秩父鉄道 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

秩父鉄道 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

スタンダード市場に上場する埼玉県の鉄道事業者。鉄道事業を中核に、不動産、観光、バス事業等を展開しています。2023年3月期は、行動制限緩和等により売上高は47億円へ増収となりましたが、電力費高騰等により営業赤字が継続。さらに鉄道事業等の減損損失計上により、最終損益は50億円の大幅な赤字となりました。


※本記事は、秩父鉄道株式会社 の有価証券報告書(第200期、自 2022年4月1日 至 2023年3月31日、2023年6月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 秩父鉄道ってどんな会社?


1899年設立の歴史ある鉄道会社で、埼玉県北部を基盤に鉄道、観光、不動産事業を展開しています。筆頭株主はセメント業界最大手の太平洋セメントです。

(1) 会社概要


1899年に上武鉄道として設立され、1901年に熊谷・寄居間を開業しました。1916年に現在の秩父鉄道へ改称し、1922年には北武鉄道を合併しています。長きにわたり地域交通を支え、2022年4月の東京証券取引所市場区分見直しに伴い、スタンダード市場へ移行しました。

2023年3月31日時点の従業員数は連結417名、単体304名です。大株主構成は、筆頭株主が同社の貨物輸送の主要顧客でもある事業会社の太平洋セメント(33.51%)、第2位は同じく事業会社の有恒鉱業(14.38%)、第3位は個人株主の増岡英男氏(3.37%)となっています。

氏名 持株比率
太平洋セメント 33.51%
有恒鉱業 14.38%
増岡 英男 3.37%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性0名、女性比率0.0%です。代表取締役社長は牧野英伸氏が務めています。社外取締役比率は25.0%です。

氏名 役職 主な経歴
牧野 英伸 代表取締役社長 太平洋セメントに入社後、同社法務部長、執行役員人事部長などを歴任。2022年4月に同社常務執行役員となり、同年6月より現職。
坂本 昌己 取締役常務執行役員グループ観光統括部長 1989年に同社入社。企画部長、総務部長を経て、2015年に執行役員、2019年に取締役執行役員に就任。2023年4月より現職。
鷹啄 泰則 取締役執行役員人事部長 1989年に同社入社。総務部次長、事業部長を経て、2015年に執行役員事業部長に就任。2018年より人事部長を務め、2022年6月より現職。


社外取締役は、中山高明(寳登山神社名誉宮司)、會田哲也(弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「鉄道事業」「不動産事業」「観光事業」「バス事業」および「その他」事業を展開しています。

**(1) 鉄道事業**
埼玉県北部において、羽生駅から三峰口駅までの旅客輸送および武川駅から三ヶ尻駅までの貨物輸送を行っています。地域住民や観光客の移動手段として機能するとともに、SL列車の運行などの観光施策も実施しています。
収益は、乗客からの旅客運賃および荷主からの貨物輸送料金からなります。運営は同社が行っています。

**(2) 不動産事業**
保有する土地や建物の賃貸、分譲、請負事業などを展開しています。熊谷駅ビルやショッピングセンターなどの賃貸施設を運営し、安定的な収益確保を図っています。
収益は、テナントや入居者からの賃貸料、不動産販売代金などからなります。運営は同社が行っています。

**(3) 観光事業**
長瀞ラインくだり等の遊船事業、宝登山ロープウェイ等の索道事業、宝登山小動物公園の運営、飲食・土産品販売などを行っています。観光地としての魅力を高める事業を展開しています。
収益は、施設利用者からの乗船料、乗車料、入園料、物販収入などからなります。運営は同社および宝登興業が行っています。

**(4) バス事業**
貸切バス事業を中心に展開しており、観光バスやスクールバスの運行などを行っています。
収益は、利用者や契約先からのバス運賃・料金からなります。運営は秩父鉄道観光バスが行っています。

**(5) その他**
上記セグメントに含まれない事業として、駅売店やコンビニエンスストアの運営、建設・電気工事、旅行業などを展開しています。
収益は、商品販売収入、工事代金、旅行取扱収入などからなります。運営は秩鉄商事、秩父建設、秩父観光興業などがそれぞれ行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2019年3月期から2023年3月期までの業績を見ると、売上高はコロナ禍の影響を受けた2021年3月期に大きく落ち込みましたが、その後回復傾向にあります。一方で利益面では、経常損失が続いており厳しい状況です。特に2023年3月期は、鉄道事業を中心とした固定資産の減損損失を計上したため、巨額の最終赤字となっています。

項目 2019年3月期 2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期
売上高 52億円 54億円 39億円 44億円 47億円
経常利益 0.7億円 2.0億円 -5.0億円 -1.9億円 -3.1億円
利益率(%) 1.3% 3.7% -12.7% -4.4% -6.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 1.0億円 -2.2億円 -5.3億円 -0.5億円 -50.5億円

