飯野海運 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

飯野海運 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

飯野海運は東京証券取引所プライム市場に上場し、外航海運業、内航・近海海運業、不動産業を展開する企業です。原油やガス等の海上輸送と、東京都心等のオフィスビル賃貸を中核としています。直近の業績は売上高が1,273億円、経常利益が169億円と減収減益ですが、事業ポートフォリオ経営で安定収益を確保しています。


※本記事は、飯野海運株式会社の有価証券報告書(第135期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 飯野海運ってどんな会社?


同社グループは、原油や化学製品などの海上輸送を担う海運業と、都心のオフィスビルを運営する不動産業を中核とする企業です。

(1) 会社概要


同社は1899年に飯野商会として発足し、1918年に飯野商事を設立しました。1949年には東京証券取引所に上場し、1960年に飯野ビルディングを完成させて不動産業を本格化しました。1997年に飯野不動産と合併し、近年は英国や米国などに拠点を設けて海外不動産への投資や、グローバルな海運事業の拡大を推進しています。

同社グループの従業員数は連結で688名、単体で209名です。大株主については、筆頭株主が資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は取引先で構成される持株会、第3位は事業会社である損害保険会社となっています。海運と不動産の2本柱で、安定した事業基盤を構築しています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 8.83%
飯野海運取引先持株会 6.03%
東京海上日動火災保険 3.98%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長社長執行役員は大谷祐介氏が務めています。取締役8名中、社外取締役は4名(50.0%)となっています。

氏名 役職 主な経歴
大谷祐介 代表取締役社長社長執行役員 1991年同社入社。ドバイ駐在員事務所代表、経営企画部長兼事業開発推進部長、執行役員等を経て、2023年4月より現職。
鮒子田修 取締役常務執行役員 1991年同社入社。IINO SINGAPORE PTE. LTD.出向、ケミカル船第一部長、経理部長、執行役員等を経て、2024年6月より現職。
藤村誠一 取締役執行役員 1988年同社入社。油槽船グループリーダー、ケミカル船第二部長、執行役員等を経て、2025年6月より現職。
保木裕二 取締役執行役員 1993年同社入社。業務管理部長、経営監査室長、執行役員サステナビリティ推進部長等を経て、2025年6月より現職。


社外取締役は、三好真理(元特命全権大使)、野々村智範(元住友大阪セメント執行役員)、髙橋静代(元フューチャーアーキテクト執行役員)、姫野毅(元旭化成上席執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「外航海運業」「内航・近海海運業」および「不動産業」の報告セグメントを展開しています。

外航海運業


全世界にわたる水域で、原油、石油化学製品、液化エタンガス、液化石油ガス、発電用石炭、肥料、木材チップなどの基礎原料の海上輸送を行っています。幅広い顧客に対して、専用船を主体とした安定輸送や、スポット貨物の積極的な取り込みを通じてサービスを提供しています。

船舶の運航、貸渡、用船、管理、海運仲立業および代理店業を通じて、顧客から運賃や貸船料を受け取ります。事業の運営は同社のほか、船舶管理を担うイイノマリンサービスや海運仲立業のイイノエンタープライズ、海外現地法人などが共同で展開しています。

内航・近海海運業


国内および近海を中心とした水域において、液化天然ガス、液化石油ガス、石油化学ガスなどの基礎原料の海上輸送を行っています。中長期契約に基づく安定稼働を主体としており、国内の電力会社や化学メーカー等の産業インフラを支える物流を担っています。

船舶の運航、貸渡および管理を通じて、顧客から運賃や貸船料を収益として得ています。事業の運営は主に子会社のイイノガストランスポートが行っており、安全かつ安定的な輸送サービスを提供することで強固な収益基盤を確立しています。

不動産業


東京都心部と英国ロンドン中心部における賃貸オフィスビルの所有、運営、管理、メンテナンスを行っています。また、イイノホール&カンファレンスセンターなどの施設運営や、貸フォトスタジオの運営といった不動産関連事業も幅広く展開しています。

テナント企業からのオフィスビル賃貸料収入や、ホール・スタジオの利用料などを主な収益源としています。事業の運営は同社のほか、ビル管理を担うイイノ・ビルテックや、スタジオ事業を運営するイイノ・メディアプロなどが連携して行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は1,300億〜1,400億円台で安定して推移していましたが、直近では減収となっています。経常利益は数年前に大きく成長し200億円台に乗せましたが、直近2期間は連続して減益傾向にあります。利益率は13%前後と比較的高い水準を維持しています。

項目 4期前 3期前 2期前 前期 当期
売上高 1,041億円 1,413億円 1,380億円 1,419億円 1,273億円
経常利益 94億円 209億円 218億円 174億円 169億円
利益率(%) 9.1% 14.8% 15.8% 12.2% 13.3%
当期利益(親会社所有者帰属) 103億円 212億円 244億円 187億円 128億円

