飯野海運 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

飯野海運 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場。外航海運業、内航・近海海運業、不動産業を展開。当連結会計年度の業績は、売上高1,419億円(前期比2.8%増)、経常利益174億円(同20.3%減)となり、不動産業は安定推移したものの海運市況の影響等により増収減益となりました。


※本記事は、飯野海運株式会社 の有価証券報告書(第134期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 飯野海運ってどんな会社?


海運業と不動産業を両輪とする独立系企業グループです。ケミカルタンカーやガス船等の外航海運を主力としつつ、都心オフィスビル運営で安定収益を確保しています。

(1) 会社概要


同社は1899年に飯野商会として発足し、1929年に最初のタンカーを竣工させました。1949年に東京証券取引所へ上場を果たし、1960年には本社ビルとなる飯野ビルディングが完成しました。その後、2011年に飯野ビルディングの建替えを完了し、現在の事業基盤を確立しています。

同社グループの従業員数は連結で698名、単体で211名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は飯野海運取引先持株会、第3位は損害保険会社となっています。特定の親会社は存在せず、独立系の企業として事業を展開しています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 10.71%
飯野海運取引先持株会 5.75%
東京海上日動火災保険 3.98%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性2名、計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は社長執行役員の大谷祐介氏が務めています。社外取締役は4名で、取締役全体の33.3%を占めています。

氏名 役職 主な経歴
大 谷 祐 介 代表取締役社長社長執行役員 1991年同社入社。経営企画部長、事業開発推進部長などを歴任。2018年執行役員、2020年取締役執行役員を経て、2023年4月より現職。
鮒子田 修 取締役常務執行役員 1991年同社入社。ケミカル船部長、経理部長などを歴任。2020年執行役員、2023年取締役執行役員を経て、2024年6月より現職。
藤 村 誠 一 取締役執行役員 1988年同社入社。海運営業第1グループリーダー、ケミカル船部長などを経て、2018年執行役員。2024年6月より現職。IINO SINGAPORE PTE. LTD. 取締役社長を兼務。
保 木 裕 二 取締役執行役員 1993年同社入社。業務管理部長、経営監査室長などを歴任。2023年執行役員を経て、2024年6月より現職。サステナビリティ推進部長等を委嘱。


社外取締役は、三好真理(元在アイルランド特命全権大使)、野々村智範(元住友大阪セメント執行役員)、髙橋静代(元フューチャーシステムコンサルティング執行役員)、姫野毅(元旭化成上席執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「外航海運業」、「内航・近海海運業」および「不動産業」事業を展開しています。

(1) 外航海運業


全世界にわたる水域で、原油、石油化学製品、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、発電用石炭、肥料、木材チップなどの基礎原料の輸送を行っています。大型原油タンカー、ケミカルタンカー、大型ガス船、ドライバルク船などの船舶を運航しています。

顧客からの運賃収入や、船舶の貸渡による貸船料収入が主な収益源です。運営は主に飯野海運が行い、海外子会社であるAZALEA TRANSPORT S.A.等が船舶の貸渡を、イイノマリンサービス等の関係会社が船舶管理や海運仲立業を行っています。

(2) 内航・近海海運業


国内および近海を中心とした水域で、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、石油化学ガスなどの基礎原料の輸送を行っています。

顧客からの運賃収入や貸船料収入が主な収益源です。運営は飯野海運のほか、主な関係会社としてイイノガストランスポートなどが船舶の運航、貸渡および管理を行っています。

(3) 不動産業


東京都心とロンドン中心部における賃貸オフィスビルの所有、運営、管理およびメンテナンスを行っています。また、フォトスタジオの運営やホールの運営なども手がけています。主要物件として飯野ビルディング(千代田区)などを保有しています。

テナントからの賃貸料収入や、スタジオ・ホールの利用料収入が主な収益源です。ビルの賃貸は飯野海運やIKK HOLDING LTD(海外)が行い、ビルの管理はイイノ・ビルテック、スタジオ運営などの不動産関連事業はイイノ・メディアプロが担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期から2025年3月期までの5期間を見ると、売上高は889億円から1,419億円へと大幅に拡大しています。経常利益も68億円から一時200億円超へと伸長し、高い収益性を維持しています。直近2期は増収ながらも利益面ではやや調整局面となりましたが、5年前と比較すると事業規模・利益水準ともに大きく成長しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 889億円 1,041億円 1,413億円 1,380億円 1,419億円
経常利益 68億円 94億円 209億円 218億円 174億円
利益率(%) 7.7% 9.1% 14.8% 15.8% 12.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 77億円 125億円 234億円 197億円 184億円

(2) 損益計算書


売上高は微増しましたが、売上原価の増加等により売上総利益は減少しました。また、販売費及び一般管理費が増加したことで、営業利益は前期より減少しています。営業利益率は前期の13.8%から12.1%へと低下しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 1,380億円 1,419億円
売上総利益 293億円 285億円
売上総利益率(%) 21.2% 20.1%
営業利益 191億円 171億円
営業利益率(%) 13.8% 12.1%