(2) 損益計算書


2022年3月期と2023年3月期を比較すると、売上高は行動制限緩和や観光需要の回復により増加しました。しかし、電力費等のコスト増加により営業損失は拡大しています。当期純損失が大幅に拡大したのは、収益性低下に伴う固定資産の減損損失約59億円を特別損失として計上したことが主因です。

項目 2022年3月期 2023年3月期
売上高 44億円 47億円
売上総利益 -億円 -億円
売上総利益率(%) -% -%
営業利益 -2.9億円 -3.6億円
営業利益率(%) -6.6% -7.7%


コスト分析:
営業費用のうち、販売費及び一般管理費では給与・手当が約5億円(構成比約38%)と最も大きく、次いで減価償却費が約0.6億円(同約5%)となっています。全体として営業費用が営業収益を上回る構造となっており、特に運輸業等営業費及び売上原価の増加が利益を圧迫しています。

(3) セグメント収益


鉄道事業は旅客収入が増加しましたが、電力費高騰等により赤字幅が拡大しました。不動産事業は安定して黒字を確保しています。観光事業やバス事業は売上が回復傾向にあるものの、営業損失が続いています。全社的にコスト増の影響を強く受けています。

区分 売上(2022年3月期) 売上(2023年3月期) 利益(2022年3月期) 利益(2023年3月期) 利益率
鉄道事業 29億円 30億円 -2.4億円 -4.2億円 -13.7%
不動産事業 3.3億円 3.3億円 1.7億円 1.6億円 47.7%
観光事業 3.7億円 4.0億円 -0.4億円 -0.3億円 -7.6%
バス事業 1.6億円 2.0億円 -1.0億円 -0.6億円 -31.3%
その他 5.7億円 7.1億円 -1.0億円 -0.3億円 -3.8%
連結(合計) 44億円 47億円 -2.9億円 -3.6億円 -7.7%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

同社は、運転資金や設備投資資金の調達を金融機関からの借入金によって行うことを基本としています。
営業活動では、鉄道事業を中心とした事業運営により資金を得ています。
投資活動では、固定資産の取得による支出がありましたが、工事負担金等の収入もありました。
財務活動では、長期借入金の返済と新たな長期借入れが行われました。

項目 2022年3月期 2023年3月期
営業CF -7.2億円 3.3億円
投資CF -7.5億円 -3.0億円
財務CF 9.6億円 0.3億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、お客様に対し安全でゆとりとやすらぎのある快適なサービスを提供すること、沿線地域社会の発展と環境保全に貢献すること、そしてこれらを実現するために経営資源の充実と経営基盤の強化に全力を傾注することを経営理念として掲げています。

(2) 経営計画・目標


現在、全社一丸となって収益構造の改善と累積損失の解消に取り組んでいる段階です。そのため、具体的な目標とする経営指標については、安定的に収益が確保できる態勢が確立できた段階で設定する方針としています。

(3) 成長戦略と重点施策


事業基盤の保持・強化と新たな事業構造の構築に向け、輸送の安全確保を最優先課題としつつ、地域で一番働きたい会社を目指した環境づくりや、ICTの積極活用を推進しています。また、「花園IC拠点整備プロジェクト」による交流人口増加の好機を活かす施策や、駅前を中心とした遊休不動産の活用による収益拡大、グループ全体の観光事業の再構築と不動産事業の転換を進め、早期の業績回復を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


持続可能な成長のためには「人財」への投資が不可欠であると考え、専門知識や経験を有する人材の育成と就業環境の改善を進めています。「人材育成基本方針」に基づき、従業員にとって魅力ある会社づくりを行うとともに、埼玉県北部で一番働きたい会社を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2023年3月期 42.0歳 21.0年 4,636,047円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
管理職に占める女性労働者の割合 1.5%
男性労働者の育児休業取得率 -%
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) 61.5%
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用) 68.4%
労働者の男女の賃金の差異(非正規雇用) 116.2%


※有価証券報告書には男性の育児休業取得人数の記載(4名)はありますが、取得率の記載はありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、育児休業の女性社員の取得率(100%)、毎月の平均基準外労働時間(16.4時間)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

**(1) 自然災害等のリスク**
鉄道路線や関連施設が沿線に集中しているため、地震や豪雨などの自然災害が発生した場合、甚大な損害を受ける可能性があります。施設の復旧費用に加え、運休や遅延による営業収益の減少が発生し、業績に悪影響を及ぼす恐れがあります。

**(2) 依存度の高い取引先について**
主要株主である太平洋セメントのセメント原料輸送等が、同社の全営業収益の約26%を占めています。そのため、同社の輸送方法の変更や輸送量の減少などが生じた場合、同社グループの業績に重要な影響を与える可能性があります。

**(3) 重要事象等について**
営業損失および経常損失の計上が継続しており、当連結会計年度には多額の当期純損失を計上しています。これにより、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象が存在しています。同社は運賃検討や観光・不動産事業の再構築、資産の有効活用などの対策を進め、解消に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。