事業およびバス事業においては、その動力を原油に依存しています。電気やガソリン、軽油などのエネルギー価格が大きく変動した場合には、運行コストの上昇を通じて業績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。