販売費及び一般管理費のうち、役員報酬及び従業員給与が39億円(構成比34%)、業務委託費が19億円(同17%)を占めています。

(3) セグメント収益


外航海運業は増収ながらも減益となり、利益率は11.2%でした。内航・近海海運業は増収増益を確保しています。不動産業は売上高、利益ともに安定的に推移しており、26.4%という高い利益率を維持しています。全体としては増収減益となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
外航海運業 1,148億円 1,175億円 151億円 132億円 11.2%
内航・近海海運業 103億円 113億円 4億円 5億円 4.0%
不動産業 129億円 130億円 35億円 35億円 26.4%
連結(合計) 1,380億円 1,419億円 191億円 171億円 12.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

同社グループは、事業活動の維持拡大に必要な資金を安定的に確保するため、内部資金活用や金融機関からの借入により資金調達を行っています。

営業活動によるキャッシュ・フローは、海運業や不動産業の運転資金需要に対応しています。投資活動によるキャッシュ・フローは、船舶や不動産、情報処理関連への投資に充てられています。財務活動によるキャッシュ・フローは、有利子負債の削減や資金調達コストの低減を図るための借入や返済等に活用されています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 294億円 307億円
投資CF -220億円 -308億円
財務CF -39億円 -83億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「安全の確保を最優先に、人々の想いを繋ぎ、より豊かな未来を築きます」という企業理念を掲げています。この理念のもと、社業の基盤である安全確保を最優先とし、持続的な成長のためにステークホルダーや社会との対話を通じて、安全に加えて様々な価値を提供することを経営方針としています。

(2) 企業文化


同社グループは、市況変動の大きい海運業と相対的に小さい不動産業を組み合わせる「IINO MODEL」を基盤とした両輪経営を重視しています。また、サステナブルな社会の実現に貢献する姿勢を明確にするため、「飯野海運グループ サステナビリティ基本方針」を策定し、安全の重視、人権の尊重、環境の保護など9項目からなる指針の実践に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


同社は2023年4月から3年間の中期経営計画「The Adventure to Our Sustainable Future」を推進しています。ポートフォリオ経営とカーボンニュートラルへの挑戦をテーマとし、長期目標「IINO VISION for 2030」の実現を目指しています。また、2050年のカーボンニュートラル達成を目標に掲げています。

* 2030年度GHG削減目標(海運業):20%削減(2020年度比、原単位)
* 2030年度GHG削減目標(不動産業):75%削減(2013年度比、総量)

(4) 成長戦略と重点施策


重点戦略として、事業ポートフォリオ経営による持続的な成長とマテリアリティ(サステナビリティ重要課題)の克服を両立させる施策を推進します。具体的には、外航海運業におけるクリーンエネルギー輸送や次世代燃料船への投資、不動産業における省エネルギー化や再生可能エネルギー化の検討などが挙げられます。また、人的資本強化やDX推進にも注力していきます。

* 育児休業取得率:100%(2025年度目標)
* 総合職に占める女性比率:20%(2025年度目標)

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「少数による運営」「モチベーション向上、活性化を促進」「一人ひとりを細かく見る」という人事基本方針を掲げています。個人のニーズや適性に配慮しつつ、幅広い知識と経験を持つ人材の育成に注力しています。また、目標管理制度や自己申告制度を通じてキャリア自律を支援し、在宅勤務や時差出勤の拡充など、多様な社員がいきいきと働ける職場環境の整備を進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 38.3歳 13.0年 12,866,000円

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.1%
男性育児休業取得率 85.0%
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規雇用) -
男女賃金差異(非正規雇用) -


※同社は公表義務の対象ではないため、有報には男女の賃金の差異の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、育児休業取得率(100.0%)、総合職に占める女性比率(19.4%)、海外短期研修・海外駐在経験者(累計 66名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 船舶・建物における重大な事故・事件等によるリスク


海運業における船舶事故や油濁等の環境汚染、不動産業における建物での不測の事故や土壌汚染等が発生した場合、業績や財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。安全環境委員会や安全管理委員会を通じて対策を徹底していますが、重大事故が発生した際の影響は避けられません。

(2) 海運市況・不動産市況の変動によるリスク


海運業では海上輸送量や船腹需給の変動、不動産業ではオフィス空室率の変動等が、運賃収入や賃貸料収入に影響を与えます。中長期契約等で安定収益確保に努めていますが、市況の著しい変動があった場合、業績が大きく変動する可能性があります。

(3) 資産価格の変動に関するリスク


保有する船舶、土地、建物、投資有価証券等の資産価格が経済状況や市況により変動する可能性があります。特に海運業では運賃変動が大きく、減損損失の認識や資産売却損益の実現等が業績に影響を与える可能性があります。

(4) 他社との競合によるリスク


海運業および不動産業において国内外の多くの企業と競合しています。サービスや価格競争が激化した場合には、業績に影響が出る可能性があります。国内外で幅広い顧客への営業展開等でリスク軽減を図っていますが、競争環境の変化には注意が必要です。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。