(2) 損益計算書


売上高の減少に伴い、売上総利益および営業利益も減少しています。しかし、売上総利益率は約19〜20%を維持しており、一定の収益性を確保していることがうかがえます。

項目 前期 当期
売上高 1,419億円 1,273億円
売上総利益 285億円 238億円
売上総利益率(%) 20.1% 18.7%
営業利益 171億円 134億円
営業利益率(%) 12.1% 10.6%


販売費及び一般管理費のうち、役員報酬及び従業員給与が40億円(構成比39%)と最も大きく、次いで業務委託費が16億円(同16%)、福利厚生費が11億円(同11%)を占めています。

(3) セグメント収益


外航海運業は市況軟化や配船制限の影響で減収減益となりました。一方、不動産業は都心のオフィスビル賃貸が堅調に推移し、増収増益を達成して業績を下支えしています。

区分 売上(前期) 売上(当期) 利益(前期) 利益(当期) 利益率(当期)
外航海運業 1,175億円 1,025億円 132億円 88億円 8.6%
内航・近海海運業 113億円 108億円 5億円 3億円 2.8%
不動産業 130億円 141億円 35億円 44億円 30.9%
連結(合計) 1,419億円 1,273億円 171億円 134億円 10.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は営業活動で得た資金に加えて借入等による調達を行い、積極的な投資を継続している「積極型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 前期 当期
営業CF 307億円 299億円
投資CF -308億円 -421億円
財務CF -83億円 143億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.1%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も45.6%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「安全の確保を最優先に、人々の想いを繋ぎ、より豊かな未来を築きます」という企業理念を掲げています。社業の基盤である安全の確保を最優先とし、持続的な成長を実現するため、ステークホルダーや社会との対話を通じて多様な価値を提供することを経営方針としています。社会的要請に適応し、環境に配慮した事業活動を実践しています。

(2) 企業文化


同社は、グループ役職員の行動指針として「サステナビリティ基本方針」を定めています。「安全の重視」「人権の尊重」「環境の保護」「社会への貢献」「コンプライアンスの徹底」「取引先の尊重」「ダイバーシティの推進」「情報開示とコミュニケーション」「教育・訓練」の9項目を実践し、環境・社会問題の解決に向けた企業活動に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


2026年4月から開始する5年間の新中期経営計画「Transformation for a Sustainable Future」において、資本効率と成長投資を両立する「変革」をテーマに掲げています。

* 事業コア利益(利払前税引後利益):225億円(2030年度目標)
* ROIC:5%
* ROE:10%
* DEレシオ:1.3~1.8倍

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営計画では、事業戦略、財務資本戦略、脱炭素化戦略の3つを重点戦略としています。5年間で約2,000億円を主に成長・新規事業および主力事業へ配分し、事業ポートフォリオのリバランスを進めます。保有不動産の価値を考慮した財務レバレッジの活用により、資本コストを上回る成長投資と資本効率の両立を目指し、持続的な企業価値向上を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は人的資本を重要な経営資源と位置づけ、事業戦略と連動した人材戦略を推進しています。「全体最適を見据えた俯瞰力」「多様な専門性」「価値創造を前に進める実行力」を備えた「価値創造人材」を育成するため、経験を重視した育成・配置や部門横断的な人材交流を実施しています。性別や年齢にとらわれない人材の活躍を推進し、組織最適化と生産性向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
当期 38.6歳 13.2年 12,850,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.9%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 59.9%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 59.9%
男女賃金差異(非正規雇用労働者) -


※同社は非正規雇用労働者の男女賃金差異について、該当者がいないため有報には記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 船舶・建物における重大な事故等の発生


事業に使用する船舶や建物で人命や財産に関わる重大な事故や事件、油濁等の環境汚染、不動産の土壌汚染などが発生した場合、同社グループの業績や株価、財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 海運・不動産市況の変動


中長期契約を主体としていますが、海運業では船腹需給の変動等により運賃収入が変動するリスクがあります。不動産業では、東京都心のオフィス市場の空室率変動などにより賃貸料収入が増減し、業績に影響を与える可能性があります。

(3) 燃料油価格の変動


海運業で使用する舶用燃料油の価格は、原油の需給バランスや産油国の情勢等により大きく変動します。価格調整条項などで影響の軽減に努めていますが、燃料油価格の著しい高騰等が生じた場合、収益を圧迫するリスクがあります。

(4) 資産価格の変動


保有する船舶や土地、建物、投資有価証券などの資産は、経済状況や市況変動によって価格が下落する可能性があります。特に海運業では将来の運賃予測に不確実性を伴うため、減損損失の認識や資産売却損の発生リスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。